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「桜!」
桃が声をあげた。桜が腕からツタを空中へと何本も伸ばし、マフラーでも編むかのようにツタ同士を絡めていく。
受け皿のように丸く広がったツタのクッションの上に、桃が着地した。そのまま桜に運ばれて、おりてくる。
「高さが足りないからここまでだけど、本当ならもっと高く飛べるのよ。
空気を蹴るみたいに足を動かしたら、更に上にあがれるからね。ただ、着地は他の対亜人兵器に手伝ってもらわなきゃ無理だけど」
「でも、なんか半端なく難しそう」
「そりゃ、最初は本気で難しかったわ」
桃が遠い目になった。桜はツタを体の中にしまい込みながら肩を揺らす。
「昔は本当に、涙目になりながら練習してたもんね、桃」
「もう、絶対無理だと思ったからね。だって、空中を蹴るって意味わかんないじゃん。ゲームじゃないんだからさ。
蛇さんに説明された時は、”他人事だと思って無茶言ってんじゃないわよ”って思ったもん」
「蛇さんに言われたんですか」
大介の頭に、半ズボンの足を組んでふんぞりかえる、不遜な態度の銀髪の子供が過った。
桃は首肯する。
「元々、私の亜人としての力は、脚力だけでね。これがまた、単体じゃ全然使えないのよ。
いや、まあ亜人細胞の核の場所が解らなくて、亜人を木端微塵にしなきゃいけない時はわりと便利よ? 私の場合は足自体が亜人細胞になってるから、蹴ったら蹴った場所が破壊されるからね。
でも、細胞核を破壊するっていう細かい作業の時はもう全然駄目。私の蹴り一撃で、亜人細胞に乗っ取られてる人が死ぬわ。
さっき言ったように、2トンをずっと出してるわけじゃないけど、それでも細かい力加減の調節が得意ってわけでもないのよね。
まあ、その分桜と違って、”相手の皮膚が分厚すぎて倒せない”って可能性はほぼ有り得ないけど……」
それはそうだろうな、と大介は思う。
たとえば、2トンの蹴りを放つことの出来る彼女が少し力加減して1トンになったところで、仮に亜人を倒せたとしても、その宿主である人体の破壊も免れないだろう。
今後も対亜人兵器を増やしていきたい管理局の方針としては、その戦い方は管理局の考えにそぐわないに違いない。つまり、攻撃力が高すぎて攻撃出来ないということか。
「それで、どうしたもんかしらって思ってたら、蛇さんがいきなり”いいもの発明したよ”って持ってきてくれたのよね。それがこの靴。
これで私は移動力を手に入れたの。だから、誰かを避難させたりとか、そういう方向で働けるようになったってわけ。
まあ、その時の靴はまだ改良前で、踏み込む力が大きすぎると壊れちゃうような耐久性の低いものだったんだけど。でも、”飛べる靴だよ”とかいうからものすごく期待して履いたら、かなりコツが必要だったから、本当びっくりした。
だって、一回地面を蹴っただけじゃ、すぐ落ちていくんだもん」
「私と鬼さんも付き添ってたんだけど、あの時は本当焦ったよ」
「そうだな。桜がとっさにツルで受け止めなきゃ、骨の一本でも折れてたんじゃねえのか?」
「私、あとで思いっきり蛇さんに文句言っちゃった」
「そしたら、”説明書にちゃんと書いてある”って一蹴されたんでしょ?」
桃はへらりと笑って、「蹴りだけに?」と誤魔化した。途端、蠍の拳が桃の後頭部に飛ぶ。「女の子の頭殴らないでよ!」と吠える桃に、蠍は舌打ちだけを返す。鬼は真顔で、「女を殴るのは最悪だけど、でも今のギャグはねえと思うわ」と呟いていた。
とにかく、と鯨が場をとりなす。
「桃は蛇さんにそういうシューズを貰って、飛べるようになってるんだ。
ただ、急に靴が壊れたりとか、そういう可能性も考えられるだろ? 衝撃を与える前提で作られてるから丈夫ではあるけど……でも、空中にいる状態で靴が壊れたりしたらシャレにならない。
だから桃がこの靴を使うのは、そばに対亜人兵器がいる時だけだ。もし桃が落下することになっても、受け止められるからな」
「ほとんどは桜に任せてるんだけどね。……桜、私が落ちる時はしっかり頼むわよ」
桃は何故か偉そうに言った。桜は「任せて」とガッツポーズを決める。
「そういうわけで私は、一般市民を避難させるのが仕事になるかな。
ほら、私は人の形を維持できるでしょ? 桜とか鬼とかが体を変えたまま助けようとしても……なんていうか、二人の前で言って悪いけど、亜人といっしょくたにさせるかもしれないのよね」
「ま、化け物扱いってことだな」
その言葉のわりに、鬼は楽しそうだ。桜も仕方なさそうに苦笑して、特に気にした様子はない。彼らにとっては、今更な話なのかもしれない。
「その点私は、見た目に出ないから。今日は皆避難が早かったし、アンタが来るっていうんでフォローのために戦闘に参加したけど、たまに外してることもあるの。蛇さんに貰った靴のおかげで、やることが出来たってわけ」
「成程」




