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大介は、姉の「亜人について勉強もしなければ」といった言葉を思い返す。彼女の言葉は、完全に的中していたようだ。
蛇はどことなくからかうような笑みを浮かべた。
「がっかりした?」
「え」
「勉強があって。せっかく対亜人兵器になって、学校のお勉強から解放されたのに――なんて考えてたんじゃないの?」
まるで、姉とのやり取りを見ていたかのような言葉に、大介は内心ぎくりとする。しかし、別に大介自身は勉強嫌いというわけではないのだ。むしろ、好きな方かもしれない。犬の方が好きなので、サーカスの為に塾をサボりはしたけれど、勉強だってやっていて楽しい部分はあるのだ。
だから大介は、「最初はそう思いましたけど」と答える。
「でも、実際やったら勉強も楽しい気がします」
蛇は少し目を見張ると、すぐに笑った。
「……ふうん。いきなり変な環境に突っ込まれて落ち込んでるかと思ったら、なかなか図太いね」
「今褒められましたか」
「褒めた褒めた」
蛇は喉の奥で笑いながら、背もたれに体重を預ける。白衣のポケットに入っていたペンを、指先でくるくると回した。
「……とにかく、俺はそういう立場の人間だから。亜人について、何か解らないことがあったら聞きにおいで。ま、俺は結構忙しいし、正直自分達で解決出来る部分は解決してほしい、っていうのがぶっちゃけた本音だけど」
本当にぶっちゃけてるな、と大介は思いながら鯨達を見た。
「じゃあ、最初は鯨さんとか桜さんとかに聞いた方がいいですか」
大介が鯨と桜を振り向く。彼等は揃って笑みを浮かべ、頷いた。
「あとは、鬼先輩とか桃とかもな。まあ、この鬼先輩はちょっと面倒くさがるかもしれねえけど」
「説明自体は結構上手いのにねえ」
笑い合う二人を見ながら、大介は「蠍さんと呼ばれてたあの怖い人は、候補にすらあがらないんだな」と考えていた。あんな恐ろしい男に教わろうなんて少しも思わないから構わないが。間違えたら即顔面を殴りつけられそうだ。
蛇が笑みを顔にはりつけたまま、「強制するつもりはないけど」と前置きして続ける。
「対亜人兵器教育推進班としては、最低一日一時間だけでも、亜人について勉強してほしいんだけどね」
「一時間でいいんですか」
「何、さっきから面白い反応するね。もしかして勉強好きなの?」
「この子、春日中学出身なんですよ」
桜が誇らしげに言った。蛇は不思議そうに首を傾げる。
「春日中学?」
「はい。有名大学進学率がトップの中学です。多分、科学分析部にもたくさん卒業生がいると思いますよ」
「へえ。なかなか賢いんだねえ」
蛇は感心したように、しげしげと大介を見た。とてもそんなふうには見えないけど、なんて失礼な一言のおまけつきだ。なんだか少し腹が立ったので、大介は無表情で言い返した。
「蛇さんだって、部長とか、推進班の偉い人とかには見えないです。ただのお子ちゃま――」
そこで大介は、はっとして口をつぐんだ。そうだ――蛇は確かに、お子ちゃまである。見た目には、十歳に達していりかいないかくらいに見えた。そんな子供の軽口を真に受けてむきになる自分は、なんだかとても格好が悪いのではないか。
ここはひとつ大人の態度で接するべきだ、と大介は咳ばらいをしてごまかした。
「……なんでもないです。俺はお兄さんだから、そんなことでは怒りません」
「いや、今更お兄さんぶられても困るよ。俺のことお子ちゃま扱いしようとしたでしょ」




