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大介の言葉に、鈴はきょとんとしていた。あれ、と大介は首を傾げる。もしや、神を信じている彼女にとっては、大介の言い分はあまり良くないものだったのだろうか。鈴の考える神の姿とは、一致していなかったのかもしれない。
「鈴ちゃん、ごめん。俺間違えたかもしれない」
大介が謝ると、鈴ははっとした様子で頭を左右に振った。
「ううん、違うの。ただちょっと、びっくりして」
「びっくり」
「うん。私ね、皆が神様っていうものをどう考えてるのか知りたくて、たまに管理局の人に聞いてみたりするの。勿論、頭から信じてない人もいるから、とりあってもらえないことも結構あるんだけど……。
でも、話を聞いてくれた人でも、大体口から飛び出してくるのは、神様に対する文句だから」
「文句」
「ほら、今は亜人が襲ってくるっていう……いわば試練を与えられた状態でしょ? だから、こんな迷惑な試練を与えるなんてありえない、とか言ってね」
「なるほど」
確かに、そう言う人物の気持ちも解らなくはない。少なくともこの現状で、「この試練を乗り越えて更なる高みへと行こう」だなんて前向きに考えることの出来る人間は稀だろう。文句のひとつくらい言わせてくれ、と思っているかもしれない。
鈴もそれは解っているのだろう、文句を言った人物をけなすことは決してしなかった。代わりに、「だから、嬉しかったの」と笑う。
「大介がそんな風に言ってくれて」
大介としては、それほど深く考えての発言ではなかった。しかし、鈴が喜んでくれるなら嬉しい限りだ。はにかむ鈴の顔が可愛くて、なんとなく正面から見るのに緊張してしまい、大介はそっと目を逸らす。
どうしたの? と小首を傾げる鈴を、ますます直視できない。空中にいる蛙が、呆れたように「お前童貞力高すぎだろ」と暴言を寄越してくる。
その時、食堂の入り口にふと見知った人影を見た。大介がそちらに顔を向けると、そこにいた二人組は揃って笑みを浮かべた。こちらに寄ってくる。
「桜さん、鯨さん、おはようございます」
大介が頭を下げると、鯨と桜は揃って「おはよう」と返した。二人に気付いた鈴も、元気よく「おはようございます!」と挨拶をする。
「お二人で朝食にいらっしゃるの、珍しいですね」
「ああ、さっき大介の部屋の前で会ったんだ」
「俺の。何か用事ですか」
大介は目を丸くした。
「用事っていうか、小鳥さんが大介の部屋に電話したけど出ないって言うんだ。で、留守電は残してるけど、もしかしたらどこかで迷子になってるかもしれないから、見つけたら声掛けてやってくれって俺のところに連絡きてさ。
で、今日は休み取ってるしどうせ暇だからと思って、大介の部屋に行ったら、桜も同じ経緯で来てたんだよ」
「鈴ちゃんと朝ごはん食べてました。ごめんなさい」
「謝ることないのよ」
桜が柔らかく目を細める。黒い髪を形の良い耳に引っ掛けながら、微笑んだ。
「それに、もうすぐ携帯電話も支給されるから。そしたら、こんな風に入れ違いになることもないわ」
「携帯、もらえるんですか」
「そう。あと、新しい部屋もね。今日の午後、局長室まで来てほしいって」
「それが、小鳥さんの連絡ですか」
「ええ、そうみたい」
「解りました。ありがとうございます」
鯨達は揃って頭を振った。それにしても、と鯨が大介と鈴を見比べる。木の幹のようにしっかりとした腕を組んだ鯨は、どこかからかうように唇の端を吊り上げた。
「二人とも随分仲良さそうじゃん。大介、さっきなんて呼んでたっけ? ”鈴ちゃん”?」
「……鯨さんが、からかう気満々の顔をしている」
「別にそんなんじゃねえけどさ」
言いながらも、鯨はにやにやとしている。桜もなんだかおかしそうに、大介の顔を覗き込んでいた。鈴は「もう、何言ってるんですか」と小さく笑っていた。もう少し動揺してくれても良いのにと内心思うが、中身が二十五歳の女性ではこの程度ではうろたえないだろう。そんな風に思う大介とて、とりたてて恥ずかしいというような感情は湧いていないのだが。
「私達はただ、亜人のことについて喋ってただけですよ」
「亜人?」
首を傾げながら、鯨は大介の右隣の席に腰を下ろした。その正面に桜も続く。
「そういえば大介君は、昨日桃と鬼先輩に教えてもらったのよね。ちゃんと教えて貰えた?」




