第70話:武闘会・反省会
「では、武闘会の反省会を始めたいと思います」
有翼族のシュリンがテーブル前の総勢を前に宣言した。
俺はと言えば、気もそぞろに、ぼう、と上の空だ。
昨日経験した「アレ」が凄すぎた。
今もハラワタの下半分がごっそり持って行かれているような気分だ。
朝起きた時に思わず確認してしまった。
身体が軽すぎて宙に浮いてしまいそうだ。
女性は起きた時には姿を消していた。
流石に皆にあの状況を目撃させるわけにはいかないか。
「村長?」
シュリンが声をかける。
「あ、ああ、反省会だな。始めよう」
「どうしたんですか? お疲れですか?」
「……そうなのかもしれない。ちょっと疲れたようだ」
「体力には自信がありそうでしたのに、珍しいこともあるもんですね」
「流石になあ」
「?」
「気にするな。数日経てば自動的に治る。反省会を始めよう」
「はあ……」
まさかあの相手を皆に開陳するわけにもいかない。
しかし彼女を相手にできたのは人間でも俺だけじゃないのか。
流石に自慢はできないが。
天罰が恐ろしい。
「まずは、同種戦ですね。こちらはだいたい巧くできたと思いますが、試合数がいかにも多かったですね。スライムの乱入も予想外でした」
確かに、朝から始めたのに、同種戦が終わる時には夕方になっていた。
あと、戦いの強弱が個人によって差が激しすぎた。
盛り上がる試合もあれば、そうでもなかった試合もある。
それを会場が1個所だからといって1試合1試合叮嚀に行うのも無駄なような気がした。
強弱が悪いわけではない。
皆が否が応でも注目せねばならないのがマズいのだ。
予選会は武闘会と別に頻繁に開催して、本大会だけを武闘会で開催すべきだろうか。
非村民については実際そのような選別が行われていたようだし。
想定外の乱入はある意味予想はしていた。
ゆえにメダルを多く註文していたわけで。
むしろ余ったくらいだ。
今後も5~6箇くらいは余計に註文しておいて、参加種族が増えるたびに数を増やす方式で良いかもしれない。
「次に異種戦です。こちらも問題は少なかったと思いますが、特に魔物戦ですか、場外押し出しばかりになったのは予想外ですね」
彼女はそう言うが、俺にとっては想定内だ。
むしろそういう風に誘導していったというのが正しい。
ノックアウトとか殺し合いとかそういうのを期待していると、治療班が大変だ。
今回、治療件数が比較的少なくて済んだのは、場外が多かったお蔭だと思っている。
ノックアウト勝ちだけが評価されるのなら改善の余地はあるが、場外負けルールでも今回は充分盛り上がった。
陰惨な戦いは狩りだけでいい。
武闘会はあくまで余興だ。
弱くても勝てる方法がある方が盛り上がる。
それが場外であり、鉢巻き戦だ。
ただ、ハイエルフやハイドワーフが得意武器を封じられ、完全に力を出せなかった。
そこが最大の反省点だ。
背中や頭に風船もつけておいて、それを割れたら勝ち、というルールもつけておいた方がいいかもしれない。
どちらにしても武闘会は1年に1回程度と決めている。
来年までに適宜調整や調査を入れておいて、近隣の村々の意見も聞いておきたい。
出場組にも不満を聞いておいてそれを来年の改善点としてルールを整備しておくべきだ。
「あとサイズの違う会場が2つ3つ欲しかったですかね。広いと思う種族と、狭いと思う種族に分かれたようです。2つ3つあれば試合数が多くても同時進行が可能になりますから」
それは俺も思った。
50×50メートルというのは、体格の大きな種族には小さく感じられ、小柄な種族には広すぎた。
10×10メートル、20×20メートル程度の会場も用意しておいて、希望通りに出場できた方がいいかもしれない。
そのために試合場は若干余裕を持って作っていた。
小さな会場を後から追加できるように。
作らなかったのはスケジューリングのためだ。
会場が複数あると、どうしても出場者の組決め番決めで混乱する。
今回はその調整の時間がなかった。
小さな会場があれば相撲も可能になる。
今回は限定的な武器の使用が赦されたが、場合によっては完全排除した方が面白い可能性もある。
武闘会とは別に相撲会みたいなのも開催したい。
土俵みたいなのも作りたい。
審判問題。
今回は主に有翼族やキュバスに委せていたが、他に仕事や試合があるのに審判も委せるのは負担が大きかったかもしれない。
審判は持ち回りで他の部族も担当し、有翼族に一方的に押しつけることのないようにしよう。
そのためには審判部門の出場者を他の村からも募りたい。
第三者の審判がいれば公正な判断が下せる。
有翼族も次回からは選手としても参加したいだろうし、天使族にも委せる形を作っておきたい。
そうそう、天使族と言えば、非村民だったので同種戦ができなかった。
なので、20人の来訪に対して4人しか参加できなかった。
一応会場外では彼女らによる選抜戦が行われていたのだが、それの存在を聞いたのは総ての大会が終わった後、撤収の段階だった。
そういうのを見物できないのはいかにももったいない。
同種戦なり、予選選抜も場合によっては見物できるように、会場を増やす方向で進めたい。
ノーマルアラクネの同種戦が行われなかったのは、夕刻タイムアップで削ったからだ。
「気にしないでください」と言われたが、気にする。
次からは彼女たちにも存分に戦ってほしい。
「模範試合は今後必要ですかね? 何が起こったか分からない観客が続出していたようですが」
その辺も検討課題だ。
クラッヘとノルデースの大会は盛り上がったが、神龍同士の戦いは何とかボール状態になって皆「?」と首をひねっていた。
戦闘力に、運動能力に差がありすぎるとああいうことになる。
その辺はいきなり神龍のお出ましを願うのではなく、真龍や大龍クラスに頼むのも一つの手だ。
神龍は直接お願いができるが、真龍や大龍は交流が少ないこともあってか、頼みにくい。
神龍に言い含めて彼ら同士の戦いを期待したい。
模範試合そのものはメリハリをつけるために最低1戦ぐらいはお願いしたい。
たぶん強者たちもフラストレーションというか、戦いを見てると戦意が昂揚すると思うので、それが各処に伝播する前に、村の段階で空気抜きはしておきたい。
それが主催の重要な役目だ。
グレートワイバーンや『竜』の参加は、流石に無理だった。
どう頭をひねっても良い考えが浮かばなかった。
なので彼らは同種戦、異種戦とも不参戦だった。悪いことをした。
彼らは大空でないと満足に戦えない。
人身に変身してもらわないと大会にならない。
そして彼らは人身に変身できない。
羽の使用を封印しても、満足に戦えないだろう。
不利な、不慣れな戦いをさせても不完全燃焼するだけだ。
彼らが存分に対決できる大会が別個に必要なのかもしれない。
これは他の種族にも言えることだ。
……運動会。
唐突にそんなアイデアが浮かんできた。
そうだ、何も戦いに限らなくても、そういう安全な競争があるではないか。
体格がそれぞれ違うので、いろいろアイデアを募集して開催するのもいいかもしれない。
ただ、開催は迅くても来年の春以降になる。
秋口では余裕がなさすぎて準備ができないし、晩秋や冬は完全に雪に閉ざされて不可能だ。
虫系種族は真冬は辛そうだしな。
秋中は運動系でない祭の開催を考えている。
いずれにしても、準備期間は充分置いておきたい。
無理押しは今回の武闘会だけで充分だ。
それほどまでにタイトなスケジュールと無理めなスタッフの配置となった。
賞品については巧くできたものと自負している。
希望品はほぼ用意できたし、異種戦・同種戦同時優勝のイリュガとブルーには優勝賞品のメダルや王冠と別に「圓」を配った。
同時優勝の栄誉みたいなものだ。
他の優勝者にも100円ずつ、準優勝者にも50円ずつ配った。
優勝者はことごとくメダルや王冠を自分の部屋の目立つところに飾っているそうだ。
今も見物人が引きも切らないらしい。
「それ」自体よりも「勝ち取ったもの」の価値の方が圧倒的に高いので、泥棒の心配はないが、そうした部屋には警備回数を増やすように村人たちに言い含めておいた。
そうしなくても盗まれることはないだろうが。
副賞については、俺以外のプレゼントを充実させたい。
そのためにはハイドワーフたちにも頑張ってもらわなければならない。
観客。
商人のウルフリンが後で聞きつけて歯噛みしていた。
地上最強決定戦を見逃した、と後悔していた。
それは俺のミスだ。
彼を呼ぶには神龍の協力が不可欠だ。
その神龍は今回は闘技場の建設で手一杯だった。
だから頼めなかった。
次からは「外」からの観客も募ろう。
森だけでなく、山の外からも。
拡大しないと入らないかなあ。
土地や観客席の追加などを考えよう。
主催。
これは「何を言ってるんですか?」という全員のツッコミで俺となった。
「有翼族が主催なわけないじゃないですか」
「村長のアイデアですよね?」
「全部村長が作ってましたよね?」
「会場は俺じゃなくて神龍やお前たちなんだが」
「現場ではそうでしょうね。でも土地を提供したのは村長ですし、たぶん村外はそう見てくれませんよ?」
「大半の村外の観客が闘技場を村長がおひとりで作ったんだと認識してたようですし」
それはいけない。
ちゃんと村人や神龍たちが率先して作ったことを周知せねば。
そう言うと「それでも伝説級ですけどね」と言われた。
神龍が率先して作るというのがそもそも伝説の領域なのだそうだ。
それほどまでに彼らは浮世離れしているという。
料理。
これは完全に巧くいった。
全員が何度もおかわりして満足して去って行った。
提供したものが全部はけた。
もちろん料金はタダ。
俺の持ち出しだ。
料理は日持ちのするものを中心に、選手出場する者含めて全員に作ってもらった。
特に評判の高かったものは果物だ。
「1つ2つなら持ち帰って良い」と言ったらほぼ全員が持ち帰った。
倉庫のいくつかが空いた。
再びパンクしそうだったので、結果オーライだ。
不安なのは、料理が主で武闘会が従と見られないか、ということだ。
料理会は別に主催しておきたい。
持ち帰りはあくまでイベントの時の特別品ということで。
……運動会や祭でも配ることに気付いた。
そこは俺が頑張る段階だ。
畑はいくらでも拡げられるのだし、そこは予想できる参加者数から逆算して提供しよう。
「で、それなんですが」
それ、というのは俺の後ろにある膨大な献上品だ。
宝石やでかい魔石はもとより、ありとあらゆる宝飾品が俺の後ろで山と積まれている。
別にいらん、と事前には言っていたのだが、そう言うわけにもいかなかったらしい。
献上できないと部族の沽券にかかわるのだそうだ。
「完っ全に黒字ですね」
「そこの宝石1つ取ってもどのくらいの価値があるのやら」
「お宝は1つだと貴重に見えますが、山のようにあるとゴミのように見えるって本当だったんですね」
「外に龍のウロコもありましたよね、山のように」
「その倉庫を新たに建てねばなりません」
「そのまま棄てるわけにはいかないのか?」
「そんな勿体ないこと、できません!」
「龍のウロコって、それ1つだけで冒険者の目的になるほどの貴重なお宝ですよ!」
「場合によってはそれ1枚だけで都市に村長のお屋敷級の建物が建てられると言われています」
「しかも神龍のもありますよね」
「大龍のウロコだけでも充分なお宝なのに、神龍のウロコって……ちょっとお宝過ぎて価値の計算ができないわ」
「あと、その剣は何ですか?」
シュリンが俺の足もとで山と積まれている剣を指さした。
「エルンガルストやアルグレイツたちが『クラさん神剣奉納したの? じゃ、私たちも』と言って全員神剣を俺に預けていった」
「うわあ、伝説級のお宝が……ちょっと伝説過ぎて目眩しそう」
「村長が責任持って保管しておいてくださいね」
「本来ならば1つだけでも神殿建てる系のお宝ですよ」
「流石に盗まれたり壊されたりすることはないと思いますが、注意しておいてください」
総括。
おおむね成功。集金イベントとしては大成功。
食べ物をはけさせる意味でも万々歳だし、それを抜いても黒字である。
集金はするつもりはなかった。赤字というか、費用は全部俺が負担するつもりだったので、そこだけが想定外だった。
いろいろ細かい課題はあるが、今回が初めてなので、勝ち負けルールも含めて各処各人でも検討したいとのこと。
あとは裏方をもっと増やしたいぐらい。
その辺は天使族の参加を促そう。
村外のハイドワーフやアントケンタウロスたちからも協力者を募りたい。
円滑な運営のために。
武闘会が終わるといよいよ夏が篤くなる。
ギラギラした太陽のお出ましだ。




