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「鬼先輩も?」
「何だ、悪いのか?」
「いや、悪くはないですけど、鬼先輩は自分で帰れるからなんでかなあと思って」
「だって、ツルの中で蠍と二人きりなんて、新入りには息が詰まるだろ? だから俺も混じってやろうと思って」
蠍が鋭い目で鬼を睨んだ。鬼はへらへらと笑って、その怒りの表情を流す。桜は肩を竦め、否定も肯定もしない。蛙が横で、「俺は蠍って、いかにもワルって感じで超格好いいと思うけどなあ」と中学生男子みたいなことを言っていた。
一方、鬼の言葉に大変愉快そうに笑った桃は、「確かにそうね」としきりに頷いている。
「じゃあ、アンタは一緒にいてあげなよ。私も入ってあげたいけど、これ以上重くなったら桜が可哀想だからね。こっちはこっちで飛んでいくわ」
「私、かなりの重さ持てるから大丈夫だよ?」
「馬鹿ね、桜。一緒に飛んで帰ろうって言ってんの。喋りながらゆっくり帰ろうよ。多分、小鳥さんもそんなに早く帰ってこないしね」
ああそっか、と桜が嬉しそうに表情を緩めた。桃もけらけらと楽しそうな笑い声を立て、桜に寄る。前から知っていたことだが、この二人は本当に仲が良いらしい。見た目麗しい女性が仲良くしている様はなかなか心を癒す。
大介がのほほんとしていると、二人のやり取りをくだらないものでも見るような目で眺めていた蠍が、「桃みてえなデブな奴乗せたら全員落ちるだろうが」と吐き捨てた。
途端、目じりを吊り上げた桃が蠍の脛を思いっきり蹴飛ばした。空を蹴って浮くことが出来る彼女の足技はよほど協力だったらしく、蠍は大きく目を見開いて悶絶している。
もしかしてこの人馬鹿なんだろうか、と大介は内心思った。勿論実際の桃は、デブどころかかなり良いプロポーションをしているのだ。桃が本当に太めの体躯だと言われる時が来たら、世の女性は泣くだろう。
暫しして痛みから立ち直った蠍が「テメエふざけんなこのブス」と桃につかみかかろうとするが、桜のツルにあっさりからめとられ、身動きを取れなくされた。ついでにそのツルは、鬼と大介の体にもそっと巻き付いて、彼らはそのまま宙に持ち上げられる。
三人の周りを、どんどんとツルが取り囲んでいく。彼らはそのまま、団子のようにひとまとめにされた。うぎゅう、と大介が苦しげな声をあげると、鬼は「なんだよその声」と面白がって笑った。
「じゃあ、行くよ」
大介達の体が宙に浮かんだ。
*
往路よりも時間をかけて、大介達は管理局に戻った。
到着したらすぐに職員に出迎えられ、局長が待っているから局長室に行けと言われた。大介は、話が終わったらまた鬼に電話する旨を伝え、蛙と共に局長室に向かった。
「ごくろうだったな」
足を踏み入れると、早速小鳥に労をねぎらわれた。相変わらず、冷たさすら感じるほど整った容姿をしている。大介のかたわらをふわふわ浮遊する蛙は、「コイツ怖いんだよなあ」とぶるりと身を震わせた。
一方、蛙の姿など見えない彼女は、ソファに腰をおろしたまま「座ってくれ」と告げた。大介は彼女の正面の席に腰を下ろす。以前は姉と隣り合って座ったところに、今は蛙と共に座っている。
「どうだった? 初の亜人戦は」
「何も出来ることはなかったです」
大介は正直に答えた。
「桃さんにすごく守ってもらいました。俺はただ、桃さんにくっついてただけでした」
「そうか……いや、気にしなくていい。初めての戦闘で大活躍をするなんて、そっちの方がよっぽど恐ろしいよ。どんな中学生活だったんだと思ってしまう」
小鳥は苦笑気味に答えた。以前姉と共に顔を合わせた時より、表情が解りやすい。あの時は小鳥も小鳥で、気を張っていたのかもしれない。
「また近いうち、鬼や鯨に実践トレーニングの相手をしてもらう。そうすればそのうち慣れてくるだろう。……亜人細胞のコントロールも、いつかは可能になるはずだ」
「頑張ります」
「ああ、頑張ってくれ。……では、今から君に渡すべきものを渡そう」
小鳥は微笑むと、テーブルのかたわらに置いてあったファイルと、掌におさまる程度の大きさの紙袋を大介の方に押しやった。
「まずこれは、ここで生活する上でのルールを書いた紙だ。あとで必ず目を通しておくこと。質問があったら他の対亜人兵器に聞くか、私の携帯に留守電を入れておいてくれ」
「はい」
「また、君に新しい部屋が支給される。部屋の場所は、桜の隣だ」
「桜さんの」
大介は無表情を少しばかり緩めた。あの優しく美しい女性の隣室となれば、基本は中学生男子である大介のテンションもあがる。もしかしたら恋人になれるかも、なんて、ただ隣同士というだけでかなり浮かれている大介を横目で見た蛙が、「スケベ」と吐き捨てた。
そんなんじゃない、と大介は言いたかったが、小鳥の前で蛙と喋ることは出来なかったので、ただ横目でにらむにとどめる。




