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「とにかく、こんな風に戦争の発端についてはいくつかある。……が、あくまでも日本が支持してるのは“地球侵略説”――亜人が地球を侵略しようとしたことがきっかけで戦争が始まった、っつう考え方だ。
お前が公の場面に出ることなんてほとんど無いだろうが……もし、“対亜人兵器管理局”の“日本支部”として意見が求められることがあったら、お前はそう答えてくれ」
それは、現在の日本と米国の力関係によるものだろうか? そう思ったがあえて口にせず、大介はただ頷くにとどめた。鬼が目を細めて笑う。
一方桃は、まるで置いてけぼりにされて怒っている子供のように唇を尖らせていた。
「何不細工な顔してんだよ」
鬼が怪訝な様子で桃を見る。桃はふて腐れて、「私、そんな説知らなかった」と言った。
「せっかく後輩にいいところ見せようと思ったのに、面目丸つぶれじゃない」
「ああ、それで拗ねてンのか。悪ィ悪ィ」
いたって軽く謝罪を述べた鬼は、ポテトチップスを一枚出して「これやるから機嫌直せよ」と言った。桃は「拗ねてるわけじゃないけど」と答えながらもそれを受け取る。
鬼が肩を竦めた。
「お前に亜人について教えたの、確か桜と鯨だろ?」
「うん」
「じゃあお前が知らなくても無理ねえよ。アイツら真面目だからな」
「真面目って? 真面目が関係あるの?」
「亜界侵略説っつうのは、一応教えるの禁止になってるからさ。アイツらは言わねえだろ」
「えっ、そうなの!?」
そうなんですか、と大介も少し驚いて言った。禁止というわりに、鬼はかなりぺらぺらと喋っていたように思うが。
「なんで禁止になってんの?」
桃が不思議そうに首を傾げる。
「そりゃ、断言はしねえが……米国様の命令じゃねえの? 実際、今の教育要綱からも、研究改革のあたりは削られてるらしいしな。教育にゆとりをもたせるっつう名目で、他も色々いじられてるが、メインの目的は研究改革のあたりだろうと思うぜ」
「……なんか、それって」
逆に怪しくない? と桃は眉を寄せた。鬼は「さあな」と笑う。
「すげえ好意的に解釈するなら、”ただ火種を消したいだけ”っていう考え方も出来る。少なくとも、俺らに断言出来ることじゃねえよ」
「でも……もしもよ? もしも、米軍が亜界を侵略しようとしてこんなことになったんだとしたら……私達、巻き添えみたいなものじゃない」
「士気が下がるか?」
「……ちょっとだけ」
「なら、それも亜界侵略説を教えてない理由になるのかもな」
鬼の言葉に、桃は眉尻を下げる。納得いかない、という感情を全面に押し出していた。
「そんな顔するなよ。あのな、現実的な問題として、今は米国の責任を追及してる場合じゃねえ。仮に亜界侵略説が本当だったとしても、俺達に出来ることはねえんだ。
第一、もう亜人細胞は日本人の体にも宿ってる。米国が亜界を侵略したことが明るみに出たって、どうなるものでもねえだろ?
それに、どうしても納得がいかねえなら、お前は地球侵略説を支持すればいい。何回も言うが、今俺が言ってるのはあくまで一説にすぎねえんだからな」
「でも、もう話聞いちゃったし」
「じゃ、局長殿に頼んで記憶の隠ぺいでもしてもらえよ」
「嫌よ、そんなの」
桃はまだ不満そうだったが、たいして気にした様子もなくにやにやとする鬼の様子に、やがて溜息を吐いた。そして、「まあ確かに、気にしても仕方ないわよね」と呟く。
「どうしたって、亜人細胞はいるんだから」
「そうそう。米国を吊し上げるなら、全て解決した時だ」
「うん。その時私が生きてたら、絶対強烈に糾弾してやるわ。……ていうか、アンタこんなにペラペラ喋っちゃっていいの? 小鳥さんに怒られるんじゃない? 超今更だけど」
「俺は別に教えてねえし。新入りが優秀だったから、”自力”で気付いたんだ。俺は何も教えてねえ。そうだろ、三原」
端正な顔をにっこりと笑わせて、鬼が尋ねてくる。大介は無表情で、こっくりと頷いた。そういうことにしておいた方が、鬼にとっては都合が良いのだろう。鬼は満足げに目を細めて、大介の黒い髪をくしゃくしゃと撫でる。




