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まるでノルマ未達成のセールスマンのように必死な態度に、大介は唸り声をあげる。ますます不審だとは思うが、そんな風に眉を八の字にして情けない顔をされると、なんだかこちらが悪いことをしているような気がしてきた。
「……犯罪者とか、不審者ではないの」
大介が改めて確認すると、蛙はしきりに頷いた。大介は散々迷ったが、結局短く息を吐いた。
「……じゃあ、話だけ聞く。でも、あと一時間くらいしたら行かなきゃいけないところがあるから、それまでに済ませて」
本当は犬の雑誌を読みたかったのだが、今回は見送るしかないだろう。大介の返事に、蛙は顔をパッと輝かせる。解った、と嬉しそうに言った。
「それなら、とりあえず話するから、座れよ」
「俺の部屋なんだけど……」
言いながら、大介はとりあえず言われた通りにソファに腰をおろした。
蛙は大介の前に立ち、腕を組む。自分と同年代の少年であっても、目の前に立たれると威圧感があった。仕方がないので、大介が「蛙さんも座って」と自分の隣を示すと、蛙は「あ、どうも」と腰を下ろす。
「……それで、話って何ですか」
大介が尋ねると、蛙は「その前にさあ」と答えた。
「俺がどうやってここに来たかを説明させてくれよ。お前も気になるだろうし」
「あ、それは気になる。俺、鍵かけてたのに。……もしかして、誰かにマスターキー的なものを借りたの」
それなら、蛙が勝手にこの部屋に入っているのも、納得は出来ないが理解は出来る。管理局で支給されている服を着ているところを見るに、きっと管理局の関係者に違いない。
自分で言った案に自分で納得した大介は、何度か頷いた。しかし、蛙の方が頭を左右に振った。
「いや、そうじゃねえ」
「違うの」
「驚くなっつっても無理だろうけど……まあ、出来るだけ落ち着いて聞いてくれ」
そこで蛙は、一度言葉を切った。そして、大介の目を真っすぐに見据える。
「……実は俺は、人間じゃねえんだ」
「え」
「勿論亜人でもない。なんて言うか……適した言葉が見つからねえんだけど、ようは“お前にだけ見える存在”なんだ」
――大介は閉口した。もしかして、自分は大分疲れているのではないだろうか。
思えば、無理もない話だ。ここ数日で色々なことがあった。犬のサーカスに行き、姉に叱られ、その姉が亜人になり、家が破壊され、そのまま管理局に連れて来られて今に至るのだ。熟睡したつもりでいたが、きっと連日の疲労が溜まっているのだろう。これは、犬の雑誌を読むより眠った方がいい。
そう思って立ち上がり、ベッドに移動しようとした大介の服の襟首を、蛙が思い切りわしづかむ。
「ぐえっ」
「何どっか行こうとしてンだよ!」
「幻覚が話し掛けて来る。これは幻聴。俺は本当に疲れてるらしいので寝る」
蛙が慌てた。
「げ、幻覚じゃねえんだって! お前、最近体の亜人細胞を薬で発症させただろ!? それの影響なんだよ!」
その言葉に、大介は足を止めて蛙を振り向く。今の発言は、幻聴でとどめるには気掛かりなものだった。
「……どういう意味」
「俺は元々、人間には見えねえ存在なんだ。一昨日だって、管理局に来てたお前の周りをうろちょろしてたけど、お前には全然見えてなかったしな」
何それ、と大介は疑惑の目で蛙を見る。しかし蛙は、真剣な表情を崩さないまま、「小鳥も鯨も、ここにいる奴は全員気付いてねえ」と断言した。嘘をついているのかどうか、大介には解らない。大介は訝りながらも尋ねてみる。
「じゃあ……蛙さんは、幽霊みたいなものなの」
蛙は「どうかな」と首を傾げた。




