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「じゃあ、大丈夫です」
おうむのような大介に、鯨と桜は小さく笑った。大介は、桜達に自分は元気だとアピールするため、食べる速度を少しはやめるのだった。
*
――吐きそうになるくらいに腹の中に飯を詰め込んだ大介は、満腹のせいで眠たくなりながらもなんとか自室に戻った。
そして、どうにかこうにか入浴を済ませて――風呂は自室に備え付けられていて、大介が姉と使っていた風呂場の三倍ほどの広さがあった――すぐに布団に飛び込んだ。
そうして次の日に目を覚ますと、時刻は十時をまわっていた。そのうち小鳥から連絡があるかと思って、暫く布団から出ずにだらだらと過ごしていたが、いつまで待っても電話は鳴らない。
もしかしてまたこちらから掛けなければならなかったのかな、と思い至った大介は、ようやく布団から出る。跳ねた髪を掻きながら、机に向かった。するとそこには、昨日のものとは違う内容の書き置きが残されていた。
「ふむ」
大介は寝ぼけ眼を擦りながら、それでも納得したような声をあげた。
書き置きの内容によれば、“今日は食事をとった後、桜と鯨と共に館内をまわるように”とのことであった。鯨と桜はそれぞれ自室にいるので、大介の部屋の電話番号から内線を飛ばせば良いそうだ。
また、食堂への道が解らなかったり、それでなくとも一人の食堂が嫌な時は、同様に彼等に連絡をすれば付き合ってくれるだろうとも書いてあった。
かたわらに置いてあるプラスチック製のカードには、大介の名前が記載されている。昨日小鳥からあずかったものと同じ形だ。食べた物の記録が残り、あまりに栄養が偏れば、指導が入るのだと鯨が教えてくれた。さすがに亜人兵器となれば、健康管理にも熱が入っている。
カードをポケットに滑り込ませた大介は、どうしようかな、とぼんやり考えた。とりあえず、借りていた小鳥のカードをどう返却するかに関しては、あとで鯨達に尋ねるとして――大介が考えているのは、食事を共にする相手だ。
彼としては、勿論見た目麗しい桜に来てもらいたいが、しかし年上の女性をこちらから誘うのは緊張する。恋心を抱いているわけではないにしても、中学生の男子が美人の女性に声をかけるのは、なかなかどうして困難なのだ。
ううん、と唸った大介は、少し考えて結局受話器を持ち上げた。そばには、各人物の個室に繋がる内線の番号表が貼付けてある。鯨の本名――金堂優馬という名前をなんとか頭から搾り出した彼は、その番号に電話をかけた。
「……はい、もしもし」
暫くして、鯨の声がした。
「鯨さんですか」
「ああ、大介。昨日はお疲れ様。よく眠れたか?」
「眠れた。布団ふかふかだし」
特注品らしいからな、と鯨が笑う。
「……それで、どうした? 何か用か?」
「俺、ご飯が食べたい。鯨さんもうご飯食べたの」
「いや、まだだよ。一緒に食うか?」
「食べる。あと、桜さんも呼んでほしい」
大介は、自分にとっての難関を鯨に丸投げした。鯨は特に気にした様子もなく、「解った」と受け入れる。
「どうせ後で三人で案内するしな」
そういった理由ではないのだが、大介としてはそれで構わない。またあの優しい美人と喋ることが出来るのかと思うと、無表情でウキウキしてしまう。
「今からすぐ行けるか? 行けるなら、お前の部屋に迎えに行くか、食堂で待ち合わせるかするけど」
「部屋まで来てくれた方が助かる。俺、まだ道に自信がない」
「そうか、解った。じゃあ桜と迎えに行くから、待っててくれ」




