第13話 最後のサーバーを使えば、帰れなくなる
書き直し消去予定
《地球側人工境界端末より応答》
《接続要求を拒否》
《地球側端末を使用したければ、私のもとへ来い》
《所在地――株式会社グランドリンク旧本社地下施設》
表示された座標は、日本国内だった。
俺のマンションから車で一時間ほど。
《エルグランド・サーガ》を十五年間運営していた株式会社グランドリンク。
七年前のサービス終了後に事業を縮小し、旧本社は閉鎖されたと聞いている。
その地下で。
死亡したはずの創業者と、最後のゲームサーバーが今も動き続けている。
「陛下」
現在のセレフィナが、俺の前へ進み出た。
第五塔へ残る若いセレフィナとは、まだ視線を合わせられないようだった。
「私も同行いたします」
「王都の指揮は大丈夫なのか」
「ノアへ引き継ぎます」
「今度は隠してないだろうな」
責めるような言い方になった。
セレフィナは一瞬だけ目を伏せる。
「現在、旧統治室で対応可能な案件は、すべてノアと各省庁へ共有しております」
「現在って言い方が気になる」
「陛下へ御報告していない過去の案件は、まだございます」
誤魔化さなかった。
「帰ったら全部聞く」
「御意」
すぐに許せるわけではない。
二百九十三年間、三百四十七人の存在を隠していた。
俺が危険へ向かうと考え、俺自身に判断させなかった。
それでも今は、第五塔で眠る人々の救助と、大裂界への対応を優先しなければならない。
若いセレフィナが生命維持装置の間から俺たちを見送る。
「陛下」
「何だ」
「どうか、現在の私をお見捨てにならないでください」
意外な言葉だった。
「信用するなと言ったのは、お前だろ」
「はい」
「それでも、見捨てるなと?」
「信用できぬ者を傍へ置き、監視することも統治でございます」
昔のセレフィナも、こういう言い方をしていた。
理屈で包んでいるが、本当に伝えたいことは別にある。
「分かってる」
俺は現在のセレフィナを見る。
「勝手に追い出したりしない」
「ありがとうございます」
答えたのは、二人同時だった。
俺たちは第五塔から旧統治室へ戻った。
◇
旧統治室の時計は、午前十一時四十七分を示していた。
俺が会社から消えて、まだ三時間も経っていない。
その間に。
第四塔で御影総司と会い。
第五塔を侵蝕体から取り戻し。
二百九十三年前に分離されたセレフィナと対面した。
体感では、一日以上動き続けている気がする。
領主転移の光が消えると、ノアが駆け寄ってきた。
「第五塔の起動を確認した」
小さな角の間に掛けた魔導眼鏡へ、何枚もの数値が流れている。
「世界境界の安定率は三十七パーセント。第七塔への負荷も低下した」
「どれくらい持つ」
「第七塔は二十一時間まで延びた」
五時間ほど増えている。
それでも、猶予が十分とは言えない。
「地球側の人工端末を使えば、今すぐ世界境界を閉鎖できるらしい」
「地球に、塔を作ったの?」
「ゲームサーバーを塔の代わりにしている」
ノアの目が輝く。
危機的状況でなければ、すぐに分解して調べようとしただろう。
「見たい」
「これから行く」
「私も行く」
「王都の管理は?」
「分身体を置く」
「また抜け道を使うつもりか」
「命令には違反しない」
アルノルトと同じ理屈だった。
現実世界へ渡る本体は、俺の許可を得る。
アステリアへ残す方を分身体にする。
「連れていってくれないなら、投影体で先に行く」
「脅すなよ」
「合理的な提案」
ノアの技術が必要になる可能性は高い。
天城久遠が何か仕掛けていたとしても、管理端末だけでは地球側の設備を完全に解析できないかもしれない。
「分かった。ただし、向こうの機械を勝手に分解するな」
「必要なら分解する」
「許可を取れ」
「陛下の?」
「所有者の」
「陛下が所有すれば解決する」
「会社ごと買うつもりか」
「百八十億円よりは安いと思う」
マンション一棟のために金塊を持ち込んだ者たちだ。
冗談に聞こえない。
「買わないからな」
「検討はする」
「しなくていい」
最低限の準備を整え、世界間転移門へ向かう。
門の向こうには、俺のマンションの室内が見えていた。
だが、昨夜とは様子が違う。
窓には遮光布が掛けられ、部屋の中には見覚えのない機械が置かれている。
外務省の職員らしき者もいた。
「俺の部屋に何を設置してるんだ」
「魔力と放射線、電磁波の測定装置です」
セレフィナが答えた。
「日本政府より、転移門の安全性を確認したいとの申し出がございました」
「許可したのか」
「室内を傷つけないことを条件に」
「俺の部屋だぞ」
「建物の購入手続きが完了すれば、王国所有となります」
「完了させるなと言ったよな」
「現在も保留中でございます」
保留と中止の違いを、誰か彼女たちへ教えてほしい。
門を越える。
地球側へ足を着けた瞬間、部屋にいた全員がこちらを向いた。
スーツ姿の職員。
白衣を着た研究者。
警備担当者。
その奥には、アルノルトもいる。
「陛下。お戻りになられましたか」
「話を進めてないだろうな」
「契約の締結は行っておりません」
「締結以外は?」
「協議のみでございます」
嫌な予感がする。
テーブルの上には、何十枚もの資料が積み上げられていた。
会社の休暇。
マンションの購入。
外交窓口の設置。
電力供給。
転移門周辺の安全管理。
本当に全部まとめて交渉している。
「今は天城久遠に会う」
名前を出した瞬間、部屋にいた外務省職員の表情が変わった。
「天城久遠氏ですか」
「知ってるんですか」
「株式会社グランドリンクの創業者です。七年前に死亡したとされています」
「生きてる可能性がある」
「根拠は」
「向こうの世界の管理設備で、今も活動中と確認された。さっき電話でも話した」
職員たちが互いに顔を見合わせる。
外務省だけで判断できる話ではない。
「旧本社の地下施設へ行きます」
「単独で向かわれることは認められません」
「許可を求めてるわけじゃないんですが」
「安全確認が必要です」
話し方は丁寧だが、引く様子はない。
俺が会社のエレベーターから消えたことも、既に報告されているのだろう。
「同行するなら止めません。ただ、時間がない」
「車両を準備しております」
「もう?」
「先ほど、アステリア王国使節団より、旧本社の土地所有者と現在の管理会社へ連絡が入りました」
アルノルトを見る。
「陛下の移動を円滑にするため、事前調整を行いました」
「俺が行くと決める前に?」
「いずれ必要になると判断いたしました」
有能ではある。
俺の知らないところで動かなければ、もっと助かる。
◇
株式会社グランドリンク旧本社。
建物は、湾岸部から少し離れた研究団地に残っていた。
七階建て。
看板は外され、入口には別の管理会社の名前が貼られている。
外観だけなら、長く使われていない普通のオフィスビルだった。
周囲には警察車両と、外務省が用意した車が並んでいる。
俺たちが到着した時には、建物の管理責任者も待っていた。
「地下施設については、こちらでも把握しておりません」
五十代ほどの男性が、古い図面を抱えている。
「登記上は地下二階までとなっています」
「座標は更に下を示してる」
第七端末が建物を見上げる。
地球側では、白髪の少女に見えるよう外見を整えている。
「地下百三十七メートルに、人工境界端末の反応があります」
「そんな深さまで?」
「空間拡張が使用されています。物理的な距離とは一致しません」
管理責任者には意味が分からないようだった。
俺にも完全には分からない。
建物へ入る。
電気は一部しか通っていない。
受付。
広いロビー。
撤去されずに残った案内板。
壁には、《エルグランド・サーガ》の古いポスターが掛かっていた。
十周年記念イベント。
俺も参加した。
限定装備を取るため、一週間ほとんど寝ずに周回した記憶がある。
ポスターの中央には、アステリア王都が描かれている。
俺が作った頃より、少しだけ豪華に調整された街並み。
「これは、王都ですか」
リゼルが立ち止まる。
「ああ。地球では、こういう絵を使ってゲームを宣伝してた」
「陛下がお作りになられた都を」
「正確には、ゲーム画面を描き直したものだけどな」
リゼルはポスターをしばらく見つめた。
自分たちの世界が、地球では商品として扱われていた。
どう感じているのかは分からない。
俺にも、何と言えばいいか分からなかった。
「後ほど、持ち帰ってもよろしいでしょうか」
「何で?」
「王立記録院へ収蔵いたします」
「宣伝用のポスターだぞ」
「地球側における、アステリア最初期の外交資料でございます」
外交資料ではない。
だが説明している時間もない。
エレベーターホールへ向かう。
地下二階までのボタンしかない。
第七端末が操作盤へ手を触れた。
《地球側人工端末へ管理者認証を要求》
《応答なし》
俺も指輪を近づける。
操作盤の下に、存在しなかったはずの赤いボタンが浮かび上がった。
《関係者専用》
「押せってことか」
「罠の可能性がございます」
リゼルが俺より先にボタンを確認する。
「天城久遠が来いと言った場所だ。入口くらい開けるだろ」
「だからこそ、警戒が必要です」
ノアが操作盤へ杖の先を近づける。
「爆発物はない。転移構造が入ってる」
「行き先は?」
「下」
「どれくらい下だ」
「地球の距離では測れない」
結局、押すしかない。
赤いボタンへ触れる。
エレベーターの扉が開いた。
中は普通の箱に見える。
俺。
リゼル。
セレフィナ。
ノア。
第七端末。
外務省職員二人が乗り込む。
警備担当者も続こうとしたが、重量制限の表示が出た。
《管理区画入室可能人数――七名》
ちょうど上限だった。
「俺たちだけで行きます」
扉が閉じる。
下降が始まった。
階数表示は動かない。
地下二階を通過したあと、表示そのものが消えた。
窓はない。
機械音もしない。
ただ、体がゆっくり沈んでいく感覚だけが続く。
「陛下」
リゼルが俺のすぐ隣へ立っている。
「何かあったら、俺を守る前に自分も守れよ」
「善処いたします」
「約束しろ」
「陛下をお守りした上で、努力いたします」
順番を変えるつもりはないらしい。
十分ほど経った頃。
下降が止まった。
扉が開く。
その先にあったのは、巨大な空間だった。
天井は見えない。
何百本もの黒い柱が並び、その表面を青い光が走っている。
冷却装置の低い音。
床下を流れる大量の液体。
地球のサーバールームに似ている。
だが、規模が違いすぎた。
「これが全部、ゲームサーバー?」
ノアが目を見開く。
「違う」
第七端末が答える。
「地球側人工境界端末の一部です」
柱の一つ一つに、見覚えのある名前が表示されている。
《北方大陸管理領域》
《西部王国群》
《南方海域》
《アステリア統治領域》
サーバーではない。
世界を区切り、管理するための装置。
地球側では、それをゲームのサーバーと呼んでいた。
『よく来たね』
天城久遠の声が響く。
部屋全体に設置されたスピーカーから聞こえている。
「どこにいる」
『中央だ』
床に白い線が灯る。
案内に従い、柱の間を進む。
途中、いくつもの画面が起動した。
懐かしいゲーム画面。
キャラクター選択。
国家一覧。
フレンドリスト。
運営からのお知らせ。
すべて、サービス終了当日の状態で止まっている。
俺の名前もあった。
《プレイヤー名――レグナ》
《所属国家――アステリア》
《最終ログイン――サービス終了日》
《状態――接続継続中》
「接続継続中?」
七年前にログアウトしたはずだ。
『君の権限だけは、完全に切れなかった』
天城の声が答える。
『だからサーバーも、終了処理を完了できなかった』
「俺のせいで残ってたのか」
『君だけのせいではない』
更に奥へ進む。
中央には、巨大な球体が浮かんでいた。
無数のケーブルが繋がり、表面へアステリアの地図が映し出されている。
その下。
椅子に、一人の老人が座っていた。
白い髪。
痩せた体。
目は閉じられている。
頭部と両腕には何本もの管が繋がっていた。
写真で見た天城久遠より、遥かに老いている。
「天城久遠さん?」
老人の目は開かない。
代わりに、球体の上へ立体映像が現れた。
七十歳ほどの、穏やかな顔をした男。
『肉体は既に役目を終えている』
「死んでるのか」
『医学的にはね』
第七端末が老人を解析する。
「心肺機能は人工端末が代行しています。脳活動の大半も、装置側へ移行しています」
「御影さんと同じじゃないか」
『御影君は、死後の記憶を塔へ残した』
天城の映像が、自分の肉体を見る。
『私は死ぬ前に、人工端末の一部になった。意識は今も連続している』
「それを生きていると言えるのか」
『自分でも分からないよ』
老人の体は動かない。
立体映像だけが、こちらへ微笑んでいる。
「どうして接続を拒否した」
『説明するためだ』
「電話で話せたはずだ」
『言葉だけで理解できる内容ではない』
天城が手を上げる。
中央の球体に、二つの世界が表示された。
一つは地球。
一つはアステリア。
その間を、細い光の線が繋いでいる。
『これが、現在の接続状態だ』
光の線の中央には、《エルグランド・サーガ最終サーバー》と表示されている。
「アステリア側が門を開き、地球側ではこの装置が受け止めた」
『そうだ』
「これを第四塔として使えば、世界境界を閉じられる」
『正しい』
「だったら、今すぐ接続してくれ」
『その前に、結果を見てもらう』
球体の表示が変わる。
稼働中の第四塔。
第五塔。
第七塔。
そして地球側人工端末。
四つが白い線で結ばれる。
《世界境界封鎖を実行》
映像上で、大裂界が閉じていく。
黒い亀裂が消え。
巨大な目も。
腕も。
世界の外側へ押し戻される。
アステリア全土を覆う薄い膜が完成した。
「成功してるじゃないか」
『最後まで見なさい』
地球とアステリアを繋いでいた光の線が、急速に細くなる。
世界間転移門。
投影体。
通信。
すべての接続が、一つずつ消えていく。
《外部接続経路を遮断》
《地球側人工端末を境界固定に使用》
《世界間接続機能――消失》
最後に、二つの世界を繋いでいた線が完全に切れた。
「門が閉じる?」
『それだけではない』
《地球側人工端末――機能停止》
《再接続不能》
《異世界間座標――消去》
『この人工端末は、管理塔として作られたものではない。四基目として使えば、処理に耐えられず焼き切れる』
「新しく作り直せないのか」
『不可能ではない』
「なら」
『完成まで、地球時間で最低二十年』
アステリア側では、八百年以上になる可能性がある。
俺にとっては二十年。
リゼルたちにとっては、それ以上。
「一度閉じたら、当分行き来できない」
『当分ではない』
天城の映像が、俺を見る。
『アステリア側で同じ三百年の時間差が維持される保証はない。次に繋がった時、文明そのものが消えている可能性もある』
リゼルが俺の袖を掴む。
力は弱い。
けれど、指が震えている。
「陛下」
声が僅かに掠れていた。
世界境界を閉じれば、大裂界からアステリアを守れる。
地球も守れる。
その代わり。
俺たちは、もう会えなくなる。
「俺がアステリア側に残れば?」
『君は地球へ帰れない』
「地球側に残れば」
『アステリアへ戻れない』
「門を閉じる前に、どちらかを選べってことか」
『そうだ』
会社。
マンション。
地球で過ごした三十二年。
家族や知人。
当たり前だと思っていた生活。
アステリア。
三百年間待ち続けた元部下たち。
三億人の国民。
俺が作り、彼らが守った国。
どちらかを選べ。
天城は、そのために俺をここへ呼んだ。
「これを電話で説明しても、君は別の方法を探すと言っただろう」
「今も言う」
『何?』
「他の管理塔を起動する」
地球側人工端末を使わなければいい。
あと一つ。
本物の世界境界管理塔を起動すれば、門を残したまま大裂界を閉じられる。
『時間がない』
「第七塔は二十一時間。王都結界はもっと持つ」
『回収者は待ってくれない』
「だからって、最初から二つの世界を切り離すつもりはない」
『選ばないことも、選択だ』
「選ばないんじゃない」
俺は世界地図を開く。
「両方残す方法を探す」
天城の映像から、笑みが消えた。
『御影君と同じことを言うんだな』
「御影さんなら、どちらかを切り捨てろとは言わない」
『だから彼は失敗した』
「三百年間、一人で塔を守った人間を失敗扱いするな」
声が強くなった。
天城は黙って俺を見ている。
「あなたは一つの世界を消した。地球を守るためだったと言った」
『事実だ』
「その結果を正しいと思ってるのか」
『正しいかどうかではない。必要だった』
「俺は同じことをしない」
『統治者が感情で決めれば、より多くの者が死ぬ』
「数字だけで決めても、人が死ぬ」
御影が言っていた。
プレイヤーより、運営側の方がこの世界を数字として見ていた。
人口。
接続率。
生存率。
地球八十億。
アステリア三億。
多い方を残せば正しい。
そんな単純な話ではない。
「別の塔の情報を出してくれ」
天城は答えない。
「あなたなら知ってるはずだ」
『知っている』
「起動できる塔は?」
『一基ある』
第七端末が天城を見る。
彼女の記録には表示されていなかった情報らしい。
「どこです」
『アステリア領内だ』
「領内?」
管理画面では、停止中の塔は遠方にあると表示されていた。
北方。
西方海底。
南東大砂海。
アステリア本土にある塔など、表示されていない。
『第一世界境界管理塔』
球体に、地図が浮かぶ。
アステリア王都から、かなり離れた地方。
だが、俺には見覚えがあった。
小さな森。
古い砦。
始まりの平原。
「ここは」
リゼルも気づいた。
「陛下と、私が初めて出会った地でございます」
ゲーム開始直後。
魔物に襲われていたリゼルを助けた場所。
住民二十人しかいない、崩れかけた砦。
後にアステリア建国の出発点となった土地。
『第一塔は、その砦の地下にある』
「どうして管理画面に表示されない」
『登録が消されているからだ』
「回収者に奪われた?」
『違う』
天城が古い記録を開く。
《第一世界境界管理塔》
《状態――緊急停止》
《管理情報――削除》
《停止日時――サービス終了翌日》
俺が消えた直後。
第一塔は、誰かの手で止められていた。
「誰がやった」
『見る覚悟はあるか』
「出してくれ」
天城が記録を展開する。
停止命令。
管理塔の封鎖。
地図情報の削除。
すべて、正規のアステリア側権限を使って実行されている。
《第一塔緊急停止命令》
《実行者――初代近衛騎士団長》
リゼルの手が、俺の袖から離れた。
《登録名――リゼル・アルフェリア》
空間が静まり返る。
俺は表示と、隣にいるリゼルを交互に見た。
「リゼル」
彼女の顔から、血の気が引いている。
「知ってたのか」
「私は……」
いつもなら、迷わず答える。
どんな時でも俺を見ていた金色の瞳が、初めて視線を逸らした。
「停止させました」
小さな声だった。
「陛下が我々の前から消えられた、翌日に」
「どうして」
リゼルは答えない。
代わりに、天城が記録の続きを表示した。
《第一塔再起動条件》
《停止実行者による封印解除》
《または》
《停止実行者の生命活動終了》
「陛下」
リゼルが一歩、俺から離れる。
剣を抜くためではない。
震える手を、俺に見られないよう隠すためだった。
「第一塔を再起動する方法は、二つございます」
彼女の声は、無理に平静を保とうとしていた。
「私が、三百年前に施した封印を解くか」
一度、言葉が途切れる。
「私が死ぬかです」
最後の一基。
門を失わず。
地球も。
アステリアも。
両方を守るために必要な塔。
それを三百年前に止めたのは。
俺を最も長く待ち続けた、リゼルだった。




