第14話 リゼルが第一塔を封じた理由
書き直し消去予定
《第一塔緊急停止命令》
《実行者――初代近衛騎士団長》
《登録名――リゼル・アルフェリア》
表示された記録は、何度見ても変わらなかった。
俺がアステリアから消えた翌日。
最後の一基となる第一世界境界管理塔を停止させたのは、リゼルだった。
「第一塔を再起動する方法は、二つございます」
リゼルの声は震えていた。
「私が封印を解除するか、私が死ぬかです」
「死ぬ必要はない」
俺はすぐに言った。
「解除できるなら、それでいい」
「陛下」
「その前に、理由を聞かせてくれ」
リゼルは俯いたまま、答えない。
俺から数歩離れた場所で、剣を握る手を隠している。
いつもなら、俺の命令に即答する。
危険な場所では、自分の恐怖を見せるより先に俺の前へ立つ。
そのリゼルが、今は顔を上げられずにいた。
『記録を見せよう』
天城久遠の声が、地下施設全体へ響いた。
中央に浮かぶ巨大な球体へ、三百年前の映像が表示される。
「待ってください」
俺は映像が始まる前に止めた。
「天城さん。さっき見せた記録は、第一塔を停止した部分だけでしたよね」
『そうだ』
「理由を知っていたんですか」
短い沈黙。
『知っている』
「それを隠して、リゼルが塔を止めた事実だけを見せた?」
『君がどう判断するか、確認する必要があった』
「何を確認するんです」
『三百年間待ち続けた元部下が、実は世界を救う塔を止めていた。そう知った時、君が彼女を信じるのか。それとも、責任を追及するのか』
試されていた。
俺だけではない。
リゼルも。
「人を使って試すのは、やめてください」
『統治者には、他者を疑うことも必要だ』
「疑うのと、事情を隠して反応を見るのは違う」
天城は何も答えなかった。
「完全な記録を出してください。編集も省略もなしで」
『見れば、君自身も無関係ではいられなくなる』
「もう無関係じゃありません」
俺がこの世界をゲームだと思っていた間にも、彼らは生きていた。
俺が消えたあとに起きたことも。
残した言葉が与えた影響も。
今さら、自分は知らなかったから関係ないとは言えない。
「出してください」
『分かった』
球体に、古いアステリアが映し出された。
◇
サービス終了から、一日後。
王都は混乱していた。
建国王が消えた。
旧統治室は閉ざされ。
領主権限は失われ。
各地の施設が次々と停止している。
映像の中にいるリゼルは、今より少しだけ若く見えた。
白銀の鎧は傷つき、顔にも疲労が残っている。
それでも彼女は休まず、王城と市街地を行き来していた。
『食料庫の開放を優先してください。陛下の御命令を待つ必要はありません』
俺が最後に残した言葉。
もう俺の命令を待たなくていい。
これからは、自分たちのために生きろ。
リゼルは、その言葉を他の者たちへ何度も伝えていた。
俺が消えたことで、命令系統は崩れていた。
兵士も。
文官も。
住民も。
次に何をすればいいのか分からず、閉ざされた旧統治室を見上げていた。
そのたびにリゼルは、自分たちで決めるよう促していた。
『陛下は、我々へ自由をお与えになりました』
涙を流す者へ。
王の帰還を求める者へ。
彼女は何度も同じ言葉を繰り返した。
『御帰還を待つだけでは、陛下の最後の御命令に背くこととなります』
俺を最も待ち続けた人物が。
最初に、自分たちの力で生きることを選ぼうとしていた。
その日の夜。
始まりの砦で、異常が起きた。
地面が割れ。
白い光が噴き出し。
長く使われていなかった地下通路が開いた。
《建国領主との接続消失》
《緊急回収機能を起動します》
リゼルは数名の兵士と共に、地下へ降りた。
そこで第一塔を発見した。
当時の彼女たちには、世界境界管理塔という名前も役割も分からなかった。
ただ。
壁に表示される文字だけは、アステリアの言葉へ変換されていた。
《建国領主レグナを検索》
《所在世界を確認》
《回収経路を構築します》
塔は、地球にいる俺を見つけていた。
サービス終了直後。
グランドリンク側が接続を完全に切断する前に、俺の残留信号を追跡していた。
『陛下をお連れ戻しできるのですか』
映像の中のリゼルが問いかける。
《可能》
その返答を見た瞬間。
彼女の顔に希望が浮かんだ。
三百年間待つ前。
まだ、たった一日しか経っていない。
すぐに俺が戻ってくると思ったのだろう。
《緊急回収処理を開始しますか》
リゼルは実行しようとした。
だが。
指が表示へ触れる直前、新たな警告が現れた。
《対象世界との正規接続は終了しています》
《強制回収を実施した場合、対象個体の現地肉体を維持できません》
《肉体生存予測――〇・七パーセント》
地球側にいる俺の体を残したまま、アステリアへ連れ戻すことはできない。
意識と領主権限だけを引き抜く。
成功しても。
地球にいる俺の肉体は、ほぼ確実に死ぬ。
《回収後の対象状態》
《仮想身体として再構築》
《地球側への再帰還――不能》
ゲーム時代のレグナとしては戻れる。
だが。
如月蓮としての人生は、その瞬間に終わる。
映像の中のリゼルが、表示を何度も確認している。
『安全にお戻りいただく方法は』
《存在しません》
『回収処理を延期し、別の方法を探すことは』
《正規接続の消失まで、残り二時間四十二分》
《期限経過後、対象座標を喪失します》
二時間四十二分以内に選ばなければ。
俺を見つける手段を、永久に失う。
少なくとも、当時はそう考えられていた。
リゼルの周囲にいた兵士たちが、回収を求めた。
建国王を取り戻せる。
再び国を導いてもらえる。
地球側の肉体がどうなるのか、彼らには理解できなかったのかもしれない。
理解していても。
自分たちの世界へ戻ってくるのなら、それで構わないと思った者もいた。
『陛下は、御帰還を望まれておられますか』
リゼルが塔へ問いかける。
《対象意思の確認はできません》
『では、陛下の御意思に関係なく連れ戻すこととなります』
《緊急回収処理に対象同意は必要ありません》
映像の中で。
リゼルの顔から、希望が消えた。
俺が最後に残した言葉。
自分たちのために生きろ。
それは。
地球で暮らしている俺を、無理やり連れ戻せという意味ではなかった。
『回収処理を停止してください』
《要求を拒否》
『停止を命じます』
《初代臣下に緊急回収の停止権限はありません》
塔は自動的に処理を進めていた。
床へ巨大な魔法陣が広がり。
地球へ向けた経路が作られていく。
その時。
更に別の警告が表示された。
《世界間経路周辺に未登録観測反応》
《外部存在による追跡の可能性――八十九・四パーセント》
回収者。
大裂界の向こうにいた存在は、既に二つの世界を繋ぐ経路を見つけかけていた。
俺を強制的に連れ戻せば。
その道を辿り。
アステリアだけではなく、地球まで発見される可能性があった。
《緊急回収を継続しますか》
《継続した場合》
《建国領主回収成功率――六十一・二パーセント》
《地球側肉体生存率――〇・七パーセント》
《外部存在による経路捕捉率――八十九・四パーセント》
《緊急回収を停止した場合》
《建国領主座標を喪失》
《再接続予測――不能》
六割の確率で、俺をアステリアへ戻せる。
その代わり。
地球側の俺は、ほぼ確実に死ぬ。
外部存在に、二つの世界を見つけられる可能性も高い。
停止すれば。
二度と会えないかもしれない。
映像の中のリゼルは、長い間動かなかった。
周囲では、兵士たちが俺の帰還を求めていた。
泣きながら。
声を荒らげながら。
それでも。
リゼルは、回収処理を選ばなかった。
『陛下は、我々へ御命令を残されました』
剣を抜く。
塔の操作中枢へ向ける。
『もう、御命令を待たずに生きろと』
刃を持つ手が震えていた。
『その陛下を、御意思も確認せず連れ戻すことはできません』
《緊急回収処理は自動継続されます》
『では、私が止めます』
リゼルは塔の中枢へ剣を突き立てた。
白い光が弾ける。
警告が次々と表示される。
《初代臣下による管理干渉を検知》
《停止権限なし》
《排除処理を開始》
塔の防衛機能が起動した。
白い人影。
無数の刃。
壁から放たれる光。
リゼルは一人で戦った。
兵士たちを外へ逃がし。
何度傷ついても。
塔の中枢から離れなかった。
回収経路が完成するまで、残り一時間。
三十分。
十分。
最後には、立っていることすら難しいほど傷ついていた。
それでも。
彼女は俺を強制的に連れ戻すことを選ばなかった。
『管理権限がないのであれば』
血に濡れた手で、塔の中枢へ触れる。
『私自身を、封印の鍵とします』
《初代臣下の生命情報を検出》
《対象を緊急停止鍵として登録した場合》
《解除条件――登録者の意思》
《または登録者の生命活動終了》
『登録してください』
《緊急回収経路は失われます》
『構いません』
《建国領主との再接続が不可能となる可能性があります》
リゼルは目を閉じた。
頬を涙が流れていた。
『陛下は最後に、私どもへ自由をくださいました』
震える声で。
それでも、はっきりと告げる。
『その自由を使って、私は陛下の御意思を守ります』
《最終確認》
《第一世界境界管理塔を緊急停止しますか》
『停止してください』
塔の光が消えた。
地球へ伸びていた経路も。
俺の座標も。
すべて失われた。
リゼルは暗くなった塔の中で、一人膝をついていた。
誰にも聞こえない声で呟く。
『どうか、お許しください』
そこで記録は終わった。
◇
地下施設へ、機械の動く音だけが残る。
誰も口を開かなかった。
リゼルは、映像を見ていなかった。
顔を伏せたまま。
三百年前の自分が下した判断を、俺へ説明することもできずに立っている。
「リゼル」
「はい」
声は小さかった。
「顔を上げてくれ」
ゆっくりと。
金色の瞳が俺へ向けられる。
「申し訳ございません」
「どうして謝る」
「私が第一塔を停止させたことで、世界境界は弱まりました」
第一塔が止まり。
他の塔も次々と停止した。
百八十二年後、大裂界が表面化した。
リゼルは、その原因の一部が自分にあると考えている。
「もし、あの日に回収処理を継続していれば」
「俺は地球で死んでた」
「しかし、陛下はアステリアへ」
「それは俺なのか?」
ゲーム内のレグナとして再構築された存在。
記憶が同じなら、俺と呼べるかもしれない。
それでも。
本人の意思を無視して肉体から意識を引き抜かれたなら。
少なくとも、地球で生きていた如月蓮は死んでいた。
「それに、回収者へ地球とアステリアの両方を見つけられていた可能性が高い」
「はい」
「お前は間違ってない」
「ですが」
「俺でも止める」
リゼルの瞳が揺れる。
「あの記録を見て、回収を続けろとは言えない」
「陛下に二度とお会いできない可能性がございました」
「それでも止めたんだろ」
「御意思に背くことが、できませんでした」
自分たちのために生きろ。
俺が軽い気持ちで残した言葉を。
リゼルは、俺を失うことになっても守った。
「ありがとう」
「陛下」
「俺を連れ戻さなかったことも。地球を守ったことも。アステリアを守ったことも」
リゼルの唇が僅かに動く。
言葉にはならなかった。
三百年間。
誰にも話さず。
第一塔を止めた責任を一人で抱えていた。
俺の帰還を最も願いながら。
俺を連れ戻す唯一の機会を、自分で捨てた。
「どうして黙ってた」
「第一塔の封印条件を知られれば、私を殺して再起動を試みる者が現れる可能性がございました」
当時のアステリアには。
どんな犠牲を払っても俺を取り戻そうとする者がいた。
リゼル自身が封印の鍵だと知られれば、命を狙われる。
「セレフィナも知らない?」
「封印の詳細は伝えておりません」
「三百年も一人で抱えたのか」
「陛下の御帰還を諦めたわけではございませんでした」
リゼルが胸元へ手を当てる。
そこには、俺がゲーム時代に渡した《主従の銀環》がある。
「第一塔の経路は失われました。ですが、この銀環だけは陛下との繋がりを保っておりました」
「それで探し続けた?」
「はい」
強制的に連れ戻す道は閉じた。
代わりに。
俺の意思で帰れる道を、三百年かけて探した。
だから、マンションへ開いた門は。
俺の体を奪わなかった。
地球側で生きたまま、自由に行き来できる形になった。
「第一塔の封印は解除できるんだな」
「はい」
「解除したら、昔の回収処理も再開する?」
「その可能性がございます」
リゼルが恐れていたのは、それだった。
塔を再起動すれば。
三百年前に停止した処理も、一緒に動き出すかもしれない。
今度は、俺だけではない。
開いている世界間転移門を通じて、回収者が地球へ到達する可能性もある。
「現実認定を受けた今なら、処理を書き換えられるはずです」
第七端末が言った。
「建国領主自身が第一塔へ到達し、緊急回収機能を停止すれば、境界管理機能のみを再起動できます」
「安全性は?」
「第一塔内部の状態を確認するまで断定できません」
「行くしかないな」
天城の立体映像が、俺を見る。
『第一塔へ向かうなら、この施設から転移経路を開ける』
「あなたは来るんですか」
『私はここから離れられない』
「なら、観測だけにしてください」
『信用していないのか』
「御影さんに言われましたから」
天城は少しだけ笑った。
『正しい判断だ』
「それと」
俺は球体へ表示された古い記録を見る。
「次からは、一部分だけ見せて人を試さないでください」
『約束はできない』
「それなら、こちらもあなたが出す情報を最初から疑います」
『構わない』
「構わなくないでしょう。協力するなら、最低限の信頼は必要です」
天城は答えなかった。
地球を守るために、一つの世界を消した男。
必要なら、アステリアも切り捨てる。
その考えが簡単に変わるとは思えない。
「俺たちは第一塔を再起動します」
『失敗すれば、地球側の人工端末を使う』
「勝手に使わないでください」
『第七塔が破壊されれば、選択肢はなくなる』
「それまでに戻ります」
天城が、俺たちの前へ転移経路を表示した。
《転移先――始まりの砦》
《第一世界境界管理塔周辺》
「外務省の人たちは、ここで待っていてください」
同行していた職員二人は、簡単には納得しなかった。
「状況について、日本政府への説明が必要です」
「戻ったら話します」
「如月様が戻られない可能性もあります」
「戻ります」
それ以上の保証はできなかった。
俺。
リゼル。
セレフィナ。
ノア。
第七端末。
五人で転移経路へ入る。
白い光が視界を覆った。
◇
到着したのは、小さな砦だった。
崩れかけた木製の柵。
古い石壁。
中央にある小さな井戸。
ゲームを始めた頃と、ほとんど姿が変わっていない。
「ここだけ、昔のままだ」
「始まりの砦は、建国記念地として保存されております」
セレフィナが答える。
「住民は?」
「周辺に新しい街がございます。砦内への居住は認められておりません」
「観光地みたいになってないだろうな」
「年間訪問者は、約四百八十万人でございます」
「なってるじゃないか」
俺がリゼルを助けた場所。
最初の畑を作った場所。
住民二十人を守るため、何度も魔物と戦った場所。
アステリアにとっては、建国の始まりだ。
砦の外には大勢の人が集まっていた。
俺たちの転移を見た瞬間。
一斉に膝をつく。
「陛下の御帰還だ」
「始まりの地へ、お戻りになられた」
声が広がっていく。
到着したことを知らせていなかったのに。
数分も経たず、周辺の街から鐘が鳴り始めた。
「今は式典をやってる時間はない」
「直ちに制止いたします」
セレフィナが外へ指示を送る。
リゼルは砦の中央へ進んだ。
古い井戸の横。
何もない地面で足を止める。
「こちらです」
剣を抜き、地面へ先端を向ける。
白銀の光が走った。
土の下から、石造りの階段が現れる。
「三百年間、一度も開けなかったのか」
「はい」
暗い階段。
リゼルが先頭を歩く。
一段降りるごとに、空気が冷たくなっていく。
壁には古い傷が残っていた。
三百年前。
塔の防衛機能と戦った時についたものだろう。
階段の先に、巨大な白い扉があった。
何重もの銀色の鎖が巻きついている。
鎖の一端は、リゼルの胸元にある《主従の銀環》へ繋がっていた。
《第一世界境界管理塔》
《状態――緊急停止》
《封印登録者――リゼル・アルフェリア》
《封印解除を実行しますか》
リゼルが俺を見る。
「陛下」
「怖いか」
「はい」
正直な答えだった。
「塔の再起動がではございません」
「何が怖い」
「陛下に、三百年前の選択を否定されることが」
俺は白い扉ではなく、リゼルを見る。
「もう否定しないと言っただろ」
「はい」
「封印を解いてくれ」
リゼルが銀環へ触れる。
「御意」
鎖が一本ずつ外れていく。
三百年間。
彼女の命と繋がっていた封印。
最後の一本が消えた。
《封印解除を確認》
《緊急停止を終了》
白い扉が、ゆっくり開く。
内部から光が溢れた。
《建国領主レグナを確認》
《緊急回収処理を再開します》
「止めろ」
俺は扉の中へ入る。
《回収対象――如月蓮》
《対象はアステリア世界内に存在》
《回収処理を再計算》
《地球側肉体との統合を確認》
《現実認定済み》
表示が何度も切り替わる。
《緊急回収は不要と判断》
《回収経路を破棄しますか》
「破棄する」
《実行後、建国領主の強制召喚は永久に使用できません》
「構わない」
《領主不在時も、本人の同意なく回収することはできなくなります》
「それでいい」
俺の意思を無視して連れ戻す機能など、必要ない。
「実行」
《緊急回収経路を破棄》
塔の奥で、大きな音が響いた。
地球へ繋がろうとしていた古い経路が閉じる。
リゼルの銀環からも、細い光が離れていった。
《第一世界境界管理塔を通常管理状態へ移行》
《境界炉を再起動》
白い塔全体が震える。
床から光が昇り。
停止していた設備が、三百年ぶりに動き始める。
《第一世界境界管理塔――再起動》
世界地図に、四つ目の光が灯った。
《稼働中管理塔――四基》
《世界境界封鎖機能の使用条件を達成》
「できた」
ノアが何枚もの管理画面を確認する。
「四塔とも正常。地球側の人工端末を使う必要はない」
リゼルの肩から、力が抜ける。
三百年間背負っていた封印が。
ようやく、本来の役割へ戻った。
「これで大裂界を閉じられるんだな」
第七端末が封鎖機能を開く。
《世界境界封鎖を実行可能》
《外部接続経路――二件》
《未許可外部接続を一括遮断します》
二件。
一つは大裂界。
もう一つは。
《外部接続一》
《接続先――外部侵蝕領域》
《分類――敵性》
《外部接続二》
《接続先――地球》
《分類――未登録》
「待て」
一括遮断を実行すれば。
大裂界だけではなく、地球との門まで閉じられる。
「地球を許可対象に変更できないか」
《接続先世界の相互承認が必要です》
「相互承認?」
《アステリア側主権者による承認》
《地球側統治機構による承認》
「地球側の統治機構って、日本政府か?」
「転移門が日本国内へ接続されているため、現在は日本国が該当します」
第七端末が答える。
俺一人が地球との接続を残したいと決めても足りない。
地球側からも。
アステリアを正式な接続先として認めてもらう必要がある。
《未登録接続を維持した状態で、敵性接続のみを遮断する場合》
《誤接続発生率――三十二・八パーセント》
「誤接続が起きると?」
「大裂界の一部が、地球側経路へ流入する可能性があります」
大裂界を閉じようとした結果。
回収者を地球へ送り込む危険がある。
それは選べない。
《安全な世界境界封鎖に必要な条件》
《地球側統治機構による世界間接続承認》
《期限――第七塔破壊まで、二十時間五十八分》
第一塔は起動した。
世界境界を閉じる準備も整った。
それでも。
最後に必要なのは、魔法でも。
領主権限でも。
誰かの犠牲でもなかった。
「日本政府に、アステリアを国として認めてもらえってことか」
「正確には、接続先世界としての承認です」
セレフィナが静かに答える。
「事実上、地球との最初の正式な外交交渉となります」
二十時間以内に。
異世界の存在を説明し。
三億人が暮らす国家を認めさせ。
世界間の接続許可を得る。
失敗すれば。
大裂界を閉じられない。
あるいは、地球との門を永久に失う。
その時。
俺のスマートフォンが震えた。
アルノルトからの報告だった。
《陛下》
《日本国外務省より、アステリア王国との正式協議を開始したいとの回答がございました》
続けて。
もう一件。
《ただし、日本政府は陛下をアステリア王国の国家元首として認めるにあたり、御本人による説明を求めております》
俺は会社員として出勤したばかりだったはずなのに。
次に地球へ戻る時には。
日本政府を相手に。
異世界国家の建国王として、交渉しなければならなくなっていた。




