第65話:武闘会・同種戦 その2
ハイエルフの次はハイドワーフの戦いだ。
こちらはリーダーのウルル以下16人の參加者があった。
見覚えのある顔もあれば、初めて見る顔もある。
半分ほどは近隣の村からの腕自慢が来ているようだ。
いつの間にか俺の横に座っているサラチがそう解説してくれた。
事情はあまり知らないので、解説があるのはありがたい。
ハイドワーフの戦いも基本は投げ合いと叩きつけ合いと殴り合いだ。
リーチが短いのでどうなるか、と思いきや、その分試合音が大きく、想像以上に迫力ある戦いとなった。
その中で、村のハイドワーフリーダー、ウルルが順当に勝ち上がった。
やはりリーダーとなるには腕っ節が強くなくてはダメか。
そう思ったら、見覚えのない新顔にウルルが敗れた。
オオオオオ、と試合場で高らかに吼えている。
「初めて見る顔だな」
「近くの村のウサル、という娘だそうです」
「ウサル?」
「何でも、腕っ節ならどこの村にも負けたことがないようで」
「俺は初めて見るが」
「そりゃ、ここに来るハイドワーフはケンカしに来るわけじゃなくて、仕事ですからね。ウルルさんも腕っ節にはあんまり自信がないと言ってましたし」
「その割には順当に勝ち上がったようだが」
「この森で生きるにはそれなりに強くなくてはいけませんからね。仕事関係ないのなら、ウサルさんの方が森では強いということなのでしょう」
「そうか」
ハイドワーフ戦はそのままウサルが優勝した。
試合時間はエルダーアラクネやハイエルフも含め、1試合平均3分ほど。
その短い間にサクサクと試合が進んでゆく。
そうでないと全試合、今日のうちに終わらないか。
次いでシャドウウルフの試合。
リーダーのグレイとアイリッシュが出るのかと思いきや、彼らは見守りに徹して試合を眺めるようだ。
確かに、すでに数百匹を超える群れのリーダーがおいそれと怪我するわけにはいかないか。
と思ったら、素直にグレイが圧倒的に強いらしい。
サラチがその様子を昂奮気味に伝えてくれた。
「彼、シックスベアにも負けないんですよ」
「シックスベア?」
「前に6本足の熊いましたよね。あの名前です」
「そのシックスベアとやらは強いのか?」
「私らだったら絶望する相手ですね。彼らが味方であることに感謝です」
「でも、お前らは、もしも無差別級の異種戦に参加したら、いずれあいつらと戦うことになるぞ」
「げ。……サリア、ご愁傷様」
「リーダー、意地悪言わないで下さい。彼らに勝てる筈ないじゃないですか」
「村長、こういう風に明らかに戦力差のある場合もあるんですが」
「一応戦ってみて、どのくらい戦力差があるか判断しないことにはなあ」
「だって。サリア。頑張って戦ってね」
「ひどーい!」
ちなみにシャドウウルフはネームドのブルー、レッド、ピンク、ブラウンが出て、そこにアンネームドが混じって、合計16匹の戦いとなった。
その中で勝ち上がったのはブルー。
ネームドのオスだった。
やはりネームドは強いのか。
そうでなければ名前をつけられないか。
と思ったら、違うようだ。
「村長に名前をつけられた個体、明らかに特殊というか、ひときわ強いんですよね」
「強いから目立つというわけじゃなくて?」
「最初はそうなんですが、ネームドはどんどん強くなって、やがて群れ相手でも屈服させられるようになるんですよ。身体も、明らかに群を抜いてでかくなってきてます」
そう言えば、シャドウウルフ戦の準決勝、決勝とも、村所属のネームド同士の戦いになった。
ブルー対ピンク、レッド対ブラウン。
そしてブルーとレッドが勝ち抜けて、ブルーが呆気なくレッドを場外に押し出して勝った。
言われてみれば、彼らは他の個体よりでかいような気がする。
最初は見分けがつかないぐらいに似かよっていたのに、どうしてこんなに差がついたんだろう。
……俺が名前をつけたから?
名前をつけると明らかに強くなったり、でかくなったりする?
まさか、な。
そんなワケがあるもんか、と思ったが、確かに見比べてみるとネームドの方が明らかにでかかった。
強くするには俺の名付けが必要?
その辺は、いずれハイエルフや有翼族にも独自の個体に名前をつけてもらって、その辺で見比べた方がいいだろう。
拙速で結論を出しても何もいいことはない。
そうでなくてもこの世界は「不思議」に満ちてるし、俺の能力がどこまで働くのかも全貌が明らかになっていない。
優勝賞品としては「圓」や酒などを考えていたのだが、名前、というのもいいかもしれない。
大蜘蛛はヒュージが出たら一方的な蹂躙になるので、ビゲストチームとラージチームとミドルチームに分かれてもらった。
その中の8体ずつがそれぞれ勝ち抜け戦を行う。
ヒュージには異種戦の無差別級か、あるいはそれよりもっと「上」のランクで頑張ってもらうことにする。
……ドラゴンとヒュージはどっちが強いんだろうな。
もちろん、この場合のドラゴンとは神龍ではない。
真龍や大龍クラスの、神龍より劣るクラスの龍たちだ。
彼らも今回はここに来ているようだ。
神龍の周りに見慣れない服装の人型集団がいる。
彼らが人身に変身した真龍や大龍なのだろうか。
試合が総て終わって後片付けに入る時に訊いてみたい。
今は彼らにも試合見物を楽しんでもらうことが先決だ。
水を差す必要はない。
ミニマムは数が多すぎるので今回は全員等しく不参加。
いずれは穴埋めとなる大会が別個に必要になるだろう。
大蜘蛛同士の戦いは殴り合いよりかは糸の繰り出し合いと投げ合いの勝負となった。
武器は使ってないのでルール違反ではない。
糸を使ってはいけないなんてルールを策定したわけでもない。
自分以外の道具に頼ってはならぬ。
その道具が自分自身の出すものなら、魔法でも糸でも何でも使って良い。
そう言い含めてある。
相手を怪我させない程度に、と言い含めているが。
ちなみに大蜘蛛は魔法を使ったが、その熱や余波がこちらに及ぶことはなかった。
糸も闘技場の端ですとん、と落ちる。
何かの加護かもしれない。
それが観客席に座っている娘のお蔭なのか、それともこの村の守護神のしわざなのか。
勝ち抜けた大蜘蛛は高らかに腕(?)を上げて会場を一回りしている。
大勢の拍手が一帯を包んでいる。
残念なのは、誰が誰だか区別がつかないことだ。
負けた大蜘蛛たちが後ろをついていってるのでなおさらだ。
やはり名前が必要なのかもしれない。
キュバスの番がやってきた。
彼女らは戦ったところを見たことがないが、どういう戦い方をするのだろうか。
普段の彼女らはメイド服だったが、今は戦士らしい男装スーツ中心の衣服に着替えている。
それが彼女らの正式なバトル衣装なのだろう。
流石に戦う専門じゃないからなあ、と思って見ていたら、ベストバウトと思うくらいに熱血な戦い方をし始めた。
インファイトとアウトファイトを駆使して、巧みに戦いを進めてゆく。
一撃が重い。パンチの当たった音がこちらまで響いてくる。
しかも受けたキュバスもそれでダメージを受けた様子はない。
彼女らはそんなに強かったのか。
そうでなければ神龍のメイドなどできないか。
決勝戦は10分以上続いて、今回最大の歓声に包まれた。
キュバスもやはりリーダーのイリュガが勝ち抜けた。
リーダーが一番強い、というのはこの世界の常識のようだ。
引き続いてアントケンタウロスの戦い。
これは大蜘蛛の戦いを再現した形になった。
上半身はリーチが届かないので、基本は押し出しと糸を繰り出しての戦い。
時々投げ合い。
体重が重いので倒れるたびにずしん、ずしんとでかい音が響く。
試合場を石畳にせず土を固めて作っておいて良かった。
石畳だったら怪我していただろう。
怪我と言えば、エリシアや有翼族が、怪我をしたと思しき選手たちの間をせわしなく動いている。
かなり忙しそうだ。
やはりバトルとなると怪我しないわけにはいかないか。
彼女らも総てが終わったらいたわってやらねばならないだろう。
ノーマルアラクネはほぼ相撲だった。
投げ合いもしているが、バランスが良いのか、どんなに投げられても器用にくるりくるりと空中で身体を翻して巧く着地する。
なので、どこで押し出すかの勝負になった。
1号が順当に優勝した。
これで主な村人の勝負は終わり……と思いきや、意外な闖入者があった。
ボウショクヤケイとスライム。
ボウショクヤケイは分かるが、スライムが戦えるのか?
戦ったところを見たことないぞ?
ボウショクヤケイは予想通り蹴りと押し出しの勝負になったが、スライムのバトルを見て驚いた。
「始め!」の合図とともに、にょきっ、と人間の姿になった。
そして投げ合いと押し出し合いの勝負をしている。
彼らも変身できるのか。
知らなかった。
流石にのっぺりとした肌で、服も着ていないが、人間の形になれるとは初耳だ。
解説のサラチたちも驚いている。
「あんな姿になれたんですか?」
「俺も驚いている。いつの間に」
「人型が多いので、変身術を磨いていたのかもしれませんね」
「まあ、確かに、彼らが人型になってはいけないというルールはないからなあ」
擬態、なのかもしれない。
食われそう、殺されそうになった時に、相手の姿を真似して、あるいは天敵の姿になって、驚かす。
森に生きる生き物だ。そういう能力があってもおかしくない。
優勝したスライムが人型のままこちらにやって来た。
「優勝シマシタ」
「「「シャァベッタァァァァァァァ!!!」」」
「褒メテクダサイ」
「うむ、優勝おめでとう」
「アリガタキ幸セ」
「喋れたんか、お前ら」
「全員デハナイデスガ、学ビマシタ。アマリ得意デハナイデスガ」
少し訛ってはいるが、はっきり人型の言葉を喋っている。
自動翻訳でないのは、俺の隣で目を丸くしているサラチたちハイエルフの表情からも明らかだ。
スライムの常識が根柢から覆られそうだ。
同種戦はスライムで終わりとなった。
1試合当たりの試合時間は短いが、数が多いので、朝から始めたが、終わり頃には夕暮れになっていた。
篝火がともされて、闘技場全体が明るく照らされた。
「異種戦は明日かなあ」
「まだ戦いたい選手がいるようですが」
シュリンが俺の顔を覗き込む。
「公式戦でないなら、任意でバトルしてて構わないぞ。選手登録してないが、観客の中に昂奮して戦いたい奴が結構いるようだしな」
「了解しました。皆にそのように伝えます」
マイクで有翼族がそのように伝えたら、わあああああ、と歓声に包まれた。
引き続き試合が見られることで歓喜に沸いているようだ。
続々と観客席から試合場に向かう者たちが歩いてゆく。
俺はその場を離れて神龍たちの方に歩いて行った。
「どうだった?」
「凄いね」
クライルヴァードが昂奮気味の顔で言った。
「いろんな戦いが見られて興味深かった」
「あんたのところでは試合はしないのか?」
「キュバスぐらいしかいないからなあ。俺たちが戦ったら山体崩壊するし」
「他は?」
「面白かった」
「楽しかったですわ」
「また見たいなあ」
「村長、次の大会もやるんですよね」
「確約はできんがな。ただ、一応そのつもりではいる」
「今度も呼んでくれよ」
「異種戦は明日か?」
「ああ、そのつもりだ」
「俺らも戦ってみたいなあ」
「それは勘弁してくれ。試合場が壊れる」
「人身ならそれほど壊れないんじゃないか?」
「壊さないことを保証するから、明日の異種戦に飛び入りしても構わないか?」
「まあ、お手柔らかに」
「やった!」
選手登録をしない同士のフリーバトルは夜更けまで続いた。
あまり無理して明日起きられないなんてことがないように。
本番とも言うべき異種戦は明日始まるのだからな。
昂奮の一日が、終わった。




