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少年はいずれNになる  作者: 猫飯
控えめな誕生
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疑惑の米国

「それがどうした?」


「どうっていうか……米国の言ってるのが本当なら、何もないですけど」


「本当じゃなかったら?」


 鬼が目を細めた。


「地球侵略戦争が三一三年前。研究改革が三二十年前。

つまり、侵略戦争の七年前に研究改革が起きた。

これが米国の主張だ。


もし米国が嘘をついてるとしたら……そうだな、たとえば“本当は、侵略戦争は米国の研究改革よりも前に起きた”としよう。

そしたら、どんな問題が起きる? 何を不思議に思って、さっきお前は質問したんだ」


「不思議にっていうか……ただ、変だなあと思って」


 地球侵略戦争と言うからには、宇宙基地を破壊されただけで済んだわけではないだろう。米国だって攻撃を仕返したはずだ。


亜人を殺せるのは亜人細胞だけだから、有効な攻撃は出来なかったかもしれないが――それでも、当時の米国が出来る限りの武器を使用して、亜人に対応しただろうことは想像に難くない。


米国が当事者でなければ、むしろ米国のマーケットは武器の輸出により安定したかもしれないけれど――今回はその限りではない。


イラク戦争やベトナム戦争とも、まったく異なる。宇宙空間での戦いだ。


戦費としてどれだけ掛かったのだろうか。これは大介の想像に過ぎないが、国内総生産を大きく上回っていたのではないか。


 それだけのことをした直後に研究改革だなんて、はたして可能だったのだろうか。研究に裂くだけの資金的な余裕が、当時のアメリカにあったのだろうか。いくら先進国とはいえ、持ち直すのにはもっと時間がかかるはずではないか。


 第二次世界大戦後に米国が急成長したこととは話が違う。第二次世界大戦では勝利したのは、米国を含む連合軍側だ。つまり彼らは、敗戦国ではなかった。


しかし、三百年前の地球侵略戦争においては、米国は敗戦国だ。今回のケースで、戦後まもなく研究改革に至ることなんて、可能だったのだろうか。


 ――大介は思いのままに、そういった疑問を語った。そして、最終的にこう締めくくる。


「……だから、もしかしたら逆なのかなって」


「逆?」


 桃がいぶかった。


「はい。本当は、亜人が襲ってきたんじゃなくて、米国の人が襲った」


 桃の目が丸くなる。


「米国の宇宙研究って、当時から抜きん出てたから。亜空洞のことも、本当は最初から見つけてたんじゃないかと思って。


それで米国は、資源とかをたくさん手に入れた。でもそれって亜人にとっては侵略だから、当然反撃してくる。


その結果が今なんじゃないかって。だから、研究改革は新しい資源の産物によるもので……侵略戦争より前。それで、亜人に襲撃を仕掛けられたのがその後」


 ……って思ったんですけど。とそこで大介は否定に入った。


「でも、冷静に考えたら多分違いました。だって、米国はちゃんと写真とか提出してるって、さっき桃さん言ってたし――」


 言いかけた大介の言葉を、突然手を打つ音が遮った。見ると、鬼がパチパチと手を鳴らしていた。「何かおめでたいことでも」と尋ねると、鬼はくつくつと笑う。


「子供にしては珍しいくらい頭が回る奴がきてくれて、喜んでンだよ」


「え」


「確かに、お前の言うような考え方もあるんだ。


さっき、戦争の始まりには諸説あるっつっただろ? まずひとつは、桃が説明した“地球侵略説”。……もうひとつが、“亜界侵略説”だ」


「亜界侵略説」


「そう。戦争の発端は、“人類側が吹っ掛けたのが原因だ”っつう説だよ。

今から言うのは仮の話だが、まず米――いや、“某国”が宇宙研究の段階で亜空洞を発見した。


亜空洞の先は亜界に続いていて、未知の資源がたんまりあった。


“某国”はそれらを独占的に入手し、研究改革に至るまで様々な分野を発展させた。

ところが、亜界に住んでいた亜人が反逆して、人間に戦争を仕掛けてきた。

その結果、今の戦争が起きてる――この考え方が“亜界侵略説”なんだよ」


「なるほど」


 大介はこくりと頷いた。つまり、大介が最初に考えたことも、数ある説のうちのひとつだったのだろう。


大介個人としては、“亜界侵略説”か“地球侵略説”――どちらを正しいとは一概に言えないな、という思いだ。


亜界による攻撃で打撃を受けた米国が、それほど経たぬ間にあらゆる分野を発展させたというのは違和感があるが――逆に、亜界との戦いがあったがゆえに成長したという考え方も出来ないわけではない。


 亜界と接触した折に、未知の資源を手に入れられた可能性もあるだろう。たとえそれが、亜界からの襲撃によるものでも。


 鬼の考えもそうであるようで、「これが正しいってわけじゃねえからな」と念押しする。


「今言ったのはあくまでも、諸説のうちのひとつだ。

他にも、“欲深い人間への罰として、神か亜人を遣わしたのだー”なんて宗教じみた説もあるしな。


そんなモン、どう考えてもお伽話の世界だって俺は思うが……現実には、一部で宗教化してるほど支持を得てる説でもある。終末思想の奴らの理念に一致してるんだろう。そいつらはそいつらで、亜人とは違う意味で厄介だ。


何せ、人間が亜人に滅ぼされることを望んでる奴らってことだから」


「え。その人達も人間なのに、滅ぼされたいんですか」


「そういうおかしな奴らもいるってことだ」


 鬼が苦笑した。




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