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少年はいずれNになる  作者: 猫飯
控えめな誕生
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突然の攻撃

「まあ、出来なくもねえかもしれねえけど、まさか街中で波を起こすわけにもいかねえだろ。……じゃあ、今から見せるからちょっと離れてろ」


 大介が動く前に、他の全員が一斉に距離を置いた。大介も急いでそれに倣う。


 ――鯨の目が、狙いを定めるように細められた。

腕から水が激しく吹きあがった。水柱だ。まるで魚が滝をのぼろうとするように、水が上へと飛ぶ。――鯨の体が、引っ張られるように空を飛んだ。


「高い」


 大介は見たままを言った。鯨の腕が、今度は下に向けられる。滝のような勢いで、彼の腕から水が噴射された。彼の体の落ちる速度が、噴射の反動で殺される。それでも結構な速度はあったが、鯨はごく普通に地面に着地した。



「まあ、こんな感じなんだけど」



 大介から離れたところで、鯨が苦笑いした。大介は「すごいけど……」と言いながら鯨を見る。



「でも、びっちゃびちゃ」



 この一瞬の間で、鯨の全身は濡れていた。体だけではなく、床も天井も水浸しで、今も天井から水がぼたぼたとしたたっている。そういえば最初に助けてくれた時も濡れていた気がする。



「そうなんだよなあ」



 鯨が深く溜息を吐いた。



「腕から水柱を出すと、俺はその一番向こうの距離まで一気に移動出来るんだ。これはなんでか解らなくて、ただ体が引っ張られるっつうか……多分水じゃなくて、亜人細胞の方が関係してると思うんだけど。


でも、やっぱり水ではあるからさ。使うとそこらへんがびっちゃびちゃになるんだよ。こんなの町の中で使えねえから、戦闘中以外のこういう移動は禁止されてる。ま、よっぽど緊急時は別だけどな」


「そりゃそうだ」



 大介は頷いた。鯨はうんざりしたように髪をかきあげる。ぼたぼたと水が垂れていた。桜が腕から大きな葉を生やして、うちわの要領でぶんぶんと扇ぎはじめる。礼を言った鯨のかたわらで、「こちらが濡れるだろう」と鬼と蠍と桃が慌てて避難した。



「とりあえず、俺の能力はこんな感じだ。で、問題が……」



 鯨がちらと蠍に視線をやった。眉間に皺を寄せて鯨をにらんでいた蠍が、鬱陶しそうに舌打ちをした。態度が悪い、と大介は心の中で呟いた。心の中だと思っていたら口に出ていたようで、蠍にますます鋭い視線を向けられた。


 しかし、蠍だけはいまいち能力が解らない。亜人戦にいたのは見たが、敵の攻撃をかわすばかりで、蠍から攻めることもしなければ、他の対亜人兵器のフォローもしていなかったように思う。



「蠍さんは何の能力なんですか」



 大介が尋ねると、彼は目を細めて大介を見た。そして薄く唇を開くと、一言言う。



「手を出せ」


「え?」


「手だ。聞こえなかったのか。殺すぞ」



 三言目には不穏な言葉が飛び出す。よく解らないまま手を差し出そうとした大介の肩を引いて、鬼が出た。



「お前、実証で試すつもりだろ」


「何が悪い」



 蠍は唇を歪めた。



「大体、テメエら時間かけてだらだら力の紹介しやがって、鬱陶しいんだよ」


「ぶっつけ本番でわけも解らねえまま誰かの能力に巻き込ませるわけにはいかねえだろうが。紹介は必要だ」


「今日はぶっつけでもうまくいったじゃねえか」


「桃が守ってたからだよ」



 うるせえなあ、と蠍が苛立った。そして、格下を見る目で鬼に一瞥を寄越す。



「ガタガタ言うと、いざって時に助けてやらねえぞ」



 そこに何か思惑のようなものを感じて、大介は首を傾げた。一方の鯨は、うんざりした様子で溜息をついている。鬼も面倒くさそうに「……解ったよ」と言って大介の手首を掴む。



「大介」


「ん」


「ちょっと痛いけど、我慢しろ」



 言って、鬼は懐から折り畳み式の小さなナイフを取り出した。留金を外す。



「え」



 呆気にとられていると、鬼が突然その刃先を大介の指に滑らせた。



「あいた」



 痛みでぐっと体温が下がり、大介はすぐに手を引いた。悪いな、と苦笑いして、鬼はナイフをしまい込む。



「何をする」


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