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「そもそもここの研究員って、そんなに戦力にならないから」
「そうなんですか」
「そう。知識が足りてなければ頭も固い。特に、歳食ってる奴ほど“前例を探してそれに倣う”ってパターンばかりだ。
勿論それ自体は必要なことだけど、亜人に関してはほぼ通用しないんだよ。各個体によって、まるで生態が違うんだよね。前例と合致しないことの方がほとんどでさ。
それなのに、アイツ等のやり方は前時代のまま停止してるんだ。とにかく錆び付いてるんだよね、脳みそが」
遠慮のない抜き身の言葉に、大介は呆気にとられていた。鯨と桜は、諦めたように苦笑している。彼等は、蛇と研究員の対立を知っていたようだ。こうなるともう止められないんだ、なんていいたげに遠くを見ている。
大介としては、蛇のような幼い子供一人と、その他大勢の対立では、なんとなく蛇が可哀相な気がしてしまう。ただ、延々と研究員の悪口を言う蛇のよく回る舌を見ていると、「まあ多少カンに障る部分もあるだろうな」とも感じてしまうのだけれど。
一方、蛇は不満そうな膨れっ面で続ける。
「まあ、そういう奴らでも何か命じれば動くから、完全に使えないこともないと思ってたけど……最近はそれすら役に立たなくなってきたかな。だって俺にはもう、イチゴがいるし」
「イチゴ」
大介はきょとんとした。鯨と桜も、聞き慣れない言葉を耳にした様子で首を傾げている。
「イチゴって何ですか?」
桜が尋ねた。蛇が、ふふんと自慢げに笑う。
「俺が作った奴隷だよ」
小さな口から飛び出たインパクトのある言葉に、鯨は目を白黒とさせた。
「ど、どれい?」
「そう。小鳥さんに進捗は伝えてたけど、三日前の深夜やっと完成したんだ。小鳥さんが出張から戻り次第、見せる予定になってるんだけど……」
小鳥さん出張してるのか、と大介は無表情で感嘆の声を漏らした。本当に忙しい女性だだ。つい昨日まで大介の相手をしていたのに、その数時間後にはもう飛び出しているのだから。鯨も、「あの人いつか倒れるんじゃないか」と心配そうにしている。
蛇は、「ちょっと心配になるよね」と苦笑した。
「まあ大人だし、自己管理は出来る人だろうとは思うけど。……ていうか、折角だから見てみる?」
「何をですか」
「イチゴに決まってるじゃん。見せてあげるよ。折角対亜人兵器になってくれたわけだしね。特別だよ?」
そう語る蛇は、とても楽しそうだった。見せてあげる、というよりも、見せたいらしいというのがありありと伝わってくる。
桜が心配そうに眉を下げた。
「いいのかなあ……小鳥さんもまだ見てないのに」
「いいんだって。そもそも、イチゴに関する全権限は俺に一任されてるんだからさ。さあ、行こう」
蛇は返事も聞かないで、大介の腕をとった。ずかずかと歩き出す蛇は、止まれと言われても止まらなさそうだ。ちらと鯨達をうかがう。彼等は苦笑して、「それなら見せてもらおうか」と言った。
部屋の隅にある、灰色の重い扉の鍵を、蛇があける。中には狭い下り階段が続いていた。人感センサーが反応し、蛍光灯がチカチカとまたたく。
「足元気をつけてね」
蛇の言葉に頷いて、大介は階段を下った。――三分程階段をおりて、「まだつかないんですか」と尋ねる。
「もう結構おりてるのに」
「そうだね。今は地下に向かってるから」
「地下」
「うん。さっきまでいたのは二階の第一研究室で、基本的に俺専用の研究室なんだ。あそこには特別に、地下に直接繋がる階段を用意させてて、それがこれなんだよ」
「なんで地下に繋げたんですか」
「地下は、結構貴重なものが置いてあるんだ。凍結させて生きたままにしてある亜人細胞とか、保存液に漬けた亜人の遺伝子とか。
そんなの、馬鹿に勝手に扱われて、暴走でもしたらたまったもんじゃないでしょ。だから、地下への入口を俺の研究室に置いたんだ」




