↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サービス終了したゲーム世界から、元部下たちが現実へ帰ってきた  作者: てへろっぱ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
41/51

第41話 三百年前の席順表を見つけたら、俺の隣は四人で曜日制になっていた



「……三百年前から?」


 俺は通信画面に並ぶ四人を順番に見た。


「三百年前から、俺の隣でこれやってたの?」


 リゼルは視線を少し逸らし、セレフィナは何か言いたそうに口を開いてから閉じた。ミーナだけは普段と変わらない表情を保っているが、ノアに至っては隠す気すらなく、昔の自分が映っている記憶映像を興味深そうに眺めている。


《事実》


「七番はもう少し申し訳なさそうにしてくれない?」


《何が?》


「席の取り合い」


《私は正面》


「参加してることには変わりない!」


 高城さんが咳払いをしたものの、明らかに笑いを堪えていた。黒田医師も医療的な問題がないと判断したのか、先ほどまでの慎重な表情から少し肩の力を抜いている。


「如月さん、負荷はどうですか」


「全然大丈夫です。むしろ別の意味で疲れてきました」


「では、続きを閲覧するかは御自身で決めてください」


 目の前には、まだ停止中の経験情報が残っている。


 三百年前の王城食堂。長い食卓の中央に昔のレグナ――留守番の俺が座り、その右にリゼル、左にセレフィナ、正面にノア、後方にミーナ。


 全員が、それぞれもっともらしい理由をつけて俺の周囲を占拠していた。


「これ、続きあるよね」


《ある》


 ノアの返事が早い。


「見る」


『陛下』


 リゼルの声に、俺は画面へ触れかけた指を止めた。


「何?」


『三百年前の些細な出来事でございます。わざわざ御覧にならなくとも』


「さっきまで十五年分の記憶を大切にしろって言ってたよね?」


『重要度には差がございます』


「じゃあ何でその記憶、低負荷なのにちゃんと保存されてるの?」


『それは……』


 珍しく言葉に詰まった。


 セレフィナが助け舟を出す。


《陛下。歴史的には、食事時の座席配置など国家運営上ほとんど意味を持ちません》


「セレフィナも見られたくないんだな」


《そういう意味では》


「ミーナは?」


《蓮様がお決めください》


「一人だけ潔い」


《私は給仕をしていただけですので》


「安全圏に逃げた!」


 ノアが画面の向こうから勝手に再生ボタンへ触れた。


《再開》


「七番!」


     ◇


 三百年前。


 食堂。


 昔の俺は、四方向を完全に塞がれたまま、目の前のスープを見つめていた。


『なあ』


『はい』


 四人から同時に返事が来る。


『……何で飯食うだけで包囲陣みたいになってるの?』


 リゼルが先に答えた。


『陛下の御身を守るためでございます』


『城の中だよね?』


『城内こそ油断は禁物です』


 続いてセレフィナが書類を一枚差し出す。


『私はこの後の政務について、御食事を妨げない範囲で二点のみ確認を』


『飯食わせて』


『では食後に』


『よし』


 ノアは正面から俺の皿を見ている。


『陛下』


『何』


『今日、豆食べた』


『俺だって食べるよ』


『昨日残した』


『何で記録してるの?』


『観察』


『やめて』


 最後にミーナ。


『陛下、お飲み物を』


『ありがとう。ミーナは普通だな』


『はい』


 昔の俺が安心した瞬間、ミーナが自然な動作で空いている椅子を少し自分側へ引いた。


『ミーナ』


『はい』


『その椅子何』


『給仕の際、一時的に使用いたします』


『座る気だ!』


 そこで映像が止まった。


 現在。


 俺はゆっくりミーナを見る。


「給仕だけ?」


《給仕の効率向上です》


「三百年前の自分と同じ言い訳してる!」


 高城さんがとうとう声を上げて笑った。


「すみません。如月さん。ただ、非常に一貫性がありますね」


「そこ褒めるところですか?」


「三百年間で人格に極端な変化がないという点では、歴史研究上かなり興味深いです」


「本人たちには聞かせたくない評価だなあ」


《私は変化してる》


 ノアが言う。


「どこが?」


《今なら正面じゃなく隣を取る》


「悪化してる!」


     ◇


 記憶はまだ続いていた。


 食事が終わったあと、昔の俺はそのまま食堂へ紙とペンを持ってこさせている。


『もう決める』


 リゼルが不思議そうに首を傾げた。


『何をでございますか』


『席』


『席?』


『毎回揉めるから』


『揉めてはおりません』


『俺を中心に四人が理屈で陣取りしてる時点で揉めてる』


 セレフィナが静かに反論する。


『私どもは、それぞれ職務上必要な位置を選択しているだけでございます』


『じゃあ職務関係ない食事の日は?』


 沈黙。


『ほら』


 昔の俺は紙の中央へ簡単な表を描き始めた。


 俺にも覚えがないはずなのに、その手つきが妙に馴染んで見える。


『朝』


『昼』


『夜』


『一日三回』


 そこへ四人の名前を書く。


『順番』


『陛下』


 リゼルの表情が険しくなる。


『近衛騎士団長たる私が、陛下から遠い席となる時間が生じます』


『食事中だけ』


『襲撃がございましたら』


『城の中で飯食ってる十五分くらい耐えて』


『十五分』


『長い?』


『……いえ』


『セレフィナは?』


『政務報告の効率が低下する可能性がございます』


『食事中に政務しない』


『ですが』


『しない』


『……承知いたしました』


『ノア』


『私は嫌』


『理由』


『近い方が面白い』


『却下』


『まだ説明途中』


『説明しなくていい』


 そしてミーナ。


『私はどの位置でも問題ございません』


『本当?』


『はい。ただし陛下がお食事を残された場合、即座に対応できる距離を希望いたします』


『それ結局近くだよね?』


『業務です』


 昔の俺が天井を見上げた。


 今の俺には、その気持ちがよく分かる。


 しばらく考えた末、彼は紙へ大きく文字を書いた。


《近侍席・交代制》


「名前が制度っぽい!」


 思わず現在の俺が叫ぶ。


 セレフィナが顔を覆った。


《……その名称》


「知ってる?」


《知っております》


「まさか残ってる?」


《後ほど御説明いたします》


「その言い方、嫌な予感しかしない」


 記憶の中では、昔の俺が淡々と制度を作っていく。


『月曜日、朝リゼル、昼セレフィナ、夜ノア』


『ミーナは?』


『給仕』


『不公平では』


『本人が給仕したいって』


『では翌日は』


『ミーナも入れる』


 四人。


 三食。


 公平に回るように組み替えていく。


 本人たちは一応納得したように見えた。


 しかし。


 次の瞬間。


『陛下』


 セレフィナが手を挙げる。


『何』


『茶の時間について定めがございません』


『……』


『食事とは別扱いかと』


 昔の俺の手が止まる。


 リゼルも続いた。


『移動中の馬車内についても、近侍席の定義を明確にすべきかと存じます』


『待って』


 ノア。


『研究見学時も』


『何で広げるの?』


 ミーナ。


『陛下がお夜食を召し上がられる場合は』


『やめろ!』


 昔の俺が机へ突っ伏した。


 現在の俺も頭を抱えた。


「絶対こうなると思った!」


《制度設計に不足があった》


 ノアが冷静に分析する。


「三百年前の俺を今さら査読するな!」


     ◇


 ところが。


 昔の俺も諦めなかった。


 数日後の記憶へ飛ぶ。


 執務室。


 机。


 そこには以前より遥かに細かい表が置かれていた。


《私的時間における近侍位置運用表》


「さらに制度っぽくなった!」


 俺が呻く。


 表には食事だけでなく、茶、散歩、馬車移動、観劇、祭事の私的観覧まで項目が分かれている。


 しかも。


《職務上必要な場合は対象外》


《本人の同意なく交代枠を譲渡してはならない》


《複数人が同時に権利を主張した場合、当人レグナの希望を最優先する》


「最後だけまともだ!」


 高城さんが表を見ながら感心する。


「かなり合理的ですね」


「何の合理性ですか」


「紛争調停としては」


「国家の英雄四人の隣席争いですよ?」


「だからこそでしょう」


 否定できない。


 記憶の中。


 昔の俺は完成した表を四人へ見せていた。


『これで終わり』


 リゼル。


『承知いたしました』


 セレフィナ。


『異論ございません』


 ノア。


『確認した』


 ミーナ。


『従います』


 昔の俺は安心する。


『やっと普通に生活できる』


 そして。


 三日後。


 執務机の上。


《次月近侍席希望申請書》


 四十五枚。


『……』


 昔の俺。


 無言。


 リゼル。


『翌月分の希望日を提出する方式へ変更されましたので』


『誰が変更したの?』


『四名で協議を』


『俺抜きで制度改正するな!』


 現在。


 俺は目を閉じた。


「何も変わってない」


 誰も反論しなかった。


     ◇


 経験情報の閲覧を終えたところで、黒田医師が状態を確認してくれた。頭痛も混乱もなく、自分の記憶と留守番の記憶を取り違えている感覚もない。


「今日はここで終えるのが良いでしょう」


「はい」


「内容が内容でしたから、精神的負荷も低そうです」


「別方向の疲労はありますけど」


「それは医学では扱いにくいですね」


「ですよね」


 そこで。


 俺は一番気になっていたことを思い出した。


「セレフィナ」


《はい》


「さっき『後ほど説明する』って言ったよね」


 セレフィナがほんのわずかに視線を逸らした。


「近侍席交代制」


《……はい》


「残ってる?」


《制度としては、既に廃止されております》


「良かった」


《建国暦百四十二年に》


「百年以上続いたの!?」


 思わず立ち上がった。


《実際の運用はそれ以前から形骸化しております》


「それでも百年以上!」


 リゼルが補足する。


『陛下御不在後も、王宮儀礼上の席順決定規則として一部だけ利用された時期がございました』


「俺がいないのに?」


『建国王近侍経験者の席次を決定する必要が』


「何でそんな必要があるんだよ!」


《歴史的経緯》


「便利な言葉で片付けないで!」


 そして。


 まだ終わらなかった。


 ノアが突然言う。


《でも復活してる》


「……何が?」


《近侍席》


「待って」


《正式制度じゃない》


「じゃあ何」


《地球訪問時の随行位置調整》


「それ普通の警備計画じゃないの?」


《元になった規則》


 画面。


 文書。


《地球側における建国王随行者調整暫定指針》


 俺は嫌な予感しかしないまま開いた。


 第一条。


《建国王本人の意思を最優先する》


「まとも」


 第二条。


《公務上必要な随行者を優先する》


「まとも」


 第三条。


《私的時間において複数名が同時に随行を希望した場合――》


「待て」


 続き。


《旧近侍席運用規程を参考とし、公平な調整を行う》


「復活してる!」


《参考》


「ほぼ復活じゃん!」


 水城さんが少し気まずそうに手を挙げた。


「それ、日本政府側にも共有されています」


「水城さん!?」


「警備担当者からすると、誰がどの位置にいるか事前に分かる方が助かりますので」


「合理性が別方向から補強された!」


 俺の知らないところで。


 三百年前。


 俺がただ平和に飯を食べるため作った席順表が。


 現代日本の世界間交流警備へ。


 なぜか再利用されていた。


     ◇


「廃止」


 俺は言った。


《陛下》


「私的時間のやつだけ」


《ですが》


「本人の意思を最優先って第一条に書いてある」


 全員。


 黙る。


「なら俺が決める」


 セレフィナが一度目を閉じ。


《……承知いたしました》


 リゼルも頷く。


『陛下の御意思であれば』


 ミーナ。


《従います》


 ノア。


《反対》


「七番!」


《理由》


「言って」


《面白いから》


「却下!」


 俺は端末から、私的時間の調整規程を削除する申請を出した。


 これで。


 ようやく。


 三百年前から続く。


 訳の分からない席取り制度が終わる。


 ……はずだった。


     ◇


 翌日。


 会社。


 昼休み。


 俺は近くの店で買ってきた弁当を休憩室へ持ち込み、空いているテーブルへ座った。


 今日は異世界関係の予定なし。


 政府施設もなし。


 王権検証もなし。


 本当に普通の日。


「平和」


 蓋を開ける。


 唐揚げ。


 卵焼き。


 煮物。


 普通。


 最高。


 スマホが鳴った。


 リゼル。


《蓮さん》


「何?」


《本日は私的時間でしょうか》


「昼休みだけど」


《承知いたしました》


「何で聞いた?」


《確認のみです》


「怪しい」


 切る。


 三十秒後。


 セレフィナ。


《陛下、本日の昼食は》


「食べてる」


《御一人で?》


「うん」


《左様でございますか》


「何?」


《いえ》


 切れる。


 さらに。


 ノア。


《写真》


「何の?」


《昼ごはん》


「何で見たいの?」


《研究》


「送らない」


 最後。


 ミーナ。


《蓮様》


「はい」


《野菜も召し上がってください》


「何で内容知ってるの!?」


《昨日、社内食堂の献立が公開されておりましたので》


「今日は弁当!」


《では問題ございません》


「怖い!」


 ようやく。


 全部静かになる。


「……制度消しても変わらないじゃん」


 俺が一人で呟いた時。


「如月さん?」


 同じ部署の同僚が弁当を持って立っていた。


「ここいい?」


「もちろん」


 目の前。


 普通の会社員。


 普通に座る。


 俺は少し感動した。


「どうした?」


「いや」


「何かあった?」


「席って自由なんだなと思って」


「昼休みだぞ?」


「そうだよな」


 これが普通。


 空いている椅子へ。


 座りたい人が座る。


 誰も三百年前の規程を持ち出さない。


 誰も護衛上の必要性を主張しない。


 誰も政務効率を持ち出さない。


 平和だった。


 五分後。


 王権端末。


 小さな通知。


《新規申請》


「……」


 嫌な予感。


 開く。


《申請者――リゼル・アルフェリア》


《内容――次回私的休息日における同行希望》


「席じゃなく同行になった!」


 次。


《申請者――セレフィナ》


《内容――地球文化理解を目的とした私的外出希望》


「言い換えた!」


 次。


《申請者――ノア》


《内容――蓮と遊ぶ》


「一番潔い!」


 最後。


《申請者――ミーナ》


《内容――夕食》


「普通!」


 規程を廃止した。


 席順表もなくした。


 それでも。


 四人は。


 結局。


 自分で希望を出してきた。


 俺は四件の申請を見ながら、少し考える。


 三百年前の俺は。


 公平にするため。


 制度を作った。


 でも。


 今の俺は。


 制度じゃなく。


 一人ずつ。


 自分で決めればいい。


《全件》


 選択。


《保留》


 そして。


 四人へ同じ返信。


《予定見て、またこっちから連絡する》


 送信。


 すぐ。


 四件とも。


《承知》


 返ってきた。


「……あれ?」


 思ったより。


 簡単だった。


 昔なら。


 たぶん。


 誰かが。


《公平性が》


 とか。


《優先順位を》


 とか。


 言っていた。


 でも。


 今は。


 俺が決めると言えば。


 待ってくれる。


 三百年。


 変わっていないところもある。


 ちゃんと。


 変わったところもあるらしい。


 そんなことを思いながら。


 唐揚げを一つ食べる。


 その直後。


 王権端末。


《補足申請》


「何」


 リゼル。


《先着順ではございませんよね》


「……」


 セレフィナ。


《申請時刻による優先は発生いたしませんね》


 ノア。


《私は三番目》


 ミーナ。


《皆様、蓮様のお食事中です》


「やっぱり変わってない!」


 隣にいた同僚が驚いてこちらを見る。


「如月?」


「ごめん」


 俺はスマホを伏せた。


「三百年前から続いてる席取り問題が、まだ終わってなかった」


「……異世界の話?」


「うん」


「大変だな」


「ものすごく」


 三百年。


 国は変わった。


 制度も変わった。


 世界まで繋がった。


 だけど。


 俺の隣に誰が座るかだけは。


 どうやら。


 今も昔も。


 一番解決が難しいらしい。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。