第50話 三百年前の俺が借りた『管理者権限』を調べたら、アステリアを救ったのは運営でも俺でもなかった
翌日の午後。
俺はリゼル、セレフィナ、ノア、ミーナの四人と一緒に、地球側の世界間技術検証施設へ来ていた。
昨日、《王様じゃなくていい家》で見つけた記録。
《管理者権限を返すかどうかは、お前が決めろ》
留守番の俺が最後に残していたその一文について、今日は正式に調べることになっている。
ただし、開始前に一つだけ決めた。
「先に言っとくけど、今日は返さないからね」
検証室の中央へ置かれた王権端末を前に、俺がそう宣言すると、ノアがすぐこちらを見た。
「見るだけ?」
「見るだけ。正体も分からないものを、勢いで返すとか絶対しない」
「賛成」
意外にも、最も早く調査を始めたがりそうなノアが素直に頷いた。
セレフィナも反対する様子はなかった。
「妥当かと存じます。返却先すら不明ですし、その行為が地球側、アステリア側のいずれへ影響するかも分かっておりません」
「昨日の記録には《返してもアステリアは消えない》ってあったけど、それ以上は何も保証してないもんな」
「はい。少なくとも、レグナ御本人も完全には把握していなかったと考えるべきでしょう」
リゼルは俺の斜め後ろに立っていたが、今日は護衛位置というより、単純に画面を見やすい場所を選んでいるらしい。
「蓮さん御自身も、返却を急がないとお決めになったのでしたら、私はその御判断を支持いたします」
「ありがとう」
最後にミーナを見ると、彼女も静かに頷いた。
「私も同じです。三百年待ったものですから、もう一日二日急いだところで何も変わりません」
「その言い方、説得力が強いな」
三百年。
そうだった。
俺たちは最近になって次々と昔の記録を見つけているが、四人にとっては全部、文字通り三百年間残っていたものだ。
今日中に結論を出す必要などない。
「じゃあ、開く」
王権端末へ手を置く。
《管理者権限・詳細閲覧》
《条件確認》
《如月蓮――承認》
《リゼル・アルフェリア――立会確認》
《セレフィナ――立会確認》
《ノア――立会確認》
《ミーナ――立会確認》
五人。
条件。
全部。
揃う。
《閲覧を開始します》
表示が切り替わった。
◇
最初に出てきたのは、管理者権限そのものの説明ではなかった。
《権限取得時記録》
「取得時?」
俺が読み上げると、ノアがすぐに横から画面を覗き込んだ。
「先に、いつ手に入れたか分かる」
「サービス終了の時じゃないの?」
「違う」
日時が表示される。
地球側の記録へ変換すると。
サービス終了の。
約九年前。
「九年前?」
俺がアステリアを始めてから六年ほど経った頃だ。
まだゲーム自体も普通に運営されていた時期。
「そんな前から管理者権限持ってたの?」
「私も知りません」
ノアも珍しく眉を寄せている。
詳細を開く。
《取得主体――REGNA》
《権限名――TEMPORARY WORLD ADMINISTRATOR》
「テンポラリー……」
「一時世界管理者」
セレフィナが訳す。
「管理者権限そのものが、正式名称ではなかったようですね」
「一時?」
俺はそこへ引っ掛かった。
つまり。
最初から。
借り物。
《付与元――》
空白。
「やっぱり誰からか分からない」
その下。
《付与契機――世界境界障害》
「世界境界?」
ノアが操作する。
すると。
関連記録。
一件。
《プレイヤー側認識――大規模サーバー障害》
「……覚えてる」
俺は思わず声を出した。
「六年目くらいに、一回ゲームが丸一日入れなかった日があった」
公式サイトには。
大規模な通信障害。
復旧作業中。
そう表示されていた。
「翌日、普通に戻ってた」
当時の俺は。
よくあるオンラインゲームの障害だと思っていた。
それ以上。
気にもしていなかった。
ところが。
アステリア側の記録は違った。
《現地事象――空間境界崩壊》
《地域消失予測――十七・二パーセント》
《因果継続失敗予測――三十四・八パーセント》
「地域消失?」
リゼルの表情が変わる。
「そのような災害の記録は、王国史にはございません」
「隠された?」
「いや」
ノアが首を横へ振った。
「起きなかった」
「起きる前に止めた?」
「たぶん」
次の行。
《緊急管理主体を選定》
《候補――接続中知性体》
「接続中……」
俺。
嫌な予感。
《最長継続接続》
《最高世界干渉量》
《最大住民信頼値》
《選定対象――REGNA》
「俺!?」
今度は。
誰もすぐに答えなかった。
◇
「ちょっと待って」
俺は画面を指す。
「この頃の俺、普通にゲームしてただけだよね?」
「地球側から見れば、そうです」
水城さんが後方の席から答えた。
今日は政府側立会人として来ている。
「ですが、この記録が事実なら、アステリア側では如月さんが実際に世界へ干渉していたと解釈されていた可能性があります」
「施設建てたり、イベントクリアしたり?」
「はい。それが単なるゲーム操作ではなく、アステリア側へ実際の結果として反映されていたのであれば」
俺は言葉を失った。
建物を建てた。
道路を作った。
敵を倒した。
国を拡張した。
それを。
十五年間。
ひたすら。
続けた。
だから。
選ばれた。
「でも、俺が管理者権限使った覚えないですよ?」
「それについても出ている」
ノアが次の項目を開く。
《権限受諾》
《プレイヤー側表示変換――緊急復旧イベント》
「あ」
思い出した。
あった。
障害復旧後。
変なイベントが。
画面いっぱいに。
《王国復旧支援》
みたいなものが出て。
壊れた施設を修復。
住民を配置。
資源を再配分。
そんな作業を一時間くらいやった。
「俺、イベントだと思ってた」
「実際は?」
「世界修復」
ノア。
答える。
「たぶん蓮がやった」
「いやいやいや」
俺は思わず笑いそうになった。
「そんなわけないだろ。一プレイヤーだよ?」
「でも」
セレフィナが静かに画面を見ている。
「陛下――蓮さんがその時に行われた操作が、こちら側では実際の復旧処置として実行されたのではありませんか」
「……」
「我々は、あなたが何を見ながら行動していたのか知りませんでした。ただ、あの時期に王都周辺の一部施設配置が突然変更され、物流網が大幅に改善された記録はございます」
「それ俺だ」
覚えている。
効率が悪かったから。
配置を変えた。
倉庫。
市場。
道路。
軍施設。
全部。
組み直した。
「ゲームとしてやった」
「はい」
セレフィナは頷く。
「しかし、こちらにとっては現実でした」
また。
この話。
俺にとって。
ゲーム。
向こうにとって。
人生。
今まで何度も。
同じところへ戻ってくる。
◇
次の記録。
《一時世界管理者権限――使用履歴》
俺。
見る。
「九年前からサービス終了まで、ずっと?」
「常時じゃない」
ノアが一覧を読む。
「危険時だけ自動で開いてる」
「俺、知らずに使ってた?」
「そう」
「何回?」
「……」
「ノア?」
「四百十二」
「多い!」
災害。
大規模戦争イベント。
サーバー障害。
データ巻き戻し。
運営側の緊急メンテナンス。
地球側では。
全部。
ゲームのイベント。
障害。
修正。
アップデート。
でも。
そのたび。
アステリアでは。
世界そのものが。
危機に晒されていた。
そして。
一部。
俺が。
知らないまま。
管理者権限で。
修復していた。
「じゃあ」
俺は気づく。
「サービス終了の時も」
「うん」
ノアが次を開いた。
《最終接続終了》
《世界管理主体――離脱予定》
《代替管理主体――未検出》
そして。
《世界継続率――低下》
俺の背中に。
冷たいものが走った。
「これ」
水城さんの声も低くなる。
「如月さんがログアウトすること自体が、世界維持へ影響していた可能性がありますね」
「でも、俺は普通にログアウトしてたよ?」
「それまでは一時的だった」
ノア。
画面。
見る。
「戻ってくる前提」
そうか。
毎日。
ログアウト。
でも。
また。
ログインする。
接続。
戻る。
それで。
世界は。
維持されていた。
サービス終了。
もう。
戻らない。
システム側が。
そう判断した。
「それで世界が止まりかけた?」
「たぶん」
次。
《緊急継続処理》
《一時世界管理者権限――保持要求》
《対象――REGNA》
「でも俺はいない」
「だから」
ノア。
「留守番」
◇
表示。
《接続者離脱》
《管理情報残留》
《世界内人格形成体――REGNA》
「人格形成体?」
「たぶん」
ノア。
慎重。
「蓮がログアウトしてる時にいたレグナ」
世界内。
人格。
形成。
それが。
留守番。
《権限継承要求》
《対象人格――REGNA》
《適合率――九十九・七パーセント》
俺。
少し。
笑う。
「ほぼ俺」
「でも百じゃない」
ノア。
「だから《半分》って言ったのかも」
小松原さんとの会話。
《本当にプレイヤーのレグナか》
《半分》
あの言葉。
本人も。
自分が俺そのものではないと。
分かっていた。
《権限継承――成功》
《世界継続処理――実行》
その下。
《世界停止回避》
部屋。
静か。
「……留守番が」
俺は。
画面。
見る。
「アステリアを止めなかったんだ」
今まで。
サービス終了後も。
世界が勝手に続いたと思っていた。
違った。
少なくとも。
一度は。
止まりかけた。
それを。
留守番が。
権限を引き継いで。
止めなかった。
「じゃあ」
リゼルの声。
少し。
震える。
「当時の陛下は」
言葉。
選ぶ。
「御自身が消える可能性をご存じで」
「たぶん」
ノア。
次。
開く。
《管理主体への負荷》
《人格継続保証――なし》
「……」
俺。
読む。
「保証なし」
留守番。
もし。
失敗したら。
消える。
それでも。
《受諾》
一行。
それだけ。
◇
「馬鹿」
ノアが。
小さく。
言った。
誰も。
止めない。
「馬鹿」
もう一回。
「自分でやるなって、蓮に言ってたのに」
引継ぎ記録。
留守番。
俺に。
何度も。
書いていた。
《一人で抱えるな》
《頼れ》
《全部背負うな》
でも。
本人。
最後。
世界。
背負ってた。
「ブーメランだな」
俺が言うと。
ノア。
睨む。
「笑えない」
「うん」
笑えない。
でも。
すごく。
俺っぽい。
自分は。
やる。
他人には。
やるな。
「蓮さん」
リゼルが。
俺を見る。
「御自身を責めないでください」
「責めてないよ」
「……本当に?」
「うん」
一度。
考える。
「俺じゃないから」
言う。
「留守番が決めたことだ」
以前なら。
全部。
自分の責任だと。
思ったかもしれない。
でも。
本人自身が。
《これは俺の記憶だけど、蓮の記憶じゃない》
そう書いていた。
「だから」
俺は画面を見る。
「ありがとうとは思う。でも、俺がやったことにはしない」
セレフィナが。
ゆっくり。
頷く。
「それがよろしいかと存じます」
◇
問題は。
その次だった。
《権限供給元》
「これが分かれば」
ノア。
集中。
「誰から借りたか分かる」
開く。
《供給元識別――WORLD CORE》
「ワールドコア?」
ゲーム用語っぽい。
俺は。
ノアを見る。
「知ってる?」
「ゲームにはなかった」
「運営側にも?」
水城さんが小松原さんへ通信を繋ぐ。
数分。
そして。
回答。
『その名称の機能は、当時のゲームプログラムには存在しません』
「じゃあ何?」
『こちらが聞きたいです』
小松原さん。
本気。
困ってる。
ノア。
更に。
展開。
《WORLD CORE》
《分類――世界自己維持機構》
「自己維持」
「世界自身?」
ミーナが初めて口を挟んだ。
「アステリア自身が、陛下へ権限をお貸ししたということでしょうか」
俺。
その言葉。
止まる。
「世界が?」
ノア。
否定しない。
「可能性高い」
「意思あるの?」
「分からない」
セレフィナ。
画面。
読む。
「少なくとも《自己維持機構》とあります。人間のような意思があるとは限りません」
「危なくなったら、一番使えそうな人に権限渡すシステム?」
「それが最も近いかと」
俺。
「一番使えそうだったのが俺?」
四人。
見る。
「何」
リゼル。
「いえ」
セレフィナ。
「何も」
ノア。
「当然」
ミーナ。
「私も同意いたします」
「何その全会一致」
地球側。
普通の会社員。
なんだけど。
◇
「じゃあ返却先は」
俺。
続きを読む。
《返却対象――WORLD CORE》
「世界へ返す」
「そうなる」
ノア。
「返したら何が?」
《返却影響予測》
《世界継続――影響なし》
《現管理主体――不要》
「今は管理者いらない?」
「世界が自立した」
ノア。
続き。
《自律維持率――百パーセント》
アステリア。
三百年。
俺なし。
留守番なし。
それでも。
続いた。
国。
人。
社会。
全部。
今は。
自分で。
立ってる。
「……そっか」
俺。
何となく。
嬉しい。
「もう俺いらないんだ」
四人。
反応。
速い。
「その表現は適切ではございません」
セレフィナ。
「世界維持機能として不要という意味です」
リゼル。
「蓮は必要」
ノア。
「蓮様」
ミーナ。
俺。
「分かってる分かってる!」
全員。
真顔。
「機能として!」
言い直す。
「俺がいなくても世界は消えないってことでしょ?」
「はい」
セレフィナ。
今度は。
頷く。
「アステリアは既に、陛下の命令がなくとも存続できる世界です」
それ。
サービス終了の夜。
俺が。
言ったこと。
《もう、俺の命令を待たなくていい》
《これからは、自分たちのために生きろ》
あの時。
俺。
ただ。
ゲームの終わりに。
部下へ。
別れを言った。
でも。
三百年。
経って。
本当に。
そうなってる。
「なら」
返しても。
大丈夫。
たぶん。
でも。
続き。
《返却後効果》
《世界間管理経路――消失》
「……」
ノア。
止まる。
「管理経路?」
《現在使用中機能との関連》
《経験同期》
《王権端末・世界間認証》
《一部世界間通信》
俺。
「これ返したら」
ノア。
「同期できなくなる可能性ある」
「門は?」
「別」
「世界間転移門は、別系統?」
「うん。今の門は私たちが作った」
少し。
安心。
でも。
《管理経路消失後》
《再取得――保証なし》
一度。
返したら。
戻らないかもしれない。
「だから留守番、俺に決めさせたのか」
返しても。
世界は消えない。
でも。
留守番の記憶。
残った管理機能。
地球とアステリアを繋ぐ。
古い道。
それが。
消える。
◇
「俺は」
セレフィナが。
何も。
急かさない。
リゼルも。
ノアも。
ミーナも。
待つ。
昔なら。
四人。
俺の答え。
待ってた。
王命。
求めて。
でも。
今。
違う。
「みんなはどう思う?」
聞く。
四人。
少し。
驚く。
「俺一人で決める話じゃないだろ」
留守番。
《四人と相談しろ》
ちゃんと。
従う。
最初。
セレフィナ。
「私は、現時点での返却には反対です」
「理由は?」
「世界維持上の危険がないことは確認できました。しかし、管理経路が消失した場合の影響範囲が不明瞭です。急いで返却する利点も、現在は確認できません」
「分かった」
リゼル。
「私も同意見です。ただし、権限そのものが蓮さんへ負担を与えているのであれば、話は別です」
「負担?」
「身体や精神へ影響している可能性です」
ノア。
すぐ。
「調べる」
「今日はいいよ」
「ここ研究施設」
「あ、そうだった」
家じゃない。
「じゃあ調べて」
「うん」
最後。
ミーナ。
「私は」
一度。
「蓮様が《返したい》と思われた時まで、持っていてもよいのではないかと思います」
「理由は?」
「借りた物ではございますが」
ミーナ。
少し。
笑う。
「三百年前の陛下が、返すかどうかを蓮様へお任せになったのでしたら、今はまだ蓮様がお預かりしている時間なのではないでしょうか」
俺。
「それでいい?」
「はい」
三人も。
反対なし。
「じゃあ」
決める。
「今日は返さない」
《返却》
ボタン。
ある。
でも。
押さない。
「もっと調べる」
その上で。
俺。
決める。
◇
ノアの検査では、少なくとも現時点で管理者権限が俺の身体へ直接負荷を掛けている兆候は見つからなかった。
権限は俺自身の中にあるというより、王権端末を通じて俺を認証対象としているらしい。
「じゃあ俺が持ってるっていうより」
「鍵持ってる」
「管理者用の?」
「そう」
ノア。
俺の端末。
指す。
「世界が蓮を管理者として認識してるだけ」
「解除したら一般人?」
「地球では最初から一般人」
「そこは知ってる!」
水城さんまで笑った。
少し。
空気。
戻る。
「じゃあ今日はここまで?」
「一個まだ」
ノア。
画面。
見る。
「何?」
「管理者権限の使用可能機能」
「使わないよ?」
「見るだけ」
「危ないのない?」
「たぶん」
「たぶん禁止!」
でも。
一覧。
表示。
既に。
出てる。
《使用可能権限》
《世界状態閲覧》
《経験情報管理》
《緊急世界保護》
《境界接続補助》
《管理者通信》
最後。
俺。
止まる。
「管理者通信?」
ノアも。
止まる。
「これ」
「何?」
「未使用」
「留守番も?」
「たぶん一回も使ってない」
詳細。
《管理者通信》
《WORLD COREとの通信経路を開きます》
「……」
俺。
「世界と話せる?」
「分からない」
水城さん。
「本日は使用しない方がよろしいかと」
「俺もそう思います」
即。
閉じる。
危険。
使い方。
分からない。
今日は。
見ない。
「ただ」
セレフィナ。
画面。
見る。
「これで、一つ分かったことがございます」
「何?」
「管理者権限を貸した存在へ」
一度。
「質問できる可能性がある」
そう。
だった。
俺たちは。
今まで。
ずっと。
留守番の記録。
運営ログ。
三百年前の資料。
そういう。
過去。
追っていた。
でも。
もし。
WORLD CORE。
今も。
存在してるなら。
直接。
聞ける。
「何で俺を選んだのか」
ノア。
「留守番をどう作ったのか」
セレフィナ。
「アステリアが、そもそも何なのか」
水城さん。
そして。
俺。
「地球と何で繋がったのか」
全部。
聞けるかもしれない。
◇
検証を終えて。
帰る前。
俺は四人と。
施設の休憩スペース。
座る。
「第五十話っぽい話だったな」
思う。
いや。
口には出してない。
自分。
何考えてる。
「蓮?」
ノア。
「何でもない」
飲み物。
買う。
五本。
配る。
「これからどうする?」
リゼル。
聞く。
「まず管理者通信の安全確認。そのあと」
一度。
考える。
「使うかどうか決める」
「承知いたしました」
「ただし」
俺。
四人。
見る。
「使うなら、また全員一緒」
四人。
反応。
「はい」
「もちろんでございます」
「うん」
「承知いたしました」
今度は。
揃う。
自然に。
「俺一人で世界と話すとか怖いから」
「そこですか?」
セレフィナ。
少し。
笑う。
「大事だよ」
もし。
WORLD COREに。
意思。
あるなら。
何を。
言ってくるか。
分からない。
でも。
俺一人じゃない。
それだけ。
かなり。
違う。
◇
その夜。
自宅。
俺は寝る前に王権端末をもう一度確認した。
《一時世界管理者権限》
《状態――保持》
《返却――任意》
その下。
新しい表示。
今日の閲覧によって解放されたらしい。
《管理者通信》
《接続先――WORLD CORE》
《最終通信履歴――一件》
「……一件?」
未使用じゃなかった?
昼間の一覧では。
《未使用》
そう表示されていた。
でも。
履歴。
一件。
開く。
《送信者――WORLD CORE》
《受信者――TEMPORARY WORLD ADMINISTRATOR》
九年前。
最初に。
権限を受け取った日。
その一件。
内容。
《HELP》
「……」
それだけ。
英語。
一単語。
《助けて》
俺。
画面。
見たまま。
止まる。
九年前。
ゲームの中で。
大規模サーバー障害だと思っていた日。
世界は。
俺を。
選んだんじゃない。
もっと。
単純だった。
助けを。
求めた。
そして。
俺は。
それを。
イベントだと思って。
助けた。
「……そんな始まりだったのかよ」
返事。
欄。
今も。
ある。
《管理者通信を開始しますか》
俺は。
押さなかった。
明日。
四人と。
調べる。
そう決めたから。
画面を閉じる。
でも。
眠る直前。
もう一度。
通知。
王権端末。
《WORLD CORE》
一件。
新着。
俺。
起きる。
開く。
表示。
《REN》
そして。
《CAN YOU HEAR ME?》
俺は。
完全に。
目が覚めた。
三百年前の記録でも。
九年前の履歴でもない。
現在時刻。
今。
世界の向こうから。
俺の名前を呼ぶ声が。
届いていた。




