第34話 昔「今日は全員休み」と言っただけなのに、三百年後まで国民の祝日になっていた
《明日でも国はあるだろ》
三百年前。
いや。
地球では七年前。
俺がログアウトしていた時期。
アステリア側の俺は。
セレフィナへそう言った。
そして。
三百年以上経った今。
偶然にも。
俺が原因で作られた。
《国家休息基本法》
によって。
セレフィナは。
ようやく。
本当に休むようになった。
「遠回りすぎる」
《ですが》
「うん」
《届きました》
その言葉が。
妙に残った。
◇
その夜。
また。
夢を見た。
王宮。
昔の。
まだ。
今ほど大きくない。
窓から。
朝日。
廊下。
俺は。
歩いている。
『陛下』
リゼル。
若い。
というか。
俺の記憶では。
ずっとこの姿だった。
『何』
『本日の予定でございます』
紙。
長い。
『朝より近衛騎士団査閲』
『その後、北部州使節との会談』
『昼食後、王国魔導研究院』
『夕刻より――』
『多い』
『はい?』
『多すぎ』
『しかし』
リゼル。
後ろ。
セレフィナ。
紙。
更に多い。
『陛下』
『まだあるの?』
『本日中に御確認いただきたい政務が二十一件』
『帰る』
『どちらへ!?』
『寝室』
『陛下!』
逃げる。
夢の中の俺。
普通に。
逃げる。
廊下。
曲がる。
そこで。
ミーナ。
『陛下』
『助けて』
『何からでしょう』
『仕事』
『それは』
一度。
ミーナ。
『私ではお助けできません』
『裏切り者』
『侍女でございますので』
その後ろ。
ノア。
まだ。
今より。
小さい。
『陛下』
『ノア』
『研究院、今日来る?』
『仕事ある?』
『ある』
『じゃあ行かない』
『ひどい』
俺は。
立ち止まる。
見る。
リゼル。
セレフィナ。
ミーナ。
ノア。
全員。
疲れている。
リゼル。
目の下。
少し。
セレフィナ。
明らかに。
寝不足。
ミーナ。
いつもより。
動きが遅い。
ノア。
欠伸。
俺。
言う。
『今日』
『はい?』
『全部やめよう』
四人。
止まる。
『仕事』
『陛下?』
『今日なし』
『しかし』
『休み』
『陛下』
『国も軍も研究所も』
『全部?』
『必要な人だけ残して』
一度。
考える。
『あとは休み』
セレフィナ。
『突然、そのような』
『明日でも国はあるだろ』
また。
同じ言葉。
『一日くらい』
俺。
窓。
外。
『みんなで遊ぼう』
◇
「……」
朝。
目が覚めた。
「また」
夢。
時計。
六時三十二分。
妙に。
鮮明。
「ノア」
起きて。
三分。
王権端末。
《個人》
確認。
「起きてる?」
『起きてる』
「三百年前」
『うん』
「俺」
一度。
「国ごと休みにしたことある?」
ノア。
数秒。
沈黙。
『ある』
「あるの!?」
『建国暦八年』
「本当に?」
『待って』
記録。
検索。
『ある』
「何て日?」
『……』
「ノア?」
『陛下』
「何」
『今日』
「うん」
『その日』
「何?」
『祝日』
「……何の?」
ノア。
画面。
《王国暦》
《本日――休息感謝祭》
「嫌な予感」
『起源』
「言わないで」
『建国王が』
「言わないで!」
『王国全体へ休息を』
「やっぱり!」
◇
午前。
政府施設。
高城さん。
水城さん。
黒田医師。
そして。
アステリア側。
リゼル。
セレフィナ。
ノア。
ミーナ。
「確認します」
高城さん。
「如月さんが昨夜見た夢」
「はい」
「記録と照合します」
「お願いします」
画面。
《建国暦八年・春》
《王宮日誌》
《午前七時二十分》
《建国王、本日の政務予定を確認》
《午前七時二十八分》
《建国王、予定過多を理由に寝室へ戻ろうとする》
「そこまで記録しなくていい!」
「事実」
ノア。
「続き」
《近衛騎士リゼル、阻止》
「阻止したんだ」
「はい」
「物理的に?」
「扉の前へ立ちました」
「強い」
《午前七時三十一分》
《建国王、侍女ミーナへ助力を求める》
「夢通り」
《侍女ミーナ、拒否》
「裏切られてる」
《午前七時三十四分》
《魔導研究官ノア、研究院への来訪予定を確認》
「これも」
《建国王、業務があるため拒否》
「言い方!」
高城さん。
「かなり一致しています」
「その後」
《午前七時四十分》
《建国王》
《王宮主要職員の疲労状態を確認》
「俺、確認した?」
セレフィナ。
《突然、私の顔を覗き込まれ》
「うん」
《寝てる? と》
「失礼」
《事実でしたので》
「寝てなかった?」
《前夜は一時間四十分》
「寝ろ!」
《当時は》
「三百年前でも寝ろ!」
リゼル。
「私も」
「うん」
「前夜は夜間巡回を」
「何時間」
「睡眠は三時間ほど」
「全員ひどい」
ミーナ。
《私は五時間》
「一番まとも」
《ノア様は》
「私は研究室で寝た」
「睡眠時間」
「二時間」
「アウト!」
四人。
全員。
働きすぎ。
「それで俺」
《はい》
「休めって?」
記録。
《建国王》
《今日の予定、全部なし》
《宰相セレフィナ》
《不可能でございます》
《建国王》
《必要な仕事だけ残して、あとは明日》
《近衛騎士リゼル》
《軍務は》
《建国王》
《当直だけ》
《魔導研究官ノア》
《実験は》
《建国王》
《爆発するなら明日爆発させろ》
「俺、ひどいこと言ってる」
ノア。
「でも止めた」
「実験?」
「うん」
「爆発予定だった?」
「当時は三割」
「止めて正解!」
続き。
《建国王》
《今日は休み》
《皆で遊ぼう》
「夢と同じ」
高城さん。
「記録上、ほぼ一致です」
「記憶」
「可能性は高まっています」
「でも断定なし」
「はい」
◇
「で」
俺は。
最も気になる。
「どうしてこれが祝日に?」
セレフィナ。
《当日は》
「うん」
《王宮のみ休息する予定でした》
「最初は?」
《はい》
「なのに」
《王都行政局より》
当時の記録。
《王宮が本日休業との情報を確認》
《行政窓口も最低人員を除き休業してよいか照会》
「まあ」
《建国王》
《いいよ》
「軽い!」
次。
《王立工房》
《本日休業してよいか》
《レグナ》
《いいよ》
《軍属工房》
《最低限の警備を除き休業申請》
《レグナ》
《いいよ》
《王都学校》
《授業を休講してよいか》
《レグナ》
《子供も休ませて》
「ここまでは」
まだ。
分かる。
《市場組合》
《休業店の営業許可について》
《レグナ》
《店ごとに決めて》
「自由」
《農務局》
《農作業について》
《レグナ》
《必要な作業まで止めるな》
「ちゃんとしてる」
《治癒院》
《通常診療について》
《レグナ》
《患者は休めないだろ》
「そう」
完全休業。
ではない。
必要な仕事。
残す。
休める者。
休む。
「それで?」
セレフィナ。
《結果》
一日。
王都。
行政。
学校。
工房。
多く。
休み。
「何したの」
ミーナ。
《市民が》
「うん」
《せっかく休みになったので》
公園。
市場。
郊外。
家族。
友人。
食事。
酒。
音楽。
広場。
《自然発生的な祭りとなりました》
「え」
《翌年》
「待って」
《王都市民より》
「嫌な予感」
《去年の休みは今年もあるのか、と》
「問い合わせ?」
《非常に多数》
「俺は?」
記録。
《レグナ》
《休みたいなら休めばいいだろ》
「雑!」
《王都議会》
《建国王より継続許可を得たとして》
「待って!」
《第二回休息日を実施》
「解釈!」
《三年目》
「まだ続く?」
《地方都市から参加希望》
「全国へ?」
《五年目》
《王国議会》
《春季休息日を法定休日として制定》
「俺もう関係なくない!?」
《その後》
名称。
《建国王休息日》
「嫌」
数十年後。
《王国休息祭》
「まだ」
百年後。
《休息感謝祭》
「ようやく俺の名前消えた」
《はい》
「今は?」
《王国全土の法定祝日》
「三百年続いてる!」
◇
「今日」
俺が。
アステリア側。
通信画面を見る。
「みんな休み?」
《原則として》
セレフィナ。
「セレフィナは?」
《本日は休日です》
「今仕事してない?」
《これは》
「はい」
《本人が希望して参加している私的通信》
「本当に?」
《国家休息基本法》
表示。
《祝日勤務は、必要業務または本人の明示的希望》
《代替休暇または割増補償》
「法律強い」
《私は本日》
「うん」
《午前中のみ、地球側交流に関する個人的予定》
「仕事扱い?」
《勤務として申請しておりません》
「なら」
水城さんが。
すぐ口を挟む。
「この会議は業務に該当します」
セレフィナ。
止まる。
「日本側との研究確認ですので」
《……》
「勤務時間として処理します」
《承知いたしました》
「代休?」
《取得します》
「いつ」
《三日後》
「記録」
ノア。
「した」
セレフィナ。
《逃げません》
「良し」
三百年前と。
違う。
◇
「リゼルは?」
「本日は休暇でございます」
「警備」
「別隊が」
「本当に休んでる?」
「はい」
「何してる?」
リゼル。
少し。
答えづらそう。
「市場へ」
「買い物?」
「はい」
「何買う?」
「菓子を」
「普通!」
「休暇ですので」
「いいじゃん」
ミーナ。
《私も休日です》
「地球側勤務は?」
《本日は管理会社も休みを取得しております》
「何してる?」
《田島さんと》
「うん」
《昼食へ》
「めちゃくちゃ地球を満喫してる!」
《その後、買い物を》
「猫柄?」
《……》
「図星?」
《新しい柄が》
「楽しんできて」
《はい》
ノア。
「私は研究」
「休み!」
「趣味」
「研究が趣味でも」
「勤務じゃない」
「何研究?」
「地球のお菓子袋が、破りやすい理由」
「平和」
「仕事じゃない」
「まあ」
止める理由もない。
◇
「で」
俺。
「三百年前の最初の休息日」
「はい」
「俺たち」
「何して遊んだ?」
リゼル。
セレフィナ。
ミーナ。
ノア。
四人。
少し。
笑う。
「何」
リゼル。
「陛下」
「はい」
「忘れておられるのですね」
「地球側の記憶ないから」
「では」
一度。
「本日」
「何?」
「再現いたしますか」
「再現?」
「最初の休息日を」
俺。
少し。
考える。
「式典?」
「いいえ」
「大勢?」
「いいえ」
「王国民集める?」
「いたしません」
「報道?」
「なし」
「当時の四人だけ?」
「はい」
俺。
リゼル。
セレフィナ。
ノア。
ミーナ。
「それなら」
一度。
時計。
地球。
今日は。
俺も。
会社。
休み。
「行こうかな」
四人。
反応。
大きい。
「ただし!」
「はい!」
「普通の休日!」
「承知しております!」
◇
第二門。
午後。
俺。
アステリア。
王都。
祝日。
「人多い」
街。
いつもより。
賑やか。
店。
屋台。
家族。
子供。
音楽。
ただ。
国家式典。
なし。
軍事パレード。
なし。
国王演説。
なし。
「休むための日?」
ミーナ。
「はい」
「祭りなのに」
「休みたい者は、自宅で休みます」
「参加自由?」
「はい」
「いい祝日だな」
元は。
俺が。
「全員疲れてるから休もう」
と言っただけ。
でも。
三百年。
人々が。
自分たちで。
続けた。
◇
「当時」
リゼル。
「まず」
「何した?」
「王都西門より」
「うん」
「外へ」
歩く。
王城。
出る。
五人。
護衛。
最低限。
二名。
「当時は護衛?」
「私のみ」
「リゼル休めてない」
「当時も申し上げました」
「何て」
「陛下の護衛は休暇です」
「無理ある」
「今は別隊いるから」
「はい」
リゼル。
今日は。
警備担当ではない。
ただ。
一緒に歩く。
◇
郊外。
丘。
草。
「ここ?」
「はい」
三百年前。
まだ。
王都が小さかった頃。
城壁から。
歩いて。
すぐ。
今は。
街が広がったため。
一部。
大きな公園として。
残されている。
「何した?」
ノア。
「弁当」
「食べた?」
「うん」
ミーナ。
籠。
「まさか」
「本日の昼食を」
「再現?」
「近いものを」
「仕事してない?」
「昨日準備いたしました」
「昨日は勤務?」
「私用です」
「なら」
一応。
確認。
「無理してない?」
「しておりません」
「良し」
敷物。
座る。
弁当。
パン。
肉。
卵。
野菜。
焼き菓子。
「野菜」
俺が見る。
ミーナ。
微笑む。
「残されませんよう」
「今は食べる!」
◇
五人。
食べる。
「三百年前も」
俺が。
一口。
「こんな?」
「はい」
セレフィナ。
《ただし》
「何」
《当時、陛下は》
「うん」
《野菜をノア様の皿へ》
「やってない」
「やった」
ノア。
「証拠は?」
「私」
「証言一人!」
リゼル。
「私も見ております」
「二人」
ミーナ。
「私も」
「三人」
セレフィナ。
《私も》
「全員!」
「陛下」
ミーナ。
「本日は」
「食べます!」
きちんと。
野菜。
一口。
四人。
見る。
「何で拍手しそうな顔してるの」
◇
「その後?」
弁当。
食べ終える。
ノア。
「昼寝」
「俺?」
「全員」
「外で?」
「うん」
木陰。
「セレフィナも?」
《私は書類を》
「休めてない!」
《陛下に取り上げられました》
「俺、偉い」
《その後》
「うん」
《陛下が枕に》
「何を?」
リゼル。
一瞬。
止まる。
セレフィナも。
ミーナも。
ノア。
全員。
妙な空気。
「何」
「陛下」
「はい」
「当時」
リゼル。
頬。
少し赤い。
「私の膝を」
「……」
「枕に」
「何してる三百年前の俺!」
ノア。
「私は陛下の腹」
「待って」
「ミーナは肩」
「待って!」
セレフィナ。
《私は》
「言わなくていい!」
《隣で》
「良かった!」
《陛下の手を》
「良くなかった!」
俺。
立つ。
「再現しない!」
「陛下」
「普通の休日って言った!」
「当時の普通でございます」
「今の地球基準では距離近い!」
五人。
周囲。
人。
見る。
「静かに!」
◇
「昼寝は」
俺。
座り直す。
「各自!」
「はい」
「自分の場所!」
「承知しました」
木陰。
俺。
敷物。
リゼル。
隣。
セレフィナ。
少し離れる。
ノア。
木へ。
ミーナ。
籠。
「これで」
普通。
静か。
風。
子供の声。
遠く。
祭り。
「三百年前」
俺が言う。
「ここ」
「はい」
「何もなかった?」
セレフィナ。
《ほとんど野原でした》
「今」
公園。
道。
ベンチ。
木。
売店。
人。
「残したんだ」
《はい》
「開発しなかった?」
《休息祭発祥地として》
「観光地?」
《公園です》
「入場料」
《無料》
「誰でも?」
《はい》
「いい」
王の聖地。
ではない。
みんなが。
休める場所。
◇
少し。
目を閉じる。
風。
匂い。
声。
また。
何か。
浮かぶ。
三百年前。
若いセレフィナ。
芝生。
まだ。
書類。
持っている。
『没収』
『陛下』
『今日休み』
『しかし』
『セレフィナ』
『はい』
『一日休んだら困る仕事って』
『はい』
『それ、仕組みが悪くない?』
俺。
目を開ける。
「……」
セレフィナ。
「何か?」
「昔」
「はい」
「ここで」
一度。
「一日休んだら困る仕事なら、仕組みが悪いって」
セレフィナ。
固まる。
《はい》
「言った?」
《はい》
「本当に」
《その後》
「うん」
《私は》
「何した?」
《補佐官制度を》
「作った?」
《翌年》
「休みの日に思いついてる!」
《休暇中には仕事をしておりません》
「なら良し」
でも。
そこから。
セレフィナ一人へ。
集中していた業務。
分散。
補佐官。
部局。
制度。
「また」
俺。
「俺の功績にされてない?」
セレフィナ。
視線。
逸らす。
「セレフィナ」
《王国行政分業制度の原点として》
「やっぱり!」
《ですが》
「何」
《再検証後》
一度。
笑う。
《発案・制度設計――セレフィナ》
《問題提起――レグナ》
「それでいい」
ちゃんと。
直っている。
◇
帰り。
王都。
夕方。
休息感謝祭。
広場。
小さな。
看板。
《本日は休息感謝祭》
《働く皆様も》
《学ぶ皆様も》
《家事をする皆様も》
《休める時に、きちんと休みましょう》
「良いこと書いてる」
その下。
《由来》
「嫌な予感」
《建国初期》
《過労状態にあった王宮職員を見た建国王が》
「うん」
《本日の仕事を全て中止すると宣言》
「全部じゃない!」
小さく。
《ただし必要業務を除く》
「書いてある」
《その後》
《市民自身の希望により休息日として定着》
「これなら」
かなり。
正確。
最後。
《建国王の発言》
《明日でも国はあるだろ》
「これ名言扱い?」
リゼル。
「有名でございます」
「嫌だ」
「学校でも」
「教えてる?」
「はい」
「何の授業」
「労働史」
「俺、仕事逃げたかっただけだよ!」
後ろ。
知らない王国民。
笑い声。
「陛下」
「気づかれた?」
中年男性。
「御安心ください」
「何」
「我々も」
一度。
笑う。
「仕事を休みたい時に使います」
「名言じゃなく言い訳になってる!」
「非常に便利です」
周囲。
何人か。
頷く。
「陛下」
別の女性。
「私も昨日」
「何を」
「明日でも洗濯物はある、と」
「意味変わってる!」
◇
地球へ戻った。
夜。
王権端末。
通知。
《休息感謝祭》
《本年も終了》
《重大事故――なし》
《祝日勤務者――代替休暇・補償確認中》
「最後までちゃんとしてる」
そして。
《本日の王国内投稿数》
《「明日でも国はあるだろ」引用――二百十八万件》
「流行語!」
俺は。
頭を抱えた。
その直後。
会社。
大崎社長から。
普通のメッセージ。
《明日の会議資料、急がないので次の出社時で大丈夫です》
俺。
返信。
《了解です》
一度。
指。
止まる。
《明日でも会社はありますしね》
送信。
三秒後。
《それ、異世界で有名なやつだろ》
「知られてる!」
ニュースになっていた。
◇
翌朝。
高城さん。
「昨日の夢と記録」
「一致?」
「九割以上」
「記憶回復?」
「少なくとも」
一度。
「如月さんの中に、アステリア側の経験情報が残っている可能性はさらに高くなりました」
「危険は?」
「今のところなし」
「急に三百年分全部戻るとか」
「その兆候もありません」
「なら」
「ゆっくり」
「はい」
急がない。
一度に。
全部。
取り戻そうとしない。
それも。
七つの基本。
に。
追加されそうなので。
俺は。
言わなかった。
◇
その時。
王権端末。
新しい通知。
《旧王城記録院》
《ログアウト中レグナ関連資料・追加発見》
「また?」
もう。
昼寝や。
夜食なら。
驚かない。
《種別――私的契約書》
「契約?」
《契約者》
《レグナ》
「俺」
《および》
一度。
表示。
《リゼル・アルフェリア》
「リゼル?」
俺。
隣を見る。
リゼル。
完全に。
固まっている。
「知ってる?」
「……」
「リゼル」
「はい」
「何の契約?」
珍しく。
目を逸らす。
「陛下」
「今は?」
「如月さん」
「何」
一度。
頬。
少し。
赤い。
「それは」
「うん」
「できれば」
長い沈黙。
「私から先に、御説明させてください」
ログアウト中。
俺が知らない。
三百年前の俺は。
リゼルと。
何か。
個人的な契約まで。
結んでいたらしい。




