おともだち
それはそうだろうな、と大介は頷いた。大介だって、実際に姉が亜人にならなければ、小鳥の話なんてまったく信用出来なかっただろう。
「私達がなんとか納得したのは、実際にこの管理局に連れてきてもらってからです。まあ、それでも半信半疑の状態ではありましたけど。
でも、私の体に亜人細胞が宿っていて、それが何らかの影響を及ぼしている可能性があるって話は、わりとすぐに受け入れました。今までどの病院に行っても原因が解らなかったことですし……それしかないかな、って。
それで、体に亜人細胞が宿っているか調べてもらうために、薬を飲んだんです。大介さんが飲んだ薬と一緒のやつですよ」
「ああ……あれ」
あの、俺を乳歯にするやつか、と大介は心の中で呟いた。鈴は説明を続ける。
「でも、私に発症は確認できませんでした。あの薬は基本的に、亜人細胞があれば、抑えられるかどうかは別としても発症はさせられる薬なんです。
だから、今のところ私には、亜人細胞はないっていう結論にはなってます。
……でも、それは百パーセント存在しないって証明にはなりません。現に、私の成長は止まったままですから、むしろその疑いは強いです。
だから私は今、監視の意味でここに置いてもらってるんですよ。いつ発症しても、対亜人兵器の人に対応してもらえるように」
成程、と大介は頷いた。彼女の体に不可思議な現象が起こっている以上、亜人細胞を持っている可能性は否定できない。しかし、何故か薬でも発症しなかったために、経過を見守るという意味で管理局内で生活をしている。ただ、対亜人兵器ではないので、立場は職員――彼女の場合は厨房の担当者になった、というわけだろう。
「そういう事情なんで、いつ何があってもいいように、私も亜人についてはちょっと勉強してるんです」
えへん、と彼女は平たい胸を張った。
「解らないことがあったら、なんでも聞いてくださいね。私の家族も、亜人についての記憶を隠ぺいしてもらって生活してるんです。大介さんのお姉さんは、まだ管理局内にいるんですよね?」
「はい。まだ会ったらダメな期間なんで、会えてないですけど」
「私は、一週間くらいしたら会わせてもらえましたよ。あとちょっとだから、頑張りましょう!」
その言葉に、大介は嬉しくなって頷いた。姉のことは何度か鬼や鯨に聞いていたけれど、彼らもあまり詳細は知らないようなのだ。
そも、姉の状態を一番把握している小鳥が忙しく飛び回っているために、彼らとしても聞いてやれないという面があるらしい。
皆一様に「見掛けたら聞いておく」と言ってくれていたので、あまり心配しすぎないようにと思っていたが――こうして、実際の経験を添えて教えてもらえると、ほっとする。
「あの、鈴さんも、原因が解るように頑張ってください。俺も、出来ることがあったら頑張って手伝います。多分ないですけど」
「ありがとうございます、助かります! ……あ、そういえば大介さん、私に敬語は使わなくていいですよ。実年齢は二十五だけど、見た目だって同年代なわけだし……何より、対亜人兵器の大介さんは、私より立場が上ですから。
っていうか、敬語じゃない方が私が気楽なだけなんですけどね」
「……じゃあ、鈴さんも敬語じゃない方がいいです」
「えっ、私もですか?」
「俺も、見た目は年上の人に敬語使われるのは、緊張するから。俺も鈴さんが気楽になるように、敬語使わないようにするので、鈴さんもやめてください。鈴さんがやめたら、俺もやめます」
すると鈴は、少し驚いたように二、三まばたきを繰り返したが、すぐに満面の笑みでうなずいた。
「……うん!」
大介って呼んでいい? という鈴に、じゃあ俺は鈴ちゃんって呼ぶ、と返しながら、大介も少しだけ表情を緩める。実際は二十五歳であることは解っているけれど、見た目だけでも同年代の少女がいることに、大介は内心気楽さを覚えていた。まるで、同じ学年の友人と喋っているような心持ちであった。
「ところで、大介さん……大介は昨日、鬼さんと桃さんと一緒に亜人の勉強したんだよね?」
「うん。亜人辞典もらった。すごく分厚いやつ」




