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「あと、あんまり長く伸ばしすぎると、先端の感覚もなくなってくるの。だから、あんまり伸ばしすぎても邪魔なだけかな。戦闘で実用的な長さは、大体二十メートルくらいだと思う」
彼女の羽がそっと折りたたまれる。吸い込まれるように、背中へと消えて行った。これにも数秒かかっている。
大介から見ればあっという間だが、刻一刻を争う亜人戦い場では、少し時間がかかりすぎているのかもしれない。
「桜さん」
「ん?」
「たとえばこのツルを亜人に引きちぎられたりすると、痛いですか」
大介が問うと、桜は、言われたことを想像したらしく綺麗に整えられた眉をひそめた。
「……うん、大分痛いね」
「体の一部を変えたやつじゃなくて、その羽の一部とかでも痛いですか」
「痛い。血は通ってないから、一応出血死とかはしないけど、普通に腕と似たような感覚ではあるから、痛みでショック死しちゃう可能性はあるかも」
なるほど、そういった点では鬼の煙とは大きく異なるようだと大介は思う。自分の頭を撫でるツルに手をやって、撫でかえしてみる。
桜の能力に痛みがあるのならば、男として守ってやるべきだと思った。
もっとも、今の大介にはとても出来ないことだけれど。
――大介の気持ちが伝わったのか、桜は笑って「でも、引きちぎられることなんて滅多にないと思う」と言う。
「体に生やす植物は、かなり丈夫に出来るから。まあ、別にそれも私のさじ加減ひとつなんだけど。……ううん、そうだなあ。大介君は、ブラジルウッドって知ってる?」
「知ってます。なんか、バイオリンの弓とかに使われるやつ」
「あ、知ってたの? 物知りだね。あれ、弓に使われるだけあって勿論丈夫なんだけど……そういう植物のツルを生やしちゃえば、よっぽどのことが無い限り千切られたりとかはしないよ。
別に強度を気にしなくてもいい時は、それこそクスノキとか、普通の街路樹に使われるようなやつでもいいけど」
「今日俺を運んでくれた植物のツルも、ブラジルウッドですか」
「うん、そうだよ。ブラジルウッドを何本も絡めて、網状にしたの」
そりゃあ丈夫だろうな、と大介は感心した。どうりで、自分と鬼と蠍の三人を運んでも千切れないわけだ。
「体に生やすことの出来る植物は、私がイメージ出来るものならなんでも大丈夫みたい。ただ、空想の植物とか、実在してても曖昧にしか解ってないものは駄目なんだ」
言いながら彼女は、ツルを縮めて人間の腕へと戻した。
ぱっと掌を広げると、そこからにょきにょき朝顔が生えてくる。赤紫の花弁が宙を向いていた。
おお、と大介が声をあげると、朝顔は瞬く間に枯れた。
「こんな感じで、植物の成長を促進することも出来るの。これは別に、私から生えた植物じゃなくてもいいのよ。
たとえば大介君が、お花屋さんで適当に花の種を買ってきてくれるとするじゃない? それを私が触れば、一気に成長させることが出来るの」
「すごい。農家に向いてる」
「でも、肥料とかは与えられたことにならないからねえ。大体出来る果実は小ぶりだったりするし……たとえば本気で農家をやろうとしたって、真面目に育てたものには絶対敵わないよ。
あと、そういう風に無理矢理成長させた植物は、種を落とさないの」
「ああ。一世代限りなんですか」
「うん。なんでかは解らないんだけどね」
実生活においては、実用的なのかそうでないのかよく解らない能力だが、対亜人戦に関してはかなり使い道がありそうだ。
亜人をしばりつけて拘束することも出来るし、核を狙ってツルを突き刺すことも出来るだろう。
「戦いに向いてそうですね」
「うん。ツルで動きを止めたり、思いっきり突き刺したりね。でも、限界はある。
ものすごく力が強い亜人だったらツルだけじゃ抑えきれないし、皮膚が分厚い亜人だったらツルは刺さらないもん。ただ、今まで私が攻撃した亜人に対しては、大体有効だったわ」
「ま、うちのアタッカーってところよ」
桃が誇るように胸を張った。
大介が「見た目は大和撫子って感じなのに、アタッカーなんですね」と思ったままを言うと、「何言ってるの」と照れたように頭をぺちんとはたかれた。ちょっと痛かった。
ぶたれたところを撫でる大介を笑った桃が、「じゃあ、そろそろ私ね」と大介の前に立った。
「私は、桜とか鬼みたいに体の見た目を変えるんじゃなくて、中身が変わってるの。具体的に言うなら、脚力の増加よ」
「脚力」




