表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
18/22

第18話 緊急事態っ!!

 「きゃああああああっっ‼ ディオンさまっ!!」

 リリアーナの絹を裂くような悲鳴。

 「ディオンさまっ、ディオンさまっ!!」

 頭を抱えながら叫び続けている。

 いつの間に、彼女が近くにいたのか。

 疑問に思ったけど、そんなことに構ってるヒマはない。

 「牛乳ですっ!!」

 先に走っていった給仕が戻ってきた。

 ひったくるようにそれを受け取ると、ディオンに飲ませ、また吐かせる。

 毒の回り始めた身体では、もう牛乳の効果は得られないかもしれない。でも一縷(いちる)の望みをかけてくり返す。

 少しでも毒の吸収が抑えられるように。そして胃を洗浄することで、毒が薄まるように。

 「エ…、セル…」

 ゼイゼイと苦し気な息の下、ディオンが私を呼ぶ。

 「しっかりしてっ!! これぐらいのことで、負けてちゃダメよっ!!」

 「レオ…、ナル、トを…、たの…」

 ディオンの顔色は、土気色(つちけいろ)へと変化していく。

 「ダメッ!! ディオンッ!!」

 毒が抜けない。呼吸が止まる。

 「レオナルトのためにも、ディオンッ!!」

 脈を感じられなくなったその身体。

 意を決して向き合う。

 仰向けに寝かせ、シャツを裂き、胸を晒す。みぞおちの少し上、肋骨の下半分にあたる部分に掌底(しょうてい)を当て、もう片方の手をその上に乗せる。

 腕は真っすぐ。自分の体重をかけるように力強く、速く胸を押す。自分の鼓動と同じ速さで。

 ――心肺蘇生。

 人工呼吸は、毒の危険があるため出来ない。

 だから、これだけは。これだけは続けないと。

 (ディオンッ、生きなさいよ、ディオンッ!!)

 祈るような気持ちで、何度も押す。

 (レオナルトのためにっ、お願いっ…‼)

 必死になる私の視界がぼやける。

 「エセルッ!! 兄上っ…‼」

 ラウラたちが連れてきたのだろう。医師や薬師たち、そしてレオナルト。

 「代われっ、エセルッ!!」

 血相を変えたレオナルトと交代する。

 心肺蘇生、彼は知っているのだろうか。

 何の迷いもなくディオンの胸を強く押した。

 その間にも、医師が薬を用意し始める。

 「エセルさま…」

 不安げなマルガの声。

 「大丈夫、大丈夫よ…」

 大勢の人に囲まれ、ディオンの様子はわからない。

 

 ピクリ…。

 

 一瞬、ディオンの投げ出された手が動いた気がした。

 続いて、むせるようにせき込む音。

 (……生き返った…!?)

 組んだ両手に力がこもる。

 「早く寝所にお連れしろっ!! 早くっ!!」

 医師が周囲に指示を出す。担架に乗せられたディオンは、浅くはあったものの、呼吸をくり返していた。

 (助かったの…!?)

 その瞳は閉じられたままで、まだ予断(よだん)は許さない。

 けど、先ほどの状況よりはよくなっているはずだ。

 「エセルさまっ…」

 ラウラの声が聞こえた。

 が、私の視界も真っ暗になる。

 「エセルッ!?」

 レオナルトの声も聞こえる。

 けど、それが限界。

 安心して気がゆるんだ私は、その意識を真っ暗な世界へと放りこんだ。


 「ディオンッ…‼」

 戻ってきた意識とともに、彼の名を叫ぶ。

 「ああ、エセルさまっ…‼」

 ラウラとマルガが心配そうにのぞき込む。

 「ディオンはっ!? ディオンはどうなったのっ!?」

 息を吹き返したとはいえ、まだ危うかったはずだ。

 「それが……」

 二人が顔を見合わせる。

 まさか。

 「仕度をっ!! 様子を見に行くわっ!!」

 「お待ちください、エセルさまっ‼ 知らせがないだけで、きっと大丈夫ですわよ」

 「落ち着いてくださいませっ!!」

 あわてた二人が私の腕にすがる。

 「姫さまも、お倒れになられたのですから、もう少し安静になさってください」

 「でもっ…」

 今、どんな状態なのか確認しなければ、落ち着いてなどいられない。

 二人を振り切るように部屋を横切る。いつの間にか外は暗く、部屋にはランプの明かりが灯されている。あれからかなりの時間が経っていると思えば、よけいに焦る。

 幸い、ドレスはあのときの汚れたものから着せ替えられている。コルセットがゆるめられ、クリノリンが外されているせいで、かなり野暮ったくなっているが、その分機敏(きびん)に動きやすい。引きずりそうなスカートをたくし上げて歩き出す。

 「お待ちくださいっ!!」

 二人を無視してドアに手をかける。

 

 ガチャ…。

 

 私が回すより早く、ドアノブがひねられ、視界が開ける。

 「レオナルト…さま!?」

 ドアの向こうに立っていたのは、レオナルト。

 険しい顔の彼の背後には近衛兵たち。

 彼らの視線が私に集中する。

 「あのっ、ディオンさまのご容態はっ!?」

 知らせに来てくれたのだろうか。だとしたら、この表情は、まさか…。


 「エセル・リーゼ・ルティナリア。フィリツィエ公子ディオン・エミリオ・フィリオンティーノ殺害の罪により逮捕する」


 ……え!?

 殺害!?

 逮捕!?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ