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見るからに気落ちしている大介の髪を、桃が撫でた。鬼は退屈そうにポケットから携帯を取り出すと、「今二十一時だから、とりあえずあと一時間くらいやるか」と言った。
「まあ、今すぐ出来るなんか誰も思っちゃいねえよ。とりあえず、コツさえ掴めば一瞬だからな。頑張れ」
そして鬼は大介に背を向けると、部屋の壁にもたれてその場に腰をおろした。懐から煙草を取り出す。鯨が顔をしかめて、「未成年のそばで吸わないで下さいよ」と言いながら彼のそばに寄っていく。桃と桜もその後についていった。蠍だけは反対方向の壁に向かって、鬼と同様煙草を取り出す。それぞれ休憩の体勢ではあるが、見守ってくれるようだ。しかし蛙はいない。飽きて帰ったらしい。
まあいい、とにかくやろうと大介は気合いを入れた。この中の最短記録でも三日らしいので、大介自身も今すぐ出来るとは思わないが、気持ちで負けては駄目だ。鯨の記録を塗り替えるくらいの気概でやらねば。
大介はまた頭を押さえて、うんうん唸った。
*
「蛙さん、どこ行ってたの。蛙さんが子犬の姿で応援してくれたら出来たかもしれないのに」
一時間後、とぼとぼと自室に戻った大介は、ソファでのんびりくつろいで「よう」などと片手を挙げた蛙にそんな文句をぶつけた。美少女の姿で足を組んだ彼女は、「はあ? 知らねえよ」と柄悪く言う。
「俺だって、出来るかどうかも解んねえ発症待つの暇だったんだよ。……つか、その反応じゃ結局出来なかったんだな」
大介は蛙の隣に腰を下ろし、「まったく出来なかった」と言った。
「乳歯すら出なかった。難しい。出来る気がしない」
結局あれからも、大介の中に眠っている亜人細胞はうんともすんとも言わなかった。本当に亜人細胞がいるのか疑いたくなるほどだ。
「エリートが気弱なこと言うなよ」
「俺がエリートなのはお勉強だけ。こういう実技は無理。学校でも、実技の通信簿はぼろぼろだった」
はあ、と大介は溜息を吐く。なんだかんだ、ほめられることが多かった大介は、今日の挫折に少し気落ちしていた。鬼達は気にするなと言ってくれたが、少なくとも蠍は馬鹿にした目で見ていた。実際、「遅いんだよ、さっさとしろ」といらついた口調で言われてしまった。すぐに鬼が「一か月かかった奴が偉そうに言うな」と突っ込んでくれたが、今日は無駄に皆に時間を割かせてしまったのは事実だった。
「このまま出来なかったら、俺、どうなるんだろう」
「お前、対亜人兵器のメンバーの誰かにそういうの聞いてこなかったわけ?」
「聞こうかと思ったけど、なんか、初日から出来なかった場合のこととか聞きづらかった」
「普段そんな気回らねえくせに、なんでそこで腰が引けてんだよ」
蛙が呆れたように溜息を吐いた。だって、とふて腐れた声を出す大介に、「まあでも今日と変わらねえんじゃねえの?」と肩を竦める。
「今日だって、お前はまだ使えねえけど、戦闘には連れてってもらえただろ。これからもそれと変わらねえんじゃね?」
「そうかな。でも、それはそれで役立たずで嫌だけど」
「仕方ねえだろ、発症出来ねえんじゃ。気になるなら聞けば? それか、練習するか」
「あ、でも練習は、最低二人の対亜人兵器と、蠍さんを呼ばないといけないらしい」
「マジで? なんで?」
「危ないからだって。俺は今全然発症させられてない状態だけど、たまに発症しすぎることもあるらしい。まあ、一度抑え込んでるからまた抑え込める確率の方が高いらしいんだけど、でも、可能性はゼロではないから。自室でこっそり練習とかも、絶対したらダメだって。気にしなくていいからばんばん人を呼べって言われた」
「ふうん。じゃあ、まあ頑張るしかねえよな」
蛙はどこか意地悪く唇の端を吊り上げて、大介の肩にもたれかかった。緑色のふわふわの髪が首筋をくすぐる。奇抜な髪色はともかく、可愛らしい少女が体重を預けてくるというのはなかなか恥ずかしいものがあったが、おそらくからかいたいだけだということはすぐに想像がついたので、大介は蛙から体を離した。




