↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
少年はいずれNになる  作者: 猫飯
控えめな誕生
PR
41/137

 大介の「解った」と言う返事を待って、通話は切れた。大介は、また美人の女性と食事を共に出来ることを喜びながら、部屋の隅の鏡台の前に立つ。整髪剤も何も持っていないが、指先で毛先をいじった。出来るだけ格好つけていこうと思ったのだった。



 ――大介の努力は特別桜の気を引くことはなかった。迎えにきた桜と鯨は、相変わらず優しそうな笑みで挨拶をすると、特に髪型には触れずに大介を食堂へ連れていった。こんなに分け目が違うのに、と大介は無表情で憤慨する。


しかし、どことなくふて腐れた雰囲気だけは察知してくれた桜に「どうしたの?」と聞かれれば、さすがに「分け目を変えてみました」とは言えず――こういうことは、自分で宣言するものではないと思うから――結局彼は、八つ当たり気味にハンバーグを勢いよく食べるしかなかった。


 そうして食事を終え、満腹により髪型のことなどどうでも良くなった大介は、鯨と桜に連れられて館内を移動していた。


「今度はどこに行くの」


 大介は、左隣の鯨を見上げて問うた。


「次は、先生のところだ」


「先生。お医者さん」


「ううん、学者の先生よ」


 大介の右から、桜が口を挟んだ。


「って言っても、どうしてもあんまり“先生”って感じはしないんだけどね」


「そうなんですか」


「うん。多分、見たらびっくりするんじゃないかな」


 彼女はおかしそうに笑う。鯨も「俺も初めて見た時は驚いたなあ」と振り返った。


「ま、ちょっと物言いがきついところもあるけどさ。頼りになるコなのは間違いないから、何かあったら相談すると良いぜ。

でも、時間に制限はあるから気をつけろよ。忙しいコだから」


 “コ”という言い方が気にかかった。もしかして“子”か、それとも“娘”なのだろうか。子供なら、大介にとっては話しやすい存在になるかもしれない。女性なら――あまりに美人すぎると緊張することが桜の存在で解ったので、そろそろ素朴な人の方が有り難いなと思う。


 そう考える大介の顔が一番素朴であることに、彼は気付いていなかった。



 それから大介達は、食堂があるフロアを抜け、別の棟に移動した。


 棟が変わると、雰囲気も変わる。クリーム色で雰囲気の柔らかかった壁は、白い清潔感のあるそれに変化していた。元居た棟は人通りも少なかったが、今は白衣を着た大人達がうろうろしている。亜人に関しての研究員なのだと、桜が教えてくれた。


 皆、鯨達とすれ違うたびに足を止め、深い一礼を寄越す。その礼の対象には、どうやら大介も含まれているらしい。だから大介も、頭を下げ返した。


 何度もそれを繰り返していると、鯨に「返さなくていいぜ」と言われた。


「気持ちは解るけど、ここは人が多いからな。キリがなくなるから、会釈くらいにしとけ」


「これ、いつもなの」


「ああ。そこまでしなくてもいいんだけどな」


 鯨は困ったように言う。確かに大介としても、あんなふうに頭を下げられるとなんだか居心地が悪い。桜は苦笑いして、「仕方ないよ」と答えた。


「向こうも、気を遣わないわけにもいかないだろうし。とりあえず、ちゃんと反応だけしておけば大丈夫だと思うよ?」


 ああ、と大介は頷いた。きっと、研究員達の立場としても大変なのだろう。なるべく鯨達――対亜人兵器の機嫌をとらなければならない立場に違いないのだ。


「まあ、そうなんだけどな」


 鯨は肩を竦めると、諦めたように笑った。そして、廊下の隅にある扉を見遣る。


「……それじゃ、そろそろ行くか。この部屋にいるのが、対亜人兵器管理局の科学分析部部長だ」


「小鳥さんより偉い人」


「いや、位置的には小鳥さんの方が上だけど……でもこの人も相当だ。そもそも、この人も対亜人兵器と同じレベルで重要な人だからな。小鳥さんの方が立場は上だが、気を遣ってるのも小鳥さんの側だろう」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。