亜人についてもっと詳しく
「それでいい。……もしこれについて深く考える必要があったら、それはその時に考えりゃいいんだ。今のお前はまだ、知識を蓄える時期だからな」
大介は頷いた。おそらく鬼は、とにかく大介の頭に色々と詰め込もうとしているのだろう。亜界侵略説について、鬼は「三原が自力で気付いた」だなんて言っていたが、あんなものはほぼ教えたも同然だった。
そのようにしてまで、禁じられていることを彼がわざわざ教えてくれたのは――きっと、善意に他ならないのではと大介は思う。
亜人との戦いなんて、どう転ぶか解らないような展開も多くあるだろう。だから彼は、とにかく知識を与えてくれているのだ。いつか予想外のことで、その知識が大介の助けになるかもしれないから。
だったら大介は、それに応えるまでだ。幸運なことに、自分は勉強が得意なのだから。
「ええと……じゃあ、大介君。今私たちが、亜界じゃなくて地球で戦ってる理由が解ったかしら?」
「はい。亜界への道が塞がってるからですね」
「そういうこと。で、次に亜界への穴が開くのは、約百年後になるわ。……その時こそ、人類側の反撃の時になるの。
だから、私達が生きてる間の目標は、地球上の亜人兵器の増加と、亜人の殲滅が目標になるわね。
勿論、亜界の研究も進めてるから、もし百年経つまでに亜界が見つかれば、私達もそっちの攻撃部隊に配属されることにはなると思う」
ふむふむ、と大介は頷いた。隣の席の蛙は、瞳を閉じたままいっこうに開く気配がない。もう完全に居眠りの体勢に入っているようだ。協力してくれる、と言った割には、なんだか興味が無さそうである。
しかし、桃たちの目に見えない存在である蛙に「起きなさい」と声をかけるわけにもいかないので、大介は何も言わず桃に視線を戻す。
「それじゃ、ここで一旦、亜人と人間の関係の説明については終わるけど……何か質問はある?」
「質問ではないですけど、ちょっとだけ話をまとめていいですか」
「どうぞ」
「ええと……まず、四百年に一度、宇宙には亜界っていう穴が開きます。
で、三百年前、その亜界から出てきた亜人と、米国が宇宙上で戦争をしました。米国は一応亜人を退けたけど、その五世代目以降から、亜人細胞に寄生された人間が出るようになりました。それで今、俺達は亜人細胞と戦ってる。……そんな感じですか」
「そう、そう。その通り」
桃は誇らしげに頷いた。生徒である大介がちゃんと理解していたことが、彼女の自信につながったようだ。
「じゃあ、次に行く前に、一度休憩を挟みましょ。それで、今度は亜人の生態について説明するわ。……今度は実践に絡んでくるから、特に重要よ。ちゃんと聞いてね」
「解りました」
大介の言葉に、桃は満足げに微笑んだ。
*
――それから十分ほどの休憩を挟み、授業が再開された。
「さて。……今からは、亜人の生態についてのお勉強よ。確か大介君は、獣みたいな見た目をした亜人を見たって聞いてるんだけど、どうかしら」
尋ねられた大介は、姉が亜人になった瞬間のことを思い返す。あの時は大介自身も頭痛を感じていたので、はっきりとした記憶があるわけではない。
けれども確かに、相対した亜人は、獣じみていたように思う。フローリングを貫く鋭い爪と、巨大な頭部から伸びていた角は、大介の目に焼き付いていた。
「確かにあれは、獣って感じでした」
大介が答えると、桃は「ええ」と首肯した。
「でもね、実は亜人は、皆がああいう獣みたいな見た目ってわけじゃないの」
「そうなんですか」
「そうよ。おとぎ話に出てくる妖精みたいな見た目の奴もいれば、大きな樹木みたいな奴もいるし……人の形をしてる奴だっている。
大介のお姉さんが亜人になった時、あきらかに異形の怪物の形をしてたのは、むしろ幸運だったと思うわ。人の形をしていたら、油断してたかもしれないからね」
成程、と大介は納得した。確かに、人の形と化け物の形ではまったく別物だ。勿論、姉の姿がまったく別人に変わるのだから、人の形だって激しく動揺はしただろうが――やはり、異形の存在と同族の見た目とでは、受ける印象は変わってくるだろう。
「忘れないでほしいのは、どんな見た目であっても、亜人は間違いなく私達に襲い掛かってくるっていうことよ。たとえそれが人の形をしていたとしても、倒すのを躊躇してはいけないわ」
「解りました」




