表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サービス終了したゲーム世界から、元部下たちが現実へ帰ってきた  作者: てへろっぱ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
16/24

第16話 異世界を公表したら、元プレイヤーたちが一斉に戻ってきた

書き直し消去予定


 会議室にある電話が、途切れることなく鳴り続けていた。


 壁の大型画面には、アステリア王国が公開した映像が流れている。


 日本政府の担当者と向かい合い。


 正式文書へ署名する俺。


 その背後で控えるリゼルとセレフィナ。


 白髪の第七端末。


 会議室中央へ投影された、アステリア王都の立体映像。


 どこからどう見ても、撮影用に作られた映像ではなかった。


 百二十七言語。


 アステリア王国外務院の公式発表。


 更には、王都中央広場に集まった数百万人の国民が、地球との接続承認を祝う様子まで同時公開されている。


「削除はできませんか」


 榊原が、政府の情報通信担当者へ尋ねる。


「既に世界中の動画配信サイトとSNSへ転載されています」


「元の発表を止めた場合は」


「転載が増えるだけです。保存された映像の総数は、現時点で把握できません」


 公開から、まだ数分しか経っていない。


 それでも、完全な回収は不可能になっていた。


 アステリア側の魔導通信は、地球の通信網へ直接接続された。


 ノアが試験として残していた経路を、王国広報院が利用したらしい。


「試験接続だと言ったよな」


 俺が見ると、ノアは視線を僅かに逸らした。


「接続は正常に動いた」


「正常に動いた結果、世界中へ異世界が公表されたんだよ」


「技術的には成功」


「政治的には大事故だ」


 ノアは少し考える。


「次から送信先を制限する」


「次がある前提で話すな」


 榊原が俺たちのやり取りを聞きながら、額へ手を当てている。


 昨日まで存在すら知らなかった異世界国家。


 その研究責任者が。


 政府の許可なく、地球側の通信網へ接続した。


 普通なら、笑って済ませられる話ではない。


「ノア」


 俺は改めて名前を呼ぶ。


「今後、地球側の通信設備へ接続する時は、日本側とアステリア側の両方から許可を取る」


「緊急時は?」


「人命に関わる緊急時は別。ただし、終わったら必ず報告する」


「研究目的は?」


「緊急じゃない」


「接続しなければ危険性を確認できない場合は?」


「事前に説明して許可を取る」


「時間がかかる」


「地球では必要なんだ」


 ノアは納得していない顔をしていた。


 それでも、最後には頷く。


「分かった」


 返事だけは素直だ。


 本当に理解したかは、今後を見なければ分からない。


 俺はセレフィナを見る。


「王国広報院へ連絡してくれ」


「既に発表停止を命じております」


「公開済みの映像は?」


「削除可能な場所については対応しております」


「それと、今後は地球側に関する発表を勝手に行わないように」


「日本政府との共同承認成立は、国民へ直ちに伝えるべき重要事項でございました」


「アステリア国内へ伝えるのは分かる」


 国を滅亡から救うための条件が揃った。


 国民へ知らせること自体は問題ない。


「地球側へ公開する内容と時刻は、こっちと相談してくれ」


「御意」


「アルノルトにも伝えてくれ」


「既に連絡しております」


 その直後。


 俺のスマートフォンが震えた。


《陛下》


《このたびは、両世界初の外交的偉業、誠におめでとうございます》


 アルノルトからだった。


《御指示を受け、以降の地球側広報については、日本国政府との共同調整を徹底いたします》


 ここまではいい。


《なお、既に発表済みの映像につきましては、我が国の正式な公文書として永久保存措置を完了しております》


「消す気がないな」


「我が国の歴史に残る映像ですので」


 セレフィナは当然のように答える。


 アステリア側へ残すなとは言っていない。


 地球側への公開を止めてほしいだけだ。


 言葉を細かく指定しなければ、意図した通りに動かない。


 俺の元部下たちは三百年間、自分たちで考えて国を動かしてきた。


 命令を待つだけのNPCではない。


 それは喜ぶべきことなのだろう。


 だが。


 今は少しだけ、昔のように確認してから動いてほしいと思った。


「如月さん」


 榊原が呼ぶ。


「今後の対応について、日本政府側から提案があります」


「何でしょうか」


「三十分後に、緊急の共同発表を行います」


「三十分後?」


「既に異世界の存在が世界中へ伝わっています。政府が沈黙を続ければ、誤った情報と憶測が更に広がります」


 大型画面の一部が、地球側の報道へ切り替わる。


《異世界との外交成立か》


《政府施設で撮影された謎の映像》


《七年前に終了したゲームとの関連は》


《魔法は実在するのか》


《映像に映る男性は会社員との情報》


 俺の顔が映っている。


 会社員であることまで、既に調べられていた。


「情報が広がるの早すぎませんか」


「映像には、如月さんの名前が明記されています」


 アステリア王国建国王。


 レグナ。


 地球側個体名、如月蓮。


 広報院は、丁寧に説明を付けて公開していた。


 迷惑なほど仕事が細かい。


「自宅と勤務先については、警察へ警備を要請しています」


「会社にも人が行ってるんですか」


「報道関係者が集まり始めています」


 朝まで、俺は普通に出勤していた。


 数時間前には、社長室で一週間の有給休暇について相談していた。


 今は世界中の報道機関が、俺の勤務先へ向かっている。


「共同発表には、俺も出るんですか」


「アステリア王国の代表として、短い説明をお願いしたいと考えています」


「セレフィナじゃ駄目ですか」


「政府側の承認文書へ署名したのは、如月さんです」


「アルノルトは」


「地球側にいるのは投影体です。国家元首本人が国内にいる状況で、別の人物だけを出せば余計な憶測を招きます」


 国家元首。


 まだその言葉に慣れない。


 危機が終わるまで責任を持つと答えた。


 その結果。


 世界中へ向けて説明する責任まで発生した。


「何を話せばいいんですか」


「日本政府とアステリア王国が、緊急の接続承認に合意したこと」


「はい」


「大裂界による直前の危機は、既に収束したこと」


「はい」


「現時点で、日本国内に異世界からの攻撃や大規模な移住が行われる予定はないこと」


「それは、はっきり言えます」


「世界間転移門は、両政府の共同管理下へ置かれること」


 政府側としては、国民を安心させる必要がある。


 突然、異世界が存在すると発表された。


 魔法も。


 未知の生物も。


 理解できない技術も存在する。


 不安になるのは当然だった。


「アステリア側から、他に公表すべきことはありますか」


 榊原がセレフィナへ尋ねる。


「陛下が三百二年ぶりに御帰還されたことを」


「必要ありません」


 俺は即座に止めた。


「ですが、我が国にとっては最も重要な出来事でございます」


「日本の人たちにとっては違う」


「陛下の御人格と御功績を正確に理解していただくことは、両世界の信頼形成に必要です」


「今は異世界が攻めてこないことを説明する場だろ」


「陛下が平和を重んじる統治者であると伝えることは、有効かと」


 理屈は分かる。


 だが、三百年前の功績を紹介されても。


 俺自身の感覚では、ゲームを遊んでいただけだ。


「建国神話みたいな説明はするなよ」


「史実でございます」


「空に俺の顔を映した施設を九千近く作る国の史実は、少し信用できない」


「八千七百二十一施設でございます」


「訂正しなくていい」


 榊原が小さく咳払いをした。


「詳しい国家紹介は、後日の共同会見で行うことにしましょう」


「それがいいと思います」


 俺は賛成した。


 セレフィナは不満そうだったが、反対はしなかった。


     ◇


 三十分後。


 別の会見室へ移動する。


 俺は政府側から用意された控室で、短い説明文を渡された。


 紙一枚。


 アステリアの簡易資料六百八十二ページより、遥かに読みやすい。


「この通りに読めばいいんですね」


「基本的には」


 外務省職員が答える。


「ただし、質問が出る可能性があります」


「質問もあるんですか」


「当初は声明の読み上げだけを予定していました」


「予定していました?」


「既に映像が世界中へ公開されているため、何も質問を受けず終了すれば、情報を隠している印象を与える可能性があります」


「何でも答えられるわけじゃありません」


「回答できないものは、今後確認するとお答えください」


 昔、会社で取引先へ説明する時にも似たことを言われた。


 分からないことを、無理に答えるな。


 確認してから連絡する。


 規模は違っても、基本は同じらしい。


 鏡を見る。


 朝、会社へ行くために着たスーツ。


 第四塔の氷。


 第五塔の熱。


 第一塔の地下。


 何度も転移したせいで、所々が汚れている。


「着替えは?」


「このままでいいです」


「陛下へ、そのような衣服で公の場へ出ていただくわけには」


 リゼルが止める。


「着替える時間がない」


「王装をお持ちしております」


「何で持ってきてるんだ」


 セレフィナが空間収納から、黒と金の衣装を取り出した。


 長い外套。


 金属の装飾。


 胸元に巨大なアステリア国章。


 ゲーム内で、建国記念式典用に作った王装だった。


「これを着て会見に出ろと?」


「陛下の御身分を示す正式な装いです」


「地球側では、急に出てきた異世界の王様が豪華な服を着てたら、余計に怖がられるだろ」


「威厳は必要でございます」


「今日は安心させる方が先」


 俺はスーツの皺を手で伸ばす。


「昨日まで普通に暮らしていた人間だと分かった方がいい」


 リゼルが俺の服を見る。


 納得していない。


「少なくとも、汚れだけでも」


 彼女が白い手袋で袖へ触れた。


 淡い光が広がる。


 土や埃が消え、皺も伸びていく。


「できるなら最初から頼めばよかった」


「陛下の御身体へ影響がないか確認しておりました」


 現実認定後の俺は、魔法の影響も以前とは違う。


 リゼルなりに慎重になっているらしい。


 セレフィナは王装をしまった。


「正式な外交式典では、必ずお召しください」


「検討する」


「御約束を」


「今は時間がない」


 話を切り上げる。


 疲労回復薬の効果が、少しずつ薄れている。


 眠気はない。


 だが、体の奥に重い疲れが溜まっているのが分かる。


「陛下」


 第七端末が控室の壁へ顔を向けた。


「地球側人工境界端末に異常な接続増加を確認しました」


「大裂界か?」


「違います」


 白い画面が浮かぶ。


《エルグランド・サーガ最終サーバー》


《接続者数――一》


 俺のアカウント。


 レグナ。


 接続継続中。


 それしか存在しなかったはずのサーバーへ。


《接続者数――二》


《接続者数――七》


《接続者数――二十三》


 数字が増えている。


「誰が接続してる」


「地球側の旧利用者です」


「元プレイヤー?」


「はい」


 サービスは七年前に終了した。


 ゲームクライアントも。


 認証用サーバーも。


 公式サイトも停止している。


 普通なら、ログインできるはずがない。


「どうやって」


「アステリア王国広報院が公開した映像に、人工境界端末の認証信号が含まれていました」


「公開映像に?」


「魔導通信を地球側へ変換する際、旧ゲーム通信規格を利用したためです」


 ノアを見る。


「知らなかった」


「知らないまま使ったのか」


「地球側へ映像を送る最短経路だった」


 結果として。


 映像を見た元プレイヤーたちの端末が、停止していたゲームサーバーへ反応した。


《接続者数――八十九》


《接続者数――三百十二》


 増加速度が上がっている。


「全員、ログインできてるのか」


「完全な接続ではありません」


 第七端末が説明する。


「現在は、旧利用者情報の再認証が行われています」


「危険は?」


「不明です」


 その答えが一番怖い。


「止められるか」


「地球側人工境界端末の管理者権限が必要です」


「天城さんに連絡を」


 スマートフォンを取り出す前に。


 控室のテレビが勝手に点いた。


 会見室の中継ではない。


 懐かしい音楽が流れている。


 《エルグランド・サーガ》のタイトル画面。


 七年前に終了したゲームの起動画面が、テレビに表示されていた。


『止める必要はない』


 天城久遠の声が聞こえる。


「勝手に画面を使わないでください」


『元プレイヤーたちの接続が始まった』


「分かっています」


『これは予想していた』


「先に言ってください」


『起きるとは限らなかった』


「今は止められるんですか」


『止められる』


「なら止めてください」


『その前に、確認したいことがある』


 画面へ、接続者の一覧が流れる。


 プレイヤー名。


 所属国家。


 最終ログイン日時。


 見覚えのある名前も混じっている。


 同盟を結んだ相手。


 敵国だった者。


 イベントで一度だけ協力した者。


 掲示板で何度も言い争った相手。


「全員、この世界の真実を知らなかった人たちです」


『そうだ』


「今さら接続させて、どうするつもりですか」


『彼らが作った国も、まだ存在している』


 俺は画面を見る。


 アステリアだけではない。


 《エルグランド・サーガ》には、何千ものプレイヤー国家があった。


 サービス終了後。


 それぞれの国がどうなったのか、俺は知らない。


『アステリアは、幸運だった』


「何がです」


『君が最後に命令を残した。臣下へ自由を与えた。だから国家が自立できた』


 別のプレイヤー国家。


 領主が突然消え。


 最後の命令すら残されなかった国。


 住民が自分で考えることを許されていなかった国。


 領主の帰還だけを待ち続けた国。


 中には。


 三百年の間に滅びた場所もあるだろう。


『境界が安定したことで、地球側の旧接続者と、世界側に残る領域の間で再照合が始まっている』


「元プレイヤー全員が、向こうへ行けるようになる?」


『まだ分からない』


 天城は正直に答えた。


『大半は、記録だけが残っている。領主権限まで維持されている者は少ない』


「どれくらいです」


 第七端末が人工端末の情報を解析する。


《旧利用者登録数――六百四十二万八千百九十七》


《再認証要求――五万八千二百四十四》


《領主権限残存反応――検索中》


 世界中で、映像を見た元プレイヤーが。


 停止していたゲームを起動しようとしている。


 昔使っていたパソコン。


 保存していたスマートフォン。


 ゲームのアカウント情報。


 様々な場所から、最終サーバーへ信号が集まっていた。


「会見を延期できませんか」


 俺が外務省職員へ尋ねる。


「既に報道関係者が待っています」


「こっちの方が緊急だと思います」


 だが。


 異世界の存在が世界中へ公表された直後に。


 日本政府とアステリア側の代表が、理由も説明せず会見を延期する。


 それはそれで、混乱を大きくする。


「第七端末。接続要求が危険になる前に止められるか」


「人工端末側で受信しているだけです。現時点で、アステリア側への直接接続は発生していません」


「領主権限が見つかったら?」


「本人の同意なしに、世界間経路は開きません」


 第一塔の強制回収機能は、さっき破棄した。


 少なくとも。


 何も知らない元プレイヤーが、突然異世界へ引きずり込まれることはない。


「会見が終わるまで監視してくれ」


「承知しました」


「天城さんも、勝手に接続を許可しないでください」


『私が判断する』


「駄目です」


『地球側人工端末の管理者は私だ』


「アステリア側の人々へ影響するなら、あなただけで決める話じゃない」


 画面の天城が黙る。


「接続を許可する時は、本人と、接続先の両方から同意を取る」


『全員にか』


「当然です」


『六百万人以上いる』


「だからって、勝手に繋いでいい理由にはならない」


 三百年前。


 運営は。


 アステリアの住人へ何も説明せず、地球側のプレイヤーを接続した。


 その結果。


 住民たちは、ゲームの登場人物として扱われた。


 同じことを、また繰り返すわけにはいかない。


『分かった』


 天城が答える。


 珍しく、反論しなかった。


『少なくとも、君が戻るまでは接続を保留する』


「お願いします」


 テレビの画面が元へ戻る。


 会見開始まで、残り五分。


「行くしかないな」


 俺は用意された説明文を持った。


 扉の前へ立つ。


 リゼルが背後へ。


 セレフィナがその隣へ並ぶ。


「陛下」


 リゼルが俺を呼ぶ。


「何だ」


「世界中の方々へ、御姿をお見せになるのですね」


「日本政府との共同発表だ」


「アステリアでは、全都市へ中継されております」


「止めてないのか」


「国民が陛下の御言葉を待っております」


 また、俺の知らないところで中継が始まっていた。


「機密情報は流すなよ」


「会見映像のみでございます」


「途中で勝手に字幕や解説を入れるな」


 セレフィナが少し黙った。


「もう準備してるのか」


「陛下の御功績を正確に理解いただくために」


「消してくれ」


「最低限の御紹介だけでも」


「普通に名前だけでいい」


「建国王陛下という表記は」


「それは仕方ない」


 セレフィナが僅かに満足そうな表情を見せた。


 扉が開く。


 無数のカメラ。


 記者。


 強い照明。


 その向こうで。


 日本中。


 世界中。


 そしてアステリアの三億人が、俺の言葉を待っている。


 俺は壇上へ進んだ。


     ◇


「如月蓮です」


 最初に名乗る。


 フラッシュが一斉に光った。


「アステリアでは、レグナという名前で呼ばれています」


 用意された文書を見る。


 だが。


 そのまま読む前に、顔を上げた。


「最初に、お伝えしておきたいことがあります」


 会見室が静かになる。


「昨日まで、俺は普通の会社員でした」


 政府側の担当者が僅かにこちらを見る。


 原稿にはない言葉だった。


「異世界の王だと名乗るつもりも、地球へ何かを要求するつもりもありませんでした」


 今も、その気持ちは大きく変わっていない。


「ですが、七年前にサービスを終了したゲームの世界は、実際に存在していました」


 隣に立つリゼルとセレフィナを見る。


「そこで暮らしていた人たちは、ゲームのキャラクターではありませんでした」


 生きていた。


 考えていた。


 俺がいなくなったあとも。


 三百年間。


「アステリアは現在、三億人以上の人々が暮らす国になっています」


 記者たちが一斉にメモを取る。


「先ほど、その世界を外部から侵蝕しようとしていた存在への対処が完了しました」


「危険はなくなったということですか」


 記者の一人が、許可を待たず声を上げた。


「現在確認されていた直接の危機は収束しました」


「今後も安全だと?」


「絶対に安全とは言えません」


 会場がざわつく。


「分からないことが、まだ多くあります。だから日本政府とアステリア側で、転移門を共同管理することに合意しました」


「異世界人が日本へ大量に移住する可能性は?」


「ありません」


 これは即答できる。


「アステリアの住民が地球へ来る場合も、両政府の許可が必要です」


 最初に十二万人ではなく、十二万? Wait first group 12k. Need no mention.


「魔法や未知の生物が持ち込まれることは?」


「安全確認なしには認めません」


「アステリア側は、高度な兵器を保有していますか」


「保有しています」


 隠さない。


「日本へ向けて使用する可能性は」


「ありません」


「その保証は?」


「俺が許可しません」


 答えた瞬間。


 セレフィナが僅かに目を閉じた。


 日本政府側も、少し表情を硬くする。


 俺一人の意思だけで、国家の武力を保証していいのか。


「正確には」


 言い直す。


「アステリア側の政府と議会も、地球との平和的な関係を望んでいます。正式な取り決めについては、今後協議します」


 セレフィナが小さく頷いた。


 危ない。


 国家元首としての言葉は。


 会社員として話す時より、遥かに重い。


「如月さんは、今後も日本で生活するのですか」


「まだ決めていません」


「アステリアの国王として、地球側へ住み続ける?」


「国王へ正式に復帰するかも、危機が終わった後に話し合う予定です」


「既にアステリア側の議会は、あなたを国家元首として承認したと発表しています」


 そこまで公開されているらしい。


「本人の知らない間に決まっていました」


 会見室の一部から、小さな笑いが起きた。


 セレフィナは笑っていない。


「その決定を受け入れるかは、アステリアの人たちと話してから考えます」


「勤務先へ戻る予定は?」


 なぜ、この場で会社の話になるのか。


「一週間の有給休暇をもらっています」


 今度は、はっきりと笑いが広がった。


「国家元首が有給休暇ですか」


「朝までは普通の社員だったので」


「会社は退職しない?」


「今は考える時間がありません」


 会見室の緊張が少しだけ薄れる。


 俺が豪華な王装ではなく。


 普通のスーツを着て出てきた意味は、あったのかもしれない。


「アステリア王国は、日本へ何を求めていますか」


「現時点では、転移門の安全な維持と、正式な話し合いの継続です」


「資金援助や電力供給は?」


「電力については、転移門の維持負担を減らすために協力を相談しています」


「日本側へ見返りは?」


「安全が確認できた分野から、技術や資源について話し合います」


「治癒魔法によって、不治の病を治せる可能性はありますか」


 会場の空気が変わった。


 全員が知りたい質問なのだろう。


「可能性はあります」


 後ろに立つセレフィナは、地球で負傷したリゼルを治療した。


「ただし、何でも治せるわけではありません」


「具体的に、どの病気を?」


「俺には答えられません。専門家同士で確認してからになります」


「寿命を延ばす魔法は?」


「知りません」


「死者の蘇生は?」


「できません」


 少なくとも。


 現実認定後の俺も。


 アステリアの住民も。


 死ねば戻らない。


「異世界は、アステリアだけですか」


 別の記者が尋ねた。


「どういう意味ですか」


「《エルグランド・サーガ》には、複数の国家と大陸が存在していました。映像に出た世界全体が実在するなら、他のプレイヤーが作った国も残っているのではありませんか」


 核心に近い質問だった。


「残っている可能性があります」


 嘘はつけない。


「確認できていない?」


「今、確認が始まったところです」


 その時。


 会見室の奥で、誰かのスマートフォンから音が鳴った。


 《エルグランド・サーガ》の起動音。


 持ち主の記者が、慌てて端末を見る。


「何だ、これ」


 別の場所からも。


 同じ音が鳴る。


 一つ。


 二つ。


 五つ。


 十。


 会見場だけではない。


 中継映像の向こう。


 各国のスタジオ。


 個人の配信。


 昔ゲームを遊んでいた人々の端末に。


 一斉に通知が届いていた。


《エルグランド・サーガ》


《旧利用者認証が完了しました》


《あなたが統治していた領域の記録が確認されました》


 会見室の大型画面にも。


 第七端末から緊急情報が表示される。


《領主権限残存反応の検索完了》


《有効反応――七十二名》


「七十二人」


 俺以外にも。


 領主権限を失わず。


 三百年間、世界との繋がりを残していた元プレイヤーがいる。


《旧接続者へ現状確認通知を送信》


《本人同意前の世界間接続は実行されません》


 俺が天城へ求めた条件が反映されている。


 勝手に連れ戻されることはない。


 だが。


 通知を受け取った七十二人の画面には。


 それぞれ違う文章が表示されていた。


《あなたの建国した国家は、現在も存続しています》


《あなたの建国した国家は、後継国へ統合されました》


《あなたの建国した国家は、二百三十一年前に滅亡しました》


《あなたの帰還を待つ者がいます》


《あなたへの処罰要求が存在します》


 国を守った者。


 捨てたと恨まれている者。


 神として崇められている者。


 暴君として記録されている者。


 三百年の間に。


 それぞれの国は、それぞれの歴史を歩んでいた。


 会見室の記者たちにも、通知を受け取った者がいた。


 一人の若い男性記者が、震える手でスマートフォンを見ている。


 画面には、古いプレイヤー名が表示されていた。


《プレイヤー名――カイゼル》


《旧所属国家――レンドル公国》


《領主権限残存――確認》


《世界側から、あなたへの通信要求があります》


 男性記者が顔を上げる。


「俺が作った国が……まだある?」


 その声は。


 世界中へ中継されていた。


 異世界の存在を説明するために始まった会見は。


 俺一人の帰還報告では終わらなかった。


 七年前にゲームを離れた元プレイヤーたちのもとへ。


 三百年間待ち続けた世界から。


 次々と連絡が届き始めていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ