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サービス終了したゲーム世界から、元部下たちが現実へ帰ってきた  作者: てへろっぱ


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17/52

第17話 共同管理者を調べたら、ゲーム会社の元社員だった

旧1話~17話までを今週中に全消去します。


《登録済み共同管理者――一名》


《共同管理者名》


《ユーザー情報――破損》


《最終認証――地球時間・サービス終了三日後》


 電源の入っていない古いパソコンに浮かんだ文字を、全員が黙って見つめていた。


「共同管理者って、何ができるんだ」


 俺が尋ねる。


 ノアは、受信結晶の前へ立ったまま答えない。


 空中へ何枚もの画面を開き。


 古い王権端末の仕様。


 三百年前の研究記録。


 現在の世界間転移門。


 それらを見比べている。


「ノア?」


「待って」


 短い返事。


 普段より声が低い。


「重要?」


「かなり」


 リゼルの手が。


 腰にある銀飾りへ伸びた。


 地球側では剣として使えない。


 それでも。


 共同管理者という存在を、敵かもしれないと考えたのだろう。


「何ができる」


 数分後。


 ノアがようやく答えた。


「王権端末を開く」


「俺と同じ?」


「同じではない」


「違いは?」


「陛下は、全ての権限を持つ」


 国の管理。


 施設。


 部隊。


 王城。


 ゲーム時代に俺が操作していた機能。


「共同管理者は、接続の維持と緊急停止だけ」


「国を動かしたりは?」


「できない」


 リゼルが僅かに息を吐く。


「兵の指揮は」


「できない」


「王城への命令は」


「できない」


「陛下の権限を奪うことは」


「できない」


「では、なぜ必要なのです」


「陛下が接続できない時に、端末を止めたり、壊れないよう維持したりするため」


 共同管理者。


 言葉だけ聞けば。


 俺と並ぶ権限者に思える。


 実際には。


 王ではなく。


 世界間接続の保守担当者に近いらしい。


「でも、俺は登録した覚えがない」


「陛下の許可なしでは、普通は登録できない」


「普通は?」


「緊急時だけ」


「また緊急時か」


 この数日。


 何度聞いたか分からない言葉だった。


「主端末が応答しない。世界間接続が崩壊中。王権所有者が長期間不在」


「全部当てはまってた?」


「サービス終了後は」


 俺の地球側端末は切断。


 アステリア側では。


 王である俺が突然消えた。


 世界間接続も崩壊。


「条件が揃うと?」


「接続を復旧しようとした地球側の人を、一時管理者として登録できる」


「地球側から?」


「たぶん」


「たぶん?」


「三百年前の試作機能。完成前だった」


 ノア本人も。


 正式な機能として覚えていなかった。


「解除できる?」


「できる」


「今すぐ?」


「駄目」


「どうして」


「共同管理者の端末が、今も残ってる可能性がある」


「解除すると危険?」


「強制解除した瞬間、その端末側へ残っている接続が暴走するかもしれない」


 マンションの門。


 古いネットカフェのパソコン。


 そして。


 正体不明の共同管理者端末。


 三つの接続情報が。


 どのように絡んでいるか、まだ分からない。


「では」


 水城さんが口を開く。


「まず、共同管理者が誰なのかを確認する必要がありますね」


「どうやって?」


「ゲーム運営会社の記録を調べます」


「会社は、まだあるんですか」


「確認します」


 《エルグランド・サーガ》を運営していた会社。


 七年前。


 サービス終了のお知らせを出し。


 ゲームサーバーを停止した企業。


 俺は。


 会社名すら、ほとんど覚えていなかった。


 遊んでいる時は。


 運営に不満を書き込んだこともある。


 更新が遅い。


 イベント報酬が少ない。


 不具合が直らない。


 だが。


 そこで働いていた人間について。


 考えたことはなかった。


「勝手に社内情報を調べるのは駄目ですよ」


 俺が言う。


「もちろんです」


 水城さんが答える。


「公開情報を確認し、必要であれば正式な協力要請を行います」


 ノアが。


 古いパソコンを見る。


「私なら端末から名前を」


「読まない」


「ユーザー情報だけ」


「壊れてるんだろ」


「復元できるかも」


「個人情報だから、先に政府へ任せる」


「時間が掛かる」


「待って」


 ノアは。


 不満そうに頬を膨らませた。


 それでも。


「分かった」


 受け入れた。


     ◇


 一時間後。


 最初の調査結果が届いた。


「運営会社の名称は、《アークライト・オンライン株式会社》」


 水城さんが資料を表示する。


 見覚えのある青いロゴ。


 《エルグランド・サーガ》の起動画面に。


 毎回表示されていた。


「現在は?」


「ゲームサービス終了から二年後、別の企業へ吸収合併されています」


「会社そのものは残ってない?」


「法人としては消滅しています」


「社員の記録は」


「合併先企業が一部保管しています」


 サービス終了。


 利用者減少。


 開発費の増加。


 会社の経営状態も。


 当時から良くなかったらしい。


「共同管理者の最終認証は、サービス終了三日後」


「はい」


「その日に、会社側で何か作業を?」


「公開されている記録では、サーバーの最終停止確認が行われています」


 サービス終了時刻に。


 全ての機器を即座に捨てるわけではない。


 データ保存。


 課金情報。


 問い合わせ対応。


 不正アクセスがないか。


 停止後も。


 しばらくは技術者が確認を続ける。


「担当者の名前は?」


「現時点では公開されていません」


「正式な問い合わせは?」


「既に行っています」


「早いですね」


「異世界接続の安全性に関わりますので」


 政府側の対応も。


 以前より速くなっている。


 手続きを飛ばすのではなく。


 必要な窓口が決まり。


 担当者が慣れ始めた結果だった。


「回答まで、どれくらい?」


「合併先企業が記録を確認しています」


 数日。


 場合によっては。


 それ以上掛かるかもしれない。


「陛下」


 リゼルが言う。


「王国側でも調査を」


「何を?」


「三百年前。接続が発生した時刻に、誰と会話したか」


「会話できたの?」


 ノアが首を横へ振る。


「映像も音声もなかった」


「では」


「地球側から、復旧命令だけ来た」


「どんな?」


 ノアが。


 古い研究記録を開く。


《外部管理者による接続確認》


《王権所有者不在》


《世界接続安定化処理を実行》


《データ保存を開始》


「データ保存?」


 俺が尋ねる。


「その人は」


 ノアが記録を拡大する。


「アステリアを、消えないよう固定した」


 検証室が静かになる。


「どういう意味だ」


「サービスが終わった時」


 ノアが答える。


「地球側との接続だけじゃなく、世界管理機能も止まりかけた」


「世界そのものが?」


「アステリアが消えるわけではなかった」


「なら何が止まる」


「陛下が作った仕組み」


 都市管理。


 生産補助。


 王城の倉庫。


 地図。


 通信。


 転移設備。


 ゲームとして俺が使っていた機能。


「その機能が全部壊れかけた」


「共同管理者は?」


「緊急保存をした」


「直したの?」


「壊れないよう止めた」


 サービス終了。


 俺の最後の命令。


 そして。


 その三日後。


 地球側の誰かが。


 消えかけていた王権管理機能へ接続し。


 緊急保存を実行した。


「その人がいなかったら?」


 ノアは。


 すぐには答えなかった。


「王城の倉庫が壊れてた」


「食料は?」


「かなり失われたかもしれない」


「転移設備は」


「暴走してた可能性がある」


「国は?」


「もっと混乱した」


 アステリアの人々を。


 直接救ったわけではない。


 俺が作った国の仕組みを。


 崩壊から守った。


「恩人じゃないか」


 リゼルが。


 静かに言う。


「陛下の御権限へ不正に触れた者と考えておりました」


「緊急保存をしてくれたんだろ」


「はい」


「なら、少なくとも話を聞くべきだ」


 リゼルも頷く。


「その者が善意で行動したのであれば」


「いきなり捕まえたりしないでくれ」


「日本側の方を、我々が拘束することはございません」


「今は信じられる」


 数日前なら。


 不安だった。


     ◇


 午後二時。


 合併先企業から、最初の回答が届いた。


《アークライト・オンライン株式会社》


《サービス終了後作業記録》


《対象日――サービス終了三日後》


《作業名――最終バックアップ検証》


《担当者――三名》


 名前は。


 まだ表示されていない。


 個人情報のため。


 本人たちへ連絡し。


 政府への情報提供へ同意するか確認している。


「三人のうち、誰か?」


「可能性があります」


「全員、今も?」


「二名は所在確認済み。一名は確認中です」


「危険があることは伝えてる?」


「不安を与えない範囲で、当時の作業について話を聞きたいと」


 異世界の共同管理者になっています。


 突然そう言われても。


 信じる人間は少ないだろう。


「当日の詳しい記録は?」


「一部だけ」


 画面へ。


 技術者の作業報告が表示される。


《午前九時二十分》


《保存データ整合性確認》


《異常なし》


《午前十一時四十二分》


《停止済みサーバー群に、外部通信に似た反応》


《送信元不明》


《誤検知として再検査》


《午後零時八分》


《旧クライアント端末一台が自動起動》


「旧クライアント端末?」


「運営側で動作確認に使っていたパソコンです」


「それが三台目?」


 ノアが測定結晶を見る。


「可能性が高い」


 更に記録。


《午後零時十一分》


《画面上に未実装の保守メニューを確認》


《表示内容――王権接続機能》


《通常の管理権限では操作不能》


「未実装?」


「運営会社も知らなかった機能だったんです」


「地球側のゲームには存在しない」


 ノアが答える。


「世界側から出た」


 アステリア側で作られた緊急機能が。


 地球側の端末画面へ現れた。


《午後零時十四分》


《担当者一名が緊急保全を実行》


《理由――接続先データの消失防止》


《午後零時十六分》


《不明な映像信号を受信》


《保存に失敗》


「三百年前の映像?」


「たぶん」


 ノアたちが送った。


 最初の記録。


 運営会社側も。


 一瞬だけ受信しようとしていた。


「保存に失敗したから、世界の間に残った?」


「そう」


《午後零時十九分》


《保全処理終了》


《保守メニュー消失》


《端末を隔離》


《以後、同様の反応なし》


「共同管理者になった人は」


 水城さんが言う。


「何が起きているか理解しないまま、データを守る操作を選んだようですね」


「どうして?」


「ゲーム会社の技術者です」


「サービスは終わったのに?」


「終わったからといって」


 水城さんは。


 作業記録を見る。


「何年も作ってきたものが目の前で消えようとしていれば、保存したいと考える人はいるでしょう」


 ただの仕事。


 終わったサービス。


 それでも。


 そこに積み重ねた時間がある。


 俺がアステリアへ感じていたものと。


 少し似ているのかもしれない。


     ◇


 午後三時十二分。


 一人目の元社員から。


 情報提供への同意が得られた。


《氏名――小松原直樹》


《当時の役職――サーバー管理補助》


 映像通話で。


 本人へ話を聞く。


 四十代の男性。


 現在は。


 別の会社で、社内システムの管理をしているらしい。


『七年前のことですから、細かくは覚えていません』


「王権接続という表示を見ましたか」


『見ました』


「操作したのは?」


『私ではありません』


「誰が?」


『高城さんです』


 初めて。


 名前が出た。


「高城さん?」


『当時のサーバーエンジニアです』


「フルネームは」


『高城真琴』


 水城さんたちが記録する。


『あの日』


 小松原さんは。


 記憶を探りながら話す。


『停止したはずのテスト端末が、勝手に起動したんです』


「電源は?」


『繋がっていました。保守確認用でしたから』


「画面には?」


『見たことのない文字と』


 一度。


 言葉に詰まる。


『人の声が聞こえました』


「声?」


 ノアたちの映像は。


 保存できなかったはずだ。


『音声としては残っていません』


「何と言っていたか、覚えてますか」


『はっきりとは』


「一言でも」


 小松原さんが。


 目を閉じる。


『陛下』


 リゼルの身体が僅かに揺れた。


『誰かが、そう呼んでいたと思います』


 地球側の技術者たちは。


 意味を理解できなかった。


『高城さんが』


「はい」


『これ、ただの壊れたデータじゃないかもしれないって』


「どうして」


『表示の向こうに、人がいるように感じると言っていました』


「それで保存を?」


『はい』


 未実装の保守メニュー。


《接続先保全》


《共同管理者登録が必要》


『自分の社員用アカウントを入れて』


「登録した?」


『そうです』


「止めなかったんですか」


『止めましたよ』


 小松原さんが苦笑する。


『会社の許可もありませんし、何が起きるか分からなかった』


「それでも?」


『高城さんは』


 一度。


 視線を下げる。


『消えてから後悔するより、残して怒られる方を選ぶって』


 共同管理者として登録。


 緊急保存。


 その直後。


 保守メニューは消えた。


『会社には報告しました』


「処分は?」


『始末書です』


「それだけ?」


『サービス終了後のデータでしたから。会社も大きな問題にはしませんでした』


「高城さんは、今どこに?」


 小松原さんの表情が。


 少し曇る。


『それが』


「連絡が取れない?」


『退職してから、会っていません』


「いつ退職を?」


『あの作業から、半年後です』


「理由は」


『体調を崩したと聞きました』


 共同管理者として。


 異世界との接続へ触れた。


 それが。


 身体へ何か影響した可能性もある。


「ノア」


「可能性はある」


「危険?」


「接続が一瞬なら、普通はない」


「普通ではなかった場合は」


「調べないと分からない」


 また。


 同じ答えだった。


     ◇


 二人目の元社員。


 当時の責任者とも連絡が取れた。


 話は。


 小松原さんと一致していた。


『高城真琴が、緊急保存を実行しました』


「その後、異常は?」


『本人は、夢を見るようになったと言っていました』


「夢?」


『銀髪の騎士。長い耳の女性。角の生えた少女』


 リゼル。


 セレフィナ。


 ノア。


『毎晩、同じ人たちが出てくると』


「内容は」


『誰かを探している』


 俺を。


『ただ』


「ただ?」


『高城は、詳しく話そうとしませんでした』


「どうして」


『自分が見た夢を話すと』


 元責任者が。


 僅かに迷う。


『向こうにも、自分の声が届いてしまう気がすると』


 共同管理者の接続。


 地球側からは。


 ゲームデータだと思われていた。


 アステリア側からは。


 王へ届かなかった信号。


 その間に。


 高城真琴という技術者がいた。


「現在の連絡先は?」


『会社に残る情報は、退職時のものだけです』


「政府へ提供できますか」


『本人の安全確認が目的であれば』


 正式な手続き。


 古い住所。


 電話番号。


 緊急連絡先。


 政府側が調査を始める。


 俺たちは。


 待つことしかできない。


     ◇


 午後五時。


 調査結果が届いた。


「高城真琴さんの現在の住所を確認しました」


「無事ですか」


「住民記録上は、存命です」


「良かった」


「ただし、以前の住所から転居しています」


「連絡は?」


「現在の電話番号へ、政府から連絡を行っています」


 返事は。


 まだない。


「直接行くのは?」


「まず、電話と書面です」


「危険があるかもしれない」


「緊急性が確認できれば、警察や救急が対応します」


 七年前。


 体調を崩した。


 夢。


 異世界接続。


 不安はある。


 だが。


 突然。


 大勢の役人や異世界の騎士が家へ押しかける方が危険だ。


「分かりました」


 待つ。


 それが。


 一番難しい。


「陛下」


 リゼルが。


 俺の隣へ立つ。


「何」


「その方は、我が国の恩人です」


「ああ」


「もし、御病気であれば」


「治癒魔法を使う?」


「御本人が希望されるのであれば」


「日本側の医師と相談して」


「はい」


 勝手に治すとは言わなかった。


「王国へ迎えることも」


「本人が希望したら」


「十分な地位と報酬を」


「それも本人と相談」


「国民議会より、名誉爵位の授与が提案される可能性が」


「まだ何もしないで」


「提案を止めることは」


「できないんだろ」


「はい」


 リゼルが。


 僅かに申し訳なさそうな顔をする。


「でも、本人の許可なく発表はしない」


「当然でございます」


 そこは。


 もう理解していた。


     ◇


 午後六時二十四分。


 水城さんの端末へ。


 新しい連絡が入った。


「高城さんから?」


「いいえ」


「では?」


 政府の問い合わせ窓口。


 そこへ届いた。


 一通のメール。


「送信者は」


 水城さんが。


 画面を見る。


「高城真琴さん本人です」


「返事が来た?」


「我々が連絡した番号からではありません」


「どういうこと」


「高城さんの方から、先に政府へ連絡してきています」


 メールの送信時刻。


 今日の。


 午後一時十六分。


 政府が。


 高城さんの現在地を確認する前。


「内容は」


 水城さんが。


 慎重に読み上げる。


『突然の御連絡をお許しください』


『七年前まで、アークライト・オンライン株式会社で勤務していた、高城真琴と申します』


『本日』


『保管していた古い業務用ノートパソコンが、突然起動しました』


「ノートパソコン」


 ノアが反応する。


「三台目」


 高城真琴が。


 退職時に持ち帰ったのか。


 会社から譲渡されたのか。


 まだ分からない。


『インターネットには接続しておりません』


『バッテリーも、数年前から使用できない状態でした』


 それでも。


 起動した。


『画面に』


『七年前と同じ、王権接続という文字が表示されています』


『そして』


 添付された写真が開かれる。


 古いノートパソコン。


 暗い部屋。


 画面には。


 赤い文字。


《共同管理者認証》


《接続先保全機能――正常》


《王権所有者――帰還確認》


《レグナ陛下の生存を確認しました》


 高城さんは。


 七年前。


 存在しないはずの世界から届いた声を聞いた。


 それを消さないため。


 共同管理者になった。


 そして今。


 俺が帰還したことを。


 誰より先に。


 古い端末から知らされていた。


 メールの最後。


 短い文章が書かれている。


『如月蓮さん』


『あなたが、レグナという方なのでしょうか』


『七年前から』


『あなたへ返さなければならないものを、預かっています』


 添付された。


 もう一枚の写真。


 ノートパソコンの横。


 小さな透明の結晶。


 アステリアの魔石と同じ形。


 その内側に。


 若いリゼルたちの姿が映っていた。


 三百年前。


 届かなかったはずの記録は。


 一つではなかった。


 高城真琴は。


 俺の元部下たちが地球へ送り続けた何かを。


 七年間。


 誰にも見せず。


 守り続けていた。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。


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