謎の美少女、蛙子?
協力を申し出てくれた相手に対して少し悪いと思いながらも、大介はその本音をとめられなかった。
しかし、怒るかと思われた蛙は、特にそういった様子は見せない。むしろ、「なんだ、そんなことか」とパッと顔を明るくする。
「それなら出来るぜ」
「え」
「俺、自分の見た目とか好きに変えられるんだよ。まあ、どうせ誰にも見えねえし、要らねえ力だなあと思ってたんだけどさ。お前がいるなら話は別だ」
蛙が不意に、両手を大介の前に出した。パチン、と合わせる。咄嗟に大介がまばたきをしたその次の瞬間、蛙の姿は犬へと変わっていた。
白くてふさふさした毛並みに、丸っこい小さな体。ソファの上に四つ足で立ち、つぶらな瞳でこちらを見上げるその犬の名前は、ポメラニアンといった。大介が、犬の中でもっとも可愛いと思っている犬種だ。
「すごい! かわいい!」
満面の笑みを浮かべた大介に、蛙が強気に鼻を鳴らす。
「どうだ! すげえだろ!」
「人語で喋らないで。テンションが下がる」
「我が儘言うな、意思疎通出来ねえだろうが!」
蛙がぎゃんぎゃんと喚く。せっかく可愛らしい姿なのに台なしだ、と内心不満に思う大介に、蛙は相変わらずの人語で続けた。
「まあ見てろって。こんなものにもなれるから」
言うやいなや、ポメラニアン――蛙が、大介の胸にピョンと飛び掛かってきた。人語を喋っても見た目はポメラニアンだ。こちらに来てくれたことが嬉しくて、大介は瞳を輝かせながら抱き留める。
――と。むにゅ、と柔らかい感触がした。鼻先を甘い香りが掠める。
「うわ」
現状に気付いた大介は、情けない声をあげた。大介の腕の中には、顔立ちのよく整った少女がいたのである。
目のぱっちりとした、可愛らしい少女だ。腰までもある、ゆるく波打つ髪の色は、彼が男だった時と同じ緑色だ。しかし、それすらも何故か似合っている。
大介と同じ管理局の支給服が包む彼女の体は、スタイル抜群だった。長い腕はするりと大介の首に絡み、豊かな胸が大介の薄い胸板に押し当てられる。太ももが、大介の股ぐらへ滑りこんできた。
綺麗な二重の乗った瞳を猫のように細めた少女は、艶めいた唇を微笑ませる。
「……な? こういうのも出来るんだぜ?」
可憐な容姿に似合わない口調だが、大介の頭はそれどころではなかった。つま先から一気に熱があがってきて、顔面に集中する。
女子とほとんど喋った経験のない大介には、幸福を通り越してもはや死にそうだった。心臓が、瓶の中に詰められ激しくシェイクでもされているかのように、ばくばく言っている。
「ど、どいてください」
息も絶え絶えに訴えると、蛙はにまにまと笑った。
「ンだよ、ちょっとサービスしただけだろ」
「そんなの要らない。死ぬ。やめて。どいて」
「おいおい、そんなんでいざという時大丈夫かよ?」
「うるさい。蛙さんだって元は絶対童貞のくせに」
「し、仕方ねえだろ! 俺は誰にも見えねえんだから!」
「仕方なくない。同じ童貞なんだから、気を遣って」
「だから気を遣ってサービスしてやってんじゃねえか」
蛙の小さな手が、大介の太股を撫でた。ひい、と大介は棒読みな悲鳴をあげてじたばたともがく。「暴れるなって」と蛙が笑った。
「なあ、せっかくだからもうちょっと色々してやるよ」
「色々って」
「色々は色々だよ。何がいい? どうせ俺には具体的な肉体はねえし……いい夢見させてやるから」
薄い唇の隙間からあふれた吐息が、大介の首筋を撫でた。初めての感覚に、鳥肌が立つ。
「なあ、何がいいんだよ?」
蛙が甘く誘った。――大介は、何とか声を搾り出した。




