石焼オムライス
*
「今日こそ、オムライス食べてもらいますから!」
食堂の少女――鈴は、結わえたツインテールを揺らしながらそう主張した。今まさに、「本日の朝食セット」の食券ボタンを押そうとしていた大介は、その気迫に圧されて手を止める。
「……ええと。俺、今日は本日の朝食セットを」
「駄目です! 私があんなに言ってるのに、ハンバーグとかおやつとか食べて! オムライス食べてください!」
睫毛の長い瞳が、こちらをまっすぐに見据えてくる。小さな掌が、エプロンの裾をぎゅっと握りしめていた。橙色のスカートから伸びる二本の脚は、しっかりと地について仁王立ちだ。
どうやら大介は、知らぬ間にこの少女の顰蹙を買っていたらしい。オムライスひとつでそんなに怒らなくても、と思う反面、そんなに食べてほしかったのかという感嘆の気持ちもよぎる。
「まあ、どうしてもどうしても食べたくないとかだったらいいですけど! でも、出来る限り食べてください! 今日はオムライスデーです!」
ただの平日を勝手にオムライスデーにする鈴に、大介はまあいいかと諦めた。
「じゃ、食べます。オムライスください」
正直なところ、朝からオムライスなんてキツイなあという気持ちは少しあるのだけれど、ここまで強く要求されるとなんだか断りにくかった。ここで断ると昼も夜もオムライスを強制されそうだし、もう今のうちに食べておこうと思ったのだ。
鈴は幼い子供のように無邪気な様子で、「やった」と喜んでいる。
「じゃ、作ってきますから!」
「お願いします」
「はい! ソースは、デミグラスとホワイトがありますけど、どうしますか? あ、普通にケチャップもあります。あと、ちょっと時間かかりますけど、石焼きオムライスっていうのもあってですね、鉄板の上でライスを焼いてるんですよ! これが一番おススメです!」
「普通のケチャップのオムライスでいいです」
「でも、一番のおススメは石焼ですよ?」
「いえ、ケチャップでいいです」
「石焼美味しいですよ?」
「でも、ケチャップでいいです」
「石焼はですね、ライスがこんがりして、おこげになってたりするんです。そこに、醤油ベースの和風ソースをかけるんですよ。すっごく美味しいんです」
「……じゃあ、石焼で」
「かしこまりました!」
ごり押される形でメニューを変更した大介は、「作ってきます」と明るい声で宣言した鈴の背を見送った。あっという間だったなと思いながら、大介はテーブルについて食事が運ばれてくるのを待つ。
「アイツ、朝っぱらから元気だなあ」
蛙は呆れたように言いながらも、楽しそうに空中を泳いでいた。
*
「どうですか! これが特製の、石焼オムライスですよ!」
――数十分して、鈴が盆に石焼オムライスとやらを持ってやってきた。お盆の上には、確かに小さな石釜があり、その中ではオムライスがじゅうじゅうと音を立てている。分厚い卵の上にかかった醤油ベースのソースの香りが、大介の鼻腔をくすぐった。
朝からオムライスは重いなと思っていた大介だが、実際目の前にしてみると、なかなか食欲をそそる。
「いただきます」
大介は手を合わせて、スプーンを取った。「いいなー!」と横で叫ぶ蛙を無視して、オムライスをスプーンで割る。ライスはチキンライスではなく、雑穀米に味付けしたもののようだ。釜の底にこんがり色づいたおこげが出来ている。美味しそうではあるが、これはオムライスという分類で良いのだろうか? 疑問を感じながらも、大介はスプーンでがりがりとおこげを削って、卵と一緒にすくった。
そして、それを口に運ぶその前に、大介はふと気付いた。
「……あれ。鈴さん、どうしてここにいるんですか」
大介の正面の席に、鈴が座っていた。鈴はにこにこと笑いながら両方の腕で頬杖をついて、「見守ってます」と宣言する。
「私が作ったオムライスが、ちゃんとお口に合うかどうか!」
つまり、感想待ちということか。ならば急いで期待に応えようと、大介は口の中にオムライスを放り込んだ。
「どうですか?」
鈴が瞳をきらめかせる。




