鈴ちゃんのお話
「……ものすごく美味しいです」
大介は正直に答えた。「本当ですか」と満面の笑みを浮かべる鈴に、大介はこくりと頷く。ほとんど表情には出ていないが、大介は内心本当に驚いていたのだ。
口に運んだ途端に鼻を抜ける芳醇な醤油の香りと、風味のある雑穀米に時折混ざるカリッとしたおこげ――それをふんわりと包む卵。非常に美味しかった。
オムライスか? と言われればやはり微妙なところだが、ついついもう一口とスプーンが伸びる。
夢中になって食べていると、鈴が楽しそうにふふ、と笑った。
「意外と解りやすいんですねえ」
何が? と大介はオムライスを頬張りながら顔をあげた。いえ、と彼女は頭を左右に振る。
「私、大介さんってクールな方だと思ってたから」
「クール!? コイツが!?」
食堂の天井にある電球あたりをうろうろしていた蛙が、ぎょっとした声をあげた。そしてその直後、大介を指さしてげらげらと笑いだした。
「コイツがクールはねえわ! この女の目節穴なんじゃねえの!?」
蛙にスプーンを投げつけてやりたい衝動をおさえながら、大介は「俺はクールで間違いないです」と答える。
「そのままクールだと思っててください」
「そうですか? じゃあ、クールだと思っときますね」
鈴は相変わらずの可愛らしい笑みを携えて、そう言ってくれた。それでいい、と頷いて、大介はオムライスを食べ進める。
「あの、大介君って何歳なんですか?」
「十三歳です」
「十三歳かあ。さすがに若いですね」
どうやら彼女は、大介と少し喋っていくつもりらしい。食堂の仕事はいいのかな、と内心思うが、鈴も新入りである大介のことが気になるのだろう。だから大介も、話に付き合うことにした。
「お姉さんも、管理局の中では若い方なんじゃないんですか」
鈴の見た目は、せいぜい二つ三つ上程度に見える。鯨と桜に館内を案内してもらった時に、多くの管理局員を見かけたが、彼女より年下のように映るのは蛇くらいのものだった。
すると彼女は、いたずらっ子のように笑った。
「実は、そんなことないんですよ」
「え」
「私、子供みたいな見た目に見えるでしょ? でもね、本当は二十五歳なんです」
「……二十五?」
大介はぎょっとした。失礼だ、と気付くより早く、鈴の全身を改めてしげしげと見てしまう。
自分より頭ひとつ分ほどしか変わらない背丈に、まるみを帯びた輪郭。顔の少し低い位置にある、丸い瞳。やはり全体的に見て、十五から十七――どんなに頑張っても十八程度にしか見えない。
無表情で困惑する大介に、鈴は教えてくれた。
「私、十五歳の時から成長が止まってるんです」
「成長が止まってる?」
「はい。多分、病気なんだと思います」
そういうことか、と大介は納得した。同時に、言いにくいことを言わせてしまった気がして、申し訳なくなる。オムライスを口に運ぶ手を止めた大介に、彼女は「別にいいんですよ」とあっけらかんとした様子で言った。
「もう、私と近しい人は大抵知ってることなんで。言いにくいことでもないですしね。気にしないでください! むしろ、本当に病気かどうかも解らないんですから!」
「え。……病気じゃないんですか」
だが鈴は先頬、「多分病気だ」と言ったのだ。――つまり、病気かどうかはっきりしていないということだろうか。
不思議がる大介に、彼女は説明をしてくれる。
「お医者様に調べてもらったんですけど、原因が解らないんですよ。確かに、成長が止まる病気っていうのは実在します。
でも、私の体はその病気ではなかったんです。それなのに、体が変化しない。成長ホルモンの投与もしたけど、変わらない。どのお医者様にかかってもそうで、一体どうしたらいいのか解らなくなったところで、私達のところに小鳥さんがいらっしゃったんです」
「小鳥さん」
「はい。そこで、私の体が成長しない理由は、亜人と関係があるのかもしれないという説明を受けました。当時の私はただの大学一年生で、亜人のことなんて全然知らなかったから……そりゃ、信じられなかったですよ。
一応映像として亜人のことも見せてもらいましたが、最初は、タチの悪い詐欺師が来たとしか思えませんでした」




