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素晴らしき哉(かな)異世界辺境生活  作者: 富士敬司郎


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第69話:武闘会・表彰式

「それでは、表彰式を始めます!」


 シュリンの声が高らかに会場に響く。


「まずは同種戦、エルダーアラクネ部門、勝者、レメ!」


 わあああ、と歓声が響く。

 レメが一歩前に出てきて、表彰台にいる俺に大きく頭を下げた。

 同種戦の優勝賞品はメダルだ。

 紐で首からかけられるようにしてある。

 ハイドワーフに頼んで純金製のものを仕上げてもらっていた。

 それを彼女の首にかける。


 次いで準優勝者のレケが出てきて、同じく頭を下げた。

 こちらには準優勝者向けの純銀のメダルを与える。


「同種戦、ハイエルフ部門、勝者、サリア!」


 歓声に彼女は手を振って応えた。

 その様子にさらに会場の声が大きくなる。

 こちらにも純金のメダルを。

 準優勝者のサラチにも純銀のメダルを与える。


「同種戦、ハイドワーフ部門、勝者、ウサル!」


 ハイドワーフの優勝者が一歩前に出る。

 俺は声をかけた。


「どうだった?」

「緊張した。ウルル殿も強かった」

「自信は一応あったんだろう?」

「それはそうなんだが、予想以上に皆強くて、予定よりも苦戦した。異種戦で勝てなかったのが心残りだ」

「次も開催すると言ったら、参加するか?」

「前回優勝者が出ないわけにはいかぬからの。その時は是非異種戦でも勝てるように、戦術を練っておきたい」


 そう会話しながら俺はウサルの首にメダルをかける。

 準優勝者にも同様にする。


 次は同種戦のシャドウウルフの番だったが、彼は異種戦の優勝者なので一旦お預けとなった。

 この後に異種戦優勝者の表彰もあるので、そこで一緒にメダルも与える。

 あらかじめそう決めておいた。

 なのでブルーも前には出ない。


「同種戦、大蜘蛛、ビゲスト部門! 勝者……えーと、どう呼べばいいんでしたっけ」


 わはははは、と笑い声が起こった。

 名前がなけりゃそういうことになるよな。

 「ビゲスト部門優勝者」みたいな感じでいいんじゃないか、とアドバイスしたら、次からそう呼ぶことになった。


 同様に、ラージ部門、ミドル部門も「優勝者」「準優勝者」で統一された。

 深々と頭を下げてメダルをかけてもらう。

 そして頭を上げると、一旦取って、別の脚で高らかにそれを掲げた。

 特に同系統からの拍手が大きかった。

 もちろん村人も村人以外も、彼らに称賛を惜しまないなんてけちなことはしない。

 歓声が波のように沸き起こった。


 キュバス部門のイリュガはブルーと同じ理由で受賞は後回し。

 ただ、名前だけが高らかに読み上げられた。


「同種戦、アントケンタウロス部門、勝者、エリリ!}


 初めて聞く名前だったが、常駐組ではなく、外部からの参加組だったようだ。

 メダルを与えると、こちらに耳打ちしてきた。


「副賞をいただいてもよろしいですか?」

「副賞?」


 そう言うと、彼女は俺をいきなり抱きしめた。

 歓声が一転、ブーイングの嵐になった。

 なんてことをするんだ。そんなことをしたらこういう反応になるのも当たり前じゃないか。

 俺はそう考えたが、突っぱねるのも違うような気がしたので、しばらくそのままにしておいた。

 ……こういうことをするのなら、彼女もいずれ常駐という形でなく、ここに本格的に移住してくるのかもしれない。

 今も常駐組の中にはほとんど村へ帰らず、半ば棲み着いてる者が若干数いるので。

 逆に帰ると「次」がいつになるか分からず、再三の帰還要請を必死で断り続けてるらしい。

 俺は誰が常駐するか派遣されてくるかはノータッチ。

 移住するなら、その許諾を与えるだけだ。

 一旦許諾を与えると次から次へと希望者が殺到して、アントケンタウロスのコミュニティのいくつかが崩壊するんだろうなあ、という予感はしたが、そこまで俺は立ち入らない、立ち入れない。

 そこまで責任は取れないのだ。


「同種戦、ボウショクヤケイ、優勝者、準優勝者!」


 コケーーーーーーッと、優勝者が吼えてきて、誇らしげに進み出てきた。

 そして首を下げて嬉々としてメダルをかけてもらう。

 こう見ると普通のおとなしい家禽なんだが、同じ種でこの村に敵対的な者がいるのが信じられない。

 それほどまでに彼らはこの村に馴染んでいる。馴染みきっている。


「同種戦、スライム、優勝者、準優勝者!」


 人型に変身したまま、彼らも前に進み出てきた。

 ……彼らに名前を与えたらどうなるんだろうか。

 ブルーのようにでっかく、立派になるんだろうか。

 他のスライムとは一線を画す別の種に変身するんだろうか。

 試したいが、今は表彰式だ。考えるなら、後だ。

 どちらにしても、名前を与えるなら、適当なものではなくて、それなりに考えた立派な名前は与えてやりたい。

 即席で名前を与えて、それが定着してしまうのも可哀想だ。


 ノーマルアラクネの件は別枠で。

 あれは103匹がいきなりやってきたから、便宜的にそうなっただけだ。

 いずれは個別に名前を与えてやりたい。

 103匹全員に別の名前を与えるとなると、俺の小さい脳味噌ではパンクしそうだが。

 つけたはいいが、うっかり忘れてしまって、「誰?」となってしまうのも避けたい。

 そうでなくても、今も識別票がないと区別しにくいほどには、誰もが似たり寄ったりなので。


 ちなみに闖入者ちんにゅうしゃが現れた時のために、メダルはいくつか予備を頼んでおいた。

 流石にすぐ役に立つとは思ってなかったけど。


「次いで異種戦の勝者を発表します! 異種戦人型部門、勝者、キュバス族、イリュガ!」


 同種戦表彰で棚上げ(ペンディング)された彼女がようやく前に進み出てきた。

 異種戦の賞品は王冠だ。

 そこに優勝者の名前を刻む。

 残念ながら同種戦とは違うので、準優勝者には別の賞品、希望するものを与えるつもりでいる。

 人型異種戦準優勝者のアンテは1樽分のワインを所望していた。

 酒は万物に通用するなあ。


 イリュガは粛々と頭を下げて王冠を受けとる。

 心なしか緊張しているような面持ちだ。

 このパターンで戦い以上に緊張する場面があるのか?


「……やはり、私も副賞をいただきとうございます」


 そう言うと、イリュガもいきなり抱きついてきた。

 凄い力だった。

 さっきのエリリに負けず劣らずのブーイングが鳴った。

 鳴ったが、キュバスチームだけはやんややんやと囃している。

 彼女たちの入れ知恵か。

 まあ、いいけど。


「異種戦ケンタウロス部門、勝者、ノーマルアラクネ族、アラコ55号!」


 流石に3杯目の天丼はゴメンだ、とばかりに身構えながら、俺は55号に王冠を賦ける。

 幸いというか、理性的というか、彼女はそうしなかった。

 ……顔がやや赤く、上目遣いで、こちらを見る視線に少し熱がこもっているが。

 もしかしたら、イリュガがやっていなかったら代わりにやっていた?

 3杯目となるとブーイングも小さくなるから、あえて希望しなかった?


 次から異種戦の希望者が凄いことになりそうだなあ。


「異種戦魔物部門、勝者、シャドウウルフ族、ブルー!」


 流石に彼は同性ということもあってか、そんな気配は見せなかった。

 尻尾は大きく振っているが。

 それに、彼の視線はどちらかと言えば観客席の方に向いているような気がしている。

 もしかして、奧さんに自慢したいのか。

 子供もすでにいるかもしれない。

 そっちの方に誇りたいのか。

 健全だなあ。


 さて、表彰式はこれで終わりだ、と思ったら、熱い視線を向けてクラッヘ、ノルデース、シャル、そして神龍組がこちらを見つめている。


「……流石に模範試合は模範試合だ、何も出ないぞ」

「だが、試合はしたよな?」


 クラッヘが口を開いた。


「村長の命令で試合はしたよな?」

「ああ」

「試合はしたよな?」

「何が言いたい」

「褒めろ」

「は?」

「優勝者はいないから、賞品はどうでもいい。とにかく、褒めろ。撫でてもいいぞ」


 おいおいおいおいおい。

 クラッヘやノルデースは褒めるにやぶさかではないが、神龍組もこっちを見つめているということは、俺に褒められたい?

 俺は一介の村長だぞ?

 神龍の方がはるかに偉いんだぞ?

 主催者ということを差し引いても、格が余りにも違うぞ?


 龍たちの席を見ると、あの子供がこっちを指さして撫でろ撫でろと指示している。

 何を言いだすんだあの神様は。


 流石に格上の年長者を撫でるほどに俺は度胸はないので、彼らの前に立ってお辞儀をし、「お疲れ様」と言うだけにとどめた。

 しかし、ブーイングが飛ぶ。


「撫ーでーろ! 撫ーでーろ!」

 一斉に囃す声が飛ぶ。

 お前らは何を言っているんだ。

 クラッヘやノルデースはまだ外見が子供っぽいからいいが、俺より年上風の男たちを撫でるって、どんな罰ゲーム?


 しかし、声は止まらない。

 まるで何かに浮かされたかのように、声はますます大きくなる。

 もしかして、神様の指示か。

 彼女がみんなを浮かしているのか。


 ……俺にひざまずく神龍たちを、1人1人、順繰りに撫でた。

 そのたびに大歓声が飛ぶ。


 どんな罰ゲームだ。

 龍神様、恨むぞ。

 今度逢うことがあったら直接文句言ってやるぞ。

 言えるかどうかは別にして。


「これで表彰式および武闘会を終わりにします! 皆様、お疲れ様でした! 撤収の時もご安全に!」


 わあああああ、と今までとは違う規模の大歓声が鳴った。

 今回一番の大音声だいおんじょうだ。

 楽しかったようで何よりだ。

 俺は最後にとんだ恥をかかされた気分だがな。


 撤収は数日かけて行うことにしている。

 三々五々散らばって、しばらく滞在したい者には望み通りに滞在させる。

 どちらにしても1000人・匹以上の後始末を明日明後日までにやるのは無理だ。

 ダメージを受けている者もいるだろうしな。


 夜、ベッドの上で書類を整理していた俺のもとに、有翼族とエリシアがやって来た。


「褒めて」

「は?」

「だから、表彰式の時のように、褒めて」

「あ、ああ、お疲れ様。みんな頑張ったな。上出来だったぞ」

「そうじゃないでしょ!」


 エリシアはそう言うと、力一杯抱きついてきた。

 有翼族もこれ幸いと俺に身体を押しつけている。


 ……もしかして、彼女らも撫でないと気が済まないたちか。

 全員の熱っぽい視線を見ると、言外にそう言っているような気がする。


 結局、撫でた。

 もちろん全員。

 皆みなともにやついて顔を赤くしている。

 今回の報酬をどうしようかと考えていたが、とんだことで解決してしまった。

 衆目もないので、神龍相手ほどには気恥かしくはなかったが、「安い賞品だなあ」と思った。

 俺の褒めが何よりも価値が高いのか。

 金銀、魔石、ダイヤモンドと俺とを並べて「どれが一番価値が高いか」競争をさせたい気分だ。


 そして彼女たちは自分たちの部屋に撤収した。

 おかしいな、いつもの調子なら「続きはベッドの上で」となる筈なのに。


 すると、謎の女性が代わりに部屋に入ってきた。

 絶世の美人だ。

 ただ、見たことはない。

 完全に初対面だ。


「どちら様ですか?」


 そう言うと、彼女は押し黙ったまま、覗き込むように顔を近づけて、人差し指を立てた。

 そして唇に指を当てて、その指を俺の口に当ててきた。

 「そういうサイン」だ。

 それは分かっているが、どちら様なのか。

 流石に美人でも、初対面の女性と「そういうこと」になるのは気がとがめるぞ?


 すると、しゅるん、と萎んで、子供の姿になった。

 見覚えのある姿だった。

 そしてすぐに大人に戻った。


「え、もしかして龍じ……」


 それ以上は言えなかった。

 彼女が俺をベッドに押しつけてきたからだ。

 そして――。


 その夜はやけに長く感じられた。

 いろんな意味で特別な夜になった。

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