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「別に死んだような覚えはねえから、幽霊ではないと思うんだけど。
つか、そもそも生き物の名前って人間がつけるものだろ? 今まで人に認識されたことがねえから、幽霊だなんだって言われても、俺には名前がねえんだよ」
適した言葉が見つからないとはそういうことか、と大介は納得した。
確かに、生き物や物事に名前を与えるのは人間がしていることだ。否、もしかしたら犬や猫もやっているのかもしれないが、仮に彼らの言葉で蛙に名前があったとしても、大介には無意味なことである。
正体がはっきりしないのは気になるところだが、蛙自身にも解らないのではどうしようもない。
本人もあっさりしたもので、「まあでも、俺はそもそもそういう存在だから、周りが俺に気付かねえことは今更気にしてもなかったんだよ」なんて言っている。
「……でも昨日、亜人を発症させた後のお前を見て、すぐに解った。今のお前なら俺が見えるってな」
「どうして解ったの」
「さあな、俺にもなんでだか解らねえ。ただ、何となく……直感っていうのかな。見たら解ったっていうか」
大介はまたじと目で蛙を見た。なんだか、解らないことだらけで非常に怪しい。話を聞けば聞くほど怪しくなるというのは、どういうことなのだろうか。
そんな大介の目線に、蛙は「仕方ねえだろ」と肩を怒らせた。
「本当に、何となくとしか言えねえんだから! とにかく、亜人細胞を発症させたお前には、俺が見えるようになったんだよ!」
「でも、なんか全体的に怪し過ぎる。見えない見えないって言うけど、俺にはちゃんと見える」
「だから、お前にだけなんだって!」
「でも、どこからどう見ても人間だし。……何かもっと、具体的に人間じゃないところを見せてくれないと信用出来ない」
「そ、そんなこと言われたって」
蛙は情けなく眉を下げたが、すぐに「あ!」とひらめいた様子を見せた。そして、掌を大介に差し出す。
「何ですか」
「握手しろ」
「やだ」
「やだじゃねえよ! いいから握手しろって!」
「なんで」
「証明してやるっつってんだよ!」
そう言われてしまえば、断る理由はなくなってしまう。大介は内心、「どうして男と握手しなければいけないんだ」と思っていたが、それでも仕方なく相手の手を握ろうとした。
「……あれ」
――しかし、握ることが出来なかった。触れようとすると、すりぬけてしまうのだ。まるで、映写機から映し出される映像を触ろうとしているかのようだった。
大介の指は蛙の掌を突き抜けているが、そのような感覚も感じない。
「触れねえだろ?」
誇らしげに言った蛙が、大介の手をぎゅっと握ってきた。あれだけ触ろうとしても触れなかったのに、蛙の方はあっさりと大介の手を掴んでいる。
「どうして……」
「そういうモンなんだ。お前が俺に触ろうとしても、触れない。でも、俺の方からお前に触ることは出来る。……ちなみに、こういうのもアリだ」
言った瞬間、蛙の姿が目の前から消えた。本当に、大介がまばたきをした途端に、影も形もなくなってしまったのだ。驚いてあたりを見渡すと、声がした。
「上だよ、上」
上――と言われた通り頭上を見上げた大介は、じわりと目を見開いた。
天井から、蛙の首から上だけがにょっきり出てきていたのだ。
「触れるだけじゃねえ。こうやって意図的にすりぬけることも出来る。
お前の部屋に入れたのも、こういうことだ。俺の前では、鍵なんてただのインテリアに過ぎねえんだよ」
「生首気持ち悪い」
「生首って言うな!」
ガウと吠えた蛙は、「ったく」とぼやいてまた消えた。気配もなくソファに戻ってきた彼は、足を組んで大介を見る。




