よく解る亜人講座!
忘れてしまおう、と決めて深く頷いた大介に、蛙は「絶世の美少女に対して失礼な奴だな」と憤慨している。自分で言うな、と大介は内心思った。
一方の鬼も、もう大介の不審行動は気にしないことにしたらしい。
「まあ、なんでもいいけどさっさと行こうぜ。勉強は会議室でやるからな。もう桃も待ってるはずだ」
「それは悪いことした。急がないと」
大介は、鬼の隣を歩いて会議室に移動した。そのすぐそばで、蛙が子犬になったり、有名な俳優に姿を変えたり、はては巨人になったりして遊ぶので、大介は気が散って仕方なかった。
初めて人の目に触れたのが嬉しいのかもしれないが、少しは落ち着いてほしいというのが大介の本音だった。
*
「遅い」
大介達を迎え入れた桃は、開口一番そう言った。鬼が「悪ィ悪ィ」と雑に謝罪をする。
「でも、桃には“遅れる”ってメールしただろ」
「まあそうだけど。でも、私すごく退屈だったんだからね」
「携帯でもいじってりゃ良かったのに」
「いじりすぎで電池切れたの」
唇を尖らせた桃は、すぐに大介を見て「まあいいけど」と唇を笑わせた。瞳には、どこか強気な光が宿っている。
「遅れた分はビシビシ詰め込むから、覚悟してね」
「俺悪くないのに」
「連帯責任よ、同じ対亜人兵器の仲間なんだから。春日中学の生徒が“もう降参だ”っていうくらい、教えこんであげる」
なんだか物騒だが、しかし桃の表情は楽しげだ。冗談なのだろうと判断した大介は、「受けて立ちます」と答えた。
隣で蛙が、「お前顔のわりに男前な返事するな」と感心している。大介の答えに、桃は嬉しそうににっこり笑った。おいおい、と鬼が言った。
「三原、お前そんなこと言っていいのか? 多分冗談じゃねえぞ」
「え。冗談じゃないんですか」
「当たり前じゃない」
桃は胸を張った。その豊かな体を見た蛙は、「俺の女の時とどっちがスタイルいいかな」と呟いている。
勿論そんな台詞は桃には聞こえないので、彼女は「よし」なんて腕を軽くまわし、気合いをいれている。鬼が呆れた様子で、大介に囁いた。
「アイツ、後輩が初めて出来たからって気合い入ってンだよ。そのうち落ち着くから、ちょっと付き合ってやってくれ」
頷く大介を前に、桃は早速白板に文字を書き付けていた。
*
「……さて」
――“亜人について”。
綺麗な字でそう書かれた白板に背を向けて、桃は真っ直ぐ立った。長い足を誇張するようにこちらに一歩を示した彼女は、ゆるくウェーブのかかった蜂蜜色の髪を耳にひっかける。
「大介君」
「はい」
会議室の長机を前に、パイプ椅子に腰をおろした大介は、呼び掛けられて返事をした。
隣の席には、蛙が生徒よろしく腰掛けている――フリをしていた。無機物に触れない彼は、当然椅子に座ることも出来ないのだ。
「まず、大介君が亜人についてどれくらい知ってるのかを確認するわ。亜人について、知ってる情報を出来るだけあげてくれるかしら」
「知ってる情報」
ううん、と大介は小さく唸った。大介の隣――蛙とは反対側の席に腰をおろし、事前に会議室に持ち込んでいたらしいポテトチップスを口に運ぶ鬼が、「別にそんなに構えなくていいぜ」と笑う。
「“亜人とは化け物である”とかでもいいしな」
「ちょっと、アンタ何ポテチなんか食べてンのよ!」
「仕事あがりで腹減ってンだよ。飯食って帰ろうと思ったのに、桃が三原の勉強会してえとか言うから、わざわざポテチで我慢してやってンだろ」
「別に鬼に来てほしいなんか言ってないじゃん」
「俺だって新入りは気になるっつうの」
鬼がけらけらと笑いながら、ポテトチップスを一枚大介に寄越した。バリバリとポテトチップスをかじった大介は、もう一度唸ってから「亜人は」と切り出した。




