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サービス終了したゲーム世界から、元部下たちが現実へ帰ってきた  作者: てへろっぱ


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11/22

第11話 死んだはずの創業者から、電話がかかってきた

書き直し消去予定


《天城久遠――七年前に死亡》


《同一管理者信号を検出》


《現在位置――地球》


《管理者状態――活動中》


 白い画面に表示された文字を、何度読み直しても内容は変わらなかった。


 株式会社グランドリンク創業者。


 初代代表取締役、天城久遠。


 《エルグランド・サーガ》を作り、サービス終了の日には公式サイトへ最後の挨拶を掲載した人物。


 公表されている情報では、七年前に死亡している。


 それなのに、世界境界管理塔は、今も地球上に存在していると判断していた。


「管理者状態が活動中というのは、生きているという意味か」


 第七端末が、表示された情報を確認する。


「肉体の生存を示すものではありません」


「御影さんと同じ、管理人格だけの可能性もある?」


「はい。ただし、検出されている信号は第四塔管理者より強力です」


 画面に二つの波形が表示された。


 一つは、先ほど消えた御影総司のもの。


 もう一つは天城久遠。


 御影の信号が細く不安定だったのに対し、天城のものは一定の間隔で強く脈打っている。


「設備へ残された記憶というより、今も何かを操作している反応です」


「場所は分からないのか」


《地球側管理者信号を追跡》


《検索範囲――世界間接続経路周辺》


《妨害を確認》


《位置特定失敗》


「妨害?」


「対象は、自らの管理者信号を隠蔽しています」


 隠れている。


 偶然、信号だけが残っていたわけではない。


 誰かに見つからないよう、意図的に場所を隠している。


 御影が最後に残した言葉が蘇る。


 信用するな。


「こちらから連絡はできるか」


「推奨いたしません」


 答えたのはリゼルだった。


「御影総司という人物が、信用するなと警告を残しました」


「分かってる。だからこそ、何をしているか確認する必要がある」


「陛下御自身が接触される必要はございません」


「アステリアの人間を送る方が危険だろ」


 天城久遠は、この世界を発見した側の人間だ。


 ゲームとして利用した。


 管理塔の存在も、領主権限の仕組みも知っている可能性が高い。


 アステリアの住人だけでなく、俺たちが使っている魔法や投影体の仕組みまで把握していてもおかしくない。


「地球側の政府へ調査を頼めませんか」


「頼むには、何を説明する」


「死亡したはずの人物が生きている可能性を」


「根拠は、この塔の表示だけだ。しかも、相手は場所を隠している」


 外務省へ伝えても、すぐに動ける話ではない。


 そもそも俺たちは、昨日初めて接触したばかりだ。


 ゲーム世界が実在したことすら、十分には説明できていない。


「今は塔を優先する」


 画面から天城久遠の情報を閉じる。


「残り二つを起動しなければ、世界境界を閉じられない」


 現在稼働しているのは、第七塔と第四塔。


 最低稼働数まで、あと二つ。


 次の候補は、西の海底にある第二塔と、南東の砂漠にある第五塔。


 どちらへ向かうべきか。


「現在の状態を出してくれ」


 世界地図が表示される。


《第二世界境界管理塔》


《所在地――西方深海域》


《停止期間――二百四十一年》


《内部反応――不明》


《第五世界境界管理塔》


《所在地――南東大砂海》


《停止期間――二百九十三年》


《内部反応――外部侵蝕あり》


「第二塔の方が安全そうだな」


「不明は安全を意味しません」


 第七端末が淡々と答える。


「信号が取得できないほど損傷している可能性があります」


「第五塔は侵蝕されていると分かっている」


「はい」


「なら、第二塔からだ」


 リゼルも反対しなかった。


 海底という時点で普通なら簡単に行ける場所ではないが、管理塔からの直接転移が使える。


 問題は、到着後の環境だった。


「塔の中に水が入っている可能性は?」


「高いと予測されます」


「呼吸できるようにできるか」


「第四塔の機能を利用し、環境保護を付与できます」


 第七端末が手を上げる。


 俺とリゼルの周囲へ、薄い白い膜が広がった。


 肌へ触れる感覚はない。


「水中呼吸、耐圧、体温維持。三機能を簡易付与しました」


「どれくらい持つ」


「二時間です」


「短くないか」


「直接転移による外部端末への機能付与限界です」


 二時間以内に第二塔を再起動しなければならない。


 失敗すれば、深海に取り残される可能性もある。


 リゼルが俺の前へ立つ。


「陛下は、ここでお待ちください」


「またそれか」


「御影総司から必要な情報は得られました。第二塔の再起動は、私と第七端末で」


「領主権限が必要だろ」


「一部をお預かりできませんか」


「複製は侵蝕される危険がある」


「陛下御自身を危険へ晒すよりは」


「駄目だ」


 リゼルの顔が険しくなる。


「危険な選択をする時は相談すると仰いました」


「相談してる」


「私が反対しております」


「反対されたら何もしないとは言ってない」


「陛下」


 声が低くなる。


 怒っているというより、怯えている。


 第四塔へ来る前。


 俺はこの世界で死ねば戻れない体になった。


 その直後から、危険な場所ばかり渡り歩いている。


 リゼルが心配するのも当然だった。


「俺が行かないと塔を動かせない」


「別の方法を探します」


「第七塔は、あと何時間持つ」


「十五時間四十一分です」


 第七端末が答えた。


「第二塔の調査を延期した場合、第七塔の機能喪失が先行する可能性があります」


「第七端末」


 リゼルが少女を睨む。


「陛下を危険へ向かわせるための説明は不要です」


「事実を報告しています」


「もういい」


 俺は二人の間へ入った。


「行く。でも、今回は戻る条件を先に決める」


「条件でございますか」


「残り時間が一時間を切ったら、起動できていなくても撤退する」


「塔が停止したままでも?」


「死んだら次へ進めない」


 それは、現実認定を行う前の俺なら考えなかったことだ。


 ゲームなら、制限時間ぎりぎりまで粘った。


 失敗しても、やり直せばいい。


 今は違う。


「危険だと判断したら、リゼルの指示にも従う」


「本当でございますか」


「ああ。ただし、俺も必要だと判断したら進む」


 リゼルはしばらく考えた。


 完全には納得していない。


 それでも最後には、ゆっくり頭を下げた。


「その条件であれば、お供いたします」


「決まりだ」


 第四塔から第二塔への直接転移準備が始まる。


 床へ白い円が描かれた。


 その時。


 ポケットのスマートフォンが震えた。


 アステリアにいても、第七端末の機能を通じて地球側の通信が届くようになっている。


 画面を見る。


 非通知。


 外務省か会社だと思った。


 今は出ている時間がない。


 切ろうとした瞬間。


《地球側管理者信号を検出》


 第七端末が電話へ顔を向けた。


「発信元に、管理者信号が含まれています」


「天城久遠か?」


「照合率、九十九・七パーセント」


 偶然ではない。


 向こうから連絡してきた。


 俺が第四塔を起動したことに気づいたのか。


 それとも、御影の管理人格が消えたことを感知したのか。


 電話は鳴り続けている。


「お出になってはなりません」


 リゼルがすぐに止める。


「相手の目的が分かりません」


「出なければ、何も分からない」


「通信を通じて領主権限へ干渉される可能性は?」


 第七端末が首を横へ振る。


「通常通信として隔離できます」


「録音もしてくれ」


「承知しました」


 スマートフォンの通話ボタンを押す。


「もしもし」


 返事はなかった。


 微かな雑音だけが聞こえる。


 何秒か待つ。


『如月蓮君』


 老人の声だった。


 落ち着いた、よく通る声。


 サービス終了時に公開された動画で、一度だけ聞いたことがある。


『ようやく、こちらへ戻ったね』


「天城久遠さんですか」


『その名前を知っているなら、御影君には会えたようだ』


 御影。


 やはり知っている。


「御影総司さんは、消えました」


 電話の向こうで、短い沈黙があった。


『そうか』


 驚いた様子はない。


 悲しんでいるのかも分からなかった。


『彼は最後まで、役目を果たしたんだな』


「あなたを信用するなと言っていました」


『御影君らしい』


「否定しないんですか」


『否定したところで、君は信じないだろう』


 声は穏やかだった。


 敵意は感じない。


 だが、それだけで信用できる相手ではない。


「今、どこにいるんですか」


『地球だよ』


「公表では七年前に亡くなっている」


『肉体はね』


「管理人格だけ?」


『御影君とは少し違う』


 電話の向こうで、何かを操作する音が聞こえた。


『私の肉体は、地球側の境界装置と統合されている』


「地球にも管理塔があるのか」


『塔ではない』


 天城の声が少し低くなる。


『《エルグランド・サーガ》の最終サーバーだ』


 サービス終了後、廃棄されたはずのゲームサーバー。


 それが今も、地球側で動いている。


「サーバーが、世界との接続装置?」


『正確には、管理塔を模倣した人工端末だ』


「まだアステリアへ接続しているんですか」


『接続しているから、君たちの門は開いた』


 言葉が止まった。


 リゼルが俺を見る。


 第七端末も、通話を解析している。


「門を開いたのは、アステリア側の研究だと聞いた」


『半分は正しい』


 天城は御影と似た言い方をした。


『世界を越える門には、両側に接続点が必要になる。アステリア側は三百年をかけて君を探した。地球側では、私が接続点を維持した』


「あなたが門を開けた?」


『最後に許可を与えた』


 リゼルたちは、自分たちの力で俺を見つけたと思っている。


 だが地球側で、天城が門を受け入れていた。


 偶然、俺のマンションへ繋がったわけではない。


「どうして俺の部屋だった」


『君の指輪が、最も強い接続信号を持っていた』


「分かっていたなら、なぜ七年間何もしなかった」


『できなかった』


 初めて、天城の声に疲れが混じった。


『回収者が地球側の接続経路を監視していた。こちらから強く干渉すれば、地球の位置を知られる』


「今は違う?」


『君が門を開いたことで、状況は変わった』


「俺が開いたわけじゃない」


『君が領主権限を地球側で再起動した。結果としては同じだ』


 俺が指輪へ触れたこと。


 リゼルと再会したこと。


 世界間転移門が開いたこと。


 そのすべてが、回収者へ地球の存在を知らせた可能性がある。


「地球も狙われているのか」


『既に探されている』


 背中が冷たくなる。


『今はアステリアの境界が盾になっている。回収者は領主権限を奪い、世界境界管理塔を掌握してから地球へ渡るつもりだ』


「アステリアが破られれば、次は地球」


『そうだ』


「だったら、協力してください」


『そのために電話した』


 天城の答えは早かった。


『第二塔へ行こうとしているね』


「どうして分かる」


『管理塔の再起動順序を監視している』


 俺たちの動きは、最初から見られていた。


 リゼルが剣の柄へ手を伸ばす。


 電話越しの相手へ何もできないと分かっていても、警戒せずにはいられないらしい。


「第二塔に何がある」


『行くな』


「理由は?」


『第二塔は停止しているんじゃない』


 天城の声が、はっきりと変わった。


『回収者に奪われている』


 第七端末が世界地図を開く。


《第二塔状態を再解析》


《信号取得失敗》


《管理者情報――不明》


「外部侵蝕ありとは表示されていない」


『回収者が偽装している。信号を完全に消し、停止した塔に見せている』


「第五塔は侵蝕ありと出ている」


『あれはまだ抵抗しているからだ』


 俺は地図を見る。


 安全そうに見えた第二塔。


 危険が表示されている第五塔。


 実際には、第二塔の方が完全に乗っ取られている。


「信用する根拠がない」


『その通りだ』


 天城は否定しない。


『だから、転移前に第二塔へ管理者認証を要求してみるといい』


 第七端末がすぐに操作を始める。


「第二塔へ認証要求を送信します」


《管理者認証を要求》


《応答待機》


 数秒。


 返事はない。


 更に待つ。


《第二塔より応答》


《管理者――正常》


《転移受入可能》


 一見、問題はない。


 だが第七端末の表情が僅かに変わった。


「異常を確認しました」


「何が違う」


「正規の管理者認証には、個体識別情報が含まれます」


 表示された返答は、管理者は正常と答えただけ。


 誰が管理しているかが書かれていない。


「もう一度、管理者名を要求してくれ」


《管理者個体名を要求》


《応答待機》


 画面が一瞬黒くなる。


 次に返ってきた文字は。


《建国領主レグナ》


 俺の名前だった。


「俺が第二塔を管理していることになってる」


『君を誘い込むためだ』


 天城が静かに言う。


『直接転移した瞬間、領主権限を切り離される』


「知っていたなら、なぜ今まで教えなかった」


『君が第四塔を起動するまで、連絡経路を作れなかった』


「本当に?」


『それに、私は君が現実認定を受けるか確認する必要があった』


「御影さんと同じことを言うんですね」


『同じ計画に関わっていたからね』


 天城久遠は、こちらの事情を知りすぎている。


 信じれば、第二塔の罠を避けられる。


 だが、相手が回収者と繋がっている可能性も捨てきれない。


「では、どこへ行けと言うんですか」


『第五塔だ』


「侵蝕されている塔へ?」


『第五塔は、まだ奪われていない』


「管理者は生きている?」


『分からない』


「知らないこともあるんですね」


『私は神じゃない』


 少しだけ、自嘲するような声だった。


『地球側から見られる情報には限界がある』


「第五塔の危険は?」


『塔の中へ、回収者の一部が侵入している』


「第二塔よりましに聞こえない」


『少なくとも、入った瞬間に権限を奪われることはない』


 それだけで十分危険だった。


「天城さん」


『何だい』


「御影さんは、あなたを信用するなと言いました」


『ああ』


「何をしたんですか」


 電話の向こうで、長い沈黙が続いた。


『世界を一つ、消した』


 軽く言われた言葉の意味が、すぐには理解できなかった。


「何を?」


『エルグランドの前に接続していた世界だ』


 第七端末が僅かに顔を上げる。


 リゼルの手が剣の柄を強く握った。


『回収者に見つかり、地球まで辿られる可能性があった』


「だから、世界ごと切り捨てた?」


『管理機構を破壊した』


「そこに住んでいた人は」


『全員、死んだ』


 天城の声に感情はなかった。


 隠しているのか。


 三百年以上前のこととして、感覚が失われているのか。


『御影君は最後まで反対した』


「当然でしょう」


『だが、その結果、地球は残った』


「同じことをアステリアにもするつもりですか」


『必要なら』


 リゼルが剣を抜いた。


 相手は地球にいる。


 それでも、怒りを抑えられなかったのだろう。


「リゼル」


「この者は、アステリアを滅ぼすと申しております」


「可能性の話だ」


『彼女の反応は正しい』


 天城が口を挟む。


『私は地球を守るためなら、アステリアを切り離す』


「させません」


『だから君へ連絡した』


 矛盾しているように聞こえた。


『私がアステリアを切り捨てる前に、君が救えるか確かめたい』


「試してるんですか」


『期限を与えている』


「何日です」


『三日』


 短すぎる。


 王都結界の残存時間と、ほとんど変わらない。


『三日後、世界境界封鎖機能が復旧していなければ、地球側から接続経路を焼き切る』


「そうしたら、アステリアは」


『回収者に発見された状態で、外部との接続を失う』


「滅びる?」


『高い確率で』


 天城は、それを脅しとしてではなく、予定として伝えていた。


「こちらの都合を無視して、勝手に決めるな」


『君たちだけの問題ではない』


「アステリアの三億人を殺す決定を、地球の人間だけで下すな」


『地球には八十億人がいる』


「数の話じゃない」


『統治者なら、いずれ数を選ぶ時が来る』


「選ばないために動いてる」


 電話の向こうで、天城が小さく笑った。


『御影君が君を選んだ理由が分かったよ』


「俺は選ばれたつもりはない」


『それでも、権限は君にある』


 通話へ雑音が混じり始める。


 第七端末が警告を表示した。


《地球側管理者信号が消失します》


「待ってください」


『第五塔へ行け』


「あなたの居場所は」


『塔を四つ起動できたら教える』


「逃げるつもりですか」


『私はもう逃げられない』


 天城の声が遠くなる。


『如月蓮君』


「何です」


『元部下たちを信じすぎるな』


 リゼルの表情が変わった。


『三百年は、人を変えるには十分すぎる』


「どういう意味だ」


『君を迎えに来た者たち全員が、君の帰還だけを望んでいたわけじゃない』


「具体的に話してください」


『アステリアには、領主の帰還によって失う者もいる』


 雑音が強くなる。


『君の元部下の中に――』


 通話が切れた。


「天城さん」


 かけ直しても繋がらない。


 非通知の履歴だけが残っている。


 第七端末が首を横へ振った。


「管理者信号を見失いました」


 天城久遠。


 地球を守るため、一つの世界を消した男。


 三日後には、アステリアとの接続を切り離すと宣言した。


 第二塔は罠。


 第五塔へ向かえ。


 そして最後に。


 元部下たちを信じるな。


「陛下」


 リゼルが剣を鞘へ戻す。


「天城久遠の言葉を、信じておられますか」


「全部は信じてない」


「では」


「でも、第二塔の認証がおかしいのは事実だ」


 俺の名前を使って、俺を受け入れようとしていた。


 罠だと考える方が自然だった。


「第五塔へ行く」


「承知いたしました」


 リゼルの返事に迷いはない。


 天城が疑えと言った直後でも、彼女は何も変わらなかった。


「リゼル」


「はい」


「俺が戻ることで困る人間はいると思うか」


「おります」


 即答だった。


「いるのか」


「アステリアは三百年、陛下不在のまま国家を運営してまいりました」


 王。


 貴族。


 文官。


 軍。


 宗教。


 三百年の間に、俺の存在を利用して権力を得た者もいる。


 建国王を信仰することで利益を得てきた者。


 帰還しないからこそ、好きに言葉を解釈できた者。


「陛下御自身が戻られれば、偽りを語っていた者は立場を失います」


「セレフィナたちは?」


「御帰還を望んでおりました」


「本当に?」


 リゼルは俺をまっすぐ見た。


「私が、この三百年で変わっていないと申し上げても、証明はできません」


 その答えは、少し意外だった。


 無条件に信じろと言うと思っていた。


「ですので、陛下御自身で御覧ください」


「何を?」


「我々が三百年間、何をしてきたのかを」


 リゼルは胸へ右手を当てる。


「疑われることも、調べられることも受け入れます」


「怒らないのか」


「陛下が、他者の言葉だけで我々を疑われるのであれば悲しく存じます」


 少しだけ、声が低くなる。


「ですが、何も確認せず信じると仰せになる方が、私は不安でございます」


「どうして」


「それは信頼ではなく、思考を放棄しておられるだけだからです」


 三百年前のリゼルなら、こんな言葉は言わなかった。


 俺の命令を待ち、指示へ従う騎士だった。


 三百年の間に。


 彼女は自分で考えるようになった。


 俺が最後に残した命令通りに。


「分かった」


 俺はリゼルの肩へ手を置く。


「戻ったら、ちゃんと聞かせてくれ」


「すべてお話しいたします」


「良いことも悪いことも?」


「陛下がお望みであれば」


「望む」


 リゼルが深く頭を下げた。


「御意」


 第七端末が転移先を切り替える。


《転移先を変更》


《第五世界境界管理塔》


《侵蝕反応――多数》


《内部生存反応――三百四十七》


「三百四十七人?」


 管理塔に、数百人もの生存者がいる。


「塔の管理者だけじゃないのか」


「複数種族の生命反応を確認しました」


「閉じ込められている?」


「不明です」


 転移円が赤く染まる。


《第五塔より転移受入応答》


《応答者――第五塔管理補助者》


《登録名――セレフィナ・アルシェリア》


 俺は表示された名前を見つめた。


「セレフィナ?」


 今、彼女は王都にいるはずだ。


 旧統治室で避難と結界の管理を行っている。


 第五塔にいるはずがない。


 リゼルの表情からも、驚きが消えなかった。


「宰相と同じ名です」


「同姓同名か?」


「アルシェリアの家名を持つ者は、現在セレフィナのみでございます」


 第五塔。


 二百九十三年前に機能停止。


 内部には三百四十七人の生存反応。


 転移を受け入れたのは、王都にいるはずのセレフィナ。


《転移受入準備完了》


《第五塔管理補助者より伝言》


 赤い文字が浮かび上がる。


《お待ちしておりました、陛下》


《どうか、王都にいる私を信用なさらぬよう》


 天城久遠が最後に残した警告。


 元部下を信じすぎるな。


 その意味を確かめるより早く。


 第五塔から、もう一人のセレフィナが俺を呼んでいた。


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