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「魔物になったので、ダンジョンコア食ってみた!」 ~騙されて、殺されたらゾンビになりましたが、進化しまくって無双しようと思います~【書籍化&コミカライズ】  作者: 幸運ピエロ
第11章 修羅咲ク都 武京編

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第298話 火と灰の町へ

 

 翌朝、水月道場は静かな熱を帯びていた。


 板間に響く足音と、木剣が奏でる風切り音。

 朝日を弾いた汗が、床を鈍く光らせる。

 吐く息は荒く、だが無駄はない。


 廊下の端からその様子を眺め、俺は自然と口角が上がったのを自覚する。

 道場の最後列、そこには宗次の姿も混じっていた。

 動きはまだまだ粗いが、昨日までの遠慮が消えている。

 教えられる側として、ここに立つ覚悟を決めた背中だ。


(悪くねぇ空気、出せるようになってんじゃねぇの)


 声をかけることはせず、踵を返し昨日と同じ和室へと向かった。

 畳に座り、向かいに正座する孫呂久へと白鵺丸を渡すと、改めて観察した後、丁寧に机の上へ白鵺丸を置く。


「昨日の決断に、揺るぎはありませぬか?」


 短い一言だった。

 無言で首を縦に振ると、最終確認かのように昨日と同じ話をもう一度繰り返す。


燼里(じんり)町は、鍛冶師が集う武京でも特別な町。二代目國光は、そこに居を構えております」


 一呼吸置いて孫呂久はそのまま話を続けた。


「気難しい男です。刀を預かってもらえる保証も、会える保証すらもありません」


「あぁ、分かってる」


「……それに、時間もかかるでしょう」


 孫呂久の言葉に、僅かな重みが乗る。


「修羅咲祭まで残り二カ月。鍛冶にかかる日数次第では……、万全とは言えぬ状況で挑まねばならぬ可能性もあります」


 つまり、刀が長期間手元を離れ、修羅咲祭に間に合わない可能性もある。

 ……それでも。


「白鵺丸を諦める気はねぇ。俺の愛刀はコイツだ」


 俺は即答した。


「このまま壊すつもりも、使い潰すつもりもない。なら、会いに行くしかないだろ?」


「ん。……阿吽らしい」


 キヌが僅かに目を細め、禅は何も言わず、ただ俺を見ていた。


「最悪の場合、刀が戻らない可能性もあります」


 続く孫呂久の言葉にも、視線を逸らさず答える。


「それでも、今向き合わなきゃ意味がねぇ。……それに俺は、実際にコイツを製作した二代目國光の腕を信頼する」


 短い沈黙の後、孫呂久は小さく息を吐いた。


「……分かりました。ならば、すぐにでも向かいましょう」


 孫呂久の目には穏やかな光が宿ったように感じた。

 “腕を信頼する”という言葉は、鍛冶師として大きな意味を持っているようだ。



◇  ◇  ◇  ◇



 支度はすぐに整った。

 荷をまとめ、最後に白鵺丸を手に取る。

 鞘越しに伝わる感触は、いつもと変わらない。

 だが白鵺丸からは、息を潜め何かを待っているような……。そんな妙な感覚だけが、胸の奥に残った。


 そうして道場の門を(くぐ)り、町へ出ようとした、その時だった。


「阿吽兄ちゃん!!」


 背後から、声が飛んでくる。

 振り返ると、宗次が息を切らし駆けて来ていた。


 右手には木剣。

 袖は乱れ、額には汗。


 ――稽古の、最中か。


「……おい」


 思わず足を止める。


「今は稽古の時間だろ?」


「そ、そうだけど! でも……」


 宗次は言い訳を飲み込み、木剣を握り直した。


「行く前に、どうしても言いたくて!」


 迷いのない(まなこ)

 決意が籠った良い目だ。


「オレここで……水月道場で、精一杯剣を学びます!」


 宗次の口調が、普段の子供染みたものから敬語に変わった。

 それは、コイツなりの覚悟の証なのだろう。


「……そうか」


 一息ついて、言葉を続ける。


「だったら、これからは何よりも剣の稽古を優先しろ」


「……はい」


「誰よりも早く来て、誰よりも遅く帰れ。限界だと思っても剣を振り続けろ。最後に立つのは、一太刀でも多く振ったヤツだ」


 宗次は目を見開き、力強く頷く。


「はいっ!」


「今後、絶対に稽古を抜け出すような真似はするな。剣の道を選んだ以上、途中で心を逸らすなよ」


「はい!」


 宗次は顔を上げたままだった。

 俺は視線を逸らし、間を置いてから、続ける。


「……ただ」


 こっ恥ずかしい気もするが、これだけは伝えておきたい。


「ありがとな」


 その言葉に、宗次がきょとんとする。


「宗次に会えて、嬉しかったぜ」


 ぶっきらぼうに付け足すと、わずかな沈黙の後に宗次の顔がぱっと明るくなった。


「……オレの方こそ、ありがとうございました!!」


 深く、深く頭を下げる。


「また会えるくらい、強くなります!」


「ああ」


 短く答え、背を向ける。

 “また会えるくらい”という言葉には、“修羅咲祭に出場できるほどに”という意味が隠されているのが伝わってきた。それは武京に生きる人間にとって、人生を賭ける覚悟がなければ口にできないほどに重い一言だ。

 ……なら、俺から最後に宗次へ伝えるべきは、別れの言葉ではない。


「次は――剣士として、な」


「はいっ!!」


 肩越しに見えるのは、歳相応の笑顔。だが、出会った時とは全く別人の表情でもあった。

 視線を感じ、隣のキヌをチラッと見ると、こちらを見ながら微笑んでいる。


「あの子、強くなるね」


「あぁ。どうせなら俺たちと並ぶくらいには、なってもらわねぇとな」


 歩き出して少しすると、背後から再び木剣を打ち合う音が響き始めた。


 ――迷いのない、真っ直ぐで熱の籠った音だった。



次話は2/20(金)投稿予定です♪

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