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少年はいずれNになる  作者: 猫飯
控えめな誕生
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 ロボ――イチゴは、機械音声独特の妙な抑揚で、「イチゴデス」と名乗った。

複雑そうな顔をした桜に、蛇は大人びた様子でくつくつと笑う。


「ここにいる時点で、“子供らしい子供”なんか有り得ないんだよ」


「アリエマセン」


 何故かイチゴが同意した。面白い性格にプログラムされてるんだなあ、と大介は感心する。一方、蛇はうろんげにイチゴを見ると、「お前が言わなくていいんだよ」と呆れた。


「それより、あとでラットの行動記録、俺のパソコンに送っといてね」


「ワカリマシタ」


「よし。それじゃ、よろしく」


「……蛇サマノゴ用件ハ、ソレダケデスカ」


「え、そうだけど」


 イチゴの顔文字が、なんだかじとっとした。目が一本の横線になり、蛇を見ている。ロボットのはずなのに、まるで「そんなことの為に呼ぶな」とでもいいたげで、大介達は顔を見合わせる。ロボットにしては、なんだか人間じみた反応だ。


 一方、慣れた様子で嘆息した蛇は、「いいからさっさとやれ」と吐き捨てた。イチゴは激しくモータ音を鳴らしてみせたが、しかし、結局それ以上は何も言わずに背を向けて歩きだす。そして、先程出てきた部屋の前まで向かい――そこで足を止めると、頭をそっとこちらに回転させた。まだ同じ顔文字で、しぶとく蛇を見ている。


 対する蛇は、イチゴの視線を完全に無視して、「じゃ、俺達も戻ろうか」と言った。


「俺はただ、出来立ての奴隷を自慢したかっただけだから。頼んだ用事だって、ついでみたいなもんだし」


 蛇の言葉に、イチゴは「奴隷デハアリマセン」と反論した。


「奴隷デハナクテ、イチゴハ貴方ノ……」


「はいはい、仕事してね」


 蛇がひらひらと掌を揺らす。イチゴは、顔文字の口にあたる部分に“皿”の文字を使って――いわゆる『(`皿´)』の顔文字を表示して――全身のモータ音を更に激しくさせた。それでも、やっぱりそれ以上文句を言うことはなく、先程いた部屋へと戻っていく。最近の人工知能ってスゲエなあ、と鯨が呟く。

 蛇は肩を竦めると、「一応自慢したかったんだけどね」とまろい頬に手を当てた。


「余計なことばっかり言うんだから」


 しかし蛇はすぐに、「まあいいや」と笑った。


「とにかく、こんな感じの奴隷がいるんだ。俺の言うことは必ず聞くように命令を書き込んである。

万一対亜人ロボットとして使えなかったとしても、便利な手には違いないよ。すごいでしょ?」


 すごいです、と桜が大きく頷いた。蛇は強気に鼻を鳴らすと、大介を見上げる。


「あれは、ほとんど俺一人で作り上げたものだ。これである程度、俺の実力は解ってもらえたと思う。


勿論、色んな分野を研究してるから、出来るのはロボット工学だけじゃないよ。でもとりあえずは、俺のやってることについて解ってもらえればと思ってね」


「はい。だいぶ解りました」


 ようするに、蛇はものすごく賢い子供ということなのだろうと、大介はわりとざっくりした結論を出していた。

 蛇は若干疑わしげに大介を見たけれど、「まあいいか」と呟いて、白衣に通した腕を組む。にっこりと笑って、銀の髪を耳に引っ掛けた。


「亜人について解らないことがあって、対亜人兵器の皆では解決しないようだったら、連絡しておいで。内線の番号表に、“対亜人兵器教育推進班”も載ってるはずだからね。


まあ大抵電話には出ないんだけど、その時は留守電にでも残しといてよ。でも、ほとんどが書面での回答になるから、それは事前に了解しといてね」


「解りました」


「あ、そうだ。大介、亜人の勉強についてだけど」


 鯨が思い出したように口を挟んだ。


「とりあえず今晩、講義を受けてもらいたいんだ」


「今晩」


「ああ。さっき鬼先輩からメール来ててさ、出来れば早めに亜人について覚えてもらいたいっつってたから。まあ、疲れてるなら断っても問題ねえけど、余裕があるなら俺としても講義を受けてほしい。多分、鬼先輩と桃が教えてくれると思うぜ」


 ほう、と大介は二人の姿を思い返す。髪を桃色に染めた派手な容姿の男と、ばっちりとアイラインを引いた化粧の濃い女。鯨や桜とは少し異なるタイプだが、歓迎会の時の態度を思えば、それなりに優しくしてくれるだろうことは想像がついた。


 少なくとも、蠍と呼ばれているあの乱暴な男よりは遥かにマシだろう。


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