第20話 第二の門を作ろうとしたら、七年前のゲーム画面が国家管理システムとして復活した
高城真琴さんがアステリアを訪問してから、三日後。
日本政府。
アステリア王国。
高城さんの勤務先。
そして。
なぜか俺まで参加する、第二世界間転移門の共同研究が正式に始まった。
「どうして俺も研究員みたいな扱いになってるんですか」
政府の技術施設。
会議室の机に置かれた資料を見る。
《世界間接続技術共同研究事業》
《参加組織》
《日本政府世界間交流準備室》
《アステリア王立魔導研究院》
《東央システムサポート株式会社》
《王権接続所有者・如月蓮》
最後だけ。
組織名ではなく俺個人だった。
「如月さんの認証がなければ、王権端末を起動できません」
水城さんが答える。
「だからって、参加組織と並べます?」
「役割上、必要です」
「俺は何をすれば」
「端末の認証と、使用範囲の承認です」
「研究作業は?」
「専門家へ任せてください」
「良かった」
俺に。
異世界とパソコンを繋ぐ技術など分からない。
ゲームを遊んでいただけだ。
そのゲームも。
国家運営と言いながら。
細かい計算はセレフィナ。
研究はノア。
戦闘はリゼル。
生活管理はミーナへ任せていた。
「陛下は、国家の最終判断をなされておりました」
リゼルが言う。
「イベントが起きたら、選択肢を押してただけだよ」
「その御判断によって、国が救われたことも数多くございます」
「選択肢が二つしかない時もあったけど」
「二つの中から正解を選ぶことも、王の責務です」
リゼルは。
俺のゲーム操作を、どこまでも立派な歴史へ変えてしまう。
「ちなみに」
ノアが口を開く。
「陛下が間違った選択をした時は、セレフィナが修正してた」
「やっぱり」
「ノア」
リゼルが睨む。
「事実」
画面の向こう。
アステリア側の研究室にいるセレフィナも。
否定はしなかった。
《陛下の御意志を尊重しつつ、実現可能な形へ調整しておりました》
「それを修正って言うんだよ」
◇
共同研究へ参加する。
《東央システムサポート株式会社》
高城さんが現在勤めている、従業員四十名ほどの会社だった。
主な仕事は。
企業内のサーバー管理。
情報機器の保守。
古い業務システムの更新。
異世界とは。
本来、何の関係もない。
「ですが」
東央システムサポートの社長。
田辺さんは、会議室で堂々と答えた。
「高城が七年間管理していた端末が、世界間接続に関わるのであれば、弊社も無関係とは言えません」
「会社として参加して大丈夫なんですか」
俺が尋ねる。
「正直に申し上げますと」
田辺社長は。
少しだけ笑う。
「昨日まで、異世界との共同研究を行う予定はありませんでした」
「普通はそうですよね」
「しかし、高城は弊社の社員です」
政府や。
アステリアから必要とされたからといって。
すぐに会社を辞めさせるつもりはない。
「本人が新しい仕事へ挑戦したいのであれば、会社として支援します」
「退職ではなく?」
「通常業務の一部を、世界間接続研究へ変更します」
地球側の会社から。
正式に勤務時間を割り当てる。
給与も。
社会保険も。
これまで通り。
政府とアステリアから支払われる研究協力費は。
個人ではなく、会社との契約に基づいて処理する。
「高城さん本人は?」
「同意しています」
高城さんが。
田辺社長の隣で頷く。
「会社を辞めるつもりはありません」
「良かったです」
「ただ」
高城さんは。
分厚い研究資料を見る。
「世界間接続の仕事が、通常業務になるとは思いませんでした」
「俺もです」
俺も。
一週間前までは。
普通に会社へ通っていた。
今は。
日本政府と異世界国家の間で。
国家級の転移門を作る会議へ出席している。
「報酬について」
セレフィナが。
アステリア側から資料を表示する。
《アステリア王国側研究協力費》
《金貨換算――》
「普通の金額でお願いします」
数字が表示される前に止める。
「まだ御覧になられておりません」
「絶対大きい」
「国家間世界接続技術の開発でございます」
「田辺社長たちが困らない金額で」
「高額で困ることは」
田辺社長が。
少し考える。
「税務と会計上は、かなり困ります」
「ですよね」
金貨。
希少金属。
魔石。
アステリア側の資産を。
そのまま日本企業へ渡すわけにはいかない。
「日本円での支払い方法が必要です」
水城さんが説明する。
「当面は、日本政府が研究費を支給し、アステリア側負担分は国家間精算制度の完成後に処理します」
「王国側は、後払い?」
「はい」
セレフィナは。
少し不満そうだった。
《恩人である高城さんと、その御勤務先へ、債務を残すことになります》
「正式な契約があるから大丈夫です」
高城さんが答える。
「信頼されていないわけではありません」
《しかし》
「地球では、先に契約を決める方が安心できます」
高城さん自身から言われ。
セレフィナも頷いた。
《承知いたしました》
「それと」
田辺社長が付け加える。
「弊社だけで独占するつもりはありません」
「技術を?」
「世界間接続の安全に関わる技術です」
一企業が。
全てを囲い込むべきではない。
日本政府。
大学。
他の企業。
アステリア王国。
必要な組織で共有する。
「ただし」
田辺社長は続けた。
「弊社社員が行った仕事の価値は、正当に評価していただきます」
無償ではない。
善意だけでもない。
「当然でございます」
セレフィナが答える。
アステリア側も。
ようやく。
地球企業との正式な契約を結ぶ準備を始めていた。
◇
第二世界間転移門の目的は。
俺のマンションにある門を。
日常的な通行へ使用しなくて済むようにすること。
政府の管理施設へ。
許可された時だけ開く。
小型の門を設置する。
「人を通せる大きさは必要ですか」
水城さんが尋ねる。
「最初は物だけ」
ノアが答える。
「十センチ四方」
「小さいな」
「危険があっても止めやすい」
「成長したな」
「子供扱いしないで」
ノアが。
いつものように頬を膨らませる。
「最終的には?」
「人が一人通れる大きさ」
「軍隊は?」
「通れないよう制限できる」
「人数制限も?」
「一回一人」
「物資は?」
「重量上限を設定する」
「勝手に広がったりは」
「王権所有者と、日本政府側管理者の両方が許可しないと広がらない」
俺一人では開けない。
アステリア側だけでも開けない。
日本政府側だけでも開けない。
「三者認証?」
「そう」
《王権所有者――如月蓮》
《地球側施設管理者――日本政府》
《アステリア側国境管理者――王国政府》
三者全員の許可が必要。
「高城さんは?」
「共同管理者は解除済み」
「研究中の緊急停止権限は?」
田辺社長が尋ねる。
「必要です」
高城さんが答えた。
「異常が発生した場合、王権所有者を待たずに停止できなければ危険です」
俺が。
その場にいるとは限らない。
「停止だけなら」
ノアが新しい項目を追加する。
《緊急停止管理者――高城真琴》
「また共同管理者になるんですか」
「違う」
ノアが答える。
「門を開く権限はない」
「閉じるだけ?」
「そう」
「契約期間中だけ?」
「終わったら解除する」
「それなら」
高城さんも納得した。
「俺が開けたいと言っても、高城さんが危険だと思えば止められる?」
「はい」
「遠慮せず止めてください」
「もちろんです」
高城さんは即答した。
リゼルが。
僅かに驚いた表情をする。
「陛下の御許可を、地球側の方が停止するのですか」
「安全担当だから」
「ですが」
「間違ってたら止めてくれる人は必要だろ」
「陛下御自身の判断であっても?」
「俺は専門家じゃない」
俺が正しいとは限らない。
ゲーム時代も。
選択肢を間違えれば。
セレフィナが修正していた。
「地球側管理者には」
アルノルトが言う。
「国王権限へ対する拒否権があると」
「この門だけな」
「重要な先例となります」
「大きな話にしなくていい」
「既に、王国法務院が記録しております」
「早い」
また。
俺の何気ない判断が。
アステリアの国家制度へ影響し始めている。
◇
研究室の中央。
七年前。
ネットカフェで使われていた古いデスクトップパソコン。
高城さんが保管していたノートパソコン。
二台が。
離れた台へ置かれている。
どちらも。
地球側の通常ネットワークとは繋がっていない。
「最初に、端末の状態を確認します」
高城さんが言う。
東央システムサポートの社員二名。
政府側技術者。
ノア。
アステリア王立魔導研究院の研究者たち。
全員が。
地球側と王国側に分かれて作業する。
「勝手に魔力を流さないこと」
「分かってる」
「先に電気的な確認」
「はい」
高城さんが。
ノアへ指示している。
三百歳を超える天才魔導技師。
地球側の元サーバーエンジニア。
どちらも。
自分の分野では専門家。
「ノアが人の指示に従ってる」
俺が言う。
「必要な指示だから」
「俺の時より素直じゃない?」
「陛下は、技術の説明中に分かったふりをする」
「してない」
「前に、座標固定術式の説明で頷いてた」
「長かったから」
「分かってなかった?」
「ほとんど」
ノアが。
じっと俺を見る。
「次から、分からないって言って」
「ごめん」
「分からないまま許可される方が危険」
「本当にごめん」
地球側の研究者たちも。
静かに頷いていた。
今後は。
説明を理解できなければ。
正直に聞き返すことになった。
◇
二台の端末は。
通常のパソコンとしては。
既にほとんど使えない状態だった。
「デスクトップ側の記憶装置は劣化しています」
東央システムサポートの社員が報告する。
「電源装置も、そのままでは危険です」
「ノートパソコン側は?」
「起動はできますが、通常のデータは残っていません」
「王権接続は?」
「機械の記憶装置とは別」
ノアが答える。
「魂座標側に残ってる」
「パソコンを直さなくても使える?」
「使える」
「では、何のために端末が必要なんだ」
「地球側の形」
「形?」
「王権接続が、これは入口だと覚えてる」
パソコンそのものが。
門ではない。
俺が。
その端末を使い。
アステリアへ接続したという記録。
それが。
世界と地球を繋ぐ目印になる。
「中身は別の機械へ移しても?」
高城さんが尋ねる。
「外側を残せば」
「全部?」
「画面と、操作する場所」
「キーボード?」
「そう」
ゲームへログインした時の形。
それさえあれば。
内部の部品は。
安全な現代の物へ交換できる。
「なら、無理に古い電源を入れる必要はありません」
高城さんが判断する。
「筐体だけを使用し、内部に新しい隔離端末を組み込みましょう」
「接続痕跡が消えない?」
「ノアさんが確認しながら、一つずつ交換します」
「できる」
地球の技術。
アステリアの魔法。
初めて。
本当の共同作業が始まった。
◇
地球時間で四時間。
アステリア側では。
既に一週間以上。
王立魔導研究院の研究者たちは。
交代しながら働いている。
「休憩は?」
俺が尋ねる。
「取ってる」
ノアが答える。
「本当に?」
「地球側から勤務記録を提出するよう言われた」
アステリア側の画面。
《第一研究班――勤務終了》
《第二研究班――休憩中》
《第三研究班――作業開始》
百人以上が参加している。
だが。
一人が働き続けるのではなく。
交代制。
「セレフィナが制度を作った」
「仕事を断ることを覚えた成果だな」
「研究院でも、勤務時間の上限ができた」
「前は?」
「完成するまで帰らない」
「危ない」
「普通だった」
ノア自身も。
以前は。
何日も眠らず研究していた。
「今回は?」
「八時間で交代」
「ノアも?」
「私は責任者だから」
「交代」
「まだ平気」
「交代」
「陛下」
「地球側研究主任の高城さんへ確認しようか」
ノアが。
高城さんを見る。
「責任者も休憩してください」
「分かった」
素直に席を離れた。
「俺の言葉より効く」
「勤務上の指示ですから」
高城さんは。
少しだけ笑っていた。
◇
翌日。
端末内部の交換が終了した。
古い外装。
新しい安全な部品。
王権接続を受け止めるための。
アステリア製の小さな結晶。
地球側の記録装置。
緊急停止装置。
「電源を入れる前に、最終確認します」
高城さんが読み上げる。
「外部通信、遮断」
「確認」
「世界間接続、初期状態では無効」
「確認」
「門の最大寸法、十センチ四方」
「確認」
「通行可能物質、無生物のみ」
「確認」
「重量上限、百グラム」
「確認」
「異常時は、三者のいずれか一人が停止可能」
「確認」
「開放には、三者全員の認証が必要」
「確認」
俺。
水城さん。
アステリア側国境管理官。
それぞれが認証装置の前へ立つ。
「高城さんは?」
「緊急停止装置の前にいます」
「何かあれば?」
「迷わず止めます」
「お願いします」
古いパソコン。
七年前。
俺がネットカフェで。
アステリアへログインするために使った端末。
新しい電源ボタンを。
高城さんが押す。
小さな音。
内部の部品が動き始める。
画面が。
ゆっくり明るくなった。
「正常起動」
「地球側機器、異常なし」
「魔力反応、安定」
「王権接続、待機状態」
黒い画面。
中央に。
青いロゴが表示される。
《アークライト・オンライン》
「懐かしい」
俺は思わず呟く。
会社のロゴ。
七年前。
何百回。
何千回と見た起動画面。
次に。
ゲームタイトル。
《エルグランド・サーガ》
画面の下。
《START》
「押していい?」
全員が。
俺を見る。
「王権所有者の操作が必要です」
高城さんが答える。
俺は。
昔と同じように。
マウスを動かす。
ボタンの上へ。
矢印を合わせる。
「認証開始を許可します」
水城さん。
《地球側施設管理者――承認》
《アステリア側国境管理者――承認》
最後に。
俺がクリックした。
◇
画面が暗くなる。
一秒。
二秒。
三秒。
七年前なら。
ログイン画面が表示される。
ユーザー名。
パスワード。
サーバー選択。
だが。
現れた画面は。
俺の記憶と少し違っていた。
《王権所有者認証》
《ユーザー名――レグナ》
《パスワード――不要》
《魂紋認証を使用します》
「パスワード、覚えてなかったから助かった」
「忘れたの?」
ノアが尋ねる。
「七年前だぞ」
「陛下の王権を守る重要な情報」
「ゲームのパスワードだったから」
「危険」
「今後は魂紋認証なんだろ」
「そう」
画面へ手を触れる。
指先から。
淡い光が広がる。
《王権所有者――レグナ》
《本人確認》
《帰還状態――正常》
《アステリア王国への接続を確認》
次に。
昔のゲーム画面が表示された。
王都の全景。
画面上部には。
資源。
人口。
金貨。
食料。
魔力。
俺が毎日見ていた。
国家管理画面。
「これ」
セレフィナが。
アステリア側から画面を見る。
《三百年前の王権管理画面でございます》
「まだ動くのか」
「保存されてた」
ノアが答える。
だが。
表示されている数字は。
三百年前のものではなかった。
《アステリア王国》
《総人口――一億八千二百四十一万七千八百六十二》
《協力地域人口――三億一千八百万人》
《王都施設――一万二千四百七十一》
《行政区――三千八百二十一》
《国民議会議席――千八百三十六》
「今の数字?」
「そう」
古いゲーム画面が。
現在のアステリアを読み取っている。
「ゲームのサーバーへ繋がってる?」
「違う」
ノアが。
画面の情報を解析する。
「アステリアそのものを見てる」
地球側のゲームは終わった。
サーバーもない。
それでも。
王権管理画面は。
現実の国家情報を表示している。
「危険じゃない?」
水城さんが尋ねる。
「見るだけなら」
「変更操作は?」
「まだ無効」
画面の右下。
灰色になっている複数のボタン。
《都市建設》
《部隊編成》
《税率変更》
《研究指示》
《外交》
「絶対に押せないようにして」
「今は押せない」
「今後も」
「王国側の法律で制限する」
俺の一操作で。
税率が変わったり。
軍隊が動いたり。
都市が建ったりする。
三百年前なら。
ゲームだから気軽に押せた。
今は。
一億八千万人の生活へ影響する。
「この画面は、門の管理だけに使う」
「御意」
セレフィナも。
すぐに答えた。
「国家運営機能は、国民議会と各行政機関の承認なしでは使用不能にします」
「俺が命令しても?」
「非常時を除き、手続きを必要といたします」
「それがいい」
三百年の間に。
王がいなくても動く国になった。
昔の画面が戻ったからといって。
また俺一人で動かす必要はない。
◇
「門の機能を開きます」
ノアが。
国家管理画面の端にある。
新しい項目を表示する。
《世界間接続》
《主門――地球・如月蓮居室》
《副門一――地球・仮設通行検査室》
《副門二――未開通》
「副門一は、マンション一階?」
「そう」
「今回作るのが副門二」
「そう」
《副門二設置先》
《地球側――日本政府技術検証施設》
《アステリア側――王立魔導研究院第二隔離室》
アステリア側の映像。
何もない小さな隔離室。
研究者も。
安全線の外へ下がっている。
「三者認証を」
俺。
水城さん。
王国側管理官。
一人ずつ。
承認する。
《副門二・試験開放》
《最大寸法――十センチ》
《通行許可――無生物・百グラム以下》
《開放時間――十秒》
「開始」
ノアの声。
パソコン画面の横。
空中へ。
赤い線が一本現れる。
縦。
横。
小さな四角形。
十センチ。
向こう側に。
アステリア王立魔導研究院の白い床が見えた。
「開いた」
研究者たちから。
小さな拍手が起きる。
「通行試験」
地球側。
一枚の紙。
重量。
二グラム。
内容は。
《第二世界間転移門・初回試験》
《地球側より送付》
紙を。
小さな門へ入れる。
赤い光へ触れ。
消える。
アステリア側。
白い床の上へ。
同じ紙が現れた。
「到達確認!」
「魔力汚染なし!」
「物質変化なし!」
「文字、正常!」
十秒。
小さな門が閉じる。
《試験開放――成功》
「できた」
俺は。
思わず声を出す。
マンションではない。
俺の部屋でもない。
政府の管理施設。
許可した時だけ開く。
小さな第二の門。
「成功です」
水城さんも。
僅かに表情を緩める。
「これで、段階的に安全確認を進められます」
「人が通れるまで、どれくらい?」
「急ぎません」
高城さんが答える。
「物品。生物試料。通信。緊急停止。何度も試験します」
「数か月?」
「少なくとも」
「分かりました」
俺も。
もう。
早く開けようとは思わなかった。
◇
成功記録を保存する。
門は閉鎖。
端末も。
安全な待機状態へ移す。
「今日の試験は終了です」
高城さんが言う。
「続きは明日」
ノアが。
少し残念そうに画面を見る。
「まだできる」
「勤務時間終了です」
「アステリアでは」
「地球側共同研究の作業は終了」
「分かった」
ノアも。
従った。
「王権端末は、どうする?」
俺が尋ねる。
「電源を落とします」
高城さんが。
終了処理を始める。
画面の国家管理情報。
現在の人口。
施設。
資源。
一つずつ保存される。
《ログアウトしますか》
「懐かしいな」
俺は。
七年前。
毎晩。
同じボタンを押していた。
「ログアウトを」
クリックする。
《王権所有者・レグナ》
《本日の接続を終了します》
《アステリア王国の皆様へ、終了通知を送信しますか》
「そんな機能あった?」
「なかった」
ノアが答える。
「新しい」
「通知内容は?」
画面に。
文章入力欄が現れる。
国民一億八千万人。
全員へ送るわけではないだろう。
「誰に届く?」
「王国側の管理担当者だけ」
「なら」
短い文章を入力する。
《第二の門の試験に成功しました》
《協力してくれた皆さん、ありがとう》
《今日はここまでにして、きちんと休んでください》
「これで」
送信。
《通知を送信しました》
《王権所有者の指示を確認》
《国家管理規則へ反映します》
「待って」
画面が。
勝手に切り替わる。
《新規国家方針を登録》
《方針名――きちんと休む》
「ただの挨拶だ!」
アステリア側。
王立魔導研究院。
全研究者の端末へ。
同じ通知が表示される。
《建国王陛下による国家方針》
《全ての業務従事者は、きちんと休息を取ること》
「国家方針にするな!」
俺の声が。
地球側研究室へ響いた。
セレフィナが。
すぐに王国側の制度を確認する。
《王権管理画面より登録された国家方針は、国民議会で審議されます》
「審議を止めて」
《既に議題登録されました》
「採用しなくていいから!」
《内容そのものは、労働環境改善に有益かと》
「そうだけど」
画面。
《国民議会緊急審議》
《建国王陛下提案・国家休息制度》
《賛成――集計中》
「俺は制度を提案してない!」
七年前のゲーム画面は。
俺が入力した。
たった一言を。
国王命令として受け取った。
そして。
アステリア時間で数時間後。
《国民議会採決結果》
《賛成――千八百二十九》
《反対――〇》
《棄権――七》
《国家休息基本法・制定》
「法律になった!」
ノアが。
少し嬉しそうに画面を見る。
「これで研究院の休憩を、陛下も勝手に解除できない」
「解除しないよ!」
「良い法律」
「内容は良いけど、作り方が早すぎる!」
セレフィナから。
正式な通知が届く。
《建国王陛下の御提案により、王国全土の連続勤務時間上限および最低休息時間が法制化されました》
《国民を代表し、御礼申し上げます》
「俺の提案じゃない!」
第二の門は。
無事に完成した。
まだ。
小さな紙一枚しか通せない。
安全で。
正式な手続きによって管理された。
理想的な門だった。
問題は。
その門を管理するために復活した。
七年前のゲーム画面が。
俺の何気ない言葉を。
一億八千万人へ適用される国家政策として。
今も完璧に実行しようとしていたことだった。
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