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素晴らしき哉(かな)異世界辺境生活  作者: 富士敬司郎


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第64話:武闘会・同種戦 その1

「それでは、第1回橋の村記念武闘会を初めます!」


 キュバスのリーダー、イリュガが大きな声を張り上げて宣言した。

 わぁっ、と湧き上がる歓声。

 闘技場が人で、魔物でみっちみちに満ちている。

 村民だけじゃない。周辺の村々からも、シャドウウルフやボウショクヤケイたちも来ているようだ。

 君らは敵対してた筈じゃないのかい。


「では、村長からお言葉を」


 イリュガがマイク、というか音声増幅装置を俺に渡して、振ってきた。

 これを使うことで声を張り上げずに全員に聞こえるようになるようだ。

 眺めているとただの棒きれにしか見えないが、魔法的なサムシングなのかもしれない。


 しかし、いきなり振られても困るのだが。

 俺は監督であって監視役であって、主催者じゃないのだが。

 闘技場を作ったのも俺じゃないし。


 しかし、全員が固唾をのんで俺の方を見つめている。

 全員、期待を込めた眼差しで。

 何か言わねばこの視線は続きそうだ。


 いろいろ考えたが、あまり長引かせて皆を飽きさせても良くない。


「とりあえず、余計な怪我はしないように。怪我したら治療班に治してもらうように。それでは、第1回橋の村記念武闘会を始めるものとする」


 再び、わっ、と声が湧き上がる。

 注意喚起だけになってしまったのだが、それでいいのかい。

 いいのだろう。

 どちらにしても、俺としては全体の監督であって、主催者のつもりはない。

 主催者を選ぶとしたら、実際に裏方として動いている有翼族の方だろう。

 俺はそのまとめ役をしてるだけ。

 それを主催者と言うのなら主催者なのだろうが、俺は積極的に武闘会を開催したわけではないので。


 羽のついた種族が何人か武闘会会場に集まってる。

 ……ん?


「あれ、有翼族じゃないよな。誰だ?」


 確かに羽がついているが、彼女らは真っ白だ。

 衣装も実用的なそれではなく、ドレスのようにふわふわとしている。


「天使族ですよ」

 有翼族のシュリンが傍らで言った。

 彼女には俺のそばにいてもらい、皆に指令を飛ばす役目を引き受けてもらっている。


「天使族?」

「その名の通り、神の遣いですよ」

「俺は呼んだ覚えはないが?」

「私も呼んでませんが、恐らく噂で聞きつけたのでしょう。私たちに頭を下げて参加を申請してましたよ」

「有翼族とは仲が良いのか?」

「いえ、どちらかと言えば悪いですね。不倶戴天の敵、と言ってもいいぐらいですが」

「勝手に参加させて良かったか?」

「村長が認めれば」

「まあ、飛び入りは禁止、とは言ってなかったからな」

「殺し合いにならなければ異種族も非村民も参加OKと言われましたからね。たぶん、神龍たちが伝えたんでしょう」

「そう言えば、神龍たちは?」

「あそこです」


 シュリンが指を指すと、闘技場の頂上付近に7人固まって……いや、8人?

「神龍と……誰だ?」

「神龍のところに誰かいるんですか?」

「8人いるぞ?」

「私の目には7人しか見えませんが」

「ほら、神龍たちの中で、ひときわ子供っぽい娘がいるじゃないか」

「え、子供ですか? そんなの見えませんけど」

「え?」


 俺ははっきりその子供が見えるが、シュリンには見えてないようだ。

 ……まさか。

 ただ、混乱させないために黙っておくことにした。


 ちなみに神龍たちにも見えてないらしい。

 7人とも彼女の方を一瞥もしない。

 まるで最初からいないかのように。


 彼女はこちらに気が付くと、ふるふるふる、と手を振った。

 どうやら彼女も俺の視線に気付いたようだ。

 そして認知できるのは俺だけらしい。

 まあ、そういうことにしておこうか。

 余計なトラブルは起こしたくない。

 神の加護がある大会、とでも後で記録しておくか。


 武闘会には2種類の参加方法がある。

 つまり同種戦と異種戦。

 同種戦は同じ種族同士で戦うもの。

 異種戦は違う種族が戦うもの。


 基本は降参のサインを種族ごとに決めておき、それが示された時点で勝敗が決まる。

 あるいはある程度ダメージが出た時点で各審判が決める。

 気絶しても負けだ。両方気絶した場合は両方ノックアウト負け、というルールで、その場合、次に戦う者は不戦勝ということになる。気絶から醒めても戦えない。

 リングアウト負けもある。50×50メートルの試合場から先に出た方の負けだ。

 皆には「ダメージが深刻な場合は積極的にリングの外に出るように」と言い含めている。

 どちらにしても、酸鼻な戦いは見たくない。

 それは強く言い含めているので、俺の望まない戦いにはならない筈だ。


「それでは第1回戦! エルダーアラクネ戦を行います! 選手双方、前へ!」


 エルダーアラクネからはレメ、レケ、レア、レティの4人が参加する。

 基本は勝ち抜けで、勝者は次からは上級戦に参加できる資格を得る。

 同種戦はその選抜としての側面も強い。


 最初の対決はリーダーのレメとメンバーのレティの戦いだ。

 どうなるかと固唾をのんで見守っていたら。


 戦いはあっさり終わった。

 エルダーアラクネのリーダーのレメが、レティをあっさり投げて、頭から叩き落とした。

 そのままレティはきゅう、と気絶して、その時点で勝敗が決まった。


「勝者、レメ!」


 わあ、と歓声が上がる。

 あっさり終わったけどいいのだろうか。

 歓声の大きさから言えば、それでいいのだろうなあ。


 しかし今、頭から落ちなかったか。

 大丈夫なのだろうか。

 治療を司る有翼族がレティのそばによって、魔法をかけている。

 それが終わると同時に彼女の目が覚めた。

 なるほど、勝ち負けが決まった時点で治療を施して、後々にダメージが残らないようにする形か。

 であれば安心だ。

 油断は禁物だが。


 ちなみに勝った方には治療は施されない。

 よほど大きな怪我はしない限り。

 勝った方は勝ち抜けの代わりに連戦のペナルティを得てもらう。

 あまりダメージを受けすぎてもダメ、という構造だ。

 もちろんダメージが多すぎる場合にはその時点で審判の判断により棄権してもらうこともある。

 あくまでも安全第一だ。


 エルダーアラクネ戦の第2戦はレケの勝ち。

 同じく投げで戦いを制した。

 エルダーアラクネたちは柔術系か。

 まあ、確かに相撲をするには脚が多すぎるし、殴り合いをするにはリーチが短すぎる。

 投げになるのもむべなるかな。


 エルダーアラクネ戦の第3戦はリーダーとサブリーダーの対決になった。

 順当と言えば順当。

 そうでないとリーダーにもサブリーダーにもなれない。

 強い者が上に立つのは当たり前。


「それでは、第3戦、始め!」


 今度は打って変わって両者ともに組んだ。

 そして顔を近づけて、ごん、と頭突きをする。

 まさかまさかのインファイトだ。

 両者とも投げが得意でそれで勝ち抜いてるから、今度はパンチや頭突きで制するつもりか。


 ごゃん、という鈍い音が何度も響く。

 俺は闘技場の中腹付近に椅子を用意されてそこに座っているのだが、そこまで試合場の衝突音が響いてくる。

 いかにも痛そうだ。


 そして十数合の打ち合いの後、レケの身体が崩れて、その時点で審判がレメの方に旗を上げた。


「勝者、レメ! エルダーアラクネ戦はレメが勝利!」


 審判をやっている有翼族が高らかに宣言する。

 おおおおお、と唸りのような声が上がった。

 充分盛り上がったようだ。


 彼女たちは村の中でも強い方なので、次はハイエルフ戦だが、気圧されてるのではないか、と思っていたが、それに参加する8人は昂奮はしていても、誰も戦意を失っている様子はない。

 まあ、森の種族だしな。

 そんなもんで戦意喪失していたら生きていけないか。


 次のハイエルフ戦はリーダーのサラチ、サブリーダーのサリア、そしてサララ、サレス、サレレ、サライ、サロア、サリルの8人が参加している。

 彼女たちは素手だ。

 というか、同種戦は武器の持ち込みを禁止している。

 仲間同士の本気の殺し合いなど誰も見たくない。

 じゃれ合い、取っ組み合いだからこそ見るべき意義があるのだ。


 結論から先に言えば、ハイエルフの戦いも基本殴り合いと投げ合いの勝負だった。

 白眉は決勝戦となったリーダーとサブリーダーの戦いだ。

 巧い具合に投げ合い、仕掛け合いをして、その合間にパンチの応酬があった。

 なかなか見応えのある勝負だった。

 緒戰は殴り合いだけ、投げ合いだけで勝負がつくことが多かったので、流石にリーダー、サブリーダーを名乗るだけある。

 そうでないと上には立てないか。


 トップ同士の対決は今度はサブリーダーのサリアに軍配が上がった。

 サラチの方が明らかに追い詰めていたのだが、窮余の一策で繰り出したパンチがわずかにサラチのチンをかすめて、試合場に倒れたのだ。

 気絶はしてなかったようだが、なかなか立ち上がれないようで、その時点で審判がサリアの勝ちを宣言した。

 サラチは納得してない表情だが、足に来ている。

 俺が審判でも、サリアの勝ちを宣言しただろう。

 公平な審判だと感心する。


 ちなみにエルダーアラクネ組もハイエルフ組も、戦いの後は治療を施されて俺の近くに来た。

 俺のそばで反省会が始まった。


 まずはエルダーアラクネ。


「流石リーダーですね。かないませんでした」

 レケがレメを褒める。

「いやあ、あなたも強かったわよ。こっそり特訓してたわね」

「そりゃあもう、一応戦略も練ってましたし、ただ、それを繰り出す前にやられてしまいました」


 敬語なのは俺に解説する目的もあるらしい。


 一方、ハイエルフ。


「流石にやるわね、サリア。次のリーダーやってみる?」

「いやいやいやいや、私を追い詰めといて何言ってるんですか! あと300年はリーダーを務めてもらわないと困ります」

「あらそう? 私はいつでも譲ってもいいと思うんだけども」

「意地悪言わないでください。私にリーダーなんて務まるわけないじゃないですか!」

「私に務まったんだから、あなたにも務まるとは思うけど?」

「資質ってものがあります。祖母の代から代々リーダーやってるんですから、これからも引き続きお願いします」

「ちぇっ、この機会にリーダーの座を譲ろうとしたのにな」

「勘弁してください!」


 戦い合ったとは言え、単純な勝ち負けだけでリーダーの権限が移譲するわけではないらしい。

 ちなみにハイエルフのリーダー争いの場合、武器、つまり弓を取り出して、それの射かけ合いをするらしい。

 それで怪我しないのだろうか、と聞いたら、もちろんするらしい。

 場合によっては死ぬケースもあるという。

 そんな恐ろしいこと、させなくて良かった。

 ただ、そういう勝負の仕方があるなら、次からは武器の持ち込みも可としていいかもしれない。

 武器を使っても怪我させない方法はいくらでもある。

 たとえば頭に風船をくっつけて、それを射貫けば勝ち、みたいな、そんなパターン。


 その辺りは第2回大会の参考にしておこう。

 そこまで考えたところで、俺がいつの間にか2回目以降の運営を考えているのに気が付いて、気恥かしくなった。

 流石にこんな大がかりな大会は1回やれば充分だと思ったのだが、それでは納得しない自分がいるらしい。


 大会はなおも続く。

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