第63話:神龍集合
さっそく村の拡張が始まった。
いつもの通り、キックで順調に敷地を拡げてゆく。
そして、縄張りが始まった。
闘技場は皆の楽しみのようで、すでに建設が始まっている。
皆が集まって、どういう構造にするのか、どのくらいの広さにするのか、すでに皆が盛り土をしてそれらしいものを作っている。
本来は俺の仕事なのだが、どうやら闘技場くらいは自分たちで作りたいらしい。
どっちでも良い。
頼まれれば俺が手ずから作るし、皆が独自に作るのであれば委せるだけだ。
委せたのが悪かったのかもしれない。
本来はプールや風呂など様々な設備にするつもりだった敷地が、まるまる闘技場になっている。
やたら豪華な設備がすでに開始1週間の段階でできあがっている。
1000人・体の入れる施設だもんな。
それっぽいものを作りたいのは分かるのだが、そこまで気合入れてどうするのか。
聞けば近隣の村からも人を集めたいようだ。
「人」というのは選手なのか観客なのか両方なのか、恐らく両方ではあるんだろうなあ。
そこにクライルヴァードも来てて何人かと闘技場の作り方に関して話し合っている。
彼以外は見慣れぬ人物だ。
来るのは構わないが、誰なのだろう。
しかも神龍であるクライルヴァードに臆することもなく、気楽に話し合っている。
彼の知り合いなのだろうか。
集まっているところに行って彼に訊いてみることにした。
「クライルヴァード、彼らは誰なんだ?」
「ああ村長、勝手に呼んで済まん。俺の同輩だよ」
「いや、あんたが呼ぶ分には来るのは構わんが……え、同輩? 神龍?」
「そう、今回見物に来たいと全員集まった」
「集まったって、神龍って7人だよな。あんたを含めて7人ってことは……全員?」
7人の男女構成はクライルヴァード含めて男4人、女3人だ。
そのうち女性の1人がクライルヴァードに対して声をかけた。
「クラさん、彼が噂の村長なの?」
「会うのは初めてだったな。彼がここの村長、カズナリ=ハンダだ。皆も自己紹介するといい」
「ありがと、私はアルグレイツと言います」
「エルンガルストだ」
「ミステルージュですわ」
「バーレンゲンだ」
「シルヴァークライである」
「ゴールドクライです」
総て記憶の中にある名前だ。
おいおい、神龍大集合じゃねえか!
ちなみに男性がエルンガルスト、バーレンゲン、シルヴァークライ、女性がアルグレイツ、ミステルージュ、ゴールドクライらしい。
やたら豪華な巻き髪の娘もいれば、その辺にいそうな姉ちゃんもいる。
渋いおっさんもいれば、やたら肩幅が広くて強そうな兄ちゃんもいる。
神龍だから人間時が見た通りの年齢でないことは分かるが、外見がばらばらだ。
渋いおっさんが一番年長のように見えるが、クライルヴァードに対しては頭を下げてるので、彼よりも年下の可能性もある。
山の頂点大集結だよ。
どうするよ。
「龍神様も来ると言ってましたね」
アルグレイツがさらりと爆弾発言をした。
え、皆には見えない筈じゃ?
「ですから、秘密裡に来るそうですよ。お告げがありました。『私も行くーーーッッッ!!!』と楽しみにしているようです」
……私? 龍神様って女性なの?
しかも軽いノリだよ!
この世の頂点がそんなノリでいいのかよ!
ちなみに詳しい外見を言えば、アルグレイツがその辺にいそうなぽわぽわした姉ちゃん、エルンガルストが渋いおっさん、ミステルージュが巻き髪のゴージャスな女性、バーレンゲンがいかつい体型の兄ちゃん、シルヴァークライが鼻ヒゲを生やした貴族風の男、ゴールドクライがシュッとした雰囲気の姉ちゃんだ。
シルヴァークライとゴールドクライは実の姉弟らしい。
……ゴールドクライが年上なの? 見た目では全然分からんなあ。
彼らは全員親戚同士だ。
従兄弟もいればはとこの間柄もいる。
親戚とはいえほとんど血のつながりがない者もいる。
どうやって血筋を繋げているんだろうと思ったら、本来は神龍未満の真龍だったのだが、そのうち何人が神龍に「覚醒」した者らしい。
正確には、「覚醒」する真龍の系統はあらかじめ決まっていて、予定通りに覚醒した者がこの7人という話のようだ。
覚醒寸前のシャルもその系統の中らしい。
主に5つの流れがあるそうだ。
アルグレイツがその辺を説明してくれた。
神龍の秘密はトップシークレットの筈だが、そんなに気楽に教えていいのだろうか。
「村長は口が固いから、話しても問題ないと言われましたので……」
アルグレイツが笑いながら言った。
まあ俺は一方的に秘密を漏らす方ではないが、それは言う相手がいないだけであって、少なくとも村人には一応話さなきゃいけないのだが……。
「そもそも、トップシークレットって何の話だ?」
エルンガルストが腕組みをしながら言った。
「俺らは別に秘密にしてないぞ? 全員の名前はすでに詳らかになってるのだろう? 現役の神龍が7人というのも別に秘密にしとらん。それに神龍は眠ってる奴も覚醒しそうな者も、結構な数がいるからな。動いてるのが主に7、8人というだけに過ぎん。流石に眠ってる奴の名前は明かすわけにはいかんがな。いわゆる年寄りという奴だ。その辺を明かせば騷ぎになるかもしれんが、俺らの存在は全然隠してないぞ?」
そう言えばハイエルフはナチュラルに神龍の存在も名前もあっさり明かしていたな。
秘密だと思っていたのは俺だけなのかもしれん。
ところでいま聞き逃しのできない言葉を聞いたような気がする。
「神龍は7、8人とは限らん。覚醒しそうだったり、眠っていたりするだけの者が何人もいる。現役が7人なだけ」だと。
つまり、そういう者を含めればもっと増える可能性もある。
神龍信仰が壊れそうな事実だなあ。
ちなみに、今の時点で眠りから覚めそうな神龍たちが何人か確認できているらしい。
そのトリガーは俺だと言われた。
「この森を拡げてなかなかでかい村を作ってるという話を知って、興味を持ってるのが何人かいるようだ。もしかしたら、神龍信仰の形が少し変わるかもしれん。その時は村長、お前さんが相手してくれよな」
いやいやいやいや、そんな大それたことできませんって!
しかし覚醒のきっかけが俺であり、俺への興味、俺の村への興味らしいので、いずれは自分で相手をしなければならないのかもしれない。
気が重くなった。
腹の辺りがチクチクしたような感覚に陥った。
無病息災の筈なので気のせいと思いたいが。
それにしても、名前に一貫性がないので少々覚えにくい。
ゴールドクライ、シルヴァークライは姉弟なので対になって分かりやすいが、この世界でも「ゴールド」「シルヴァー」は対で金銀なんだな。
あるいは自動翻訳されてるだけで、他の者には全く別の言語に聞こえている可能性もあるけれど。
地道に覚えた方がいいだろう。
頑張らねば。
自己紹介が終わった後も、彼らは何かを覗き込んでわいわいやっている。
覗くと計画書だった。詳細な設計図がすでにできあがってるらしい。
いつの間に。
そして誰が。
「まあ、森も山も娯楽が少ないからねえ」
アルグレイツがくすくす笑いながら言った。
よく笑う娘さんだ。
「そう言えば将棋とチェスだっけ? アレ、興味あるから俺にも作ってくれよ」
エルンガルストが俺の顔を見ながら言った。
「あ、私も欲しい」
アルグレイツが乗り出しながら言った。
「勝手に作ってしまっても構わんが……」
「村長の手ずから作るのが欲しいのよ。特別感あるし」
「そんな大したもんじゃないがなあ」
「こんなでっかい村を森に作って大したことない、と言われても、俺らははいそうですねとは言いにくいぞ。お前さんはもうちょっと自分に自信を持った方がいい」
「いや、自信がないわけじゃなくて、簡単なものだし、という意味で」
「それでもやっぱ村長のが欲しいですねえ。その辺のハイエルフハイドワーフに作らせても、麾下のキュバスたちの扱いが違いそうなので」
「そんなヒエラルキーみたいなものでもあるんか?」
「ないと言えば嘘になるかな。職人と素人の作るモノでは価値が違うでしょ。そんなものよ」
「俺は本職じゃないんだがなあ」
「でも持ち込んだ張本人だし、やっぱ特別だから、お願い! いくらでも払うから、とりあえず10セットお願い!」
「俺も同じ数頼む」
「全員に10セットずつで構わんか? あと配る順番とかは?」
「その辺は村長に全部委せる。大丈夫、村長自ら作ったものなら誰も文句は言わんさね。時間がかかっても構わんから、心を込めたものを頼む」
「あと、お金作ったんだって? それも欲しい! こっちも代金支払うから!」
「クライルヴァードが皆の中でどんだけ偉いか分からんから、みんな彼と同じ数になるが、構わんか?」
「構わんよ。それも全部委す。というか、露骨に差を付けても構わんのだぞ。気に入る気に入らんで」
「あ、気に入られようと賢しらなこと言ってる! 村長、こういうのに気を付けてね、偉そうに言ってるけど、気に入られようと必死だから」
「そういうつもりはないが……賢しらに聞こえたら業腹だなあ。まあ、気に入られるのは悪い気はせん」
「うふふ、エルンガルストったらそんなこと言って。こう見えても小さい頃……」
「アル姉、それ以上やめてくれ。小さい頃の話出されたら、俺もあんたの暴れっぷりを村長に紹介しないといけないぞ」
「あら、失礼。これでも丸くはなったつもりなんですからね」
「丸くなったと言えば、体型が……」
「バーレンゲン、それ以上言うと、お姉ちゃん怒るよ?」
「おっと、これ以上は何も言わないぞ」
たわいもない話に華が咲く。
神龍同士の仲はそんなに悪くなさそうだ。
そうでなければ並び立つことはできないか。
ちなみに。
村人が遠巻きに俺らを見ている。
神龍全員集合ということでおののいているようだ。
こっちを見る目がやや怯えの色を持っている。
世界最強クラスだもんなあ。
後で聞いた話によると、「それだけじゃなかった」らしい。
「神龍ってなかなか集まらないんですよ」
「全員が1か所に集まったのが記録上初めてじゃないかなあ」
「2頭の会見レベルでも記録に残りますからね。全員集合の様子、初めて見ました。他に自慢できそう」
「この村にいると今後いくらでも見られそうだけどね」
「それはそうなんだけど、特別感が薄れるなあ」
「慣れよ慣れ、ここでびっくりしてたら、いくら胆力があっても足りないわ」
「ある意味この村そのものが奇跡の塊のようなものだからね。ここにいるうちは、しっかりといろんなもの見て、いろんなもの覚えておいた方がいいわよ」
「そういうことである」ようだ。
神龍たちは2週間ほど滞在して、そして自ら闘技場の建設に携わった。
魔法や何かを使ったり、あるいは龍身に変身して資材を積み上げたりして。
そのお蔭で武闘会1週間前の段階で設備がほぼ完成した。
彼らはその後一旦帰って、今度は武闘会に合わせて再訪するらしい。
そのように告げられた。
ところで、闘技場、何気なく神話級のシロモノにならないか?
信仰を集める神龍自ら携ったものだぞ?
それを村人たちに言ったら、「何を今さら」と口を揃えて言われた。
俺の作る段階ですでに神話入り必至らしい。
俺の村が神話になるのか?
あんまりぴんと来ないなあ。




