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「まあ、気になるなら、蛙さんも一緒に見ればいい。あ、でもどうせ一緒に見るなら、蛙さんは今すぐ天使になって」
「はあ? 天使?」
「犬のこと」
蛙は面倒くさそうに顔をしかめ、「せっかく美少女でいてやってるのに」と自分で言った。しかし、次の瞬間には子犬に姿を変えると、大介の膝に乗ってくれる。真っ白なポメラニアンだ。
幸せに笑みをこぼした大介が「可愛い」と蛙を撫でると、「さっさと見ろ」と人間の言葉で言われた。
だから人の言葉でしゃべられると可愛さ半減するのに、と思いながら、大介は蛙と共に書類を確認した。
書類には、様々なことが書かれていた。あまりに量が多くて、日頃の勉強で文章に慣れている大介でも、だんだん読む気がなくなってくる。
蛙にいたっては、開始数行でやる気をなくして大介の膝で丸くなっていた。
時間をかけて全て読み込んだ大介を見計らって、蛙が言う。
「簡単に解説してくれ」
「お気軽に難しい要求をする」
「こんな長々とした文章読めるかよ」
「まあ気持ちは解るけど」
とりあえず日常的に必要になるルールは、と大介は今覚えたばかりのことを懸命に思い返す。
「まず、対亜人管理局以外の場所で、亜人が出ていない時に亜人細胞を発症させたら駄目ってこと。ただし、緊急時は除くらしい。
この緊急時っていうのは、たとえば亜人関係じゃなかったとしても、日本に大きい災害があった時とかのことも言うみたいだ。
あとは、対亜人管理局の立ち入り禁止の場所についても書いてあった。研究棟で亜人細胞を管理してるところとかは、入ったら駄目だって。
それと……あ、これは便利な話。日常で必要なものとかがあったら、ネット上で申請できるシステムがあるから、それで連絡したらすぐ届くらしい。十万円分までは無料だけど、それ以上は給与から差し引きだって。
それ以外には、給与の振込とか、戸籍だとかそういう法律関係のこと色々書いてあるけど、普段使うことはなさそう。多分、必要な時に見たら事足りる」
「ふうん」
聞いておいて、蛙はまったく興味がなさそうだった。「蛙さんが聞いたんでしょう」と大介は蛙の頭をぺんとはたきたくなったが、犬の姿なので出来なかった。むしろ撫でてしまった。
蛙は心地よさそうに目を細めてその毛を摺り寄せながら、「まあ俺には関係ねえか」と言った。
「俺、別に対亜人兵器じゃねえしな。お前以外とは喋れねえし」
「でも、とりあえず立ち入り禁止区域には入らない方がいいんじゃないの。蛙さんは特に、どこにでもいけてしまうわけだから。まあ、入っても何にも触れないだろうし、何か危険があったりはしないと思うけど」
そうだな、と蛙は雑な返事をすると、大介の手をすりぬけて犬の姿のまま空中に浮いた。中身は蛙だと解っているのに、その小さな尻尾や丸い瞳を見ていると、「すごい、本物の天使だ」と崇めてしまいそうになった。
「とりあえず書類の確認終わったなら、さっさと携帯の設定して飯食いに行こうぜ」
「うん。おなか空いた」
大介は箱を開いて、中から携帯を取りだした。大介のものよりも何世代も後の、おそらく最新型と思われる携帯だった。
まだ普通に暮らしていたころ、コマーシャルでちらりと見たかもしれない。「なんでもかんでも新しけりゃいいってもんでもねえんじゃねえの?」と蛙が呆れた声で言う。
「ここの奴らって、最新型なら何でもいいとか思ってそうだよな」
大介も、「あんまり新しいと使い方が解らないなあ」と思いながら、なんとか初期設定を済ませる。
もっと簡単な、それこそ老人向けの携帯の方が、機械を苦とする大介には有り難いのだが、対亜人兵器用の携帯機種を変更する場合は小鳥に申請しなければならないという旨が先程の書類にあったのを思い出し、やる気をなくした。
まあ、使ううちに覚えるだろう。投げやりにそう結論を出した大介は、ソファから立ち上がる。食堂に向かうことにした。




