第67話:武闘会・異種戦 その2
次はケンタウロス戦だったが、その前に模範戦を行うことになった。
箸休め、というか、メリハリを考えてのことだ。
総ての異種戦が終わった後でまとめて模範戦を行ったとしても、その性質上熾烈なものになって、今までの異種戦が「前座」として扱われる可能性がある。
逆だ。模範戦が前座なのだ。
本番はあくまでも異種戦の方であってもらいたい。
最初はノルデースとクラッヘの対決だった。
2人が顔を近づけて不敵に笑っている。
「久しぶりじゃな」
「村に来てから今まで戦う機会がなかったからな」
「逃げだすなら今のうちじゃぞ?」
「それは俺のセリフだな。尻尾を巻いて降りるなら勝ち負け決めずに終わりにしてもいいぞ?」
「はっはっは」
「はっはっは」
双方とも凄まじいほどの視線を相手に向けている。
会話は審判が増幅装置を向けて会場に伝えている。
お蔭でさきの異種戦の昂奮冷めやらぬまま、歓声が鳴り響いている。
一瞬止めた方がいいかな、と思ったが、ここまで来たら逆に止める方が危ない。
何かあれば咄嗟に中止させることを念頭に置いて、まずは見守ることにした。
「始め!」
審判が声をかけると、双方ともいきなり魔法をかけ始めた。
凄まじい大きさの炎が闘技場上に立ち上る。
空間が大きく歪む。
温度を感じないのは、不思議と張り巡らされた防御壁のお蔭か。
ドオオン、と炎同士がぶつかった。
風圧が、音が、俺のところまで押し寄せてくる。
観客の髪をなびかせるくらいで済んでいるのは不思議だ。
防御壁はあくまで被害を及ぼすことなく、臨場感だけを周囲に振りまいてるのかもしれない。
炎は対消滅して消えたが、次いで冷却魔法、雷撃魔法と引き続き途轍もない魔法が闘技場の上で炸裂する。
それが相手に効かないと見るや、今度は直接殴り合いに入った。
小柄な身体同士とは思えないほどの凄まじい音量が響く。
ただ殴っているだけでなく、お互いの拳に魔法をかけているのだろう。
ドオン、ドオン、ドオンと、炸裂するだけで顔が歪みそうな攻撃がお互いの顔を、間の空気を、雰囲気を歪ませる。
さきほどまで大音量を奏でていた観客たちは、静かになり固唾をのんで見守っていた。
村人たちはもちろん、戦うために来た天使族も外の村から来たハイドワーフたちも、蒼い顔をして眺めている。
こんな恐ろしい怪物たちがこの村にいたのか、という表情だ。
こう見えて普段は仲良く雑談し合っている、なんてこの構図からは想像もつかないだろう。
神龍たちだけが笑顔で眺めている。
「おう、クラさんの娘さんやるねえ」
「まあ俺の仕込みだからな」
「あのノルデースというのか? あいつも互角でやれるなんて、大したもんだ。普通のアンデッドなんだろう?」
「面白いですね」
「俺らもアレやるんだっけ?」
「流石に本気じゃねえよな?」
「本気でやったら更地になりますからねえ。まあ、あの程度で済ますくらいにしておきますわ」
「クラさんは参加しないんだっけ?」
「流石に村長に心配をかけるワケにはいかないからな。3人だっけ? 4人だっけ? 参加するの」
「余興程度にとどめておいてくれよ。神龍の頂上決戦なんて見たくねえぞ」
「較差がついたら住民も困るからな。程ほどにとどめておくよ」
「そう言えばシャルガノンか、こいつも参加させるよな?」
「まだ目覚め始めだし、手加減は充分するよ。余興だしな。生意気だったら叩き潰すが、村長にさんざんにやり込められたらしくて、ずいぶん大人しくなったらしい」
そのシャルガノンことシャルは蒼い顔をして黙ってその会話を聞いている。
言わば親世代の最強の面々。
それと戦わされることを知らされて、絶望しているようだ。
可哀想だが、彼らを止めるすべは持たない。
穏当に済むことを俺はただ祈るのみだ。
「……俺らは参加しなくて良かったなあ」
傍らの真龍、大龍たちも蒼い顔をして呟いている。
異種戦ぐらいなら彼らは余裕だろう。
ただ、模範戦となると流石に絶望的な差のようだ。
蒼い顔のまま、心底ほっとした顔で、目の前の戦いを眺めている。
ノルデースとクラッヘの戦いは同じような展開が30分ほど続いて、そしてお互いの顔にカウンターパンチが炸裂したところで双方とも膝をつき、そこで審判が「そこまで!」と戦いの終了を宣言した。
予定通りだ。
鉢卷きを獲れない場合、お互いが一旦膝を突いたらそこで終わり。
そう決めていた。
彼女らが本気で戦うのなら、30分どころか1日じゅう戦うし、それは1か月経っても1年経っても終わらないらしいし、双方ともに「ほどほどで止める」ことも明言していた。
予定調和。
あくまでも余興。
双方ともにすぐに立ち上がって、握手をして闘技場から降りた。
それまで、しん、と静まりかえっていた会場が、少しずつぱちぱちぱち、と拍手が起こり、やがて盛大な歓声に包まれた。
ある種のこの村最強クラスの頂上決戦。
それを間近で見られて昂奮し始めたようだ。
「……あの後にあたしたち戦うんですかァ?」
絶望的な顔のままなのは、その後に戦う予定のエルダーアラクネやアントケンタウロスたちだ。
この村の頂上決戦、熾烈なバトルを見せられて、それ以上のものを見せられるか、不安になったらしい。
戦うよりも「盛り下がる」ことを心配しているようだ。
俺は有翼族を通じて「気にするな」と言い含めた。
言い含めたが、彼女らの不安気な顔は晴れない。
ノルデースとクラッヘが俺のところにやってきた。
心なしか顔は腫れているが、深刻なダメージというほどではない。
「楽しめたかのう」
「アゲておいたぜ」
「楽しかったぞ。神龍たちも満足したようだ」
俺は一応褒める。たとえあの後の選手たちが暗い顔をしていても、余興をしてくれただけでもありがたかった。
2人は顔を見合わせて笑い合い、ハイタッチをした。
ただ、2人の間の空気がなおも歪んでいるのは気のせいだろうか。
「戦い足りない」
そんな雰囲気だ。
今回の対決でお互いが「ライバル」であることを思い出したようだ。
今後は異種戦は戦闘力別にして、「頂上の部」などを設けて彼女たちに定期的に戦ってもらうことも必要なのかもしれない。
剣呑な空気はないが、空気抜きは定期的にやっておくに限る。
神龍のそばの小さな娘は相変わらず喜んでいて、拍手をし続けていた。
満足しているようで何よりだ。
ちなみに次の模範試合はケンタウロス組と魔物組のちょうど合間。
そしてラストを神龍たちもう1組が締めることになっている。
次の異種戦のケンタウロス組が壇上に上がった。
盛り下がるか心配になったが、盛大な拍手が巻き起こった。
彼女たちの顔は沈鬱なままだ。
期待値が高ければ高いほど、より盛り上げるための戦いをしなければならない、と思ってるようだ。
結果から言えば、ケンタウロス組の戦いは盛り上がった。
盛り上がったというか、無理矢理盛り上げたというか。
「そこまでしたら、流石にノーダメージというわけにはいかないのでは?」という技が次々と繰り広げられた。
持ち上げて頭から叩き落とす。
6本の脚を器用に絡めた卍固めに似た技を繰り出す。
顔の張り合い。
音がここまで聴こえてくるので相当力を入れてた筈だ。
その結果、ダブルノックアウトが続出した。
いっときは勝ち鬨を上げるのだが、その後にダメージが重すぎて戦闘不能になる村人が次々と出た。
その様子を見てやんややんやと歓声が飛ぶ。
本気のプロレスを見た時のような感じだ。
盛り上がるのはいいが、少々見ていて痛々しい。
模範試合の内容を戦闘以外で考えなければいけないかもしれない。
最終的には、不戦勝ばかりで勝ち上がったアラコ55号がケンタウロス組で優勝した。
ほとんど戦っていないので疲れてもいないしダメージも受けていない。
きょろきょろと辺りを見回して、「本当に優勝していいのかしら」という表情をしているが、ルールはルールだ。大いに誇るといい。
どちらにしても、次回以降の異種戦では前回優勝者ということで、強い者と当たる筈だ。
俺はその苛酷さを想像して、心の中で祈った。
済まん、流石にそこまでは俺でもどうにもできんのだ。
何とか回避する方法を考えて戦いを回避してほしい。
俺はその方法を知ってるが、教えるわけにはいかない。
彼女自身がそこまで考えてるか分からないし、優勝の王冠をかぶれば実感として「強い」という自認が生まれて、次は意欲的に出て行くかもしれない。
それを確かめないうちには迂闊なことは言えない。
どちらにしても総てを決めるのは今回が終わった後、そして次回が行われる前だ。
次は魔物戦だ。
どういう戦いになるのだろうか。




