2
*
男子としての期待はあっさりと砕かれたが、それでも歓迎してくれているのは有り難い。
長方形のテーブルの、所謂お誕生日席に座らされた大介は、現在黙々と和牛のステーキを頬張っていた。ルームサービスによって運ばれてきたご馳走は、これだけではない。
石窯で焼いたアンチョビの乗ったピザ、生ハムのサラダ、鯛の刺身――その中にひと舟あるタコ焼きは、大介のリクエストである。
「にしても、まさか本当に押さえ込んじまうとは思わなかったよ」
グラスのウーロン茶に口をつけた鯨が、大介に目をやる。鯨の隣に座った大介は、「別に押さえ込んだって感覚はなかった」と答えた。
「ただ、痛みが急に消えた」
「ああ……アレ、何なんだろうな」
缶に入った酎ハイを、一息に半分ほど飲み干して、鬼は訝る。
「初めて見たパターンだ。今までの奴らは皆、やっと痛みに打ち勝ったって感じだったのにな」
「そうね。大介君の場合は明らかに、途中で痛み自体が消えてたわ」
首を傾げる桜に対し、ピザをかじる桃は、綺麗に染められた髪をかきあげて、「別にいいんじゃない?」なんて言った。
「そういうの考えるのは、学者先生の仕事でしょ。あたし達がいくら考えたって、どうしようもないって」
「……桃ってマジで呑気だよな」
鯨が呆れる。桃は細い肩をひょいと竦め、「だって仕方ないじゃん」とあっさり答えた。
「言ってることは事実でしょ?」
「ま、そりゃそうだ。俺らが考えたって、どうしようもねえ」
鬼はあわせて喉を鳴らした。そして大介を見て、「お前は、体を鍛えりゃいいんだ」と言った。
「頭を使うのは、センセイの仕事だからな。お前は出来るだけ強くなって、亜人をバッサバッサ倒してやりゃあいい」
「バッサバッサ出てくるんですか」
「日本では今のところねえよ。ただ、海外では多発の一途らしい。そのうち日本も、そのあとを追うようになるだろう。
それに対して、対亜人兵器の数はまだまだ足りない」
成る程、と大介は頷いた。小鳥が、対亜人兵器が増えることを非常に喜んでいた姿を思い出す。
「今のお前は、ただの乳歯だけどさ。そのうち力を身につけたら、もっと色んな変化が起きてくるだろ。そしたらお前も、俺達と一緒に戦うことになる」
戦う、と大介は繰り返した。彼の棒読みを不安と解釈したらしい桜が、咀嚼していたピザを飲み込んでから、「心配しなくていいのよ」と笑った。
「さっきも言ったけど、そんなにバッサバッサ出てくるわけじゃないから。最初のうちは、特訓メインになると思うわ」
そこで、ずっと黙っていたはずの蠍が、嘲るように鼻を鳴らした。
「だからって、テメエが何の取り柄もねぇ弱いガキのままだと迷惑だってのは解ってンだろうな。……俺は他の奴みてえにヌルくねえんだ。テメエが邪魔になりゃ、すぐに亜人の口に突っ込むぞ」
「……大介、気にするな。コイツはこういう奴なんだ」
何も返事を出来なかった大介に、鯨がすかさずフォローをいれる。鬼と桃は、呆れた一瞥を蠍に寄越した。
「お前な、愛想良くしろとまでは言わねえが、子供相手にもうちょっとマシな態度とれねえのか?」
「そうよ。アンタって本当に、悪口のバリエーションは豊富よね」
「うるせえよ。コイツが使えないままだと困るのは事実だろうが」
だからって言い方があるだろ、と鬼は嘆息する。心配そうにこちらを見遣る鯨と桜に、大介は無表情で頭を振った。
大介としては、蠍の犯罪者のような形相を前に、「この人の眉間のシワにならちょっとした水くらい貯められそうだな」なんて思っていただけだったので、あまりちゃんと暴言を聞いていなかったのだ。




