↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
少年はいずれNになる  作者: 猫飯
控えめな誕生
PR
67/137

 確かに、何千人にも姿を変えられる亜人が出れば、大変なことになるだろう。誰が人間で誰が亜人なのか解らなくなってしまう。人間に擬態するというのは本当に迷惑な力だが、一人に限定されているのはまだ運が良かったのかもしれない。


「話は解ったかしら」


 桃の言葉に、大介は「はい」と頷いた。


 とりあえず、戦闘の回避なんて不可能なのだろうと内心で結論を出す。


人間を食べる以外の方法で亜人の空腹がまぎれれば、襲ってこないのではないか――なんてちらりと思ったのだけれど、人間しか食わないのならばどうしようもない。


それに、もしもこの先人間以外で亜人の空腹を満たす方法があったとしても、擬態能力を手に入れた亜人が暴れたことを考えれば、結局相手がこちらを殺しにかかる可能性が高い。そうなると、もう本当にどうしようもないだろう。



「まとめると、私達は亜人に食べられないように気を付けながら、戦闘に臨む必要があるってことね。

私達の姿に化けられたら、特に面倒なことになるでしょ? あとはまあ、戦いのコツとかは実際見てみないと解らないと思うから、近いうち一緒に対亜人兵器と亜人の戦いの映像を見てもらうわ。グロテスクなのは平気?」


「平気じゃないです」


「そう。なら、なおさら映像を見て耐性つけておかなきゃね」


「うへえ」



 大介の反応に、鬼と桃が声を合わせて笑った。



「でも、私達だって何も情報を持ってないわけじゃないのよ? 今まで憂鬱になる話ばっかり聞かせてきたかもしれないけど、今のアンタにも出来ることはあるわ」


「出来ること」


「ええ。途中で言ったと思うけど、亜人の見た目は別に獣みたいなタイプの奴だけじゃないの。小さいものも大きいものもいるし、攻撃方法も多種多様よ。


体を使って攻撃してきたりとか、こっちの神経に作用して幻覚を見せてきたりとかね。……でも、それってすごく不利でしょ? 会ってみなきゃどんな亜人か解らない、なんてさ」


「それは不便です」


「ね。そんなアンタの為に、こういう便利なものがあるわ」



 言った彼女は、部屋の隅に置いてあった紙袋を漁った。そしてその中から、凶器にもなりそうなほどに分厚い本を取り出す。広辞苑よりも分厚そうなそれに、大介はきょとんとした。


「なんですか、それ」


「亜人辞典よ」


「あ、亜人辞典」



 そんな国語辞典みたいなものがあっていいのか、と思う大介に、桃は説明してくれた。



「この亜人辞典はね、実際に出現した亜人や、亜人の可能性のある生き物をリストアップして詳細をまとめたものなの」


「亜人の可能性のある生き物?」


「ううん……そうね、たとえば神話とか伝承とかに出てくる化け物みたいな生き物、いるじゃない? ああいうのも、今は亜人なんじゃないかって考えられてるのよ。そういうのも込みで、ここにまとめてあるってこと」


「平たく言うなら、化け物図鑑だな」



 鬼が笑いながら言った。「あげる」と差し出された大介は、「化け物図鑑……」と呟きながらそれを受け取る。ずっしりと重たかった。



「これで日頃から勉強してれば、初めて見る亜人でも、ある程度攻撃の予測はつけられるってわけ」


「かなり分厚いから面倒だろうが、自分の命を守る保険だ。やっとくにこしたことはねえ。出来る限り多くの情報を、頭に詰め込んどくんだな。得意だろ? エリート中学生」



 からかうような言葉だが、確かにそういった暗記物は得意だ。大介が頷くと、桃は「よしよし」と満足そうな微笑みを浮かべた。



「じゃ、それ宿題ね。次会ったら、またクイズとか出しちゃうから」


「解りました。頑張ります」


「頑張って。……それじゃ、今日はこの辺にしましょう」



 お疲れ様、と言いながら、彼女は大きく伸びをした。大介も、ぐっと両腕を天井に向けて上げて、背筋を反らす。なかなか長い授業で少し大変だったが、今回のことで亜人についてより詳しくなれただろう。部屋に戻ったら早速亜人辞典に目を通しておいた方がいいかもしれない。


部屋の壁にかけられている時計が示す時刻は、まだ二十二時前だ。それほど眠くもないし、可能ならば今日の復習もしておくべきだろう。


 ――思いながら大介は、自分の隣の席を見る。椅子に腰かけたふりをしている緑髪の少年が、まだ瞳を閉じて腕組をしていた。休み時間を挟む前の体勢と、なんら変わりがない。蛙さん全然ついてきた意味ないな、と大介はじと目で見る。



「おい、何ぼんやりしてんだ。部屋戻ろうぜ」



 鬼が大介に声を掛けたので、大介は「はい」と返事をする。そして、もう一度蛙に一瞥を寄越してから、部屋を出た。鬼達の視線がある以上蛙に声をかけるわけにはいかなかったし、置き去りにしたところで誰の目にも触れないのだから問題ないだろうと思ったのだ。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。