第20話 断罪イベント…⁉
「エセル・リーゼ・ルティナリア王女。彼女は、婚約破棄を申し出たフィリツィエ公子ディオン・エミリオ・フィリオンティーノを恨み、殺害するために自ら毒を仕込んだ」
裁判は、シナリオ通りに進んでいく。
「事件以前にも、ディオン公子の婚約者、リリアーナ・カンパニエ嬢にさまざまな嫌がらせ行為をくり返しており、どちらも動機は明白である」
この裁判に、検察官はいても、弁護人は不在。ルティアナ大使ですら、口をはさむことは許されず、傍観者となるしかない。
「女性として、婚約破棄というその屈辱を理解できなくもないが、事件は重大であり、情状酌量の余地はない。よって、ここに死刑を要求する。なお、その身分を考慮し、処刑方法に断頭を望む」
朗々と読み上げられた宣告。誰も「異議あり!!」なんて叫んでくれない。
でも。
(もう、これで終わるのね…)
婚約破棄から続く、イヤなこと全部。
どれだけあがいても、幸せになれないこの人生。
ディオンは、レオナルトが私に惚れているって言ってくれたけど、それも幻。
私はいつも、恋に破れて死ぬ運命。
(次は…、恋もなにもない世界がいいな)
もう恋なんてしたくない。二度と。
「エセル王女。なにか言い残すことはあるか!?」
「いいえ。なにも」
レオナルトの問いかけに、キッパリと答える。
どうせ言ってもムダなのだから、訊かないでほしい。
ジッと見上げるように彼を見つめる。
サラッとした黒髪、長いまつ毛の下の緑色の瞳。大公としての抱負を語ってくれたその声。
私、彼をいつの間にか好きになっていた。
最初は、ディオンへの対抗心だったかもしれない。見返してやるために、レオナルトに近づいた。けど、次第にそんなことどうでもよくなってくるぐらい、好きになっていた。
一生懸命で、生真面目で、不器用な性格。
優しい思いやりもあるのだけど、少し表現が苦手なところも好きだった。
その彼の手で、こうして断罪される。
好きになった人に、殺される。
それはある意味甘美な死に方かもしれない。
「ふむ。では、被害者となったリリアーナ嬢。アナタは、エセル王女に言いたいことがあるか⁉」
「…ディオンさまを、返してください」
真っ赤に泣きはらした顔で、リリアーナが言った。
「わたしが憎かったのなら、わたしを殺してくだされば…。ケーキに毒を仕込むなどせず、あの時、階段で殺してくださればっ…、ディオン…、さまっ…‼」
嗚咽とともに、喉を詰まらす。
そのまま顔を覆い、泣き崩れたリリアーナを、無感動に眺める。
もう、犯人は私じゃないと言ったところで、彼女は納得しない。ディオンの死を悲しみ、私を責めるだけだ。
周囲の人々も、リリアーナに同情と憐みの表情をむける。
「では判決通り、エセル王女を刑に処するとするが…」
レオナルトが言葉を切った。
一瞬の間。そして。
「リリアーナ嬢。どうして、ケーキに毒が仕込まれたと知っている!?」
………え!?
質問の意味がわからず、リリアーナがキョトンとした目でレオナルトを見た。
「レオナルトさまが、おっしゃったではないですか。『毒を仕込まれた』と」
涙を拭きながら、不思議そうに答えた。
「確かに。だが、僕は『毒を仕込んだ』と言ったが、どこに仕込んだとは言ってない」
どこに仕込んだか。
それは、重要なことなのだろうか。私にも理解ができない。
「兄上を殺害するにあたって、毒を仕込むさきは、ケーキはもちろんだが、一緒に出された紅茶でもよかったはずだ」
「それは…」
リリアーナが言いよどむ。
「エセルさま、みずからが作られたケーキですもの。そこに仕込むのが妥当なのでは?」
自分で作ったケーキなら、毒を入れやすい。そして、同じように皿に載せても、食べなければ、自分の身の安全は保障される。
「ふむ。では、そのケーキについて、少し訊ねたい者がいるので、この場に召喚させてもらおう」
レオナルトが控えていた従者に目で合図する。従者が、広間のすみにある扉から、やや太った中年の男性を連れてきた。
(料理長…!?)
大勢の貴族の前に連れてこられた彼は、所在なげに帽子を握りしめ、辺りをキョロキョロ見回している。
「料理長。エセル王女の作ったケーキについて、二、三、質問したいのだが、いいかな?」
「は、はい。なんなりと」
声が上ずっている。
「エセル王女のケーキ作り、その状況を教えてくれないか」
「はい。姫さまは、その…、いつも通り厨房にいらして、いくつかケーキを焼かれました。そして、そのなかから一番いいものをお持ちになって、残りは、わしら厨房の者へと差し入れてくださいました」
「一番いいものを? それは、どうやって選んでいるんだ?」
「見た目もありますが…、型からはずしたケーキの端を切って、味見されて…」
「味見は、誰が?」
「もちろん、姫さまです」
「残った差し入れは、どうした?」
「すぐに、厨房のみんなで食べました」
「毒にあたった者は?」
「おりません。みな元気でおります」
そりゃそうだ。毒なんて、仕込んでないのだから。
「ならば、一つだけを狙って仕込むことも不可能なら、その一部を試食して平気でいることも不可能か」
「はあ。無理だと思います。どれか一つに印でもつけとけば、区別することもできるでしょうが」
レオナルトが、顎に手をやり、少し悩んだ様子を見せるが、実際は考え込んでもいなかった。
「では、ケーキに毒を仕込むのは無理な話か」
アッサリと答えを導きだす。
ご苦労と、軽く料理長に手を上げ、退出を許可する。従者に案内され、ホッとした様子で料理長が去っていく。
「さて、このような状況だが、リリアーナ嬢。どうしてアナタはケーキに毒が仕込まれたと断定できる!?」
「それは…」
リリアーナが口ごもる。
「エセルさまが仕込んだのなら、ケーキではないかと。そう思っただけですわ。そうだわ、ケーキが無理なら、紅茶か食器に仕込んだのかもしれません」
途中、ひらめいたように手を叩く。
「ふむ。なら、それはエセル王女ではなく、給仕係でも出来そうなことだな。エセル王女がやった証拠にはならない」
給仕がどこかの刺客ならば、あるいは。
「まあ、そうですが…」
リリアーナの声のトーンがいくらか下がる。
「それと…、これは、エセル王女に訊いてもいいのだが、あえてリリアーナ、アナタに訊ねたい」
レオナルトが前置きする。
「もしアナタが犯人だとして、毒を飲ませることに成功したとしよう。その場合、毒に苦しむ相手を介抱するだろうか」
「それは…」
普通はしない。
毒殺しようとして、その作戦が成功しようとしているときに、生命を助ける犯人はいない。
「エセル王女は苦しむ兄上を助けようとした。毒を吐かせ、息の止まりかけた兄上の蘇生を試みていた。この行動を、アナタなら、どのように解釈する!?」




