第19話 残酷な事実。
――エセル・リーゼ・ルティナリア。フィリツィエ公子ディオン・エミリオ・フィリオンティーノ殺害の罪により逮捕する。
言葉の意味が呑み込めないまま、私はラウラたちとともに近衛兵に連行され、牢屋に放りこまれた。
殺害って…。
ディオンは亡くなったの!?
逮捕って…。
私、容疑者になってるの!?
「そんな、ウソよっ‼ わたくし、何もやってないわっ!!」
連行される間、さんざん叫んで無実を訴えたが、レオナルトは聞いてくれなかった。
表情一つ変えないまま、私を押さえる近衛兵に「連れていけ」と短く命じただけ。
こんな…、こんなことって。
自分の身に起きたことが、いまだに信じられない。
夢でも見ているの!? それも、とびきりの悪夢を。
「エセルさま…」
一緒に牢屋に放りこまれたラウラが泣きそうな声を出す。
「この先、どうなってしまうのでしょう」
まさか、なんの裁判もなしに、処刑したりはしないだろうけど。でも、王族を手にかけたとなれば、タダですむとも思いにくい。リリアーナへの嫌がらせとは、次元が違うのだ。
(けど、この国は法治国家よ。そんな証拠もなしに裁いたりはしないわ)
レオナルトはそんな感情的にことをするような、暗愚な君主じゃない。
ちゃんと証拠を立証してから、裁判に及ぶだろう。
そうしたら、きっと無実が証明される。投獄が間違いだったと、見直される…。
(でも、証拠が見つかったからこそ、投獄されたのでは!?)
でなければ、そうそう一国の王女を牢になんて入れたりしない。
ヒンヤリと冷たく硬い壁。一応の座る場所として、藁が敷き詰めてあるが、ジメッとして座り心地は最悪。
下手をすれば、このまま無実なのに断罪されてしまうのかも。
今までのウワサはすべてウソだと、ディオンは理解してくれていたけど。
――レオナルトも、きみの無実を信じてる。アイツは、きみに惚れているからね。
そうディオンは教えてくれたけど、今回ばかりは無理かもしれない。
ディオンは倒れた。この事実は揺るがない。
「しばらく、二人で話しがしたい。席を外してくれないか」
牢屋から続く回廊の先、見張りの兵士に話しかける声。
「レオナルトさま…!?」
どうしてここに!? 何を言いに来たの!?
疑問に思う間もなく、彼が鉄格子のむこうに姿を現した。
「ディオンさまっ、ディオンさまはどうなったのですかっ!?」
彼の姿を目にして、弾かれたように近づくと、ずっと問いたかったことを叫ぶ。
「……死んだよ」
短く呟かれた。
「ケーキに毒を仕込んでいたんだな、エセル。ひどく苦しんだ後、息を引き取ったよ」
「そ、んな……」
まばたきを忘れ、喉が干からびる。
「リリアーナの件といい、兄上の件といい。きみがここまで二人を憎んでいるとは思わなかった」
レオナルトの言葉は、淡々としていた。
怒りを、憎しみを抑えようとしているからかもしれない。
「明日、法廷を開く。それまでに、ましな言い訳を考えておくんだね」
ウソだとか、違うなんて言葉は出てこなかった。
そこにあるのは、「絶望」。
「ああ、それと。もしここで自害するようなことがあれば、自殺ほう助の罪で、そこの侍女たちも処刑するからね」
王族殺しには、自害すら許されない。自らの罪を償うために、断頭台へと送られる。
たとえそれが、他国の王女であっても。
翌日。
私は、縄を打たれ、法廷となった大広間へと連行された。
途中、回廊から広場に設けられた、仰々しい木製の装置が目に留まった。
――ギロチン。
高く、限界まで持ち上げられた刃が、ギラリと陽光を浴びて光る。
(もう、確定しているのね)
法廷は、あくまで儀礼、儀式。
裁判もなしに首を刎ねるわけにはいかないから、一応開かれるだけ。
粛々と、シナリオにそって刑が言い渡され、私はあの広場で断罪される。
それも、レオナルトの手で。
(もう、どうでもいい…か)
何を言っても聞いてくれないんだろう。
パウンドケーキに毒を仕込み、ディオンに食べさせ、殺した。
殺害の動機は、婚約破棄。
己の名誉を傷つけたディオンを許せなかったから。リリアーナに対する悪意も、それと同じ。そういう筋書き。
一応、王族ではあるから、庶民のような絞首刑ではなく、一撃ですむギロチンが選ばれている。
それが、せめてもの優しさ。
大広間に着いた私は、刑吏に連れられ、中央の台に立たされる。
周囲は、フィリツィエの文官、武官たち。みんな一様に険しい顔をしている。
そこに、本の虫、オルランドの姿がなかったのが、ちょっとだけ救い。彼にまで、こんな姿は見られたくなかったから。
ジッと、一段高く設えられた台座を見る。
そこに座るのは、この国の法であり裁き手である、レオナルト。やや時代がかった赤いマントを身に着け、こちらを見下ろしている。
彼の左右、片側にブランシュ伯。もう片方は、本来リューネル伯の席。しかし、伯不在の今、空席となり、代わりにその婚約者だった娘、リリアーナが、泣きはらした目をして、席に寄り添うように立っていた。
「これより、フィリツィエ公子ディオン・エミリオ・フィリオンティーノ殺害事件について審議を始める」
高らかに、レオナルトが宣言する。
さあ、断罪イベントの始まりだ。




