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実際の人間に似せたようなそれではなく、いわゆる顔文字に近い表情だった。今は特に何も考えていないのか、小さなドットだけの瞳と一本の横棒による口という、実に簡単な顔文字が表示されている。もっとも、このロボットに対して「考えている」という表現が的確なのかは不明だが。
鯨は「すげえなあ」と心から感心した声をあげて、そのロボの体をしげしげと眺めている。
――バスケットボールサイズの頭を支えるに足る、太い胴体。赤く塗装された金属で覆われたその体には、いくつかライトがついていて、今はそのうちのひとつが緑色に光っていた。肩や手足の関節は、球体の形をしたカバーで覆われている。小さな鍵穴がついていた。恐らくこれも、蛇でないとあけられないのだろうと大介は思う。
全体的に丸みを帯びたフォルムで、一見すれば、“ロボット科学館”だとかそういう施設にいそうである。館内の案内などをしてくれそうな、馴染みやすい見た目だ。
しかし、そんな見た目のロボットの体を軽く叩いた蛇は、きっぱりと言った。
「これが俺の奴隷だよ。亜人細胞をコアに使って作ったロボットだ。亜人細胞についての詳しい説明はまだだろうから、俺も詳細は省くけど……平たく言うと、“亜人と戦えるかもしれないロボット”ってことになる」
「亜人と戦える!?」
鯨と桜が揃って仰天した。大介は、何がそんなに驚くことなのかよく解らなかったが、とりあえず「びっくり」と言っておいた。蛇は鯨達の反応に、満足そうに頷く。
「亜人と戦えるって……戦車とかとはまた違う意味の戦闘ですよね? ただ足止めするだけじゃなくて、もっとダメージを与えられるような――」
「そう。武器の類が一切通用しない亜人に対して、唯一貫通する武器だ。君達と同じ立場になれるかもしれないロボット、ってことだね」
やっとすごさが解った大介は、「おお」と声をあげた。
つまり、大介や鯨や桜のような“対亜人兵器”を、血眼になって探す必要がなくなるということだろう。これは小鳥さんが飛び跳ねて喜びそうだと思う。飛び跳ねる小鳥など想像出来ないが。
蛇が肩を竦める。
「……ま、調整にはものすごく時間がかかるだろうけどね。組み込んだ亜人細胞を発症させるやり方の目処が、まだ立ってないから。悪いけど、一朝一夕では完成しないと思う。
ただ、単細胞状態でしかない亜人細胞に体を与えられたのは、かなり大きな進歩だよ。それに、対亜人ロボットとしてじゃなくて普通のロボットとしてなら、ちゃんと稼動するしね」
誇らしげな蛇に、鯨と桜は頬を緩めた。これは彼等にとって、とても嬉しいニュースだったようだ。確かに、亜人と戦う存在を人為的に生み出せるとなれば、対亜人兵器である鯨達の負担は一気に軽くなるだろう。
大介は、ひたすら顔文字の表示を続けるディスプレイを見上げた。ロボットがこちらに顔を向ける。
「……こんにちは」
大介はとりあえず、コミュニケーションをはかってみた。
寸刻の間をおいて、「コンニチハ」と機械による音声で返事がある。どうやら、こちらの言葉を認識するのに、少しのタイムラグを必要とするらしい。顔文字の口にあたる部分は、閉じたままだった。そこまでこだわって作られてはいないのだろう。
「貴方の名前はなんですか」
大介は更に聞いた。また少しの間があって、ロボットは答えた。
「私ノ名前ハ、イチゴデス」
イチゴ、と大介は無表情で蛇を見た。桜が嬉しそうに笑って、「可愛い名前をつけるんですね」と言った。
すると蛇は、どこか意地悪な表情をつくる。
「もしかして、“子供らしくない子供の意外なところが見られて安心だなあ”とか思ってる?」
「え?」
「果物じゃないからね、言っとくけど。正式名称は、“対亜人ロボットイギリス式ベータ1号”。略してイチゴ」




