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素晴らしき哉(かな)異世界辺境生活  作者: 富士敬司郎


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第66話:武闘会・異種戦 その1

 夜が明けて、次の日がやってきた。

 早朝だというのに、すでに辺りは歓声に包まれている。

 というか、昨日から大声が響きっぱなしだ。

 みんな元気だなあ。

 アドレナリンが分泌されまくりなのかもしれない。


「それでは、これから異種戦を始めます! ただし! 体格によるハンデがありますので、部門別です! 人型部門がハイエルフ対ハイドワーフ、及びキュバス、天使族の4チーム、ケンタウロスチームがエルダーアラクネ対アントケンタウロス、及びノーマルアラクネの3チーム、魔物戦が大蜘蛛対シャドウウルフ、及びボウショクヤケイの3チームの組み合わせです! それと……え? 神龍様も参加するんですか? 村長! 聞いてないですよ!」


 審判の有翼族が当惑した声を出す。

 笑い声と拍手があちこちから起こった。

 神龍たちの意思だしな。

 尊重しないわけにはいかない。

 俺も彼らが人身でどのような戦いをするのか興味あるので。

 ドラゴンとしての戦いはシャルで見ているが、総てに頭抜けているだろう彼らがどのような戦術を取るのか気になる。


 ちなみに今回に限り、同種戦は異種戦の選抜というわけではないので、昨日負けた選手も再戦できる。

 次からは同種戦と異種戦に出られる者は区別するつもりだ。

 その日じゅうの連戦ならともかくも、ダメージや疲労が出るだろう翌日持ち越しは、その辛さを知っている。

 前世の俺がそういう体質だったので。

 アドレナリンが継続しない状態での戦いはキツイだろう。

 治療魔法はあくまでも怪我を治すだけで、疲労やダメージは軽減しない。

 実質的に連戦を強いることになるが、今回ばかりは総てが初めてなのでしょうがない。

 今回の同種戦は次回以降の異種戦選手の選抜というところで勘弁してもらおう。


 ちなみに異種戦は武器ありOK。

 と言っても本物の武器を使うわけには行かないので、木刀や棍棒などでの戦いになる。

 もちろん素手のままでも問題ない。

 弓矢はやじりを潰しても危ないので不可。

 傷付くのを見たいわけではないので。

 風船式なら使ってもいいのだが、今回はそこまで気が回らなかった。

 次に活かそう。


 そして、異種戦は倒したら終わり、ではなく、鉢卷きの奪い合いもある。

 自分のどこかに鉢卷きを巻いて、それが取られたり切断されたりしたら負け、というシステムだ。

 もちろん気絶しても負け。審判が戦闘不可と判断しても負け。

 場外も負け。これは同種戦と変わらない。

 ならば無差別級、つまり体格差ハンデをつけなくてもいいのではないか、と意見が噴出したが、「今回は初めてなので、皆がどこまでやれるか見てみたい」という俺の意見で一応体格別となった。

 鉢卷きの切り合い奪い合いとなったら、遠距離攻撃できる奴や身体の小さい方がどうしても有利になるからな。

 無差別級は今回の戦いを見てからだ。


 神龍同士、及びノルデース対クラッヘは特別戦。

 いわゆる模範試合として同種戦の続きを合間合間にやってもらう。

 どちらにしても彼女らは村の中でも戦闘力が圧倒的に群を抜いており、頂上決戦になるので。

 ダメージ制ではなく、もっぱら鉢卷きを奪い合う鉢卷き制だ。

 どちらかが倒れるまでやってしまったら怪獣大決戦になってしまう。

 観客も無事とは限らない。

 真龍、大龍たちが神龍に「戦うか?」と誘われていたが、蒼い顔をして必死に敬遠していた。

 流石にドラゴンの頂上決戦に混じる勇気はないか。


 エルダーアラクネからは昨日の決勝戦の相手、レメとレケが出て、レアとレティの代わりにレサとレミが出る。

 ハイエルフも同じく決勝戦の相手、サラチとサリアが出て、他の選手は出場しない。

 異種戦は選手が少なくてもできるのが大きい。

 昨日の同種戦は無理言って選手を揃えてもらった側面が大きいので。


 天使族が開戦前に俺のところへやってきた。

 人数は10人ほど。有翼族のシュリンの顔がひきつった笑顔になった。


「カズナリ村長様ですね」

「様はいらないぞ」

「そう言うわけにはいきません。このたびは参加を認めていただき、まことにありがとうございました」

「村民でなくても参加できるからな。こちらも感謝する。やっぱ神龍につれてこられたのか?」

「直接はそうですね。ただ、お噂はかねがねうかがっておりました。有翼族の集落が1つ消えた、というので調べたら、こんなところに新しい村ができてたので驚きました」

「移住するのか?」

「いきなり流石にそういうことは……」


 そうか、今までいきなり移住してくるのが大半だったから誤認していた。

 普通は村を訪問するだけで、棲む場所は別にあるからな。


「ただ、ここの料理には驚きました」

「美味しかったか?」

「そりゃあもう、天地がひっくり返るほどの衝撃でした」

「それほどか」

「もし良かったら取引したいと思います」

「それは歓迎しよう。このままだと腐らすまでになるからな」

「ありがとうございます」

「あなた方の集落はどの辺なんだ?」

「山を越えて亜人の集落の近くですね」

「亜人なのか?」

「亜人とは違いますね。天使族ですので。ただ、ドラゴンと付き合いがありますので、必然的にそういう場所になります。人間とも付き合っていかなければなりませんから」

「人間がいるのか?」

「村長様は人間ではないのですか?」

「人間だけど……ちょっとその辺は怪しいな。まあ、普通の人間とはちょっと違うタイプだと思ってくれ」

「了解しました。それで、取引の方なのですが……」

「その辺は有翼族と話し合ってくれ。だいたいはそっちに委せているんでな」

「げ」

「何か不都合でもあるか?」

「いえ、そういうわけではないのですが……」


 言葉を濁したが、たぶんに予想はつく。

 有翼族は天使族のことを「不倶戴天の敵」と言ってたからな。

 交渉よりはケンカ。宥和よりは対立。その有翼族と直接交渉することに気がひけるのだろう。


「分かった、後で俺の方から有翼族に訊いて、どのくらい提供できるか確かめてみよう。たぶん望む量は提供できるだろう。さっきも言ったが、腐らせてこのままだとスライムに食わせることになるからな。ただ、代金だけは業腹だろうが有翼族に訊いてみてくれ。気がひけるなら俺が間に入ろう。それでいいなら取引しよう」

「ありがとうございます。助かります」


 しかし、不倶戴天の敵というのは面倒くさい。

 交渉どころか話し合いすら拒絶せねばならないからな。

 ただ、今回の取引でその対立の構図が少しでも緩んでくれれば俺も提供する甲斐がある。

 いきなりは難しいだろうが、いずれ直接交渉してもらいたい。

 今までもハイエルフとハイドワーフという対立種族はいた。不倶戴天の敵というほどではなかったが、今では笑顔で話し合う間柄になっている。

 ハイドワーフの方が圧倒的に多くて、部族として付き合ってるわけではないから、というのもあるのだろう。


 ちなみに、取引相場は流石に分からない。

 神龍には無償で提供してるし、ハイドワーフとは働きや鉱石で交換している。

 商人ウルフリンとのレートの計算はだいたい有翼族に委せている。

 いずれその辺も彼女らから書類で受け取る必要があるのかもしれない。

 面倒だが、しょうがない。


 何せ元手はタダだからな。

 耕せば種も肥料もなく、勝手に生えてくるわけで。

 俺は作物の価値が分からない。

 皆が大絶賛してくれてるぐらいは把握しているが、「俺も旨いと感じる」くらいで、ここの住民にとってどのくらいの価値があるのかどうかは不明だ。

 予想以上に高値ということもある。

 神龍をとりこにするものは、どのくらいのものなのだろう。


 そうそう、武闘会では観客全員に無料で料理を振る舞っているのだが、評判は上々だった。

 今回初めて来た天使族も含めて、皆喜んでおかわりまでしている。

 クライルヴァード以外の神龍たちは、昂奮した勢いで俺に料理の味を絶賛してきた。

 俺は監督なので料理にはタッチせずに村人に委せているから、村人の腕が上がっているのだろう。

 喜んでもらえて何よりだ。

 俺も素材を提供した甲斐がある。


「村長、そろそろ始めていいですか?」

「ああ、悪い。皆の健闘を祈る」


 わあああああ、と歓声が鳴り響いた。


 天使族からは4人が参加する。

 アンテ、ミラ、シャノン、グランバード。

 アンテが今回の集団のリーダーで、他はメンバーらしい。

 どのくらい強いのだろうか。

 それとなく神龍たちに訊いたら、天使族の中でも最強クラスの4人らしい。

 ここに来る前に選抜戦が行われて、無茶苦茶怪我人が出たそうだ。

 流石にそこまでする必要もないと思うが、意気が軒昂なのだろう。

 天使族の仕事に支障が出ないことを祈る。

 流石に治療魔法は使えるらしいが。


 最初の戦いはハイエルフのサラチと天使族のミラの戦いとなった。

 サラチは木刀を持ってるが、ミラは素手だ。

 それほど自信を持っているのか。


 勝負は一瞬でついた。

 ミラがいきなり空を飛び、サラチがそれに驚いて隙を突かれた。

 そのまま頭突き。

 体重の軽いサラチはごろごろごろ、と転がって、そのまま場外へと押し出された。

 余裕で勝って勝ちどきを上げるのかな、と思ったら、ミラが頭を押さえて、闘技場の上で転がって悶絶していた。

 笑い声が巻き起こる。

 木刀に直撃したらしい。

 もしかして、天使族もあんまり考えなし?


「莫迦ですね」

 隣のシュリンがずけりと断じた。

「天使族はみんなああなのか?」

「そこまでは分かりませんし、普段はもっと激しい戦いだとは思いますが、流石に相手の武器に考えなしにぶつかるのは……」

「でもサラチも転がっていったぞ?」

「流石に場外まで押し出されるとは思ってなかったようですね。今回の人型ヒューム戦は空を飛べる分、天使族が多少有利かもしれません。キュバスが結構戦えるので、確証はありませんが」

「天使族は有翼族と戦ったらどのくらいなんだ?」

「互角、だと思います。空を飛べる者対者ですので。私たちも地上の人型が相手ならああいう戦術を取ると思います。流石に相手の武器は注意して、木刀を押さえるくらいのことはすると思いますが……」

「戦ってみたいか?」

「多少は。今回のルールなら怪我はしにくいでしょうし。流石に彼奴あやつのような無鉄砲な戦術は取りませんが」


 次からは有翼族も参加させてあげた方がいいのかもしれない。

 運営スタッフが少なくなるので、どこかから調達するか、あるいは少ないスタッフでも動けるように差配しておく必要はあるが。


 ちなみに天使族とハイドワーフとの戦いもほぼそれで天使族が圧勝していた。

 流石に今回で学んだのか、相手の武器に無闇に突っ込むことはしなかったが。

 ハイドワーフは比重が見た目以上に高く、結構体重はある筈だが、ことごとく場外に押し出されていった。

 位置エネルギーというのは凄いなあ。

 比較的大柄なキュバスに効くかどうかは分からないが。


 キュバスも基本は素手だった。

 イリュガが相手の攻撃をひらりひらりといなして、その隙を狙って投げ技を打った。

 流石にそれで場外に出るほど狭い会場ではないが、有利にことを進めて、相手の鉢卷きをスパンスパンと奪っていった。

 武器持ち相手にそれは凄いなあ。


 誤算はハイエルフとハイドワーフがあっさり全滅して、準々決勝、準決勝で同族同士の戦いになったこと。

 ハイエルフの常備武器は弓矢、ハイドワーフは金属ハンマー。

 それを危ないと思って取り上げたのが悪かったのかもしれない。

 次からは鉢卷き以外に風船を用意して、弓矢やハンマーも使えるようにしようか。

 いろいろアイデアが浮かぶ。

 そのための今回の大会だからな。


 人型ヒューム同士の異種戦の決勝は熾烈な戦いとなった。

 キュバスはサブリーダー・イルヘとの10分に及ぶ激戦を制したリーダー、イリュガ。

 天使族はやはりリーダーのアンテが順当に勝ち抜けて、リーダー同士の戦いとなった。


 人型異種戦のベストバウトと思うくらいに熾烈な戦いとなった。

 空を飛んで位置エネルギーを活用するアンテ。

 一方、素手ながらひらりひらり、くるくるくるとそれをいなすイリュガ。

 アンテは木刀を装備して、凄まじい勢いで地面を打った。

 実に20分くらいの戦いとなった。

 非常に見応えがあった。

 イリュガは相手が木刀を打ち付けたところでその木刀を取り、そのままアンテの身体を投げた。

 場外に放り出されるほどではないが、かなり危ないところまで追い詰められた。

 しかしすぐに体勢を整えて再び木刀を構えて空中に漂う。

 どちらかが勝つか分からないほどの戦いとなった。


 人型戦はあえて端に移動したイリュガが、追い詰めたと誤認したアンテの隙を狙って見事場外に投げて決着した。

 アンテはまさか素手の相手に負けるとは思わなかったので、場外で悔しがる。

 最初から場外狙いだったイリュガの戦略勝ちだった。

 盛大な拍手が巻き起こった。

 どちらかが勝ってもおかしくない、見事な戦いだった。

 イリュガが渾身で吼える。


 流石に疲労困憊なようで、彼女は会場を出た途端にどう、と倒れた。

 直接激突したり木刀にもろに打たれたわけではないが、緊張の糸が切れたらしい。

 オオオオオ、と歓声が起こる。

 さもありなん。俺だって吼えたくなる。

 非村民の參加者も公平に扱うために自重したが。


 それに、今度はケンタウロス戦、魔物戦も待っている。

 この戦いで消耗するわけにいかない。


 勝者には王冠を与えるつもりだったが、それは総てのバウトが終わってからにした。

 イリュガがそれどころじゃない状態なので。


 最初から凄い戦いを見せてもらった。

 次の戦いが楽しみだ。

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