奴隷ロボット、イチゴ
俺の許可がないと誰も入れないんだよ、と蛇は胸を張る。秘密基地を自慢する子供のようで可愛いな、と大介は思った。もっとも、秘密基地にしては大層な設備だが。
それから暫し蛇の話を聞きながら、大介達は階段をおりた。ようやく到着した先には、一枚の分厚い鉄の扉があった。その左側には、小さなパネルがある。四桁の数字を入力した蛇は、網膜認証を行って施錠を外した。
「ここも目を見る鍵のやつだ」
大介が言うと、蛇は「虹彩認証ね」と笑う。
「君のところは、まだついてないんだっけ?」
「ついてないです」
「近いうちに、大介の部屋がちゃんと支給される予定なんで。多分その時にはついてると思います」
鯨の言葉に、蛇は「なるほどねえ」と頷いた。
「ま、セキュリティはしっかりしとかないとね。……って言っても、ここの鍵は皆のところとは違って、もうひとつパスワードがあるんだけど」
「パスワード」
「そう。今入力したのは、俺専用のパスワード。これを入力しないと、虹彩認証の機械自体が動かないんだ。
で、もうひとつが研究員用のパスワード。これは俺が大元のロックを解除して初めて使えるようになる鍵だよ。俺がそこをあけとかないと、研究者が何回パスワードを入れようが開かない。
ていうか、二回間違えると自動でロックかかって、その後正しいの入れても開かないんだけどね」
「ものすごく厳重ですね」
「それだけの物があるんだよ、ここには」
蛇の小さな手が、自分の顔と同じくらい高さにあるノブを握った。全体重をかけて、その扉を押し開いている。鯨がすぐに手を伸ばし、扉を押した。あっさりと開いた鉄の扉を前に、蛇は「一人でも出来たのに」と口を尖らせる。あまり素直とは言えない態度だが、それでも鯨は愉快そうに笑うだけだった。
ようやく開いた鉄の扉をくぐり抜けて、四人は広い室内に入った。
――今まで見回ってきた部屋とは、明らかに趣が異なっていた。今までの研究室には、見たこともない大型の機械が置いてあったり、大量のパソコンがあったりと“それらしい”研究室だったが――今回は、研究室というより実験室だった。
解剖用の刃物などが棚の中に手入れして置いてある。消毒液の濃いにおいは、まるで何かを隠しているかのようだ。右端にある小さな扉の向こうで、かたかたと物音が聞こえた。
蛇が、「あっちでは実験用のラットを飼ってるんだよ」と言った。
「亜人細胞を合成したラットだ。別の部屋には、ホルマリンに漬けてある亜人細胞の細胞核もある。ま、普通の人には刺激が強いから見ない方がいいね」
「……早速帰りたくなってきた」
正直すぎる大介の言葉に、蛇はけらけらと笑った。鯨が「いや、大介には対亜人兵器として頑張ってもらわなきゃ」なんて言うけれど、その顔も微妙に引き攣っている。桜など、顔色を悪くして俯いていた。
「意気消沈しちゃってるねえ」
一方、この場で一番幼いはずの蛇は、余裕の表情でにやにやと笑っている。これだけ幼くても、研究者なのだから当然の反応なのかもしれない。
「ま、安心してよ。見せたいのはそんなものじゃなくて、もっと“いい趣味”のものだから」
「いい趣味?」
鯨が首を傾げる。蛇は頷くと、「イチゴ」と声をあげた。目は、先程示したラットへの部屋とは違う、また別の扉に向いている。
「来い」
一言蛇が命じると、どこかから足音が聞こえた。――否、足音というには幾分機械的だ。何かが床を踏み締めるたび、かすかにモータ音が響いている。
扉がガチャガチャと揺れた。大介は、桜と鯨と揃って顔を見合わせる。――十秒ほどして、ようやく扉が開いた。
「オ呼ビデスカ」
――出てきたその生き物は、蛇を見て第一声にそう言った。鯨と桜がその姿に絶句する。大介もぽかんとして、見たままを呟いた。
「……ロボットだ」
端的に表すと、それは確かにロボットだった。赤いロボットだ。恐らく、金属カバーの上から色をつけているのだろう。ムラもなく丁寧で、新品の車のようなツヤがある。
また、そのロボットは、鯨以上に大きな体をしていた。バスケットボールくらいの大きさをした顔にはモニターが嵌め込まれていて、人間の表情のようなものが表示されている。




