第51話 世界そのものに『聞こえる』と返事をしたら、最初に『あなたを勝手に使ってごめん』と謝られた
夜十一時過ぎ。
寝る直前に王権端末へ届いた二行を前に、俺の眠気は完全に消えていた。
《REN》
《CAN YOU HEAR ME?》
送信者は《WORLD CORE》。
九年前、俺へ一時世界管理者権限を貸し出した《世界自己維持機構》そのものだった。
「……こういうの、普通は昼に来ない?」
誰もいない部屋で文句を言ってみても、当然ながら返事はない。
画面の下には入力欄がある。
《YES》
それだけ送ればいい。
向こうから聞いてきたのだから、返事をするだけなら危険な操作でもないように思える。
けれど昼間、俺は四人に言った。
《使うなら、また全員一緒》
管理者通信を使うなら、一人ではやらない。
だから俺は入力欄へ触れず、代わりに画面を保存して四人の共有通信へ送った。
《今来た》
三秒後。
最初に既読を付けたのはノアだった。
《触らないで》
「分かってるよ」
続いてセレフィナ。
《御返信はなさらず、そのままお待ちください。明朝、検証施設を確保いたします》
リゼルからは、《今からそちらへ参りましょうか》と届いたので、《来なくていい。寝るだけだから》と返しておく。
最後にミーナから届いたのは、《蓮様、まずお休みください》だった。
「この状況で?」
《明日の朝食は召し上がってください》
「そこ?」
さすがミーナだった。
俺が苦笑していると、王権端末がもう一度だけ震えた。
まさか返事を催促されたのかと思って画面を見る。
《WORLD CORE》
《NO NEED TO HURRY》
その下に、少し間を置いてもう一行。
《I CAN WAIT》
――急がなくていい。
――待てる。
「……こっちの状況、分かってる?」
少し怖い。
ただ同時に、妙な既視感もあった。
三百年待った四人。
十五年分の経験を残して待った留守番。
今度は世界そのものまで《待てる》と言っている。
「アステリア、待つ奴多すぎない?」
その一言を最後に、俺は王権端末を伏せた。
もちろん、すぐには眠れなかった。
◇
翌朝十時。
地球側の世界間技術検証施設には、俺より先に四人全員が揃っていた。
「早くない?」
検証室へ入った俺が最初にそう言うと、ノアは既に三台の解析装置を起動しながら振り返った。
「九時からいた」
「集合十時だよね?」
「知ってる」
「昨日も似たやり取りしたな……」
ノアの隣では、セレフィナが水城さんと通信手順を確認している。リゼルは検証室内の警備配置を確かめ、ミーナはなぜか俺の朝食の有無を確認してきた。
「ちゃんと食べたよ」
「何を召し上がりましたか?」
「パンとコーヒー」
「それだけですか?」
「今は世界との通信の方を気にして!」
「そちらはノア様とセレフィナ様が確認しておりますので」
役割分担が強い。
小松原さんも、旧運営システム側から異常が出た場合に備えて別室から遠隔参加している。
昨夜の通信について解析した結果、少なくとも王権端末へ外部から侵入された形跡はなかった。
送信経路は、昨日初めて確認した《管理者通信》そのもの。
つまり。
本当にWORLD COREから来ている可能性が極めて高い。
「向こうから先に通信を始められるとは思ってなかったな」
俺が椅子へ座ると、ノアが王権端末をこちらへ滑らせた。
「権限開いたから」
「昨日、詳細を見たせい?」
「たぶん。蓮が管理者通信の存在を認識したことで、受信経路も開いた」
「じゃあ今までも話しかけようとしてた可能性ある?」
「ある。でも届かなかった」
それを聞いて、九年前の一件を思い出す。
《HELP》
あの日もWORLD COREは、俺へ助けを求めようとしていた。
地球側では《緊急復旧イベント》へ変換され、俺はゲームイベントだと思ったまま世界を修復した。
九年間。
まともに会話できなかった相手。
「返信する前に確認」
俺は四人を見た。
「今日は、あくまで会話だけ。権限の返却もしないし、WORLD COREから何か操作を求められても、その場では実行しない。それでいい?」
セレフィナが最初に頷いた。
「異存ございません。情報を得ることと、要求を受諾することは分けるべきです」
リゼルも同意し、ノアも「勝手に押さない」と約束した。
「ノアが一番心配だったんだけど」
「今日は蓮が押す」
「今日は、って付けないでね」
ミーナが小さく笑った。
全員いる。
なら。
「返すよ」
俺は入力欄を開いた。
英語で返すべきか少し迷ったが、試しに日本語で入力する。
《聞こえてる》
送信。
画面の中央で小さな光が一度だけ点滅した。
《管理者通信》
《言語変換を開始》
《受信情報を管理者使用言語へ最適化します》
「日本語いけるんだ」
「今まで英語だったのは?」
水城さんの疑問に、ノアが表示を追いながら答える。
「会話経路なかったから、管理システムの基本語彙を使ってたみたい」
「だからHELPとCAN YOU HEAR ME?」
「たぶん」
変換完了。
そして。
最初に返ってきた言葉は。
《聞こえました》
その次。
《ありがとう》
俺は少し肩の力を抜いた。
「普通に会話できそう」
そう口にした直後。
三行目が表示された。
《そして》
《ごめんなさい》
検証室から音が消えた。
「……何で謝るの?」
俺はそのまま入力する。
返事まで十秒ほど掛かった。
《あなたがいない時》
《あなたの形を借りました》
俺の横で、ノアの指が止まった。
◇
《俺の形って、留守番のこと?》
質問すると、今度はすぐに返事が来た。
《はい》
続いて説明が表示される。
《最初は、人ではありませんでした》
《接続者不在時の世界継続補助》
《あなたの行動傾向、判断傾向、記憶参照情報を使用しました》
《あなたに許可を求めることができませんでした》
「……留守番を作ったのは、やっぱりWORLD COREだったのか」
ただ。
その表現には引っ掛かる。
「最初は人じゃなかった、ってことは」
セレフィナも同じ部分を見ていた。
「途中から、そうではなくなったのでしょうか」
俺はそのまま質問を送った。
《レグナは途中から人になったの?》
返ってきたのは、少し変な答えだった。
《その質問に、私は完全な答えを持っていません》
《私は継続補助を作りました》
《しかし》
《彼がレグナになったのは、私が決めたことではありません》
「どういう意味?」
更に文章が続く。
《彼は経験しました》
《選びました》
《失敗しました》
《学びました》
《誰かを好きになり》
《誰かに怒り》
《誰かを心配しました》
《その変化は、私が与えたものではありません》
リゼルが、小さく息を呑んだ。
俺も。
何となく分かった。
最初は。
俺がログアウトしている時間を埋めるための何かだった。
俺の判断を真似する。
俺なら何をするかを予測する。
アステリアの時間を止めないための代理。
でも。
日々を過ごした。
リゼルたちと話した。
飯を食べ。
仕事をして。
休んで。
失敗して。
三百年前の家で昼寝までした。
その経験は。
俺のコピーではない。
留守番自身のものになった。
「適合率九十九・七パーセント」
ノアが昨日の記録を思い出すように呟いた。
「最初はもっと高かったかも」
「経験が増えて、俺からずれていった?」
「たぶん」
だから。
留守番は。
《蓮じゃない。でもレグナではある》
そう書いたのかもしれない。
◇
リゼルが一歩、端末へ近づいた。
「蓮さん。私から質問してもよろしいでしょうか」
「もちろん」
入力自体は管理者である俺しかできないため、彼女の言葉をそのまま打ち込む。
《リゼルから質問。あなたはレグナを道具だと思っていた?》
送信後。
今までで一番長く。
返事が来なかった。
二十秒。
三十秒。
ノアが通信状態を確認するが、切れてはいない。
やがて。
《最初は》
表示。
《機能だと認識していました》
リゼルの表情は変わらない。
続き。
《後に》
《その認識が間違いだと判断しました》
《彼は私の命令に従わなくなりました》
「そこ?」
俺は思わず口を挟んだ。
更に。
《私が効率的だと判断した選択を拒否しました》
《住民の希望を優先しました》
《休む必要がないのに休みました》
《不要な物を保存しました》
「最後の方、完全に留守番だな」
ミーナが僅かに笑う。
WORLD COREからの文章は続いた。
《機能であれば、しないことをしました》
《そのため》
《私は彼を管理対象から外しました》
《一人の住民として登録しました》
ノアが勢いよく解析画面を開いた。
「残ってる」
「何が?」
「世界側の最終登録」
表示される。
《REGNA》
《分類――RESIDENT》
「住民……」
俺。
思う。
王。
管理者。
プレイヤー。
そういうものではなく。
最後。
留守番は。
アステリアに暮らす一人として。
世界そのものから。
認められていた。
リゼルが静かに目を閉じる。
「ありがとうございます」
彼女が言った。
俺はそれも送る。
《リゼルが、ありがとうと言ってる》
《受信しました》
少しして。
《私も》
《彼に謝りたい》
返ってきた。
◇
「俺には何で謝ったの?」
次に聞いた。
《レグナのことなら、俺に謝るより本人に、って思うけど》
返事。
《あなたの情報を許可なく使用しました》
《あなたが知らないまま、あなたの行動が世界へ影響しました》
《あなたへ説明する手段を作れませんでした》
《それでも私は、あなたを使用しました》
少し。
機械的な文章。
でも。
言いたいことは分かる。
「九年前の《緊急復旧イベント》も?」
《はい》
「俺に世界を修復させた?」
《はい》
《あなたには、ゲームのイベントとして表示されました》
《正しく説明できませんでした》
「なんで俺だったの?」
これは。
昨日から。
聞きたかった。
《一番強かったから?》
《いいえ》
「即否定された」
横でノアが笑った。
「蓮、強くない」
「ゲームではそこそこ頑張ってたよ!」
次。
《一番優秀だったから?》
《判定不能》
「そこはお世辞でもYESって言えないの!?」
セレフィナまで口元を押さえている。
WORLD CORE。
思ったより。
正直だった。
《では、なぜ俺?》
今度の答えは。
短かった。
《あなたが、そこにいたからです》
「……それだけ?」
《はい》
俺は少し拍子抜けした。
《世界境界障害発生時》
《対象領域と最も安定して接続していた外部知性体が、あなたでした》
《長時間接続》
《継続的干渉》
《住民との高い相互信頼》
《世界状態の変化履歴》
《条件を満たしていました》
「結局いっぱい理由あるじゃん」
《しかし》
《最初の条件は》
《あなたが、その時そこにいたことです》
勇者だったからでも。
選ばれし者だったからでもない。
ゲームを遊んでいた。
その日も。
いつも通り。
ログインしていた。
だから。
助けを求められた。
「何か、俺らしいな」
「蓮さんらしいとは?」
リゼルに聞かれる。
「世界を救う理由にしては地味」
「私は良い理由だと思います」
「そう?」
「はい。困っている時に、その場にいた蓮さんが手を貸した。それで十分ではないでしょうか」
リゼル。
普通に。
言う。
昔の俺なら。
イベント報酬目当てだった可能性もあるけど。
そこは黙っておこう。
◇
質問を続けるうちに、俺は一番聞かなければならないことへ辿り着いた。
今まで。
何となく避けていた。
でも。
WORLD COREが本当にアステリアそのものの維持機構なら。
答えを知っているはずだ。
《アステリアは、ゲーム会社が作った世界?》
送信。
ノアが俺を見る。
セレフィナも。
リゼルも。
ミーナも。
水城さんまで。
黙る。
十秒。
返事。
《いいえ》
たった二文字。
「……違う?」
《地球側システムは》
《私を作っていません》
《アステリアを作っていません》
小松原さんから通信が入った。
『確認していただけますか。では、我々のゲームシステムは何をしていたのでしょう』
そのまま質問する。
《地球のゲームは何だった?》
WORLD COREから。
少し長い。
返答。
《地球側システムは》
《接続窓口でした》
「窓口?」
《観測》
《解釈》
《入力》
《出力》
《双方の情報を、双方が理解できる形へ変換していました》
ノアが。
立ち上がる。
「翻訳機」
「言葉の?」
「もっと大きい」
ノアは自分の解析端末へ、地球側ゲームログと王権記録を並べ始めた。
「地球で数字に見えてたものが、こっちの現実だった?」
WORLD COREへ聞く。
《はい》
《人口》
《資源》
《建築》
《戦闘》
《好感》
《統治》
《地球側は、理解可能な情報へ置換しました》
ゲーム画面。
数字。
ゲージ。
アイコン。
クエスト。
イベント。
全部。
アステリアに存在していた現実を。
俺が理解できるように。
変換したもの。
「じゃあNPCは?」
入力する指が。
少し。
重くなる。
《俺がNPCだと思っていた人たちは?》
返事。
《住民です》
分かっていた。
今更。
分かっていた。
リゼル。
セレフィナ。
ノア。
ミーナ。
目の前。
いる。
それでも。
世界そのものから言われると。
違う。
「最初から?」
《はい》
十五年間。
俺。
ゲームだと思ってた。
イベント。
会話。
選択肢。
何百。
何千。
適当に飛ばした会話も。
効率だけで選んだ選択肢も。
あった。
「……俺、結構ひどいことしてない?」
思わず。
口。
出る。
「ゲームだと思ってたから、普通に無茶な指示もしたし。効率悪い施設潰したり、イベントのために軍動かしたり……」
「蓮さん」
セレフィナが。
止める。
「私どもは、あなたが当時どのように世界をご覧になっていたのか、今は理解しております」
「でも」
「そのうえで申し上げますが、あなたがなさったことのすべてを美化するつもりはございません。実際、困った命令もございました」
「やっぱりあった?」
「多数」
「多数!?」
「ですが、私どもは必要な時には反対もいたしましたし、後年に修正した政策もございます。何より」
セレフィナは。
いつもの宰相の顔ではなく。
少し。
柔らかい。
「知らなかった当時のあなたへ、今の知識を持っていた前提の責任まで負わせても意味はないかと」
「……」
「問題があれば、これから直せばよろしいのです」
リゼルも頷く。
「少なくとも私は、蓮さんと出会ったことを後悔しておりません」
「私も」
ミーナ。
「私も」
ノア。
四人目。
セレフィナ。
「もちろん、私もです」
全員。
普通。
言う。
俺。
「そういうの一斉に言われると困るんだけど」
「なぜ?」
「照れるから」
ノア。
「じゃあもう一回言う?」
「いらない!」
少し。
笑う。
助かった。
◇
俺はWORLD COREへ、もう一つ聞いた。
《じゃあ、アステリアを作ったのは誰?》
これなら。
答え。
あると思った。
でも。
《分かりません》
「世界自身も知らないの?」
《私は世界ではありません》
全員。
止まる。
「……え?」
さっきまで。
アステリアそのものと。
話しているつもりだった。
《WORLD COREは、世界そのものじゃない?》
《はい》
《私は》
《世界を維持する機能です》
《世界そのものではありません》
セレフィナがすぐ理解する。
「人間と身体の維持機構が同一ではないのと同じ、ということでしょうか」
《近いです》
WORLD CORE。
ちゃんと。
答える。
「じゃあ意思は?」
入力。
《あなたには意思がある?》
返事まで。
少し。
時間。
《分かりません》
「自分でも?」
《以前は》
《必要/不要》
《維持/停止》
《危険/安全》
《それだけでした》
更に。
《現在は》
《謝りたい》
《ありがとうと言いたい》
《話したい》
俺。
画面。
見る。
《それを意思と呼ぶなら》
《あるのかもしれません》
ノア。
すごく。
いい顔。
研究者の。
「ノア」
「何」
「分解できないからね」
「しない」
「本当に?」
「世界維持機構は無理」
「無理だからなんだ」
できたら。
やるのか。
◇
「最後に」
水城さんが慎重に口を開いた。
「WORLD COREが今、如月さんへ連絡してきた理由を確認しておいた方がよいのではないでしょうか」
確かに。
昨日。
突然。
《REN》
《CAN YOU HEAR ME?》
何か。
また。
危機。
あるなら。
困る。
《今、助けが必要なの?》
送る。
すぐ。
《いいえ》
俺。
少し。
安心。
《アステリアに危険がある?》
《いいえ》
《地球に危険がある?》
少し。
待つ。
《現在、検出していません》
「なら、何で今?」
そのまま打つ。
《どうして俺を呼んだ?》
返事。
《通信できるようになったから》
「……それだけ?」
《はい》
《九年前》
《HELP》
《あなたは答えました》
《私は返事を返せませんでした》
画面。
次。
《三百年前》
《REGNAと通信しました》
《彼から》
《RENに返すよう頼まれた情報があります》
「留守番から?」
俺。
身を乗り出す。
《引継ぎ記録とは別?》
《はい》
「何?」
今までの。
留守番の記憶。
帳面。
四人への話。
管理者権限。
それとは。
別。
《彼が最後に》
《私へ質問しました》
「質問?」
《はい》
《答えが出たら》
《RENへ伝えてほしい》
《そう頼まれました》
リゼル。
表情。
変わる。
「何を尋ねたのでしょう」
俺も同じ。
《レグナは何を聞いた?》
WORLD CORE。
表示。
《彼は》
続く。
《地球とアステリアが》
《最初に繋がったのはいつか》
俺。
少し。
拍子抜け。
「ゲームのサービス開始時じゃないの?」
小松原さん。
通信。
『少なくとも運営会社側の認識では、そうです』
正式サービス。
その前。
テスト。
開発。
あっても。
数年。
程度。
《答えは分かった?》
《はい》
「いつ?」
表示。
日付。
地球時間へ。
変換。
俺は。
一度。
数字。
見直した。
「……間違ってない?」
水城さんも。
画面。
見る。
小松原さん。
向こう。
黙る。
表示されていたのは。
《地球側初回接続》
そして。
《エルグランド・サーガ サービス開始》
その。
《六年前》
「六年前?」
『あり得ません』
小松原さんが即座に言った。
『その時点では、ゲームそのものが存在していません。企画すら立ち上がっていないはずです』
「じゃあ誰が繋いだの?」
俺はWORLD COREへ尋ねる。
《接続元を教えて》
少し待つ。
《地球》
「それは分かってる」
《接続者は?》
返事。
《個体名――不明》
《地球側識別情報――取得失敗》
そこまでは。
何も。
分からない。
でも。
もう一つ。
記録。
《初回接続時受信情報》
「何か送られてきてる?」
《はい》
「内容は?」
WORLD CORE。
一行。
《保存されています》
俺。
四人。
見る。
「開く?」
今までなら。
たぶん。
すぐ。
開いてた。
でも。
今日は。
みんな。
いる。
水城さんも。
小松原さんも。
確認。
できる。
「安全?」
ノア。
解析。
「ただの記録」
「じゃあ」
俺。
開く。
六年前。
ゲームが。
存在するより。
前。
地球から。
アステリアへ。
最初に。
届いたもの。
文字ではなかった。
音声。
《地球側音声記録》
《再生時間――十二秒》
再生。
雑音。
ひどい。
その中。
人間。
男か。
女か。
分からない。
でも。
日本語。
聞こえる。
『――聞こえるなら』
途切れる。
『――返事を――』
雑音。
そして。
最後。
『ここは、ゲームじゃない』
全員。
動かなかった。
小松原さんも。
画面の向こう。
完全に。
固まってる。
六年前。
エルグランド・サーガが作られるより。
前。
誰かは。
既に。
知っていた。
この世界が。
ゲームではないことを。
俺たちは。
ようやく。
サービス終了より。
ずっと前へ。
辿り着いた。




