第48話 三百年前にノアからもらった黒い魔導具を起動したら、サービス終了後も『蓮を呼ぶ』通信が続いていた
リゼルと別れた直後に届いたノアからの連絡は、冗談ではなかった。
《明日暇?》
《黒いやつ》
《開けよう》
その三行だけで、こちらの予定を確認する気がどこまであるのか怪しかったが、翌日は幸い休日だった。俺が《午後なら》と返すと、ノアからは即座に《十三時》と返ってきた。
そして十二時四十二分。
政府の世界間技術検証施設へ着いた俺を、既にノアが入口で待っていた。
「早くない?」
「十二時からいた」
「俺、十三時って聞いたけど」
「知ってる」
「じゃあ何で一時間前から?」
「待てなかった」
悪びれる様子はない。
ノアはいつもの研究用の服ではなく、地球で外出する時に使っている黒いパーカー姿だった。ただし背負っている鞄だけは明らかに研究用で、厚みからして何かがぎっしり詰まっている。
「今日は《王様じゃなくていい家》じゃないんだな」
「駄目」
「即答だ」
「あれ、起動するかもしれないから」
「……先に言ってよ」
俺は足を止めた。
ミーナの布袋には家の鍵が入っていた。セレフィナの本には《王様を辞めた後にしたい百のこと》が書かれ、リゼルの徽章には《称号なし》という意味が込められていた。
どれも感情的には少々重かったが、少なくとも爆発はしない。
ノアの贈り物だけ、物理的に危険な可能性が出てきた。
「爆発する?」
「たぶんしない」
「たぶん!?」
「三百年前はしなかった」
「三百年経ってるから聞いてるんだよ!」
「だから検証室」
その点だけは正しい。
結局、俺たちはそのまま施設へ入り、水城さんの許可を受けて隔離型の検証室を使うことになった。
◇
問題の黒い魔導具は、既に透明な保護ケースの中へ置かれていた。
大きさは手のひら程度。形は正方形に近いが、角が丸く削られていて、表面にはボタンも画面もない。ただ中央にだけ、小さな円形の窪みがある。
「これが、ノアから留守番へ渡された最後の贈り物なんだよな」
「うん」
「何する物?」
「呼び鈴」
「……呼び鈴?」
もっと危険な答えを予想していたので、思わず聞き返した。
ノアはケースの隣へ自分の鞄を置き、その中からよく似た白い魔導具を取り出した。
「こっちが私の」
「二個で一組?」
「そう。黒をレグナに渡した。白は私が持ってた」
「押す場所ないけど」
「触ればいい」
ノアが白い方の中央へ指を置く。
すると、保護ケースに入った黒い魔導具の表面へ淡い光が一瞬だけ走った。
「今、俺まだ触ってないよね?」
「受信だけなら動く」
「三百年前の機械だよね?」
「魔導具」
「それでも三百年前だよ」
「ちゃんと作ったから」
そこだけ少し誇らしげだった。
水城さんが安全確認用の端末を見ながら、向かいから尋ねる。
「これは、二つの装置間で通信するものですか?」
「文字も声も送れない。ただ呼ぶだけ」
「呼ぶだけ?」
「私が白に触ると、黒が光る。レグナが黒に触ると、白が光る。それだけ」
驚くほど単純だった。
「何でそんな物を俺に?」
俺が尋ねると、ノアは少し考えてから答えた。
「蓮、昔から人を呼ばないから」
「呼んでたと思うけど」
「王命では呼ぶ」
「ああ」
「研究報告。設備確認。魔導具の修理。仕事では呼ぶ。でも、用事ない時は呼ばない」
言われてみれば、そうだったのかもしれない。
ゲームだった頃の俺にとって、仲間や部下を呼ぶという行為は、ほとんどの場合メニューやイベントを開くことと同じだった。
「それで呼び鈴?」
「用事なくても押していいやつ」
ノアは白い装置を指先で軽く叩いた。
「私も押す。蓮も押す。それだけ」
「押したらどうするの?」
「会いに行く」
「ノアが?」
「行ける時は」
「行けない時は?」
「後で行く」
ずいぶん気軽な仕組みだった。
セレフィナは百個の《会う理由》を考え、リゼルは理由がなくても隣にいるための徽章を作った。
ノアの場合は、さらに単純だったらしい。
会いたければ、押す。
それだけ。
「三百年前の俺、使った?」
「使った」
「何回くらい?」
「記録残ってる」
「記録機能あるんじゃん」
「研究者だから」
「急に仕事が出てきたな」
ノアは気にせず黒い魔導具へ視線を戻した。
「見る?」
「そのために来たんだろ?」
「うん」
◇
安全確認を終えたあと、保護ケースが開けられた。
俺が黒い魔導具へ触れると、表面に細い光の線が広がっていく。三百年前の留守番が使っていた物なのに、拒否反応はなかった。
《使用者照合》
《REGNA》
一度、表示が揺らぐ。
そして。
《REN KISARAGI》
《継承権限確認》
表示が切り替わった。
「また分けてる」
俺は画面を見る。
以前、《蓮に返す箱》でも同じことがあった。
《所有者――レグナ》
《開封権限――如月蓮》
留守番は自分と俺を、同じものとして扱っていなかった。
けれど完全な別人として切り離していたわけでもない。
返す。
引き継ぐ。
そのための相手として、俺を登録していた。
「記録開く」
ノアが操作すると、空中に一覧が表示された。
《双方向呼出記録》
《総送信回数――四千八百六十一》
「多くない?」
「三百年分」
「じゃあ少ない?」
「私がレグナへ送ったのは九百十四」
「残りは?」
「レグナから私」
「俺、思ったより呼んでるな」
「途中から増えた」
記録には、日時と送信方向だけが残っていた。
最初の頃はノアからの呼び出しが多い。数年経つとレグナ側からも増え、時には一日に何度も行き来している。
「何で呼んだかは残ってない?」
「残してない。そういう装置じゃないから」
「覚えてる?」
「全部は無理」
「三百年だもんな」
「でも、最初のは覚えてる」
ノアの指が一覧の一番上へ触れた。
《送信――NOAH → REGNA》
《応答まで――十一秒》
「十一秒」
「押したらすぐ来た」
「どこに?」
「研究室」
「用事は?」
「ない」
「本当に?」
「新しいお菓子買った」
「用事あるじゃん」
「仕事じゃない」
「そこ大事なんだ」
ノアは僅かに笑った。
「レグナも食べた。それから帰った」
「呼び出してお菓子食べただけ?」
「うん」
「いい使い方だな」
そう言うと、ノアは少し嬉しそうに頷いた。
◇
しばらく記録を眺めていると、妙な空白に気づいた。
俺がゲームへログインしていた十五年間。
地球側の接続履歴と照合すると、呼び鈴の記録には明確な傾向がある。
俺がログインしている時間帯にも使われている。
ログアウトしている時間帯にも使われている。
「これ、やっぱり留守番も使ってたんだ」
「うん」
ノアは当然のように答えた。
「当時は区別してなかったけど」
「同じレグナだと思ってた?」
「違う感じはしてた」
「分かってたの?」
「少し」
俺は思わずノアを見る。
「いつから?」
「かなり早い」
「何で誰も言わなかったの?」
「言った」
「俺に?」
「レグナに」
「何て?」
「《今日ちょっと違う》」
「それだけ?」
「レグナは《眠いから》って言った」
「誤魔化してる!」
「たぶん本人も最初は分かってなかった」
ありそうだった。
俺がログアウトすると現れ、俺の代わりにアステリアで生活していたもう一人のレグナ。
彼自身も、最初から自分の正体を理解していたとは限らない。
ノアは記録をさらに送る。
「でも、問題はそこじゃない」
「まだあるの?」
「ここ」
表示された日時を見た瞬間、俺にも分かった。
《地球時間――サービス終了日》
最後に俺がログアウトした夜。
その直後から。
呼出記録が急激に増えている。
《NOAH → REGNA》
《応答あり》
《NOAH → REGNA》
《応答あり》
《NOAH → REGNA》
《応答あり》
留守番は、まだいた。
サービスが終わっても。
ノアが呼べば。
黒い魔導具を通じて返事をしていた。
「この頃は、何でこんなに?」
「確認してた」
「レグナが消えないか?」
「うん」
ノアの声が少しだけ低くなった。
「世界が止まると思ってた。だから何度も押した」
サービス終了。
俺にとってはゲーム画面が閉じた瞬間。
向こうにとっては。
世界そのものが消えるかもしれない夜だった。
「レグナは毎回答えた?」
「最初は」
その言い方に引っ掛かった。
「最初は?」
ノアが記録を進める。
サービス終了から一日。
二日。
留守番からの応答は続いている。
そして。
三日後。
見覚えのある日付。
小松原さんが、停止したはずの運営端末からレグナと会話した日。
俺たちが以前確認した記録では、留守番は地球側へこう答えていた。
《レグナ》
《半分》
《蓮はいない》
《俺は留守番》
その日。
呼び鈴にも異常が起きていた。
《NOAH → REGNA》
《応答――失敗》
《再試行》
《応答――失敗》
《再試行》
《応答――成功》
ここまでは普通に見える。
だが。
その下。
《受信対象――二》
「……二?」
水城さんも画面へ身を乗り出した。
「装置は一対一だったのでは?」
「そう」
ノアが答える。
「黒は一個。白も一個。受信者はレグナ一人」
「じゃあ二って何?」
「昔は分からなかった」
ノアは次の表示を開いた。
《受信対象識別》
《REGNA》
《UNKNOWN》
さらに現在の解析結果。
《UNKNOWN――既知情報との照合を実行》
《一致候補》
《REN KISARAGI》
俺はしばらく画面を見た。
「俺?」
「たぶん」
「ちょっと待って。サービス終了三日後だよね?」
「うん」
「俺は地球にいた」
「うん」
「ゲームにも接続してない」
「うん」
「なのにアステリアの魔導具が、俺を受信対象として拾った?」
「そう見える」
ノアの返事は短かったが、今までよりずっと慎重だった。
◇
水城さんがすぐに技術担当者を呼び、小松原さんにも遠隔で記録を確認してもらうことになった。
十分ほどして、壁面モニターへ元運営社員の小松原直樹さんが映る。
『日時は間違いありません。この時刻なら、私が保守端末でレグナとの接続を試みていた時間帯と重なっています』
「小松原さんが接続したせいで、地球の俺まで拾った可能性は?」
『否定できません。ただし、当時の運営システムに如月さん本人の端末へ通信を転送する機能はありませんでした。そもそも如月さんのPCは、その時間にはゲームクライアントへ接続していません』
「じゃあ何で」
『分かりません』
小松原さんは画面の向こうで眉間を押さえた。
『ただ、一つ気になる点があります。以前確認した保守ログでも、サービス終了後のレグナは《蓮に教えないと》と発言していましたよね』
「はい」
『つまり、彼は地球側の如月さんを認識していた。それだけではなく、何らかの方法で如月さんへ情報を返そうとしていた可能性があります』
俺は《引継ぎ帳》を思い出した。
留守番は最後に、自分の経験を保存しようとしていた。
《蓮に返す》
そのために。
《管理者権限》まで使った。
「これも、その一つ?」
黒い魔導具を見る。
ノアが首を横へ振った。
「違うと思う」
「何で?」
「これに管理者権限はない。私が作った普通の魔導具」
「普通の基準がおかしいけど」
「王権機能も入れてない」
だったら。
なおさらおかしい。
世界を越える機能などない魔導具が。
サービス終了から三日後だけ。
アステリアにいるレグナと。
地球にいる俺。
二人を同じ呼び出し先として検出した。
「その後は?」
俺が尋ねると、ノアは黙って記録を先へ送った。
四日目。
《NOAH → REGNA》
《応答あり》
《受信対象――REGNA》
一人へ戻っている。
「三日目だけ?」
「うん」
「一回だけ?」
「正確には七回」
七回。
同じ日。
同じ時間帯。
すべてで《受信対象――二》。
そして、小松原さんが保守端末との接続を切ったあと。
再び一人。
「じゃあ、地球とアステリアの接続が開いた時だけ……」
俺がそこまで言うと、ノアが頷いた。
「蓮を拾った」
◇
検証室の空気が、少しだけ変わった。
ここまでの調査で分かっていることは多い。
ゲーム世界だと思っていたアステリアは、サービス終了後も存在し続けていた。
俺がログアウトしている間には、もう一人のレグナが活動していた。
その留守番は運営側と会話し、自分の経験を俺へ返そうとしていた。
だが。
俺と留守番が。
どういう関係なのか。
そこだけは、まだはっきりしていない。
同一人物なのか。
分岐した人格なのか。
ゲーム側が俺を模倣して作った存在なのか。
あるいは。
もっと別の何かなのか。
「ノア」
「何」
「当時、これ見た?」
「二人って表示?」
「うん」
「見た」
「どう思った?」
ノアは少し黙ってから、黒い魔導具へ手を置いた。
「蓮がいると思った」
「地球に?」
「場所は分からなかった。でも、レグナじゃない方がいると思った」
「それで?」
「呼んだ」
その言葉に。
俺は記録を見直した。
《NOAH → REGNA》
《再試行》
《再試行》
《再試行》
七回。
「これ全部」
「蓮に届くかと思った」
「……」
「だから押した」
ノアの声は、いつも通り平坦だった。
それでも。
三百年前のあの日。
世界が終わるかもしれない中で。
地球にいるかもしれない俺を。
ただの呼び鈴で。
何度も呼んだ。
「何を伝えたかった?」
「何も」
「何も?」
「文字送れないから」
「そうじゃなくて」
俺は少し笑った。
「もし届いてたら、何て言うつもりだった?」
ノアは考え込んだ。
ずいぶん長く。
やがて。
「帰ってきて」
それだけ答えた。
「やっぱり」
「でも」
ノアは俺を見る。
「今は違う」
「何が?」
「帰ってきて、じゃない」
少しだけ言葉を探してから、彼女は続けた。
「会いたい時に来て。蓮が地球にいたい日は、地球にいればいい」
俺は何も言わず、その続きを待った。
「私も会いたくなったら地球に行く。今は門あるから」
「そうだな」
「だから、昔みたいに帰ってこいって呼ばなくていい」
そこで一度、黒い魔導具を見る。
「でも、呼び鈴は欲しい」
「まだ使うの?」
「使う」
「スマホあるじゃん」
「違う」
「何が?」
「メッセージ書くと、理由いる」
「《暇?》だけ送ってくる人が言う?」
「それでも文字ある」
ノアは白い魔導具を持ち上げた。
「これは押すだけ」
「用事なくても?」
「うん」
「会いたいだけでも?」
「うん」
なるほど。
三百年前から。
そこは変わっていないらしい。
◇
その後、黒い魔導具そのものは安全と判断されたが、三日目の異常記録については正式な解析対象になった。
ただし、俺は一つだけ条件を付けた。
「本体は研究資料として没収しないでくださいね」
水城さんが苦笑する。
「もちろんです。所有物であることは確認しています。必要なのは記録の複製だけです」
「王立記録院にも?」
通信の向こうでノアが即答した。
「駄目」
「俺まだ聞いただけ」
「駄目」
「ノアがそこまで嫌がるの珍しいな」
「贈り物だから」
その一言で十分だった。
「じゃあ、これも《王様じゃなくていい家》に置く?」
聞いてみる。
ミーナの家の鍵があり。
セレフィナの本があり。
リゼルの徽章がある。
最後に。
ノアの黒い呼び鈴。
四人から留守番へ渡され。
俺へ返されたもの。
「置く」
ノアは迷わなかった。
「白い方は?」
「私が持つ」
「三百年前と同じ?」
「うん」
そして。
いきなり白い魔導具へ触れた。
目の前の黒い魔導具が淡く光る。
「今ここにいるけど?」
「試験」
「本当に?」
「半分」
「残り半分は?」
ノアは少し笑った。
「呼んだだけ」
俺も。
黒い方へ触れる。
今度は。
ノアの手の中にある白い魔導具が光った。
「これでいい?」
「うん」
それだけで。
満足したらしい。
◇
検証を終えた後、俺たちは施設の食堂へ寄った。
もう研究は終わっているので、ノアもいつものように大量の資料を開くことはしなかった。代わりに売店で買ったプリンを二つ並べ、片方を俺の前へ押してくる。
「これ何?」
「新作」
「またお菓子?」
「最初と同じ」
一番古い呼び鈴の記録。
ノアが用事もないのにレグナを呼び、新しく買ったお菓子を一緒に食べた日。
「三百年経っても同じことする?」
「駄目?」
「別に」
蓋を開ける。
「いただきます」
「うん」
少し甘い。
普通のプリンだった。
世界の秘密も。
管理者権限も。
ログアウト中のレグナも。
今だけは関係ない。
呼ばれて。
来て。
一緒にお菓子を食べる。
昔から、それだけでよかったのだろう。
「ノア」
「何」
「これからはスマホと呼び鈴、どっちで呼ぶの?」
「両方」
「増えた!」
「スマホ反応なかったら押す」
「仕事中どうするんだよ」
「一回だけ」
「絶対?」
「三回まで」
「増やすな!」
ノアはプリンを食べながら、楽しそうに笑っていた。
◇
夕方。
黒い呼び鈴を《王様じゃなくていい家》へ運び、居間の棚へ置いた。
セレフィナの濃紺の本。
リゼルの銀色の徽章。
そしてノアの黒い魔導具。
ミーナの布袋は、家の鍵そのものだったので俺が持っている。
四人分。
ようやく揃った。
「終わったな」
「何が?」
「《蓮に返す箱》の贈り物」
「うん」
「全部受け取った」
ノアが棚を眺める。
しばらくして。
「蓮」
「何?」
「それ、返す箱」
「そうだね」
「じゃあ次」
「次?」
「蓮から返す?」
俺は意味が分からず、ノアを見る。
「俺から?」
「私たちは三百年前に渡した。蓮は?」
「俺、何か渡すの?」
「別に物じゃなくていい」
ノアは棚へ並んだ三つの品を見る。
「ミーナは家。セレフィナは本。リゼルは徽章。私は呼び鈴」
「うん」
「蓮は?」
考えたこともなかった。
留守番は。
俺へ色々なものを残した。
四人も。
三百年前から贈り物を残していた。
でも。
今の俺が。
今の四人へ。
何を返すのか。
「急に言われても分からないよ」
「いい」
「いいの?」
「三百年待てる」
「待たせる気ないから!」
ノアが笑う。
俺も苦笑しながら、棚を見た。
「まあ、考えとく」
「うん」
「ただし四人同時に何か渡したら、また揉める?」
「物による」
「例えば?」
「家」
「ミーナと被る」
「本」
「セレフィナと被る」
「徽章」
「リゼル」
「呼び鈴」
「ノアだろ!」
完全に自分たち基準だった。
俺が呆れていると、王権端末に新しい通知が入った。
てっきりリゼルかセレフィナからだと思った。
違った。
《未同期経験情報》
《新規関連候補を検出》
表示されたのは。
四人の贈り物とは。
まったく別の記録だった。
《分類――未完了》
《作成者――レグナ》
《名称――蓮が戻ったら、四人に返すもの》
俺は画面を見たまま固まった。
「……あるじゃん」
「何が?」
ノアが覗き込む。
「三百年前の俺」
もう一度、題名を見る。
「俺が今考えようとしてたことまで、先にやってる」
詳細欄には、まだ内容が表示されていない。
ただ一つ。
《状態――未完了》
それだけ。
留守番は。
四人から受け取ったものを。
俺へ返そうとしただけではなかった。
いつか俺が戻った時。
今度は。
四人へ何かを返すつもりだったらしい。
「開く?」
ノアが尋ねる。
俺は少し迷った。
でも。
首を横へ振った。
「今日はやめとく」
「珍しい」
「今度は先に」
棚へ並んだ四人の贈り物を見る。
「俺が何を返したいか、自分で考えてから見たい」
留守番の答えを。
先に答え合わせとして見るのではなく。
今の俺自身で。
一度くらい。
考えてみたい。
ノアは何も言わずに俺を見ていたが、やがて小さく頷いた。
「それがいい」
「だろ?」
「でも」
「何」
「三百年は待たない」
「分かってるよ!」
四人から俺への贈り物は。
今日で全部返ってきた。
けれど。
《蓮に返す箱》の話は。
どうやら。
まだ終わっていなかった。




