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少年はいずれNになる  作者: 猫飯
控えめな誕生
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亜人一変化

「厄介」


 その言葉の持つ不穏な響きに、大介は面食らう。敵意よりももっと厄介な感情。大介にはよく解らなかった。


「厄介ってなんですか。亜人は、俺達をどう思ってるんですか」


 亜人はね、と桃は溜息交じりに答えた。


「私達のことを、食べ物だと思ってるみたいなの」


「……食べ物?」


「そう。中国の方でね、あまり強くない亜人が現れたことがあるの。だから中国の対亜人管理局は、その亜人を生け捕りにして、色々な実験をしたわ。


発症した亜人の脳波を分析したりとか……まあ、色々ね。そうしたらね、発症したその亜人は酷い空腹状態だってことが解ったの。それで、死刑囚を使って確認したら、その亜人がすごい勢いで死刑囚を食べ始めたみたいで」


「うわ」


 大介は、死刑囚の命を使い捨てるようなやり方に、生理的な嫌悪を抱いた。しかし、それを桃に言ってもどうしようもないのは解っていたため、無表情を若干渋くしながらも話の続きに耳を傾ける。


「それで……ここからがますます厄介なんだけど」


「まだ厄介なんですか」


「ええ。人間を食べた亜人はね……その人間に姿を変えられるのよ」


「え」


 大介はきょとんとしてまばたきを繰り返した。


「ええと……人間から発症した亜人が、また元の人間に戻るんですか」


「そういうわけじゃない。そうね、たとえばアンタのお姉さんが、もしも鯨の助けを得られずに、そのまま亜人としてもう少し動いてたとしましょう。それでアンタは、その亜人に食べられて死んでしまった」


「やだ」


「仮定の話よ。嫌なら鬼が食べられたって設定でもいいわ」


「俺がそんなヘマするかよ」


 鬼は不満そうに口を挟んだが、桃は「なんでもいいでしょ」と一蹴した。


「とにかく、亜人に鬼が食べられたとする。そしたらね、その亜人は鬼の姿になれるのよ。それと同時に、人間の知能や言語能力を手に入れる。ただ、亜人の姿も捨てたわけじゃないわ。つまり、鬼を食べた時点で、その亜人は”化け物”にも”鬼”にもなれる存在になるってこと」


「実験でもそうだったんですか」


「そうね。死刑囚を食べた亜人は、すぐにその死刑囚の見た目になったわ。それで、見逃してくれ、逃がしてくれって人間の言葉で頼んだらしいの」


「え。それで逃がしたんですか」


「まさか。暫くは閉じ込めて、体を観察したの。それで、危険行動は見られなかったから、こっそり監視をつけて一時的に行動を許可したのよ。


……そしたらその途端に、亜人になって暴れだしたそうよ。これがどういうことか解る?」


 大介が首を傾げると、桃は「つまりね」と話をまとめた。


「最初は私達を捕食するために襲い掛かってきていた亜人は、一旦人間を食べて空腹を満たすと、今度はその人間の姿を借りて、結局私達を殺そうとしてくるってことなの。


中国の件は、強い亜人ではなかったけれど、不意を突かれたせいで何人かの犠牲者が出たわ。勿論、監視もしてたからそこまで対応が遅れたわけでもなかったんだけど……人間を食べる前の亜人より、若干力があがってたみたいね。そのせいで、少し手こずってしまったらしいの」


「これはマジで、面倒な生態なんだよな」


 鬼が嫌そうに顔をゆがめてぼやく。


「中国の件はまだマシだ。その亜人の頭が悪かったおかげで、すぐに化けの皮が剥がれてちゃんとトドメを刺せた。


だが、もう少し亜人が慎重だったら……たとえば、二十年も三十年も大人しい人間のふりをされたらどうだった? 本当に野放しになってたんじゃねえか? 


それに、人間を殺せるのは亜人だけじゃない。人間の姿のままだって、殺人は出来る。


……たとえば、空を飛べるタイプの亜人が人間を食って、人に擬態出来る力を得たとしよう。その亜人が人の姿で誰かを殺し、その場から翼で逃げ去る。その時点で、アリバイなんかもう関係ない。こういう殺し方をされてしまえば、亜人のやりたい放題になっちまう」


「……人間以外のもので、亜人の空腹を満たすことは出来ないんですか。たとえば、蟻を食べさせてしまえば、亜人は蟻に擬態するだけになったりとか――」


「中国の件を受けて、ロシアの対亜人管理局が今のアンタと同じ発想をしたわ。ロシアでも亜人の捕獲に成功したから、小さな動物を無理矢理食べさせた。でも、駄目だったみたい。亜人の空腹を満たすのはあくまで人間の体だけ。亜人に擬態能力を与えるのも、人間だけよ。


ただ、不幸中の幸いというか――亜人が擬態出来るのは、あくまで一人の人間に限るみたいなの。たとえば、亜人が鬼を食べて、鬼の姿になる能力を手に入れたとするでしょ? でもその亜人が、次に化け物の姿になって大介を食べたとしても、亜人が擬態出来るのは鬼の姿だけ。大介の見た目にはなれないわ」


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