第312話 龍を巡る③
~ドレイク視点~
「きゅうせん、きゅうひゃく……きゅうじゅうきゅう!……いちまぁぁぁぁぁん!! ハァ……ハァ、ッハァ……ハァ……。うぉぉー!! やりきったっすよぉぉ!!」
「オゥケー、ボーイ!! ナイスなガッツデェス!!」
地龍の住処に来てから半年。
言葉にすれば短いが、体感はまるで別物だった。
筋トレはもちろんのこと、有酸素運動やランドバルクとの組み手など様々な特訓を、来る日も来る日もひたすら重ね、積み上げる日々。
何がしんどいって、常に魔力を体内で循環し続けるのを並行して行う事だ。
魔力の体内循環を100%の精度で保ちつつ別の行動をするのは神経が磨り減るほどに集中力を要した。これが出来るようになってから“魔法の密度”というものが段違いに上がったのは間違いない。
今では意識せずとも分かる。
足裏から伝わる、微かな振動。空気とは違う、もっと重く、鈍い流れ。
それに逆らわず、合わせる。
ただそれだけで、身体は驚くほど軽く動いた。
そして鍛え抜いた筋肉。何千、何万と繰り返した基礎。
だがそれ以上に鍛えたのは、“無駄を削ぐこと”。
積み重ねた時間は、確実に俺たちを変えていた。
――その証明の時が、まさに今だ。
「準備は良いデスカ?」
ランドバルクが、いつものように胸を張って立っている。
だが、今日は纏う空気が明らかに違う。
これは、言わば最終試験。
「いつでもどうぞ」
シンクねぇさんが一歩前に出て、俺はその半歩後ろで呼吸を合わせる。
「オゥケー……それでは――始めマショウ!」
ランドバルクの足が、わずかに沈んだ。
次の瞬間、
――消えた。
「右です!」
シンクねぇさんの声と同時に、巨大な影が目の前に現れる。
振り下ろされる拳。
地面ごと砕きにくる一撃。
……でも、大丈夫だ。
「見えておりますよ」
間に割り込んだシンクねぇさんの怒簾虎威が展開される。
――ドォンッ!!
拳と大楯の衝突とともに衝撃が洞窟全体を揺らす。
だが――
(止めた……!)
地龍の一撃を、真正面から受け止めている。
足は沈んでいない。
押し負けてもいない。
これが、魔力を無駄なく使用できる恩恵。
「……エクセレント」
ランドバルクの口元がわずかに歪む。
「では、こちらも本気で行きマスネ」
圧が増し、地面が軋み始める。
それでも、シンクねぇさんは動かない。
「ドレイク」
「うっす!」
短い合図。
それだけで十分だ。
ランドバルクの2撃目はフェイク。
次の3撃目にシンクねぇさんはガードインパクトを合わせ、同時に俺も一歩踏み込む。
“流れに乗る”。
相手の動き、そのコンマ1秒先に、攻撃のインパクトを合わせる。
余計な力は抜き、体重と魔力を乗せる。
(ここっ!)
シンクねぇさんが作った“止め”に俺は“流れ”を重ね、振り抜く。
全てを赤鬼の金棒、その一点に収束させた一撃。
「――ッ!!」
咄嗟に振り上げたランドバルクの腕に当たる。
だが、今回は違う。
弾かれていない。
流されてもいない。
そのまま――地面に沈み込むランドバルクの足。
そしてわずかに後ろへ重心がズレた身体。
――初めてだ。
「……フッ」
静かに息を吐き、ランドバルクが腕を下ろす。
そして、
ゆっくりと頷いた。
「アメージングッ!!」
大きく両腕を広げる。
「二人とも、グッドなマッスルになってキマシタネ!」
満面の笑み。
「この半年で、基礎はパーフェクトデース」
その一言で、全身の力が抜けた。
やり切った。
そう思えた。
「デスが――」
ランドバルクが指を一本立てる。
「ここから先は、ミーの領分ではありマセン」
視線が、洞窟の奥を向く。
「……次は、水龍の住処へ向かうのが良いデショウ」
「水、龍……」
「彼女は、ある意味ミーとは真逆の存在」
少しだけ、笑う。
「イラッとしマスヨ?」
「……え?」
「オゥ、ガッテム!! 思い出したら、鱗が逆立ってきそうデス! こういうときはトレーニングデス!!」
そう言うと、ランドバルクはくるりと背を向け、ゆっくりと訓練場へ向けて歩き出した。
ランドバルクはキャラこそ濃いが性格は穏やかだ。
そんなランドバルクをイラつかせる存在……。
(不安しかねぇ……)
けど――
隣に目を向けると、普段と変わらないシンクねぇさんの姿が映った。
それだけで、どんな相手でもなんとかなる気がする。
「行きましょう、ドレイク」
「うっす!」
最後に、ひたすらプッシュアップを繰り返すランドバルクへ向けて二人で一礼し、出口に向かって歩みを始める。
次は水龍。
その住処は、“巨大地底湖――ルミナトレン”。
次話は5/29(金)投稿予定です♪




